プロローグ 召喚そして追放
「それでさーそのとき智弘がー」
「馬鹿すぎだろ」
「おいおいその話はするなって」
忘れ物を取りに教室に戻るとうるさい奴らに出くわしてしまった。長谷川龍吾、大野恵、橋本智弘、飯田麻衣だったか。クラスでも目立つ4人グループだ。
「あれ? どうしたんだい西田」
「ちょっと忘れ物をな」
あと俺の名前は四宮だ。四宮京也、それがフルネームだ。クラスメイトの名前くらいしっかり覚えておいてくれよ長谷川。
「そうなんだ。あ、このあとカラオケ行くんだけどよかったら一緒にいかない?」
「遠慮しとく。予定があるんで」
長谷川が俺を誘うと大野と橋本が少し嫌そうな顔をする。そして俺が断ると笑顔になり用事があるなら仕方ないと頷き合う。俺は1人で本を読んだりするのが好きなんだ。全員が全員、他人と一緒にいるのが楽しいわけじゃないんだぞ。
さっさと忘れ物をとって教室を出ようとした瞬間床が強く輝いて俺は思わず目をつむった。そして再び目を開けるとそこは教室ではなくどこかの広間で俺たちは豪華な服を着た人や鎧を着た兵士に囲まれていた。
「どうか勇者様。この世界を魔王の脅威からお救いください」
「え、ここどこですか」
「魔王って何」
「というかあんた誰? ここどこ?」
飯田、大野、橋本が次々に疑問を口にする。それだけ一斉に聞いても答えられないだろうに。俺はとりあえず黙って様子を見ることにした。代表者なのか1人の少女が前に進み出る。ドレスのような綺麗な服を着ておりそれは腰まで届く金髪と日本人離れしたスタイルを持った彼女に似合っていた。おまけにモデルが裸足で逃げ出すほど整っている顔。橋本がアホ面で見惚れるのも納得できるほどの美人だ。
「申し訳ありません。私はこの国の王女レーティア。500年ぶりに復活した魔王イブリースから世界を救っていただくためにあなた方4人の勇者様を召喚いたしました。どうかわが国、いえ世界を救って……」
「ちょっと待ってくれ。今4人と言ったか? 俺たちは5人だぞ」
長谷川の言う通りここには長谷川たち4人と俺で合わせて5人いる。1人多いのだ。
「そんな筈は……。ステータスを確認してみていただけませんか? 本人にしか見えませんが勇者様でしたらそこにジョブが出ているはずです。確認の方法はステータスと口に出すだけです」
「「「「ステータス」」」」
「ステータス」
長谷川たちに習って俺もそう口にすると驚くことに目の前にゲームなどに出てくるような半透明のウインドウが現れた。書かれているのは名前、性別、年齢、ジョブそしてスキルと大分シンプルだが。
「私はジョブの欄に大賢者とあるわ。あとなんかスキル:ライトってのも見える」
「私は聖女と書いてあります。スキルは癒しの風ですね」
「俺はバトルマスターってあるな。スキルは瞬発だ」
大野、飯田、橋本が技能の名前を言うと同時に光ったり、心地いい風が吹いたり、橋本の筋肉が盛り上がったりした。それらを見たレーティアと後ろの奴らがどよめく。反応を見るにかなり強いジョブとスキルなのだろう。ライトは光っただけに見えたが。しかしこの3人は勇者ではない。となると、
「俺は……勇者とあるな。スキルの欄にはクラウソラスって書いてある」
「やっぱり! 召喚は成功していたのですね! 試しに使ってみてはいただけませんか」
「ああ。来いクラウソラス!!」
長谷川が叫び手を掲げるとその手に光が集まり剣をかたどっていく。数秒後そこには今まで見たこともないような美しい装飾がなされた長剣が握られていた。まさに聖剣といった感じだ。
「その剣は伝説の勇者が使ったという聖剣クラウソラス! やはりあなたが勇者様なのですね」
レーティアは喜びのあまりか長谷川の手を握りしめ瞳に涙を溜めた。美人に手を握られ鼻息がかかるほどの距離に接近され長谷川が赤面する。また勇者という選ばれた存在になれたのが嬉しいのか口元が緩んでいた。
「ちょっと龍吾! 離れなさいよこのスケベ!」
その様子に腹を立てたのか大野が後ろから長谷川の頭をはたいた。慌てて離れる2人。そして今さら気恥ずかしくなったのかレーティアは咳払いで誤魔化すと俺の方に顔を向けた。
「それでジョブのところにはなんと?」
「……いや何も書かれていない。どうやら俺は巻き込まれただけらしい」
そう正直に言うと周りにいるやつらの視線が露骨に冷たいものになる。なんだこいつら? 勝手に呼んどいて期待と違ったからってそんな目で見て。これは正直に言わなくて正解だったな。
「なあ俺は巻き込まれただけみたいだが元の世界には返してもらえるのか?」
「はい。魔王イブリースを討伐しその魔石を使えば」
「魔石?」
