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第25話 単純な村


 ランサムまでワイヴァーンを引っ張るのは俺とフィーの役目だった。アンは肉体強化のスキルを持っていないので仕方ないが。尤も剛力のお陰でそこまで大変な作業ではない。


 村の前まで到着するも誰一人として待っている者はいない。まあ別に期待はしていない。俺はフィーの背中を軽く押すと頷いてやった。



「ワイヴァーンを狩って来た!!!」



 あまりの大声に思わず耳を塞いでしまう。これだけの声なら村全体に響き渡ったかもしれない。少しするとポツポツと村人が集まりワイヴァーンの死体を見て騒ぎ始めた。



「おい本当にあるぞ」


「マジかよ。人族と毛抜けのフィーだけで倒して来たのか?」


「それよりあのデカさを見ろ。こないだ狩ったやつの2倍はあるぞ」


「とんでもねー強さだなあいつら」


「俺を倒しただけのことはあるな!」



 聞き覚えの声の方に目を向けると門番をやってたハンスもやってきていた。そして村人の大半が集まったころ満を持してグレンが登場した。族長の登場と知り場が徐々に静かになる。



「フィーこのワイヴァーンはお前たちが倒したのか?」


「うん! 止めは急降下してきたワイヴァーンをキョウヤが両断した!」


「はぁ!? あのワイヴァーンを両断!?」


「でも確かに真っ二つだぜ」


「族長だってそんな真似出来ないぞ。あの人族何者だ」



 再びざわざわと騒ぎだした村人をグレンが手を上げることで制した。



「たった3人でワイヴァーンを狩ってくるとは見事!! おまけにここ数十年で類を見ない巨大なワイヴァーンをだ! 少し早いがフィー、お前は成人の儀を乗り越えたと認める! 文句があるやつはいるか!!」


「賛成!」


「異議なし!」


「毛抜けだと思ってたがやるじゃねーかフィー!! 流石族長の娘だ!」



 そこからはあれよあれよとワイヴァーンを解体してフィーの成人を祝う宴が始まった。元々は数人まとめてやるらしいがまあこれくらいの特別扱いがあってもいいだろう。



「やっぱワイヴァーンの肉はうめーな!!」


「おーいこっちもう酒がねーぞ!!」


「馬鹿言ってないで自分で取ってきな! 今日の主役はフィーだよ!」


「いやー今までフィーのことを見誤っていたぜ! まさか12歳で成人になるとは!!」



 村人たちは思い思いの場所に座って肉や酒を口に入れている。その様子にフィーへの隔意は見られない。道具屋の店主も「こんなにすぐワイヴァーンが食えるなんてフィーのお陰だな」なんて言っている。



「手のひら返しが激しいと思うか?」


「そりゃまあな。フィーへの態度はその一端だろうが見た。それをワイヴァーン倒したくらいでひっくり返すとは」



 調子が良すぎないか? 流石にそこまでは言わないがグレンも俺が言わんとしていることは察しただろう。少し気まずげに頬をぽりぽり掻いた。



「悪い奴らじゃないんだ。単純なだけでな。血の濃さ、というか先祖に似ているかどうかを重視するのは卵と鶏が逆になったようなものでな」


「卵と鶏?」


「ああ。俺たちはそいつが強いかどうかってのを重視する。強ければある程度の粗暴さは許される。いや寧ろ美徳とさえされる。逆に弱い奴がどれだけ物腰穏やかでもただの臆病者とそしられる」


 何をしたかではなく誰がしたかみたいなもんか。強い奴が物腰穏やかなら真の強者は偉ぶらないものだ、とか言われるんだろうな。


「獣人は先祖に近ければそれだけ身体能力が高い傾向にある。そして身体能力の高さは強さに繋がる。もうわかるだろう?」


「強い奴は先祖似だからいつしか先祖似は偉い、それ以外は偉くないってなったのか。だから最初に俺たちを見たハンスも馬鹿にしてきたわけだ」


「ああ。だが強いやつが偉いって感覚は消えてない。だからそいつが強いって知れば態度をあっさり変えるんだよ。お前やフィーに対してみたいにな。その基準の1つが成人の儀を乗り越えられるかだったりする。本来はもっと弱い魔物を狩ってくるもんだがな」



 確かに単純な奴らだ。良いように言えば裏表がないってことになるだろうが。尤もこれまでその単純さに苦しめられたフィーからしたらたまったものではないだろうが……



「一気! 一気! 一気!」


「プハァー! もう一杯!」


「もう……無理」


「ウォォー!! アレインが負けたぞ! 族長並みの強さだ!!」


「フィーに挑む奴はいるか!! フィーは強いぞ!!」



 宴の中心ではフィーが村人に囲まれて飲み比べをしている。どいつもこいつも笑顔だ。それはフィーも例外ではない。幸いなことに彼女も単純だったようだ。まあワイヴァーンを斬った俺を見て結婚するとか言い出す奴だからな。本人が幸せならそれでいいだろう。俺個人としては思うところがあるが、外野がとやかく言うことではない。


 

「さてそろそろ例の約束を果たすか。感謝しろよ。元とは言えアダマンタイト級冒険者の胸を借りれるなんてそうそうないからな」



 アダマンタイト、確か上から二番目だったはずだ。確かに貴重な機会だ。酒が入ってるからと逃す手はない。



「おいお前ら! 今から俺とキョウヤが勝負するぞ! 内容はグラディオだ!」


「族長のグラディオなんて久しぶりだな!」


「ああ! 最後に見たのは数年前か。キョウヤがそれだけ強いってことか」




 グレンの宣言で広場の一部がさっと開けられそこに5メートルほどの円が描かれる。これも祭りの一部ってことか。見世物になるのは好きじゃないがこれくらいなら仕方ないか。



「ルールは簡単だ。武器はなし素手の殴り合いで勝負。円から出るか気絶するか降参したら負けだ。ただし今回はいつもの族長ルールだ。お前は俺を一歩でも動かしたら勝ちでいいぞ」


