第16話 冒険者の流儀
魔の森の中では冒険者はそれぞれ別々に戦いだした。イノームの言う通り俺らに連携を求めても足を引っ張り合うだけだろうからこれは当然だ。俺とアンはよくここには来るのでどのあたりによくゴブリンがいるかなど熟知している。効率よく狩ることが出来るだろう。
「グギャァ!」
「フンッ!」
「今ので20匹目ですね。それにしてもホブゴブリンだけでなくゴブリンシャーマンまで。本当にゴブリンキングがいるんですね」
奥に行くごとに徐々にゴブリンは強力な個体が増えてくる。先ほどは3匹のホブゴブリンを魔法を使うシャーマンが率いていた。それだけボスの元に近づいているということだろう。シャーマンだけから魔石を回収してさらに奥に行くとズシンズシンと重い足音が近づいてくる。現れたのは3mほどの巨人だ。
「オーガ? いやゴブリンチャンピオンか」
「ゴブリンキングの手下の中でも強力な個体のはずです。ボスは近いですよ」
「ならさっさと倒して、うおっ!」
「ライトザッパー!!」
「グゥ!」
俺たちがチャンピオンに切りかかる直前横合いから突如飛んできた攻撃がチャンピオンにあたる。そこに畳みかけるように大剣を手にした男が突っ込む。
「大切断!!」
「ライトニング!」
「グギャァア!!」
おいおい前衛があんなに近くにいるのに魔法を使って平気かよ。しかしそんな俺の心配をよそにチャンピオンはあっさりとその命を散らせた。
「危なかったねジーニーさん」
「長谷川。今のは一体なんだ」
「挨拶だな四宮……君。2人がチャンピオンに襲われそうになっていたのを助けてあげたんだろ?」
「俺たちが本当にピンチで助けを求めたならともかくさっきのはただの横取りだ。それと俺の呼び方は四宮さん、だろ」
「確かにあの時は負けたがあれは慣れない武器だったからだ。俺の本領は勇者の象徴である聖剣を使ってこそ発揮される。なんなら今試してもいいんだぞ」
「ごめんね四宮君。私たちお城で訓練か騎士団の人としか行動したことなくて冒険者のルールとか知らなくて。魔石は四宮くんたちが持って行っていいから」
「いや倒したのはお前らだ。それはいい」
こっちが気の毒になるほど申し訳なさそうな顔をして謝罪を繰り返す飯田。長谷川と大野は頭を下げる飯田を見て不満げだし橋本はチャンピオンの死体から魔石を抜き取っている。こいつら誰も周囲を警戒してないけど大丈夫なのかこんなんで?
別の方向から森に入った長谷川たちと会うということはそれだけ目的地に近づいている証拠だが騎士団のやつらはどうした。
「お前らだけか? 騎士団が一緒だったろ」
「一刻も早く邪悪なゴブリンキングを討伐したくてな。騎士団の人たちと一緒に行動するとどうしても遅くなるから俺たちだけで先行しているんだ」
「やっぱ龍吾やさしー。流石勇者って感じ!」
「なんでもいいけどよ。さっさと奥に行こうぜ。こいつ思ったより強くなくてがっかりしたぜ」
「いやその前に傷を治そう。麻衣頼めるか?」
「ちょっとまってね。癒しの風!」
俺もお世話になっているスキルを飯田が使うと驚くことに傷だけでなくスタミナまで少しだが回復するのを感じる。スキルレベルの違いかもしくは本来の使い手の違いか。
しかし見たところ長谷川たちは誰も大きな怪我をしているようには見えん。俺だったら勿体ないから使わないがこんなところで魔力を無駄遣いできるほど飯田の魔力量は多いのか?
「じゃあな四宮。ここにはこないだと違って手加減してくれる優しい魔物はいない。カッコつけたせいでジーニーさんを危険な目に遭わせるんじゃないぞ」
「よし行くぞ! 次はゴブリンジャイアントとか出てこい!!」
「なんでもいいから早くボス倒して帰ろー。私森って虫とかうざいし嫌いなんだよね」
「じゃあね四宮君。ジーニーさんもバイバイ」
ワイワイと騒ぎながら長谷川たちは森の奥に歩いていった。おいおいあれだけ喋ってたら魔物に自分たちの位置を教えるようなもんだぞ。
「大丈夫かよあいつら」
「そうですね。1人1人の実力は低くありませんが冒険者として経験が少なすぎる気がします」
「まあ俺らが気にすることでもない。このまま進んでまた会うと嫌だから一回休憩するぞ」
「はい。今お弁当出しますね」
俺たちは近くの大木を背にしてアンが魔法で作った土の台に座った。以前は休憩時の食事は適当に屋台で買っていたのだが最近は節約のためにとアンが作るようになったのだ。正直気にするような値段でもないのだがアンが作る食事はうまいからありがたく受け取っている。
時間をかけて食べたいところだが依頼中だ。気持ち早めに食べると水を飲んで再び移動を開始する。
「あいつら会う魔物全部と戦ってるのか?」
「そうみたいですね。スタミナや魔力を切らさないといいのですが」
長谷川たちが向かったほうに行くと至る所にゴブリンどもの死体が転がっている。普通冒険者は目当ての魔物以外は戦闘を避けるのだ。常駐依頼の対象ならともかく倒しても魔石代くらいにしかならず実入りがよくないから、それと依頼をこなす前に疲れては本末転倒だからだ。今まで常に騎士団と一緒だったと言っていたしそこら辺を考えてなさそうだなあいつら。
「グゥォォオオオオ!!!」
「この鳴き声はキングだな。急ぐぞ」
「はい!」
森の奥からここまで届く大音量。間違いないだろう。俺たちは魔物の死体に足を取られないように気を付けながら音源へと迫った。おそらく他の騎士団や冒険者にも今の声は聞こえただろう。早くしないと獲物が取られてしまう。長谷川達が倒してしまうかもしれないという心配は不思議となかった。
「面白い!」
「続きが気になる!」
そう思っていただけたら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白ければ星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。よろしくお願いいたします