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アルバート・クレイン  作者: 一ツ木
一章:黄昏と竜
9/41

birthday(誕生日)

初めて会ったあの場所で

違うお互い感じ合う

泣き虫弱虫華奢な肩

共に本を書きたくて

「はい、おまちどうさまアルちゃん。」


「ありがとうございます、おばさま。」


 パン屋で買い出しをするアルバート。居候して半年が過ぎ、声もほぼ元に戻りつつあった。


 今日はアルフレッドが珍しく昼からの図書館での仕事があるためフレッドの昼食と夕食の分のパンを買って持っていくことになっていた。


 帰るのは明日の朝になるらしい。


「ここ、懐かしいなぁ」


 かつての夜の事を思い出す。

 メーティス・ポート。

泥だらけで逃げた、そしてフレッドに会った場所だった。


「(でもまだ半年なんだよね)」


 ずいぶん昔の事のように感じた。あれ以来、人攫いは出ていない。この街も平和だった。


「アルー!」


 聞きなれた声、フレッドが図書館の外に待っていた。


「フレッド~買ってきたよ~。中で待っててもよかったのに」


「サンキュー。いや外で食おうかと思って。アルも食うだろ?」


「自分の食べちゃったよ…」


「はやっ!…俺の分けてやるから行こうぜ?」


「うん!」


二人は街を眺望できるベンチに座った。


 季節は秋。

 過ごしやすい日々が続いていた。


「休憩時間なの?」


「いやあんまりそういう区切りはない。勝手にやってたまに休んでって感じだ。」


「フレッドには合ってるのかもねぇ~」


「そうかもな。こうしてればパンも届くし。」


「ふふ。感謝してね?」


「はいはい」


 さわやかな風が吹く。


 アルが一緒に持ってきたコーヒーを二人で飲む。とてもリラックスした。


「「・・・」」


 沈黙が続く。

 悪い沈黙ではなかった。


 ベンチの二人には微妙な隙間があった。

 誰が見ても連れ合いな二人だが色々きっかけがつかめずに半年過ぎた。


 フレッドが惚れているのは間違いないが18歳と15歳。


 ぼーっとしたまだ幼さの残る彼女には好きになるという気持ちがわからないでいた。


「なあ」


 フレッドは少し距離を詰めた。


「ここ、懐かしいよな」


「あ、さっき私も思った」


「…ずっと詳しく聞くのためらってたんだけどさ、なんでバディ解消になったんだ?」


「相手がね、お前の事なんか誰も理解できない、って」


「うん」


「実は二人目なんだ。その前の人も同じような理由で解消しちゃった。」


「……一応聞くけど、女?」


「???そうだけど。紹介してとかなしだよ?」


「しねえよ。おっかなそうだし」


「怖くなかったら会いかった?」


「あ・わ・な・い!」


「ホントかな~?…でもどうしてその話?」


「……」


 少しの沈黙。


「アルはもう誰かとバディを組む気はないのか?」


「うーんどうだろう…」


 少し考えるアルバート。


 銀色の髪が風で揺れ、コーヒーの香りがしてくる。


「ここに来た目的は作家になりたかったっていうのも目的だったんだけど」


「別の目的もあったんだ。きっかけはそっちだったけど」


「ふーん」


 フレッドはその話をあえて掘り下げなかった。


 実は一つ推測している事があった。


 確証はないが、その小さいとげのように刺さっている気掛かりを抜く勇気はまだなかった。


「話から察するにアルはいわゆる原案担当なんだろ?」


「そう。もう一人は文章担当。でも私も協力してたんだけど…」


「あー逆効果だったんじゃないか、それは?」


「そうなの!どうしてわかったの?」


「あーまあいろいろな。」


 その経験談を今は封印した。しかるべき時に話そうと決めていた。


 その時のためにまずは自分も前に進もうと決意した。


「率直に聞くぞアルバート。」


「??」


「俺と相棒(バディ)契約しないか?」


「……え…!?」


「俺は文章を作ったりまとめるのは自慢じゃないが得意なんだ。」


「あぁ、うぅ、えーっと…。」


「アルのノートを見て、俺なら力になれるかなって思ってさ。」


「う、うん。ありがとう……。」


「……わりい。しゃべりすぎた。」


「大丈夫だよ。嬉しい。」



「「・・・」」



 少しの沈黙のあと


「……少し考えさせてほしい。」



(あ、これ告白して駄目だった時の反応だ。)

