第33話 話し合い
特にこれといった収穫もなくジーロンの家から出る。フィーはお茶請けを沢山食べて満足そうだ。状況を理解していない筈はないが、この呑気さは獣族特有の単純さだろうか。俺たちの前を尻尾を揺ら揺らと機嫌よさそうに揺らすフィーをぼんやり見ながら進む。
ピンッ! と里の広場に出たあたりでフィーの尻尾が勢いよく天をつく。そしてそのままぶんぶんと左右に勢いよく触れる。猫が警戒したり、怒ったりしたときにやるあれだ。
「四宮君少し話したいことがあるの」
「……話|、なら俺も歓迎だ」
案の定というかなんというかそこにいたのは長谷川率いる勇者一行だ。そんなに俺と関わるのが嫌なのか苦虫を嚙み潰したような表情の長谷川。バトルジャンキーの橋本はドラゴンとの戦いが不完全燃焼に終わったのが気に入らないのかつまらなそうな顔をしている。大野は相変わらず長谷川のことしか見てないのかどうでもよさそう……ではないな。意外なことに少し不満げな目で長谷川を見ている。そして飯田は真剣な顔で俺に話しかけている。
「よかった。じゃあ私たちがジーロンさんから借りてる家があるからそこで話さない?」
「家を借りてるのか」
「うん。この里は宿がないみたいで、余ってる家を適当に使えって」
親切なのか不親切なのかわからんな。しかし宿がないか。それは盲点だった。だがよく考えればここまで排他的な里に宿なんてあるはずないか。アンの実家……は使えないか? 他種族と結婚した娘に対してどんな反応をしたのか。少なくともヴェリテがアンをこの里から連れ出したということはそれほど温かい理解者ではなかったのだろう。
「適当に座ってくれる?」
「ああ」
案内された家は里の中心から離れた場所にあった。場所が悪いから新しい住人も入らず空き家になっていたのだろう。促されたとおり椅子に座り飯田たちを見る。話し合い、と言ったが見る限り真面目に話す気がありそうなのは飯田だけだ。あまり自分を主張する人間には見えなかったから少し意外だ。
「それで話ってなんだ?」
「実はドラゴン討伐を助けて欲しいの」
「協力、だ」
「……うん。協力してほしいんだ」
なるほど長谷川が先ほどから不機嫌そうにしているのはこれが理由か。わざわざ協力なんて言いなおすくらいだ。よっぽど俺に助けを求めるのが気に入らないらしい。まあドラゴンを俺も倒したいと思っているなら協力の方が確かに正しいか。
「流石はドラゴンだ。悔しいが手も足も出なかった」
なんて返事をするべきか悩んでいるとポツリと橋本が呟いた。どうやらドラゴンとの戦いが消化不良で不満を覚えていたわけではないらしい。確かに実力を痛感するには十分な戦いだった。あいつからしたら赤子がじゃれてきたようなものか。
「だからって四宮と一緒にやらなくていいじゃん。龍吾なら勇者の力でズバーッてやれるっしょ。こないだ戦ったイフリートもなんとかなったし」
「……恵。これに関してはもう決まっただろ。今回は四宮と協力する」
なんというか今日は俺の人を見る目のなさを痛感する日だ。飯田、橋本ときて長谷川まで。こいつはかなり俺のことを嫌っていたはずだ。召喚されて1人でどこかに行こうとする俺は集団の和を乱す異分子だったはずだ。普段集団を率いることが多い長谷川からしたら気に入らないだろう。俺だって人の話も聞かずに無理やりおさえつけようとしてくる奴は嫌いだ。そこら辺を今は見ないことにしているようだ。
「俺としてもドラゴンはあそこから追い出したい。ここはアンの故郷だからな」
「そうなの!?」
「はい。私の母がこの里出身です」
王女と親しいんだから当然知っていると思ったんだが、これは余計なことを言ったかもしれん。王女が知らないってことはあるだろうか。アンはヴェリテの弟子だ。仮に孫だと知らなくても素性くらいは調べるだろう。この世界の人間的には耳と髪の色を見ればエルフ、もしくはハーフエルフだと察しはつくだろうから知らないとは思えん。敢えて教えてないのか?
「ただそれでもドラゴンに挑むのは危険だ。そこで条件がある」
「なんだよ条件って」
折角1ミリくらい歩み寄れたんだから一々喧嘩腰になるなよ。まあ俺もあんまり人のことを言えないが。
「もし無事にドラゴンを追い出せたら星屑の杖を譲ってほしい」
「なっ!!?」
「ちょっと四宮! それはいくらなんでも吹っ掛け過ぎっしょ」
普段俺のことを無視してくる大野まで反応するか。まあそもそも長谷川達は星屑の杖を取りにここまで来たんだ。それを寄越せと言われてはいそうですかとうなずけるはずもない。
「し、四宮君。それは流石に難しいかな。私たちエルフのみなさんとの友好と星屑の杖を借りてくるように言われてるから」
「実は星屑の杖は――」
「私の母の形見なんです。譲っていただけないでしょうか」
俺の言葉を先取りしてアンが続けた。長谷川たちのことは苦手なはずだが……。アンは今回の件の当事者だ。彼女が話すと言うなら俺が出しゃばるべきではないか。
「面白い!」
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