第18話 VSゴブリンキング2
ゴブリンキングの死体……長いのでゴブリンゾンビとかでいいだろう。ゾンビは今片手で剣を構えている。左腕には結構なダメージを与えて生きているときは動かせなくなっていたのでその影響だろう。
「あいつの動きを止めるにはデカい一撃が必要だな。バラの棘なら直撃が必須だ」
「豆粒ほどの大きな火は効果が薄そうですね」
「来るぞ」
ゾンビが体を後方に流し力を溜める。受けれるか? いや危険だ。避けよう、そう思った瞬間には既にゾンビは目の前に迫っていた。
「瞬発!!」
ギリギリで防御が間に合うがヤバいな。瞬発を使った状態で互角だ。効果が切れた瞬間押し切られるぞ。おまけに妙に体から力が抜ける。
「《バラの棘》!!」
「グゥオォ」
「助かる」
直撃は不味いと理解しているのかゾンビは大きく後ろに飛んで魔導をかわした。助走なしで数メートルは飛んだぞ今。
「今あいつと近づいたとき不自然に力が抜けた。何かわかるか?」
「精気吸収かもしれません。魔力や生命力を奪うスキルです。近距離でしか使えないはずですが」
「邪剣に相応しい力だな。短期決戦は必須か」
左腕を治されたら不味いな。それに先ほどの動きをみると魔導単体で当てるのは不可能だろう。絶対に当てる、というところまで持っていかないと魔力の無駄だな。
いやもっと手っ取り早い方法がある。新しく俺が考えた魔導。修行時でも100%成功は出来ていないがあれならば確実に勝てる。
「あれをやる。集中するからカバーを頼む。万が一失敗したらカバーもな」
「分かりました。キョウヤなら大丈夫だと思いますけどね」
「グヘェ」
再びゾンビと相対する。先ほどの精気吸収の効果か体の傷が治っている。このまま復活したりはしないだろうが動きはよくなるだろう。ここで決めないと不味いかもな。
「フゥゥゥ」
「グォォ!」
「《竜の逆鱗》」
鞘に蒼霧を入れ居合の構えを取る。当然ゾンビは俺を攻撃しようとしてくるがそれをアンが魔導で止めた。ゾンビの周りに数十の 豆粒ほどの大きな火が浮かぶ。動かすことも出来ないし威力も本来の物より小さいが当たっただけで小規模な爆発を起こす魔導だ。ゾンビへのダメージは大したことないが足止めにはなる。
「ォォオオ!!」
「キョウヤ!」
徐々に高まる俺の魔力を見て直感的に不味いと悟ったのか防御姿勢を取るとゾンビは強引に竜の逆鱗を突破してくる。残念ながら完全に動きを止めるほどの力はないようだ。それで稼げた時間は数秒。そう数秒もあれば……十分だ。
「纏魔導……水刃!」
シャリン、そんな綺麗な音と共に鞘から解き放たれた蒼霧は凄まじい速度でゾンビの邪剣を握る腕に迫り、
「そんな……」
両断するに至らず途中で止まった。オーガの時のように骨と筋肉で止められたのだ。蒼霧でも一刀両断は無理か。俺の必殺の一撃が失敗に終わったのを見てゾンビがニヤリ、と笑った気がした。そして今度はこっちの番だと大きく剣を振り上げ俺を叩き潰そうとした瞬間、
「斬華の型」
蒼霧が付けた傷口を中心に腕の内側から氷で出来た華が咲いた。ドンという音と共に体から切断された腕と邪剣が地面に落ちる。やはりゴブリンキングの死体を操っていたのはこの大剣だったのか死体は腕に遅れるように地面に倒れこんだ。
「魔法を剣に纏わせる間は動けないのは大きな弱点だな。ただ威力は十分だうぉ!」
「キョウヤ! ビックリさせないでください!! 失敗したのかと思いました!」
アンが後ろからタックルしてきたせいでその場に倒れる。慌ててひっくり返ることで背中から落ちれたがアンを抱きしめるような格好になってしまった。
「俺なら大丈夫なんじゃなかったか」
「それでも心配はします!」
「そうか。ところで悪いが降りてくれ。そろそろ他の奴らが来るだろう」
ゴブリンキングと戦い始めて既にいくらか時間が過ぎている。ボスを失い烏合の衆となったゴブリンを倒しこっちに向かうには十分な時間だろう。慌てて立ち上がるアンだが今さら自分の行動に照れているのか少し尖った耳が真っ赤だ。そしてそれを誤魔化すように口を開いた。
「あ、す、すみません。と、ところでさっきの魔導あれはどういうものなんですか? カタナに魔法を纏わせて切れ味を上げる魔導だとは聞いていましたが」
「大体あってる。ただこの魔導の真骨頂は相手に傷を与えた時だ。傷口から俺の魔力を籠めた水が相手の体内に侵入する。それを操って氷の刃にすることで内部から相手の体を破壊。さっきはそれを使ってあいつの腕を切断した」
「なるほど。対生物にはかなり強力な魔導ですね。だけどそれは」
「ああ。相手の魔力が水に入れた魔力より多い場合体に入れてもコントロールすることはできない。だからさっきみたいに魔力を多く籠めないといけない」
仮に相手の魔力の方が多かった場合水に籠めた魔力は無駄になる。また魔力を籠める行為も現在は予め鞘に魔力を溜めておきそれを移すという行為が必要だ。戦闘しながら抜き身の蒼霧にそれを行えるのが理想なんだが。
「おい! こっちにゴブリンキングの死体があるぞ!!」
「死体!? もう誰かやっちまったのか」
「ああ。ヴェリテの婆さんの孫とその相棒だ」
「マジかよ! あいつらまだシルバーだろ!」
他の冒険者たちがようやく来たようだ。それと並ぶように騎乗した騎士団のやつらも。幸いなことに長谷川たちの姿は見えない。一番高い獲物を取られたのを悔しがる冒険者たちをかき分けて騎士団の団長がやってくると何かを探すように視線を動かす。そしてゴブリンキングの大剣を見つけると目つきが鋭くなった。
「キョウヤだったか。首魁の首を上げるとは見事な働きだった。では事前の取り決めどおりこの大剣は我々に持って行かせてもらう」
「事前の取り決め?」
イノームの方に視線を向けると肩をすくめて説明しだした。
「詳しくはしらんが今回騎士団が参加したのはその剣が目的らしい。どんな理由があるかしらんがその分俺たちの報酬は上積みされてるから心配はするな」
どうやら俺の視線を報酬が減ることへの危惧と取ったらしい。通常討伐対象が持っていた武器や防具はそれを倒した者が手に入れる。そもそもその武器の奪還などが依頼内容の場合は違うが。
しかしあの邪剣が目的ねぇ。確実に死体を動かしたあの効果を知ってのことだな。別に今さら駄々を捏ねるつもりはないが知っていたなら最初から教えておいてもらいたいもんだ。
「勝手にしろ。こいつの魔石を取ったら俺はギルドに戻る」
「ああ。では我々はこれで。街にも被害を及ぼしていた可能性もある危険な魔物の討伐、冒険者たちの尽力に感謝する」
部下に大剣を持たせると騎士団の奴らは去っていった。冒険者たちもそれを追うようにこの場から消える。さて面倒だが最後の仕事といくか。疲れた体に鞭打って魔石を死体から取り出すと俺とアンも街に戻った。
新作短編投稿しました。好評だったら連載にする予定なので是非読んでください
支援スキル超育成を持つ僕。大魔王討伐後500年間歴代勇者の師匠をしていたけど新米勇者に追い出されたので今度は魔王を育成することにしました
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