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7話 -潜む者-

ヒルティアはドアノブについた人の痕跡を見て後悔していた。


(これは……失敗したな。)


何かの咀嚼音、意外だが恐らくグール、腐らず残っていた死体が魔物に変質したのだろう…。

グールがいた、それだけであれば特に気にすることでもなく契約のタイミングを考える方が重要である。

ただ、グールは扉を使わない。


ドアノブを使用し開閉するのは人の、知能のある者がやる事だ。

つまり先にグールが中に居たなら扉は壊されているか、開け放たれているはずでなければおかしい。


人が開けっ放しのドアを閉めるにしても礼拝堂側のドアノブを持って閉めるだろうか?

そんな閉め方をすれば奥に進めない。

私が閉めるなら扉の裏側を入れ違い様に後方へ押す___。


グールに追いかけられていた?いや、なら結局扉が閉められているのはおかしい。

つまり誰かが開けた、そして中に入った後にただの死体を意図的にグールに変貌させた。

そしてそのグールに餌をやり、成長させていたと言う事は餌をやった者が近くにいる。


まだ食事中だった事から近くにいる事は間違いない___。


そもそもグールを生んだという事は目的があるに違いない。

ただ無闇に発生させ放置する事____まずない。


(多分扉の奥に潜んでいると思うけれど…)

きっとこんな陰湿な事をするのは魔術師だろう。

となると、扉を開けた瞬間を狙って魔法を放ってくる可能性がある。

当たり前だが開けるという動作を行う時は扉の近くに言うという事だ。


(ドア周辺を吹き飛ばす事を考えるなら爆発系の火炎魔法かな?それとも速度と貫通力に優れる雷魔法?

いや…姿を視認した瞬間を狙って発動の早い魔弾 -魔力をそのまま打ち出す攻撃- を放ってくるかもしれない___。)


相手がどんな手を打ってくるか思考を巡らせる。


(魔法であれば発動前に魔弾で妨害できる自信はあるんだけどなぁ…。)

私は魔術師ではないけれどそれなりに早打ちには自信があるのだ。

発動しても雷魔法でなければ撃ち落とす事も可能だろう。


そう考え扉の正面ではなくやや右側、開けばすぐに奥が見渡せるポジションに陣取った___。


アッシュがこちらの意図を把握していないような、どこかアホの子を見るような視線が何とも不安だが流石にそれはないだろう………。

魔法による先制攻撃への対処は基本中の基本である。


冒険者なりたてと言っても基礎は教わっているはず。

知らないはずがない。

もし知らなければ一体何を教えていたのかと師匠を一日問い詰めてやる。


そんな懸念を頭から拭い、眼に魔力を宿す。

深い海を思わせる瞳は淡い輝きを放ち神秘的な光を宿す。

今まで暗い影に紛れて見えなかった柱の陰や薄暗くて見通せなかった所が嘘のようにはっきりと見えるようになっていた。


出来れば極力魔力を抑えこちらの正確な位置を少しでも掴み難くしたいが、いつでも魔力弾を放てる様に魔力を循環させている時点で少なからず魔力は漏れているし、完全に身を潜めている訳でもなく、胸から上は長椅子の陰から出ているのだ。

それに屋内という環境上、そう距離は離れていないので魔力探知に優れている魔術師という職であればあまり意味がない。


であれば扉の奥が真っ暗闇であった時に遅れを取らないようにする事こそが重要である。



思考を巡らせている内にだんだんアッシュが扉に近づいていく。

そして、ゆっくりと扉を開けた_____。


(………………………。)


ヒルティアは思わず溜息を漏らしそうになった。


(よりにもよって………微かに悪魔の気配を感じるんですけど…)


はぁ…。心の中でため息が漏れる。


扉の奥に悪魔はいないだろう、だがそれでも悪魔の気配が漂うと言う事は悪魔と契約を結んでいる___だけではない、力を分け与えられている。


一体何を対価にしたのか、魂あげちゃう系だろうか?太っ腹である。アッシュにも見習って欲しい!

魂食べると総魔力量や放出量などなど色々と上がるもんなぁ…。


でも魂ばかりは悪魔でも無理やり奪う事は難しい。

魂を賭けた契約は悪魔にとっても好条件である。

寧ろ人と契約する場合、魂を捧げさせて漸く一人前といった考えを持つ者も一定数いるらしい。

そして力を分け与えるという事はつまり、分け与える力がある事が前提となる。


となると〜……考えるのが嫌になってきた〜……。頭痛い…。

どうしてこうも計画がうまく行かないの?ただ少し脅して人間と契約したいだけなのに…何か悪い事でもしたというのか。あんまりだ。

これではシチュエーションがどうとか、悪魔としてのアピールタイムを考えている場合ではない!

下手したらアッシュが死んじゃう…。それはまずい…。阻止しないと。


憂鬱な気分なまま奥を覗くとグールが動物の死骸を貪っていた。

間違いなく人では無い。

元々無いと考えていたけれどこれで人が迷い込んだ線が無くなった___。

そして、人が潜んでいる事も確実だ。


敵はどうやら身を潜めているようでこちらの出方を伺っている。

2対1という状況を考え1人が通路に足を踏み込むのを待つか、グールと戦闘になるタイミングを狙っているのだろう。

戦い慣れているし確実に仕留める機会を狙っている…こちらを逃がさない気マンマンである。

うわぁ…めんどくさいなぁそのまま身を潜めて出てこないで思う。

もう家に帰して。


帰る所無いけど…。


しかし敵にとっては悪事がギルドに露呈しかねない状況。

どんな悪事か知らないし興味も無いけどアッシュはビギナー感マシマシの若葉ちゃんである。

逆の立場なら逃す手は無い。

寧ろ今カモってる最中だしね。


アッシュ、分かっているよね?罠だよと思いつつ視線を向けると奥を覗き込んだまま動かない。

グールが死骸を貪る光景に動けなくなっているという感じではなさそう。


(え?何で??奥が見えていないの???嘘でしょ????)


彼の後ろ姿からは眼に魔力を宿しているかは分からないが、これは見えていない反応だろう。

足を踏み込まれる前に現状を把握させなければ…本当に世話の焼ける子だよ!全く…!


恐らく不意打ちを狙う敵は妨害してこないだろう。

迎撃されたとしても驚いたアッシュが後退してくれればいい。

そう考え火球【ファイヤーボール】をグールに向けて放った_____。




■■■

その後グールとアッシュの微笑ましいやりとりを横目に隠れている魔術師へ牽制をしていると息を整えたアッシュが戻ってきた。


よし、これで2対1の状況へと持ち込めたし、このままアッシュが自分の後方に下がれば撤退戦に持ち込める。最悪アッシュさえ逃げてくれれば後はどうとでも出来る自信はあるのだ。

なんせ悪魔だからね。人間如きには負けないのである。


しかしアッシュは扉にちらりと目を向けたかと思うと、何故こちらに向かってくるのだろうか?

おい、扉に背を向けている場合じゃないぞ。


だがアッシュは全く仕方ないなぁと言わんばかりの表情で少しばかりニヤついているようにさえ見える。


まさかまさか魔術師の存在に気付いていないなんて……そんな事はある訳な…あっ…。


___よりにもよってアッシュは扉とヒルティアの間、魔術師との射線上に入ってきた。


「このっ、馬鹿ぁ!」

そう叫びヒルティアは長椅子を飛び越えそのまま空中蹴りでアッシュを蹴り飛ばしていた。

目を見開き驚くアッシュ、しかしその表情も閃光によってかき消された___。

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