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第29話 魔族とは


「ここは?」


 

 目を覚ますと何故かベットで寝ていた。確か急に体調が悪くなって……倒れたんだった。アンとフィーがここまで運んでくれたのか? そう思い2人を探すとベットに突っ伏すように2人とも寝ていた。どれくらい寝てたのかわからないが看病してくれていたのか。そこに白髪を頭の上で束ねた老婦人が入って来た。



「起きたかい。まだ痛いところは?」


「いやない。あなたがここの家主か?」


「ええ。ここは診療所兼私の自宅よ。ストールと呼んで頂戴」



 診療所ということはこの人は医者か。村によっては医者がいないところもあるから運がいい。



「助けてもらって感謝する。2人は――」


「治療に必要な、患者用のベットは1つしかなくて」


「俺の代わりに彼女たちをベットに寝かせても?」



 ストールさんが頷いたのを確認してベットから起きてそこにアンとフィーを寝かせる。これで起きないというのは相当疲れているな。随分無理をさせたらしい。



「さて彼女たちが起きるまであなたがかかった病気の話でもしましょうか」


「それは助かる。それと治療の代金のほうは?」


「30万ゴールドといったところね」


 懐から料金きっかり出して支払う。少々財布が寂しいことになるが助けてもらった後に、値段について駄々を捏ねるのはみっともなさすぎる。それに街で冒険者として活動すればそれほど時間を置かず稼げる金額だ。



「あなたがかかったのは魔力病という病気よ。まあ普通は病気というほど大層なものではないんだけど」



 ストールさんの説明を聞く限りどうやら成長痛に似たものらしい。ただ普通は人族はかかることはない。それほど大きく急激に魔力が成長することがないからだ。何か心当たりはないかと聞かれるが1つ2つ思い当たるものがあった。1つは俺が魔法がない世界から来た人間だということ。もう1つはラーニングだ。



「倒れる直前に強力なスキルを手に入れた。それの影響かもしれない」


「……スキルについては解明されていないことも多いから、そんなこともあるかもしれないね」



 まあ鵜呑みにはしないか。しかし異世界人などと言って面倒ごとになるのは勘弁してほしい。肌の色の違いで差別されることがあるんだ。世界が違うなんてどうなることか。ラーニングにしても同じスキルは今まで聞いたことがない。手の内を晒すのはなるべく避けたい。少し恩を仇で返すようで気持ち悪いが。


 しかしスキルをコピーしたことが原因ならラーニングもまったくのノーリスクではないということか。その時先ほど2人を寝かしつけた部屋からアンとフィーが出てきて、俺を見て目を丸くした。



「キョウヤ! もう起きて平気なんですか?」


「大丈夫かキョウヤ!」


「ああ。2人とも心配かけて悪かったな。諸々ありがとう」



 こうやって改まって礼を言うのは少々気恥ずかしいがしっかり頭を下げる。リベル草が見つからなかった時どうなっていたかは、ストールさんにもわからないらしい。魔力病で気絶というのも初めて聞く症例なんだから、放っておいたらどうなっていたか予想できないのも当然だ。



「いえ、今までキョウヤには助けられてばかりでしたから」


「キョウヤにはワイヴァーンの時助けてもらった。お互い様」



 そう思ってくれるならよかった。今度なにか美味いものでもご馳走しよう。アンとフィーが席に座ると少しその場の空気が引き締まる。少し妙な感じだ。



「じゃあ約束通り私のことを話そうかい」


「約束通り?」


「ええ。驚くかもしれないけどね、私は魔族なのよ」



 魔族? 人族や獣人のような人種の1つか。魔法が得意な種族で魔族だろうか。



「キョウヤ、魔族とは魔王が生み出した眷属です。一般的に人類の敵と言われています。普通は暗い紫色の肌に赤い瞳をしています」


「魔王の眷属で一般的に人類の敵、ね。別に普通の人間と同じにしか見えないけど」


「その魔王の眷属が嫌でね。逃げてきたのよ。肌の色とかはスキルで隠しているの」



 脱走兵的な話か? そもそも今まで魔王っていうのは、滅茶苦茶強い魔物というイメージだった。しかし人と変わらない知性を持つ魔族を部下にしているということは、魔王もまた人のような存在なのだろうか。だとすると魔王と勇者の戦いというのは、ただの国同士の戦争のようなものか?



