エピローグ 旅立ち
この話には出ませんが橋田の名前を橋本に変更しました。混乱させてしまったら申し訳ありません。
「ヴェリテ・ジーニー、女、年齢、は見えんジョブは魔法の支配者。それ以降は全てわからん」
「まあなんとか及第点だね。言った通り間に合っただろう?」
「人生で一番辛い3日間だった」
3日後俺のステータスには鑑定魔法レベル1の文字が。ギリギリ間に合ったな。しかし誇張でもなくこの3日間はかなりきつかった。あれが婆さんの本気のしごきか。二度と受けたくない。
「あんたの鑑定じゃまだまだ見れる範囲は少ないだろう。今後も精進を重ねるんだね」
「ああ。あんたには本当に世話になったな。冒険者ギルドとかにも顔を出したあと街を出る。12時くらいになるだろう」
「そうかい。ところであの子には挨拶していかないのかい」
「……この3日間殆どここに缶詰だが会わなかったんだ。残念だがそれがあいつの選択なんだろ。俺にはどうにもできん」
取り敢えずまずは宿だな。引き払う準備をしないと。それから蒼霧の購入やらメンテやらで世話になった武器屋と冒険者ギルドにも顔を出すか。俺はすっかり見慣れた魔導士ギルドを後にした。
「わざわざ出立の時間を伝えておいて。まったく普段は妙に達観してる癖に子供だねぇ……お互いに」
出る直前婆さんが何か言っていたが俺は聞こえないふりをした。
「いいのかいアン。あいつも意地っ張りだ。このままだと本当に1人で行くよ」
「……私には師匠の後を継ぐ役目があります。それに未熟な私が付いて行っても迷惑になるだけですから」
京也がいなくなると奥の部屋からアンが紅茶を持ってきた。当然さっきまでの会話は聞いていたしこの3日間も魔導士ギルドの中にいた。わざと会わなかったのだ。
「ふん。メンバーも数人しかいないこんな零細ギルド継ぐ必要なんてないよ」
「でも! 師匠がその気になればもっと大きなギルドだって作れたはずです。それをせずに国からの誘いも断ってるのは私がいるからってことくらいわかります」
ヴェリテがもっと大きなギルドを作ったり王宮勤めを始めたら当然アンと共にいる時間は減る。今までヴェリテは自分のために行動してくれていたのに自分だけ好き勝手することは出来ない。アンはそう言いたいのだ。
しかしそれは彼女が京也についていかない理由の100%の真実ではない。幼い頃にアンを引き取ってからずっと師匠として、親として接してきたヴェリテがそれを見抜けるのは至極当然ことだった。
「怖いんだろう外の世界が」
「っ! そんなことありません!! キョウヤと一緒に何回も冒険に行ってますし今さら怖いはずが……」
「なら里帰りでもして証明することだねそれを。どっちみちあんたが本当に私の後を継ぎたいならもっと外の世界を知る必要がある。行ってきな」
「……それは師匠命令ですか?」
アンの言葉にやれやれとヴェリテは首を振った。
「いいや。孫を思う祖母からのお願いだよ。あんたにはもっと色々な経験をしてほしい。将来絶対役に立つ。口うるさい年寄りからの忠告さね」
「え?」
「ほらさっさと準備しな。私はこの3日間あのバカの修行に付き合ってたせいで眠くて仕方ない」
ヴェリテは最後にそう言うと寝室へと姿を消した。暫くその場に立っていたアンだが一言「ありがとうおばあちゃん」そう言うと慌てて荷造りを始めた。
「キョウヤさん本当に行ってしまうんですか?」
「ああ。ミリムにも世話になった。また戻ってくるつもりだからその時はまた頼む」
「はい! ここに帰ってくるときキョウヤさんは物凄く強くなってる。なんだかそんな気がします」
「生意気度も上がってるだろうなきっと」
「魔導士ギルドへの紹介状は正直助かった。感謝してる」
「お、おい。なんだよ妙に素直じゃねーか気持ちわりぃな」
そういう日もあるんだよ。ミリムとギルバートに挨拶を済ませギルドを後にする。さて今ので挨拶しようと思っていた相手は最後か。多分そろそろ12時だ。城門に向かおう。城門にはもうすっかり顔なじみになった衛兵が立っていた。
「お、キョウヤじゃないか。先日の緊急依頼では大活躍だったって聞いたぞ。今日も依頼か?」
「いや実はこの街を出ようと思ってな。あんたともしばらくお別れだ」
「そうかそれは寂しくなるな。でもアンちゃんが来るまでここで待つんだろ。詰所の中で待ってるか?」
「いや実はアンは、」
「おっとその必要はないみたいだな。待ち人来たれりだ」
「なに?」
驚いて後ろを振り返るといつも持ってる杖に旅装をして荷物を持ったアンがこちらに向かって走ってきていた。あの様子で見送りにきた、というわけでもないだろう。
「ハァハァ……すみません。遅く……なりました」
「……いやいいさ。俺も丁度ついたところだ。だがいいのか?」
俺が旅に出ると話してから一回も会わなかったからついてくるつもりはないと思っていた。なので正直今はかなり驚いている。
「ええ。キョウヤのお陰で外の世界は怖いものばかりではないと知りましたから。ミリムさんと美味しいお菓子についてお話するのは楽しかったですし、依頼で助けた村の人に感謝されるのは嬉しかったです。今まで小さかった私の世界が広がった気がします。1人では無理ですが……あなたとならもっと多くの景色が見れそうです。なにより……おばあちゃんに行って来いと言われてしまいましたから」
「そうか。なら行くか。取り敢えずの目的地は砂漠にある獣人の村ランサムだ。そこに婆さんから預かった手紙を渡しに行く」
「わかりました。では衛兵さん今までお世話になりました」
「お、おう。2人とも元気でな」
今までアンから話しかけられることが殆どなかったからか衛兵のおっちゃんは驚いた顔をしている。
俺たちは最後に街の方を振り返ると目的地に向けて歩き出した。
これで1部は終了です。プロットはしっかりあるので今後も連載は続けます。また明日は幕間として勇者側のストーリーを上げます。14話と15話の間に投稿するのでお気をつけください。読んでいただけると嬉しいです。
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