第24話 VSワイヴァーン
今すぐにでも出発したいところだが消耗品の補充をしておいたほうがいいだろう。俺はこの村唯一らしい道具屋に必要なものを調達しに向かった。
「このポーションをくれ」
「あいよって人族か。あんたか? ハンスに勝ったって男は」
「ああ。だが襲ってきたのはあいつが先だぞ。責めるなら――」
「違う違う! 人族のくせに強いやつが来たらしいって噂になってのさ。ほらおまけだこれも持ってけ」
そう言うと猫族の店主はポーションを一本多く俺に渡してくる。初対面時のハンスたちとはだいぶ態度が違う。
「もう出ていくのかい? もっと滞在していけばいいのに」
「いや美味いと噂のワイヴァーンを狩ろうと思ってな」
「あんた1人でか? そりゃ無茶だぞ」
「いや。俺の仲間とフィーの3人だ」
俺の返事を聞いた店主は憐みの表情を浮かべた。3人でも無理ってか?
「フィーに何を言われたのか知らんがあいつは置いて行った方がいいぞ。役に立つはずがない。見ればわかるが毛抜けだからな」
「毛抜け? あの見た目のことか?」
「ああ。あれだけ強い族長の娘だってのに。あの子も可哀想な子だよ。まあ兄のアパルさんがいるから跡継ぎは平気だけど」
それだけ言うと店主は俺に釣銭を渡し奥に引っ込んでしまった。毛抜けね。確かにフィーへの態度は冷たいもののようだ。下手したらよそ者である俺たちに対してよりも。ワイヴァーンを倒したくらいで解決するのかこれ。
道具を揃えた俺たちは村を出て近くの街とは反対方向に進む。岩山に向かう道中どうやってワイヴァーンを倒すか話し合った。
「いつもは大人が10人くらいで狩りにいく。罠を置いて引っ掛かったらワイヴァーンが飛べないように翼を傷つける。そしたら槍をもってみんなで遠くから突く。失敗して飛ばれたら弓とかで狙わないと行けないけどその時は凄く大変」
「やっぱりワイヴァーンが飛べる状態では手ごわいか」
「うん。でも飛べなくした後も油断するとケガ人が出る」
「私たちなら遠くから魔導で攻撃できるのでそこは大丈夫そうですね」
「ああ。だがもし飛ばれたときどうやって引きずり下ろすか。魔導が当たるならそれが一番なんだが」
弓が当たるなら魔導も当たるか? しかし普段は10人で狩ると言う。弾幕のようにしているのかもしれんな。
「トトさまは攻撃するために急降下してきたワイヴァーンをそのまま殴って倒したことがある!」
「それは真似出来なさそうだ」
鷹とか鷲だって地上の獲物を襲う時の速度は数百キロのはずだ。ワイヴァーンがそれと同じ速度だと考えると至難の業だろう。
「竜の逆鱗で囲うのがいいかもしれません。翼膜くらいなら破れる可能性は高いです」
「だな。動きが速過ぎたら俺と連携して狙った場所に追い込もう。地面に落としてからは俺とフィーが前衛になるからアンはバンバン魔導で攻撃してくれ」
「わかった!」
「わかりました」
丁度作戦が決まったころ目的地にたどり着く。専門的な道具がなければ登れなさそうな岩山だ。しかし上る必要はない。ワイヴァーンに降りてきてもらうのだ。道中で狩ったゴブリンの死体をその場に置く。血の匂いが広がるように傷口を多くつける。それをその場に残し茂みに隠れる。
「こんなんに引っかかるとは所詮トカゲか」
「ドラゴンはかなり頭がいいらしいですがワイヴァーンならそんなものでしょう」
「フィー頑張る!」
ゴブリンを置いて30分ほどたったころ。遠くから飛んできた巨大な何かがゴブリンの死体のもとに降り立った。当然その正体はワイヴァーンだ。しかし聞いていた大きさよりだいぶデカいな。普通は3~4メートル程らしいがその倍はあるぞ。ワイヴァーンはクンクンと周りの臭いを嗅ぐような仕草をする。爬虫類って鼻はよかったけな。蛇なら温度を感知するってのは知ってるが。
「あんなに大きいワイヴァーン、フィー初めて見た」
「やることは同じだ。アン俺は右を狙う」
「わかりました。スリーカウントで行きます。3……2……1!」
「「《竜の逆鱗》」」
呪文を唱えた瞬間ワイヴァーンの両翼を覆うように小さな火の玉が無数に出る。驚いたワイヴァーンが身をよじりそれに翼が接触するとドカドカドカーン!! と連鎖的に爆発が起こった。
「行くぞフィー!」
「うん!!」
俺は蒼霧を、フィーはクローを手に爆発に包まれているワイヴァーンの元に向かう。今の攻撃で翼を破壊出来てるといいんだが。
「グオォォォ!!」
「あまり突っ込むな。攻撃はアンに任せろ」
「分かった!!」
ワイヴァーンはありがたいことに飛び立とうとはしない。むしろ翼を庇うような挙動をしている。よし、上手く魔導が当たったみたいだ。あとはどれだけこいつの攻撃に俺たちが耐えられるかだな。