「そもそも魔王というのはそういう名前のスキルのことなの。遥か昔から存在しているね。そしてそのスキルを使うと新たな生命を作り出せるの。それで作られた存在を魔物や魔族と呼んでいるわ」


「なるほどな。ストールさんは魔王に命令されるのが嫌で逃げて来たのか」



 それにしても生命を新たに作るスキルか。ゴブリンキングやワイヴァーンの強さを考えると規格外の能力だな。色々と条件があるのかもしれんが現在、魔物は世界中にいる。物凄い難しい条件というわけでもないのだろう。



「ストールさん。この村に来る以前は魔王軍に所属していたのですか?」


「魔王軍なんて大層なものはないわ。魔族の数は今は少ないし普段は好き勝手に行動しているから。私がここに来たのは魔王が復活したからよ。それまでは魔界で暮らしていたの」



 魔界とは魔物の勢力下にある地域を指しての呼称らしい。



「魔王のスキルはね、その効果で生み出した存在を操ることが出来るの。流石に効果範囲はあるけどね。だからその範囲から逃げて来たの」


「魔物を操れるのか!? 凄い!」



 フィーのいう通り凄い、では済まないだろう。魔物は個体は強いが人と違い頭を使って作戦を立てたりはしない。その欠点を魔王が操ることで補えるのだ。



「魔族の中には私のような考えの人も多いの。ただ逆に積極的に他種族と戦いたい魔族もいてね。そういう人が魔王に従って各地で戦いを起こしているの」


「因みにこれらのことは公表されていません。今まで私たちは魔族や魔物は魔王に絶対服従の恐ろしい存在と教えられていましたから」



 人間と戦いたいのは魔王と一部の魔族だけということか。魔物はどうなんだ? ゴブリンキングなどは喜んで人を襲っていたが。まあ人の中には他人を襲って生活しているやつもいるからおかしな話ではないか。問題は魔王の意思=全ての魔族・魔物の意思になりかねないということだ。



「私がここで医者をやっているのはそういうわけよ。あなたちを傷つけるつもりはもちろん、村を襲うつもりもないわ」


「ストールいい人だよ。キョウヤ助けてくれた」



 まあそれは確かな事実だ。俺を助ける義理などないのだから。話が通じない原始的な魔物はともかく、ストールさんのように普通に話せる魔族が全員戦争をしたいわけではない、というのは普通にありえそうだ。魔王と魔族なんていうと大仰に聞こえるが、恐怖政治の国家とそこの国民と考えるとわかりやすい構図だ。そこの国の命令に従うのが嫌で国を抜け出してきたのがストールさんというわけだ。



「ストールさんの事情は理解した。別に俺は魔族に恨みをもっているわけではないから、どうこうするつもりはない。寧ろ助けてもらって感謝しているくらいだ」


「私も色々興味深い話が聞けました。魔族は全員が恐ろしい戦闘狂だと思っていましたから」


「トトさま魔族凄い強いって言ってた。ストールも強いのか?」


「ふふ。ただの年寄りよ私は」



 グレンは魔族と戦ったことがあるのか。流石元とは言えアダマンタイトランクの冒険者だ。ところでこの話は王国は知っているのか? 魔王と戦う上で魔族と手を組めるかもしれないというのはかなり重要な話じゃないか。……気が進まないが今度長谷川に会ったら聞いてみるか。



「最後に一つ頼みがある。金は払うから今回作った薬の作り方か、予備を貰えないだろうか」


「ええいいわ。理由がはっきりしないと、またかかる可能性もあるしね」



 その後薬をストールさんから購入した俺たちは、大事を取って1日休んだ後村を出た。歩きながらストールさんから聞いた話を思い出す。魔物や魔族は魔王の命令には逆らえない。ならば魔物の中にも無理やり魔王に戦わせられているやつがいるのだろうか。まああいつらが話せない以上そんなことはわからないが。



「魔族の数が()()少ないと言っていたじゃないですか。あれ師匠のせいかもしれません」


「どういうことだ?」


「師匠が英雄と呼ばれているのは、王国を襲ってきた魔族を全員返り討ちにしたかららしいんです。そのとき好戦的な魔族を沢山倒したから、今はストールさんのような方が多いのかもしれません」



 なるほどな。そんなことがあったから魔族=人類の敵となったのかもしれないな。出来れば王国を襲ったような魔族とは会いたくないもんだ。



ストックが尽きたので次話からは日曜の週一投稿になります。今後も読んでいただけたら幸いです。




「続きが気になる!」



そう思っていただけたら



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