第30話 ようこそエルフの里に
ゴース大森林ははっきり言って魔境だった。地面には木の根が盛り上がっていて、油断すると転びそうになるし、多種多様な虫がいて正直気持ち悪い。ハーフとは言えエルフだからなのかアンは迷いのない足取りで進むが、後をついてく俺とフィーはかなり苦労した。
一際大きな木の根を乗り越えた瞬間頭上から鋭い声が響く。
「止まれお前ら! これより先は我らエルフの土地だ。早急に立ち去れ」
「それ以上進めば20の矢がお前らの頭を貫くぞ」
「なんだか穏やかじゃないが大丈夫なのか?」
ランサムの門番も友好的な奴らじゃなかったが、どうやらエルフはそれを超えてくるらしい。声のした方をみるが姿は一切見えない。
「任せてください。……私の名前はアン・ジーニー! ヴェリテ・ジーニーの使いです!!」
「ヴェ、ヴェリテの使いだと。少し待ってろ!!」
「妙な真似はするな!」
アンが婆さんの名前を出すと突然エルフたちが慌てだす。頭上の木が揺れてガサガサ音がする。こんな近くにいたのか全く気づけなかった。
「なあヴェリテは確かただの人間だろ。実はこの里のお偉いさんだったのか?」
「いえ。以前私を引き取りに来た時に、里のエルフをかなり痛い目に遭わせたらしいんです。多分それで警戒してるんです」
「アンのババさま凄い強いんだ。かっこいい!」
フィーは目を輝かせているが、これだけ警戒されるってどんなことやらかしたんだ。撃滅っていう2つ名や、魔族との戦いの話を聞くかぎりかなりの武闘派だったんだろうな。数分すると再びエルフが戻って来たのか木がガサガサと揺れた。
「そのまま進め。しかし絶対に妙な真似はするなよ!!」
「わかっています」
アンに従いさらに奥に進むと突然視界が大きく開けた。そこには先ほどまでいた村とはまるで違う光景が広がっていた。目の前には大きな広場があり、その奥には東京タワーのように大きな木を中心にいくつもの家が並んでいた。
「見て! 木の上に家がある」
「ツリーハウスってやつか。それにしても見れば見るほどデカい木だ」
フィーのいう通り大木の枝の上や幹にも家が建てられていた。里全体が大木の枝の下にあり、心地よい木漏れ日が差し込んでいる。そしてその気持ちよさを打ち消すような奴が俺たちを出迎えた。地面に届きそうなほど立派な髭を蓄えたしわくちゃの老エルフだ。しかしその目には長い年月で手に入れた知恵、よりも他人を見下す傲慢さが見え隠れしている。そしてそれに付き従うように数人の若いエルフが後ろに控えていた。
「今さら何の用じゃお主のような半端者が」
「実は師匠から手紙を預かってまして」
「フン。ヴェリテの奴ようやく我々に謝罪をする気になったか! おまけに自分で行くのが怖くて孫娘を寄越すとは。奴も落ちたものよ」
婆さんが謝罪することがよっぽど嬉しいのか、老エルフは手紙をアンからひったくると急いで手紙の封を開いた。しかしその中身を読むうちに徐々に老エルフの顔は真っ赤になり、ついで真っ青に急降下していった。まさに百面相だ。
「なんか面白いおじいちゃん」
「顔色はな。あの婆さん一体何を書いたんだ」
ようやく手紙を読み終わった老エルフの顔には、怒りと怯えが2対8でミックスされていた。そして何回か大きく深呼吸するとようやく落ち着いたのか俺たちに向かって話し始めた。
「……わかった。貴様らの里への滞在を認めてやろう」
「そんな!」
「ジーロン様、本気ですか!? 人間は勿論ハーフエルフなんて半端者まで!」
「そうです! 誇り高き我らが里を汚すことに――」
「黙れ! 貴様らあの惨劇をもう忘れたのか!! ワシはもうあんな目にあうのは御免じゃ!」
俄かに老エルフ――ジーロンというらしい――と取り巻きの若いエルフたちが言い争う。ジーロンにとって婆さんは酷いトラウマのようだ。一体何をしたんだよあの人は。
「いいか。確かに里への滞在は許したが好き勝手に行動するでないぞ。この里の者全員が貴様らを監視していると思え! まったくただでさえあやつらが来ていて面倒な時だというのに」
ブツブツと文句を言いながらジーロンは去っていった。若エルフたちはまだ納得がいかないのか、最後までこちらを鋭く睨んでいた。
「お前婆さんが何をしたのか知ってるか?」
「いえ。ただ昔痛めつけたから、ジーロンの奴がボケてない限り追い返されることはないだろう、としか」
「もう探検してもいいか?」
フィーはツリーハウスという今までの人生で見たことがないものに興味津々だ。しかし俺としてもツリーハウスなんて秘密基地みたいでワクワクする。さっきの様子を見る限り、あまり歓迎されていなさそうなのが残念だが。
「おいお前ら! 里長が認めたからといって調子に乗るなよ!」
いつの間に戻ってきていたのか、ジーロンの取り巻きのエルフがこちらを睨んでいた。
「別に調子に乗っているつもりはないが……」
「いいか貴様らのような下等な人間や獣人に大層なことは俺も求めん。だがな、せめてトイレの場所くらいは覚えてくれよ」
これは本気で言っているのか? それとも俺たちを挑発して怒らせるのが目的なのだろうか。挑発としては下手くそ過ぎるせいでどちらかわからなくなる。
「あなたたちの迷惑にならないようにするので――」
「黙れ汚らわしい半端者が。元から下等な人間たちにはいっそ哀れを覚えるが貴様は別だ。高貴な我々エルフと下等生物の血を混ぜた出来損ないが。存在自体が我々への侮辱だ。恥という概念を知っているならば、今すぐ自死を選ぶがいい」
訂正。こいつは挑発がすこぶる上手だ。その証拠に俺の手はいつの間にか蒼霧の柄に手をかけていた。フィーからも殺気が漏れ出している。しかし目の前のエルフは俺たちの変化に気づく様子なく偉そうにペラペラと喋り続けている。
「おいお前――」
「大丈夫ですキョウヤ」
口は災いの元だと教えてやろうとするが当事者であるアンに止められてしまう。……そういえば彼女がここに来たのは、村の仲間になろうと努力していたフィーを見たからだ。ここで俺が暴れたらアンがエルフに認められることはないだろう。正直こんな奴らに認められる意味を感じられないが。
「とにかく里にいる間は分をわきまえることだな」
言うだけ言って満足したのか若エルフはこの場から去っていった。あの野郎。夜道には気を付けろよ。
「気にするな。世の中気が合う奴の方が少ない」
「私の干し肉食べるか?」
「ありがとうございます2人とも。でもこれくらい言われるのは覚悟していたので大丈夫です」
覚悟しているのと実際言われるのでは違うだろうに。この里の奴らと仲直りなんて本当に可能なのか? そんな疑問を抱いていると後ろからこの場でするはずのない声が聞こえた。
「ついにドラゴンか! 腕が鳴るぜ!!」
「橋本君いつもみたいに1人で行かないでよ」
「ドラゴンなんて龍吾にかかれば楽勝でしょ。私ドラゴンステーキ食べたい」
「ああ。俺と聖剣があればきっと大丈夫だ」
何故ここにいる、勇者一行。
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