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3話 -はらぺこ少女-

ギルドを出ると正面のクルべ通りを南下していく、途中で3m程の壁にぶつかる。

受付嬢さんが言っていたがこの壁の向こう側が廃棄された街、旧市街らしい…。

周りを見渡すと通りから少し外れた所にひっそりと門が開いていた。


門を抜けると昔はここも大通りだったのだろうか、真っ直ぐとどこまでも続く道が見え、はるか先に城壁に囲まれた城門が見えるが、通りに面した建物は崩れ、焼け落ちている所さえある。


昔、戦争でもあったのかな?

少なくとも自分が生まれてからはそんな話は聞いていないな…。


石畳の間からは雑草や花が覗き地面は根によって隆起している。

先程までの華やかな街並みとは打って変わり寂れた雰囲気が別の世界に来てしまったような、何だかここだけ過去に取り残されたような感覚を覚えてしまう。


(えっと…今日の依頼は確か旧市街の東側が対象だったよな。)

今いる大通りの東側が対象だった事を思い出し足を左に向けて進んでいく。

どうやら路地の方はそこまで被害が少ないようだったが所々戦闘の後が見て取れた。


「都会って言っても端の方まで綺麗って訳じゃないんだな。」

そんな事を呟きつつ何で廃棄したままなのかを考えるが思いつかない。整備すればいいのに。

お金がないのか?人手が足りないのか?整備手伝ったら土地分けてくれたりしないかな。

そんな邪な事を考え独り言を呟き歩いていると円形の広場が見えてきた。


中央には水の出ていない噴水があり、自分が歩いている道の他に2方向に細い道がのびていた。

恐らく昔は白く綺麗な噴水の周りには人が集まり水のせせらぎと笑い声がこだましていたのだろう。

しかし今は枯れて落ち葉と黒ずみが目立ち長らく使われていない様子がひと目で分かった。


「あれ?」

ふと噴水の影に人影が見えてきた。


16、7ぐらいの少女だ___。

華奢なシルエットにシャツに短パンというラフな格好だが足には脛当てのついたブーツに手首から手の甲までを覆う金属製プレートがついたグローブを嵌めている所から冒険者のように見える。

(ただ武器を装備しているようにも見えないし、格闘家かな?)


地面に座り込み噴水の縁に背中を預けているが顔は俯いているのか窺えないがどうやら困っているような雰囲気を纏っている。


近づくと此方に気が付いたのか顔を上げて此方を見た。

真っ青な髪に日差しが煌めき濃淡がまるで海のような印象だったが、髪色と同じく真っ青な瞳はどことなく影がありまるで深海に吸い込まれてしまう様な錯覚に陥る、そんな瞳に真っ直ぐにこちらの目を射抜いてくる。

ただこちらを見つめているだけなのだろうが、女の子とこんなしっかりと視線を合わせたことなんてないから、つい居心地の悪さを感じてしまい何か喋らなければと頭を巡らせる。


「こんにちは、君もこの辺の調査?」

自分と同じくこの辺での依頼を受けた冒険者だろうか?そう思ったが彼女に首を振られてしまった。

仕事で居るのでは無いなら何でこんな寂れた、いやそれ以前にここは廃棄された地区だ……。

当然ある疑問が浮かぶ。


「ここで何してるの?」

こんな所と言ってしまうとちょっと失礼な感じもするが寂れた噴水で黄昏ている所を見ると訳ありな感じがしてつい詮索してしまう。

こんな所だ、堂々と出歩けない日陰者が身を隠していてもおかしく無いし、野次馬根性と心配が半々と言った所だ。


そんな事を考えていると彼女が口を開いた。

「この街に来ればなんとかなると思ったけど右も左もわからないし頼れる人もいなくて…」

そう言うと彼女の不遇さを強調するかのようにお腹がグゥ〜…と響いた。

「…………」

「…………その、良かったらサンドウィッチ、食べる?」


きっと彼女も上京したてなのだろう…宿も取れないくらいお金がないのかもしれない。

物価思いの外高いよね…昨日泊まった所も門兵に一番安い所を紹介してもらったのに村の宿より高いのには驚かされた…。

ついつい田舎出身あるあるを感じたからかそんな親切心が働いてしまい、依頼の後に食べる予定だった手作り肉肉てんこ盛りサンドウィッチを差し出した。

初依頼達成のご褒美として少し贅沢をしたのだ。

ふと冷静になり要らないって言われたらどうしようとわたわた考えていると


「…………………対価は?」


「…えっ?」

まるで裏があるだろうと探る様な視線を向けてくる。

要らないって言われなくて良かったがこの視線は中々堪えるぞ…先程の親しげな笑顔を向ける受付嬢さんとは真逆である。にぱーっとした笑顔が懐かしく感じてしまう…。


なんだか余計な事をしてしまったような気もしているが、だからといってここで引き下がるのもカッコ悪いしなぁと思いもうちょっと頑張ってみる。


「?お金の事?要らないよ、自分で適当に作った物だし気にしないで食べて。」


自分で作ったのは間違い無いが力作である。しかしここは言わぬが華だろう…。

そう言って笑顔で渡そうとするとやはり警戒されているのだろうか、少し手を引っ込めたが余程お腹が空いていたのかおずおずと受け取った。


何だか野良ネコに餌をあげている気分である。


「本当に何も要求しないんだ…。君ってもしかして優しい人?」


先程と打って変わって声のトーンが明るくなり不思議そうに見上げてくるのはなんだか………本当に小動物みたいで可愛いと思ってしまった。


「いや、普通だと思うけど………もし困っているなら役所を訪ねてみたら?」

「普通なんだ、、、ただで食べ物をあげるのは普通…。」


何やらカルチャーショックを受けている様子で後半は耳に入っていないらしい。

そんな一人言を呟きながらサンドウィッチを頬張ると


「おいひぃ?!うまっ!……もぐ……もぐ……うまっ!はむっ!」

余程お腹が空いていたのか、それとも彼女の琴線に触れたのか、一心不乱に食べ始めた。

「ふぅ…適当に作ってこの美味しさ…。私よりちょっとだけ料理が上手…ちょっとだけ…!」


何やらぼそぼそと独り言を言っているが料理が上手とも聞こえた気がしたし、きっと褒められているのかな?

ただ何か対抗心燃やされている気がする…なんて考えている傍から本当にちょっとだけですからね!と熱の篭った主張が聞こえてくる。


「口にあったようで良かったよ。それじゃあ俺は魔物の討伐に行かなきゃ。」

「ふーん…装備新しいけど今日が初めて?」


一発で当てられるとはやはりビギナー感マシマシなのだろうか。


「うん、冒険者の仕事は今日が初めて。でもジャイアントラットは倒した事があるから大丈夫!」


そういって彼女に笑顔を向けると

「冒険者…?冒険者ってあの?」

「そう!各地で色んな依頼を受けながら旅をしてくんだ。世界中を見て回りながらいつかフォークロアのような英雄になりたいんだ!」

そういって頬を掻く。



「世界中を、旅する…」


あれ?同業者と思ったんだけど違ったのかな?

何かに想いを馳せているいるような彼女を見て考える。


「それじゃあそろそろ行くね。今日中にジャイアントラットが出入りできそうな下水道の確認と市内にいるやつを討伐しないと。」


しかもジャイアントラットは討伐の証として採取する前歯のサイズで個体の大きさを判断する為、大きい程追加報酬が貰えるのだ。気合を入れて頑張らないと!


「ふーん、鼠退治のお仕事頑張ってね。」

そういって青髪の少女は手をパタパタと振っていた___。

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