「それは随分と舐められてる……わけじゃないんだろうな」



 体格、スキル、戦闘経験とどれを取ってもグレンのほうが上だろう。俺がボクシングでもやってたら違ったのかもしれんが。尤も負けるつもりはサラサラない。



「目にもの見せてやる」


「来い!」



 グレンはその場で仁王立ちになって構えた。一歩も動かないなら蹴りもないだろう。だからといってリーチで勝るわけではないが。



「シッ!」


「フン!」



 まずは小手調べでジャブを放つと丸太のような腕で防がれそのまま掴まれそうになる。慌てて後方に逃げる。一度掴まれたらおしまいだ。



「今のに反応するなんてやっぱり中々やるなあの坊主」


「でも族長にはさっきの攻撃効いてないみたいだぞ」


「キョウヤ!! パンチれすパンチ!! ボッコボッコにしてくらさい!」



 好き勝手にヤジが飛んでくるがすべて無視。また面倒な酔い方をしている奴がいるがそれも無視だ。俺は素早く相手の後ろに移動した。足を動かさないなら後ろに回ればあるのは無防備な背中だ。卑怯とは言うまいな!



「セイ!」


「甘い!!」


「うお!」



 背中を蹴ろうとした瞬間先ほどまでゆらゆら揺れていた尻尾が突然鞭のように動き足払いを掛けてくる。慌ててジャンプして躱す。そのままグレンの肩を掴みそれを土台に一回転、再びグレンの目の前に戻って来た。



「ほう。今のを避けるとは大した身軽さだ」


「あんたも随分器用だな」


「そう簡単に負けてやれんぞ」



 その後も何度か攻撃を仕掛けるがそのことごとくを防がれ躱され受け流された。素手レベル7は伊達じゃないな。まったく敵わん。



「そろそろ降参か?」


「しません! キョウヤは降参なんれしません!!」


「仲間にもこう言われたんでな。もう少し粘らせてもらおう」


「来い!」



 俺はハイキック――と見せかけて大きく開けられたグレンの股の間をくぐり背後へ。尻尾が襲いかかるが所詮は尻尾。来ると分かってれば耐えられるレベルだ。そして背後に回ると()()()()()()()()()()()その膝裏を蹴りぬいた。



「ぬお!!」


「もらった!」


 

 敢えて手を抜いていた俺の力に慣れていたグレンはあっさりとその場に膝をつく。族長ルールならここで勝ちだが折角だから完璧に勝たせて貰う。ようやく届く高さになった首に右腕を回し自分の左の二の腕をがっちり掴む。そして左手をそのままグレンの頭の後ろに持っていく。所謂裸締めだ。柔道は必修なんでな!



「グッ!」


「おいなんだあの技! 族長が抜け出せねーぞ!!」


「首を絞めてるみたいだが初めて見る方法だな。ちょっと試させてくれ」


「馬鹿! 一番いい所だぞ!!」



 必死にもがいて抜けようとするが柔道の技は初見殺しだ。知識もなしに抜けられるものではない。尤も力の差が大きければその限りではないが剛力を持っている俺相手ではそれも無理だ。


 いい所に決まっていたのか十数秒でグレンは意識を失った。抵抗が止んだのを確認すると俺は首から腕を放す。思ったより粘られたせいでこっちの腕力が先に尽きるところだったぞ。



「ウォーター」


「ブハッ!! 何だ一体!!」



 水をぶっかけてグレンを起こす。一瞬状況が理解できなかったようだが周りを見て思い出したようだ。ヨロヨロと立ち上がると俺の腕を取り大声で宣言した。



「キョウヤの勝ちだ!! ランサム村でグラディオ最強はキョウヤだ!!!」


「ウォォオオオ!!」


「「「キョウヤ! キョウヤ! キョウヤ! キョウヤ!」」」



 村人たちが一斉に叫び足を踏み鳴らした。あまりの大音量に空気が震える。まるで武道館のライブのようだ。正直かなり気分がいい。


 俺が両手を上げて歓声に答えていると観客の輪から誰かが飛び出してきて背中に飛び掛かられた。



「流石キョウヤ!! フィーやっぱりキョウヤと結婚する!!」


「お前まだそんなことを!」


「絶対絶対絶対結婚する!!」



 背中に胸を押し付けるように抱き着くフィーをなんとか引きはがそうとするが先ほど締め技に力を使い過ぎたせいか中々落とせない。やっと剥がせたと思ったら今度は正面からドン! という衝撃とともに誰かが抱き着いてきた。



「ちょっとキョウヤぁ! なにをデレデレしてるんれすか! そんなに大きな胸がいいんれすか!?」


「お前も呑み過ぎだ! 一回落ち着け」


「うるさい! こんなうるさい口はこうれす!!」



 そう言いながらアンが真っ赤な顔を近づけてくる。避ける間もなく唇に非常に柔らかいものが当たる。予想外過ぎることが起こりフリーズする。目の前には綺麗な碧色のアンの瞳。鼻にはアンの荒くなった鼻息が。そして唇には……



「娘に求婚された直後に他の娘とキスだと!! 絶対に娘はやらんぞ!!!」



 殺気を感じて咄嗟にアンから離れる。直後俺は怒り狂ったグレンの巨大な拳を食らい意識を失った。



「面白い!」


「続きが気になる!」


そう思っていただけたら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白ければ星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。よろしくお願いいたします

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