第10話 VSオーガ
オーガ。その身長はホブゴブリンを大きく超える3メートル。頭には恐ろし気な角、手には木をそのまま引っこ抜いてきたかのような太い丸太。異世界に来て初めて出会う強敵に俺の心は不思議と高揚していた。
「戦闘狂なんて柄じゃないんだがな」
「グォォオオオ!!」
俺の独り言に返事をしたわけではないだろうがオーガは丸太を振り回しながら突っ込んでくる。咄嗟に避けそうになるが俺の後ろにはアンがいる。彼女がオーガの攻撃を一回でも食らったら文字通りミンチだろう。
「《愚か者は上を見る》!」
オーガの突進に合わせてアンが土蛇を出すがオーガの動きを拘束するほどの力はないのかわずかにその速度が下がっただけだ。しかしその一瞬がありがたい。
「瞬発!!」
瞬間俺の筋肉が膨張する。瞬発の効果は単純、短時間だけ身体能力を向上させるだけ。しかし単純ゆえに強力なスキルだ。
「嘘……人がオーガと競り合うなんて」
目の前には太い丸太とナイフのような牙を生やしたオーガの口。俺がこうして鍔迫り合いが出来るのは瞬発の効果時間のみ。つまり一瞬だ。
「息が臭いんだよ!!」
「グァア!!」
手首を捻って体ごと一回転すると剣先でオーガの上腕を切りつける。血管が切れたのか勢いよく血が噴き出した。身長差があり過ぎて顔には届かないがギルバートにやられたことのお返しだ。本人じゃないのが残念だが。
「アン! 俺が合図をしたら魔導をぶちかませ。俺に当てるなよ」
「誰に言ってるんですか。あのヴェリテ・ジーニーの弟子ですよ私は」
婆さんがどれくらい凄いのかは知らんがそこまで言ったんだ。しっかり決めてくれよ。オーガは自分より脆弱そうな人間に傷つけられたのが許せないのか目を爛々と赤く輝かせている。
「グギャァァアア!!!」
「速い!」
怒りか、はたまたスキルによるものか最初よりも速度を増した突進が俺を襲う。その目は俺だけを見ておりアンは眼中にないようだ。これなら存分にやれる。
「ファイアーボール!」
「グォォォオ」
オーガが丸太を振り下ろす直前その太い両足の間に体をスライディングで滑り込ませ股間に向けて魔法を放つ。予想通りオスだったせいかオーガは哀れなほど痛そうな声を上げるとその場に膝をついた。
「いまだ!!」
「流石です! 《豆粒ほどの大きな火》!」
俺がギルドで見た不思議な魔導がオーガを襲う。当然痛みで動けない的を外すわけもなく火の玉は顔面に直撃。全身とはいかないが上半身が炎に包まれる。
「……ッアアグェッァ」
叫ぼうにも口を開ければ入ってくるのは酸素ではなく炎のみでオーガの声は切れ切れにしか聞こえない。苦しみのあまり地面を転がるも魔導で作られた火は特別性なのかまったく衰える様子がない。これは勝ったな。そう思った。そして思ったら口にしてしまうのが人の性らしい。
「勝ちましたね」
そしてフラグが立ったら回収されるのがこの世の理だ。不幸、と言うよりも俺とアンが迂闊だったというのが正しいだろう。元々俺たちは水場を探してここに来たのだし、オーガは水を飲みにやってきたのだろう。それならばそれがここにあるのは当然と言える。ドボン! という音と共にゴロゴロと転がっていたオーガが池の中に落ちる。
「池の存在を忘れてた」
「す、すみません。他の魔導を使うべきでした」
アンだけを責められない。俺も終わったと思って油断したのだから。それに謝罪合戦をしてる場合でもない。いかに魔導の火でも水には敵わないのかオーガの体を覆っていた火は既に消えている。そして奴は重傷だがまだ死んだ訳ではない。体が動き拳があり憎い敵がいるのだ。当然……襲ってくる。
「グォオオオオ!!!」
「瞬発!!」
自分を死の淵に追い詰めた生意気な魔導士をひき肉にしようとそちらに注意を向けた瞬間俺は動いた。一瞬でオーガまで接近すると勢いよく剣を振りぬく。しかし、
「固い!」
「キョウヤ!!」
最初に傷つけた腕を両断しようとしたのだが思ったよりも骨が頑丈で途中で刃が止まってしまった。それが大きな隙となりオーガの拳での一撃を食らいかける。腕でガードしながらなんとか後ろによけるがそれでもかなりの衝撃が体を襲った。
「平気だ。まだ動ける」
アンの魔導で丸太を落としていたのが幸いした。もし持っていたらかすっただけで重傷だっただろう。そうは言ってもこのケガではもうこいつと鍔迫り合いは無理だろうが。
「グハァ」
形勢が自分に傾きつつあるのを察したのかオーガがニヤリと笑う。そしてそのまま武器を失った俺に一歩踏み出そうとした瞬間俺は大きく叫んだ。
「アン土蛇だ!!」
「!! 《愚か者は上を見る》!!」
瞬間土蛇がオーガの足に絡みつく。油断していたオーガは顔面から転ぶがそこに地面はない。オーガの顔は先ほど自ら入った池の中にあった。
「これで……仕舞いだ!!」
次々に口の中に入ってくる土蛇と水にオーガは完全にパニックになっている。俺は再び瞬発を使うと奴が立ち上がる前に剣を腕から抜き取りそれを全力で心臓に突き刺した。剣が心臓に刺さった後もしばらく暴れていたオーガだがとうとう力尽きたのかその四肢を力なく広げて池に浮かんだ。
「ハァハァ。思ったより……楽勝だったな」
「そう……ですね。1匹じゃ……物足りません」
俺たちは顔を見合わせるとどちらともなくニヤリと笑った。しかしこの後魔石を取らないといけないのか。ケガした腕じゃ少しキツイな。アンの腕力で可能だろうか。そう思い彼女の方を見ると細長いなにかが彼女の足元に近づいていた。
新手の魔物か!? そう思い慌てて立ち上がろうとした瞬間その正体がわかり脱力する。
「見てくださいキョウヤ。今度はちゃんと持ってきてくれました」
そう言って笑うアンの手には土蛇が持ってきたみかんほどの大きさをしたオーガの魔石が収まっていた。
「面白い!」
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