ブン! という音と共に尻尾が横薙ぎに振られる。体がデカいので当然攻撃範囲も大きくなる。余裕を持って大きく下がったので当たらなかったがかなり遠くまで攻撃が届くな。ハルバードとかを相手にするつもりでいたほうがよさそうだ。
「シャア!!」
「シッ!」
ワイヴァーンが尻尾を振った直後無防備なその背中に攻撃を加える。しかし硬いなこいつの鱗。弾かれはしないがしっかり力を籠めないと深い傷は付けれない。フィーに至っては擦り傷のようなダメージしか与えられていない。魔力で硬度を上げているのだろう。
「《バラの棘》!!」
「ギャァァア!!」
「ダブルスクラッチ!!」
俺たちに気を取られた瞬間、すかさずアンの魔導が飛ぶ。それは見事に尻尾の付け根に直撃し、半ばまで断ち切った。そしてその隙を逃さずフィーが尻尾を切り飛ばす。よし、これで一番危険な攻撃がなくなった。そう思った瞬間ワイヴァーンの翼を魔法の光が包んだ。
「回復魔法!? だから翼を庇ってたのか!」
「グォォオオン!!」
翼を治したワイヴァーンは一気に空中へ飛び立った。クソ、トカゲ風情がやってくれる。回復魔法を使うのが予想外なら飛ぶ速度も予想以上だ。わずか数秒でワイヴァーンの姿は豆粒のようになった。
「逃げましたか?」
「ううん。ワイヴァーン凄い執念深い。自分を傷つけたフィーたちを逃がさない」
「魔導は当てられそうかアン?」
「難しいですがやってみます」
「ォォォオン!!」
豆粒ほどだったワイヴァーンが今度は急激に大きくなっていく。あの速度なら数秒で俺たちの元に到達するだろう。
「《竜の逆鱗》!」
「《巨人の鉄槌》!」
俺とアンがワイヴァーンを捉えようと魔導を放つが、驚くべき反応速度でそれを躱す。そしてその間視線はずっと固定されている。ワイヴァーンが睨んでる相手は自分の尻尾を断ち切ったフィーだ。執念深いというのは本当のようだ。
「こ、来い!」
威勢はいいが完全にフィーはビビっている。自分が死ぬと思っている顔だ。それでも彼女は武器を構えワイヴァーンに立ち向かっている。このままでは良くて相討ちだろう。しかしそんな未来は訪れない。
「纏魔導水刃――荒波」
フィーとワイヴァーンの間に入り込んだ俺は居合から一閃、見事にワイヴァーンの体を左右に両断した。刀身よりも長い範囲を切れたのは水の刃によって攻撃距離を伸ばしているからだ。回復魔法で魔力を使っていたのが幸いしたな。水の刃は魔力を失った鱗をあっさりと切り裂いた。あいつとしても奥の手だったのだろう。
「無事かフィー。……なんというかその悪い」
怒りのためか体を震わせているフィーに謝罪する。ワイヴァーンを両断した結果、俺とフィーは大量にその血肉を浴びることになった。俺は覚悟していたからまだいいが、突然スプラッタ映画の登場人物のようになった彼女には少し申しわけなく思う。
「……凄い! 凄いよキョウヤ!! あんなの見たことない! トトさまみたいだった!!」
意外な反応に思わずたじろぐ。ありがたいことに怒り、ではなく感動で震えていたようだ。そう言えばここに来る前にグレンが急降下してくるワイヴァーンを殴り倒したと言っていたな。まあ俺は蒼霧を使ったからグレンのほうが凄いことをしているのだが。
「フィー決めた!! キョウヤのお嫁さんになる! それで凄い強い子を産む!!」
「お前何いっ――」
「何言ってるんですかフィーさん! そ、そんな子をう、産むなんて。私たち会ってまだ1日足らずですよ!」
「愛に時間は関係ないってトトさま言ってた!! 俺は一目見た瞬間からカカさまにゾッコンだったって!」
「それはそうかもしれませんが!! そういうことではなく――」
「フィー絶対キョウヤと結婚する!!」
「おい! こんな状態で抱き着くな!!」
血肉に塗れた状態でくっ付いてくるからかなり酷い状態だ。全身がヌルヌルしてて不愉快極まりない。当たっている柔らかいものがフィーの体かワイヴァーンの内臓かもわからない。
「ウォーター!!」
「キャ!」
「ぶっ!」
アンが水魔法を思いっきりぶっ放す。俺とフィーはその場から吹き飛ばされるが血肉はだいぶ落ちた。今の水量、レベルを上げたな?
「遊んでないでさっさとワイヴァーンのお肉を持っていきますよ。水魔法で冷やせるとは言え、腐ったら元も子もありません」
「了解」
「わかった!!」
俺たちは大急ぎでその場からワイヴァーンの死体を村まで引っ張っていった。これでフィーの扱いが改善されるといいんだが。
「面白い!」
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