第12話 修行と新たな武器
「起きましたか。朝食が出来ているので早く食べてください」
「……朝食?」
目が覚めると目の前にはエプロンを付けたアンの姿が。昨日は確かギルドからここまでこいつを背負って運んだあと婆さんに魔導を教えてもらって、
「あのクソババァ」
ようやく思い出した。魔力を計るとか言って魔道具を握ったら眠っちまったんだ。おまけに朝食ということは12時間以上眠っていることになる。昨日散々アンに悪態をついたがあまり人のことを言えん。
「それと……昨日はここまで運んで頂きありがとうございます」
「気にするな」
薄々思っていたがこの魔導士ギルドは居住空間も兼ねているようでキッチンや居間のような場所があった。朝食の席には婆さんが既に座っていて新聞のようなものを読んでいる。
「それで。昨日のあれは本当に魔力を計るもんなのか」
「朝食の席で色気のない話をするもんでない」
「うるさい。まさか俺を眠らせるための嘘だったなんてことはないだろうな」
俺の体調を考えての行動だったのだろうがそれはそれだ。また何やら理由を付けて魔導の授業を先延ばしにされたら敵わない。
「これを見よ。横に目盛りがついているだろう。お前さんの魔力は300じゃった」
「下級魔法職のジョブを持っている人の平均が500です」
「ジョブなしにしては優秀じゃな」
全員に料理を取り分けたアンが席に座ると食事が始まった。パンとスクランブルエッグという俺にも馴染みのあるメニューだ。
「アンはいくつあるんだ」
「私は以前計った時は1,000でした」
「平均の2倍か。凄いな」
「……ありがとうございます」
折角褒めてやったのにアンはどこか歯切れが悪い。横で新聞を読みながら食事をするというマナー違反をしている婆さんの若いころと比べているのか。名前から考えると孫と祖母とかだろうしより比較してしまうのだろう。まあ俺には関係ない話だ。
「それで魔法と魔導は何が違うんだ」
「それは見せたほうが早かろう。付いてきなさい」
いつの間にか食事を終えていた婆さんが席を立つ。俺は最後の一口を口に入れると後を追った。婆さんが向かった先は初めてここに来たときアンに案内された案山子が置いてある広間だ。
「そこの案山子に向けてファイアーボールを放ってみよ」
「ファイアーボール」
言われたと通り魔法を放つと当然案山子は燃えるがすぐに婆さんが以前も使っていた風の魔導で掻き消す。
「その妖精の悪戯とかいう魔導は真空を作り出してるのか?」
「中々目がいいのぉ。今のファイアーボールもジョブなしとは思えぬ威力と発動速度。魔法使いの才能があるぞおぬし」
「世辞はいいから早く説明しろ」
「ふむ今のお主のようにただ魔力に属性を込めて放つのが魔法じゃ。そして魔力を使って魔法を加工して初めて魔導と呼ばれる。このようにな 《水のおとぎ話》」
婆さんが杖を振ると水が人や動物を象り踊りだした。それも一匹や二匹ではなく視界を埋め尽くすほどの量だ。炎の大きさの調整すら失敗する俺からしたら想像も出来ないレベルの技だ。
「まあいきなりこれをやれとは言わん。まずは水で球体を維持できるように。その後はそれを素早く正確に動かす。当面はそれを3つにまで増やすのが目標じゃな。お主は筋がいい。一週間もあれば出来るじゃろう」
こうして俺の修行が始まった。
「コボルトの集落を潰してきた。報酬をくれ」
「はい。少々お待ちください。……ところでキョウヤさん頭の上のそれはなんですか?」
「気にするな。ただの修行だ」
魔導の勉強が始まったからといってそれだけに専念するわけにはいかない。アンとパーティを組んでの冒険者活動は継続された。それと並行して魔導の訓練も行う。
ミリムが先ほど聞いてきたのは俺の頭の上にあるスイカサイズの水球のことだ。これを1日中維持すること、それが現在の目標である。当然魔物との戦闘中もそれは変わらない。最初は度々濡れネズミになっていたが今では殆ど意識せずとも平気だ。
「キョウヤ早くお昼を食べに行きましょう。今日は日の出食堂がいいです」
「その前に武器屋だ」
アンはこれまでずっと引きこもり生活をしていたのか、反動でやたら外の世界に興味を示すようになった。とりわけ食への執着が強い。それはいいが一々俺を誘うのはなんなんだ。
「へいらっしゃい! 自由に見てくんな」
初日に買った剣だが流石に刃こぼれしだした。オーガ討伐の報酬で懐も温かくなったから新調することにしたのだ。いい武器だが別に業物というわけではないしな。腰の剣を外し武器屋の親父に渡した。
「これと似たような剣が欲しい。高くてもいいからいくつか見せてくれ」
「なるほどなるほど。少し長めの剣だな。これなんてどうだ」
そう言って渡された剣は無骨だが頑丈そうな長剣だ。数回振ってみるが重心の位置が以前の剣より先にあり違和感がある。
「少し振りにくいな。あんまり重心が偏っていないのがいい」
「そうか。なら叩くよりも斬るための剣がいいな。これはどうだ。東洋のカタナって武器だが兄ちゃんにピッタリじゃないか? 銘は蒼霧だ」
「これは……」
親父が渡して来たのは所謂日本刀だ。尤も以前博物館で見たのと違って鍔や刀文はないがそれ以外は殆ど同じだ。どんな金属を使っているのか刀身は青みががかっていて美しい。確かに刀なら俺の戦い方にもあってそうだ。
「ちょっと待ってください。この武器ミスリルで出来ていませんか?」
「く、詳しいな嬢ちゃん。確かに刀身はミスリル製だ」
「なら駄目ですね」
「何故だ?」
ミスリルといえば俺も聞いたことがある希少な魔法金属だ。他にもアダマンタイトやらオリハルコンやらがあったはず。
「ミスリルは魔力の伝導率に優れる金属です。しかしその分物理的な衝撃には弱くなっています。なので普通は剣などではなく杖とかの魔力の媒体道具として使用されるんです」
「俺を睨まれても困る。俺は旅の行商人から買っただけだ」
アンにジトっとした目で見られて慌てて言い訳する武器屋の親父。しかし魔力の伝導率に優れる、か。もしかしたらこの刀なら俺が考えている魔導が出来るかもしれん。
「いや買おう。いくらだ親父」
「そいつぁ助かる! このままだと売れ残りそうだったんだ。30万ゴールドでいいぞ」
ちらりとアンを見ると無言でうなずいた。ただの剣の数十倍だがミスリルの価値から考えると適正か安い価格のようだ。俺は懐から金貨を取り出すと親父に手渡した。
「まいど! ところで兄ちゃん頭のそれはなんだい」
「気にするな」
「面白い!」
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