プロローグ 砂漠の村
王都を出て1か月。俺とアンはようやく目的地にたどり着いていた。砂漠を渡るために購入した外套のフ-ドを外し俺は周りを見渡した。
「ここが獣人たちの村ランサムか」
「話に聞いていたとおり獣人ばかりですね」
この村に来る前にいくつかの街を経由した。そこで聞いた話では様々な獣人が暮らしておりただの人間は殆どいない。砂漠に出る魔物を狩ってそれを行商人に売って生活してるらしい。そしてもう一つ悪い噂が。獣人たちで固まって暮らしてるのにはそれなりの理由があるらしく、非常に排他的なのだそうだ。
「出来れば用事を済ましてさっさと出ていきたいところだな」
「でも次どこに行くかも決まってないですよね?」
それもその通りであった。世界を見て回りたいとは言ったものの具体的な考えは特にない。まあこの村がよっぽど酷かったら1つ前の街に戻ってそこで考えればいい話か。
「止まれ! お前ら何者だ。なんの目的でこの村にやってきた」
村の入り口に立っていた2人の獣人が高圧的な態度で槍を地面に突き立てた。どうやら排他的な村というのは本当らしい。
ところで俺は獣人と言えば大きな耳と尻尾をつけたミリムが思い浮かぶ。彼女は耳と尻尾以外殆ど人間なのだがこの2人は逆だ。片方は犬、もう片方は熊がそのまま2足歩行になったような獣らしい容姿をしている。王都にいる獣人たちはミリムに近いのが多かったから少し驚いた。
「この村の族長に手紙を届けに来た。差出人はヴェリテ・ジ-ニ-だ」
「聞かん名前だな。手紙を出せ。俺たちが族長に渡しておいてやる」
「いやそれは出来ん。恩人に頼まれたのでな。族長に直接渡したい」
「貴様なんぞが族長に会えるわけがないだろう。わかったらさっさと出せ」
クソ面倒だな。ただこいつらの言葉にも一理ある。日本で言うならアポもなし来た一般人が市長に会わせろって言っているようなものか? これはどうやって突破すべきだろうか。そう黙って悩んでいるとそれを2人の門番にビビっていると取ったのか犬の獣人が馬鹿にするように口を開いた。
「見ろよこの坊主。ちょっと脅かしたらビビっちまってるぞ」
「そう言ってやるなハンス。人族はひ弱だからな。無理もないってもんだ」
そう言って2人してゲラゲラと笑い出した。こいつら好き勝手言いやがって。
「誰がビビってるって? 犬だけあって目が悪いのか?」
ピタリ、と2人の笑い声が止まった。自分が言うのはいいが言われるのは許せないってか。とんでもないやつらだ、うお!
「いきなり何しやがる」
「てめぇこのクソガキ。誇り高きロボタ-様の末裔たる俺を指して犬だと。死ね!」
ヒュン! という風切り音と共に犬の獣人、ハンスだったかが槍で突いてきた。オイオイ喧嘩っ早いにも程があるぞ。冒険者だってもう少し我慢強い。
「おい人族の小僧! ハンスは狼族だ。犬ってのは禁句でな。一度切れると手がつけられん。まあ殺されそうになったら止めてやるから安心しろ」
「そんな狂犬みたいなやつには首輪をつけとけ」
「てめぇ! ぶっ殺す!」
犬呼ばわりしたのは俺だけだからかハンスはアンを気にする様子はない。くそファ-ストコンタクト失敗だな。仕方ないこいつをぶちのめしてから考えるか。
「アンは手を出すな。1人で十分だ」
「わかりました」
「ふん。貴様のようなやつでも一騎打ちの誉は持っているか。止めは一息に刺してやろう」
「武器を抜いたなら黙って戦え。それとも弱い犬ほどよく吠えるというやつか?」
「ッ!!」
足元は砂漠なので当然動きづらいがハンスはまったくそれを感じさせない速度で前進してくる。かなり速い。動き回るのは不利だな。逃げきれんし相手のほうがリ-チが長い。まあいいさっさと終わらせよう。
「来いよ駄犬。躾してやる」
「この期に及んで!!」
敢えて再び犬呼ばわりすると予想通り増々怒り狂ったハンスの動きは直線的になった。いくら素早くてもこうなってしまえば読むのは容易い。
「《大口を開けたクジラ》」
土魔法で砂を操りハンスの足元にすり鉢状のデカい落とし穴を作る。砂の中に隠れて襲ってくる魔物を引きずり出すために考えた魔導だが対人戦でも有効だ。さあどうする。落ちたら上から魔法を撃ち放題、仮に落ちなくても、
「舐めるな!」
ハンスは驚異的な反射神経で手にした槍を棒高跳びのように使って落とし穴を乗り越える。そしてそのまま勢いを利用して空中に高く飛び上がった。
「馬鹿が。《巨人の鉄槌》」
空中で身動きが取れないハンスをすかさず風の魔導を使って地面に叩き落とす。ドン! という音共に地面に激突するハンスの鼻先に蒼霧を突き付けてやる。
「まだやるか?」
「ストップストップ。やめてくれ。俺たちが悪かった」
勝負はついたと見たのか熊が慌てて止めに入ってくる。ハンスは悔しそうだが流石にあの状況から勝てたとは言えないのか無言だ。
「勝った代わりとは言わんが手紙の件どうにかしてくれ。先に族長に婆さんの名前だけでも伝えに行くとか」
「それを最初に言えばよかったのではないですか?」
「仕方ないだろう。こいつが先に喧嘩を売って来たんだ」
「あ-そのことだがどうやらあんたの心配は杞憂らしい」
「なに?」
熊が無言で村の方を指すと村人たちがなんの騒ぎかとこちらを見ている。そしてその後ろから一際巨大な影がこちらに歩いてくる。
「族長が来た。直接渡せばいい」
なるほど。それは話が早くていい。
投稿が遅れてしまい申し訳ございません。明日は12時頃に投稿します。
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