「勇者様の世界にはないものでしょうからご説明しますね」
レーティアによるとこの世界の全ての生き物はその体内に魔石を宿しているらしい。そしてその魔石は宿主が強ければ強いほど秘める魔力が大きくなる。俺たちの召喚には王国秘蔵の魔石を使ったが還すのにもそれと同じクラスの魔石が必要で魔王の魔石はそれを満たせる唯一のもの、とのことだ。
はっきり言って胡散臭い。魔王が500年ぶりに復活したと言っていたがならなんで魔王の魔石で俺たちを元の世界に還せるなんてわかるんだ? そもそもそれだけ強大な魔力を秘めた魔石が魔王から出たとして俺たちの帰還に素直に使うのか? それらを考えた俺の結論はこいつらは信用しないほうがいい、だった。
「魔王は長谷川たちが倒してくれるんだろ? なら俺はそれまで好きにさせてもらうわ。当面の生活費だけでもくれれば黙って出ていくからさ。それでいいだろ?」
「貴様! 姫様になんて口の利き方を!!」
「勝手に召喚しといて口の利き方もクソもないだろ。無礼さで言えばお前らのほうが数段上だ」
レーティアに対する態度が気に入らなかったのか兵士の1人が叫ぶが俺が言い返すと顔を真っ赤にして黙った。少しは自覚があるらしい。
「わかりました。後ほど路銀などを準備してお渡しします」
「待てよ西野。レーティアたちは困っているんだ。お前も俺たちと一緒に」
「魔王を倒す戦いに参加しろって? 勘弁してくれ。俺は巻き込まれただけだしジョブだってないんだぞ。ついて行っても直ぐに死ぬだけだ」
というかもう呼び捨てなのか。この馴れ馴れしさが俺にはどうも合わないんだが他の奴らからしたら親しみやすいと感じるのだろう。おまけに俺の名前また間違えてるし。西田の次は西野かよ。
「だとしても困っている人を見捨てていいわけないだろ!! 確かにお前は俺たちと違って力はないかもしれない。でも協力できることはあるはずだ!」
「それは否定できんが協力する義務がないだろ?」
その瞬間目に星が飛んだ。数メートル飛ばされてからようやく長谷川に殴られたのだと気づく。マジかこいつ。ちょっと意見が食い違ったからって殴るか普通?
「西野がそんな奴だったとは知らなかったよ。いつも1人で可哀そうだと思ったから今日もカラオケに誘ってやったのに。もういいお前みたいな役立たずの腰抜けさっさと消えてくれ。この世界は俺たちだけで救う」
「なんであんなやつ誘ったんだろって思ったけど龍吾優しー。レーティアちゃん西野君も勝手に行動したいみたいだし早く外に案内してあげたら?」
「でも恵、四宮君1人なんて心配だよ。レーティア様せめてこの城に残ってもらうとかできませんか?」
おいおい今の理論で龍吾がいいやつになるのか。独善的すぎるだろ。なんか周りの貴族とか王女もそんなに世界のことを考えてくれるなんて流石勇者様とか言ってるし。あと飯田。お前はちゃんと名前覚えていてくれたんだな。ありがとな。
「いや平気だ飯田。俺は元の世界に帰れるようになるまで好き勝手させてもらう。ああそれと、もう一つ頼みたいことがあるんだが構わないか王女様」
「わかりました。皆様がそうおっしゃるなら仕方がありません。その頼みについても出来る限り取り計らいましょう」
俺の望みは非常にあっさり許可をもらえた。怪しまれるかと色々理由を考えていたのが馬鹿みたいだ。
数時間後。俺は頼みをかなえてもらったあと当面の生活費をもらい王城の門まで兵士の1人に案内されていた。門を出る直前重要なことを聞き忘れたことに気づく。
「そう言えば手軽に金を稼ぐ方法ってどんなのがある? 法に触れない範囲で」
「それならば冒険者ギルドがいいでしょう。様々な依頼があるのでジョブを持っていなくても受けられるものがあるはずです」
「そうかありがとう」
わざわざジョブをもっていなくても平気なことを教えてくれた兵士に感謝する。今日あった中であんたが一番親切な人だよ。レーティアや城の人は俺が勇者じゃないと知ると早く追い出したくてたまらなさそうだったしな。唯一飯田は俺のことを心配していたが。尤も恐らく今の俺は勇者4人よりよっぽど多くのスキルを持っているからその心配は無用だ。もう一度頭の中でステータスと呟くと目の前に半透明のウインドウが出る。そこにはこう書かれていた。
ステータス
四宮京也 男 16歳
ジョブ:なし
スキル:ラーニング レベル2
:ライト レベル1
:癒しの風 レベル1
:瞬発 レベル1
:聖剣召喚クラウソラス レベル1
:剛力 レベル5
:剣術 レベル6
:水魔法 レベル4
:炎魔法 レベル4
:風魔法 レベル4
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