第3話 期待の新人登場
一度ギルドから出て裏手に回ると広い庭があった。そこには背負いかごがいくつかおいてあり中には綺麗に切られた石が入っている。
「まずは剛力のテストからです。とりあえずこの重りを背負って立ち上がってください」
「これ何キロあるんだ?」
「丁度50キロですね。一人前のポーターとして雇われる最低ラインでもあります」
ポーターというのがなんのかはわからないが50キロか。スキルがない俺では絶対に不可能だったな。これが剛力レベル3相当というならばレベル5の俺は余裕のはずだが。
「今ならまだ勘違いだったでもいいですよ。よくあることですから」
スキルを得る前の自分では絶対に無理だろうなと考えているとそれを嘘がついてるのがバレると困るので尻込みしていると勘違いしたのかわざわざ助け舟を出してくれる。
「いや大丈夫だ。しかしあんた……優しいんだな。これだけ何回も言ってくれるなんて」
「なっ……別に私は職務で言っているだけです。それと私はあんたじゃなくてミリムというちゃんとした名前がありますので」
「わかったよ。あれを持ち上げればいいんだな」
背負いかごに腕を通すと俺はよっこいしょと立ち上がった。肩にずしりと重さが来るが……とても50キロとは思えない。通学用のリュックと大して違わないように感じる。
「え、本当に持ち上げられるなんて。いえではそれを背負ったままあそこの壁を触って戻ってきてください。10秒以内に出来たら合格です」
「了解」
距離にして丁度50mくらいか。それなら余裕だろう。しかし余裕をかまして不合格になったら笑えないので気持ち早めに走り抜けた。
「タイムは9秒。剛力のテストは合格です。じゃあ籠をおいて次はその中から好きな剣を選んでください。私は試験官を呼んでくるので」
そう言うとミリムは裏庭から姿を消した。どうせ試験するならその試験官も呼んでおけばいいのに。……いや嘘をついていたら剛力のテストで落ちるから必要ないと思ったのか。確かに嘘つきが多いなら一々試験官を呼ぶのは無駄だな。
並べられた木剣をいくつか振って最も振りやすいのを手に取った。ふむこれも剣術の効果かな。不思議と手に馴染む。試しに体育の授業でやった剣道の型をいくつかやってみるが自分でも驚くほど綺麗に思い描いた型をなぞれた。
「お、なんだなんだ。ミリムちゃんが呼びに来るからきてみれば珍妙な型だな。何流だそれは?」
丁度その時ミリムと無精ひげを蓄えたおっさんが裏庭に入ってきた。あのおっさんが試験官だろうか。
「で何流なんだよ。気になるじゃねーか」
「……示現流だ。多分知らないだろうがな」
咄嗟に剣道の座学で習った流派の名前が出る。示現流なんて名前くらいしか知らないが別にわからないだろうしいいだろう。
「ジゲン流ねぇ。確かに知らねーな。まあいいや動きを見ると最低でもレベル2はあるだろ。ほれ構えろ相手してやる」
「ちょっと待て。あんたに勝てば合格なのか?」
先ほども籠を持ち上げればいいだけではなくその上で条件をクリアする必要があった。今回もそうなのだろうか。
「アーハッハッハッハ!!」
俺としては当然の疑問だったわけだが髭男は大声で笑い出しやがった。思わず火魔法でもぶつけてやりたくなったがここは我慢我慢。
「そうだな。勝てたら合格だ文句なしだ。勝てなくてもいい勝負が出来たら合格にしてやるから安心しろよ」
「ならいくぞ」
いい加減我慢の限界だった俺は髭男に切りかかる。構えてない? 知るかそんなこと。示現流のモットーは常在戦場だ。今決めた。
「うお! 勢いのいいやつだな」
「おら!」
大上段に構えてそのまま振り下ろす。髭男はそれを受け流すとそのまま1回転して剣を頭めがけて薙いでくる。しゃがんでそれをかわし剛力レベル5の足払いを仕掛けた。
「痛って!!」
「死ね!」
すっころんだ髭男に向けて剣を振り下ろす。勝った!! いや不味い当たったらマジで死にかねん。しかしいまさら止めようもなく剣は男の頭に吸い込まれて
「真剣白刃取り!!」
「……まじかよ」
「凄い」
驚くことに髭男は俺の木剣をその両手で挟み込んでいた。木剣だから真剣でも白刃でもないが止められた。おまけに動かそうにもびくともしない。こいつ一体どんなスキル持ってるんだ。9個そうそうに埋めてしまったのは失敗だったかもしれない。
「合格だな。うおー久しぶりに動いたから体が痛い」
そう言い腰を回すとボキボキとあまり健康的でない音が聞こえた。そう言えば確かにいい勝負が出来たら合格と言われてた。振り回された気しかしないが。
「ミリムちゃんあとの手続きやっといて。俺少しここで体動かしてくるから」
「わかりました。ではキョウヤさんついてきてください」
「ああ。そういえばおっさん名前は? ずっと髭男じゃ言いにくい」
「お前こんなナイスガイになんてあだ名つけてやがる。ミリムちゃんも笑わないの。……俺の名前だったな、ギルバートだ。忘れんなよ」
「了解了解」
木剣を元の場所に戻しミリムの後についていく。にしても随分かっこいい名前だな。悔しいが似合っている。
「おー痛てて。思いっきり蹴りやがったなあのガキ。にしても絶対嘘ついてるよなあいつ。レベル4、いや5はあるぞあの動き」
1人裏庭に残ったギルバートは蹴られた足を撫でながら愚痴る。書類仕事が終わって体を動かしたかったところに丁度ミリムが試験官を探してたから暇つぶしに試験官役をやったが……
「期待の新人だな。ギルドマスターたる俺様がわざわざ見てやった甲斐がある。……ミリムちゃんにいい所見せようと思ったのになー。少し運動してくか」
そう言うとギルバートは最も重い背負いかご、重量約1トンを背負い剣を振り始めた。
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