フレッドはフラれた感とやってしまった感でへこんだ。


「……ま、まあ今の状況が満足できてるなら無理にとは言わない。バディが異性なのも抵抗あるよな」


「ううん。嫌じゃないの。ただまだ自分が…向き合えてなくて。」


「うん?」


「私、修道院で本しか読んでなくて。

 かろうじて生きるために料理はできたけど、家族も家も友達もいなくて。

 この街にきて自分に足りないことがたくさんあるってわかって。

 あてのない私をフレッドは助けてくれて、家にも置いてくれて…ずっと感謝してる、けど、正直ずっとフレッドの邪魔になってるかと…お…おも…ってぇぇ…」


 なぜか泣き出したアル。人がまばらな場所とはいえ、この図はまずい。


「いや、なぜ泣く!?

 思ってないから邪魔なんて!

 むしろすげぇ助かってるから!」


 気づいたら両肩をつかんでいた。


 スンスン泣く細くて華奢な肩に一層愛おしさを感じてしまった。これでは本当にまずい絵になる。


「ほんとぉ…?」


 泣き顔で上目づかいでのぞいてくる。


 それは反則だ。


 絶対に、誰にも、渡せないと思ってしまう。


「ホントホント。答えはいつでもいいからさ。な?泣き止んでくれよ?」


 こういう時にハンカチを持っていない 自分のガサツさに腹がたった。


「うん…ごめん」


「いいって。あーさて、さすがに仕事に戻らんと。」


「ああ!ごめん!」


「謝ってばっかだな。気を付けて帰れよ。」


 笑いながら頭をなでる。

 一応年上だ。

 ハンカチは出せなかったが、大人っぽいところも見せておかねば。

 下心がなかったわけではない。


「うん。頑張ってね。」


「ああ」


 気分は新婚夫婦。

 気分だけ。

 実際はフラれたような気分だ。

 紳士への道は遠かった。


 こうしてアルフレッドは図書館へ戻った。


・・・・


アルバートは帰る前に親友に相談に行った。


相棒(バディ)契約……か」


「そうなの。私は嬉しかったのだけど。いまもフレッドに頼りっきりで…それで私がバディっていいのかなって。」


「……」


「エリー?」


「……ああごめん!でもフレッドは気にしてないんでしょ?」


「うん。むしろ感謝してるって…」


「…そうなんだ。……うん。よかったね。フレッド。」


 エリーは数年前のあの出来事、そのあとのフレッドの憔悴を知っている。


 最近は特に元気になってきて、その原因はアルバートだと気づいていた。


 それがとてもうれしかったのだ。


「…???何かいった?」


「ううん!でも、気にせずにまずはやってみたら?多分、今とそんなに変わらないと思うよ?」


「そう……かな……?」


「私からもお願いしたいな。アルフレッドからそんなこと言うなんて滅多にないから、結構覚悟して話したんだとおもうよ?」


「……わかった。やってみる。でも……」


「でも?」


「この話、切り出しにくいなあって…」


「ああ確かに思いっきりフッちゃったもんねー」


「い、いやちょっと考える時間をって言っただけで……」


「いい、アル?即答でないってこと、それはフラれたのとほぼ同義なのよ……。」


 そうなの…?という顔をするアル。


 そうなのだ。世間では。


「確かに、何かきっかけかぁ……」


 考えながら部屋を見回すエリーゼ。そして何かを思いついた。


「そうだ!もうすぐフレッドの19歳の誕生日なんだよ!そのプレゼントを送るタイミングでいえばいいんじゃない?」


「誕生日……!」


 いいかもしれない!というかフレッドの誕生日を自分が知らないことにちょっとへこんだ。


 フレッドは自分の誕生日を知っているんだろうか。


「9月9日だから来週だね!それまでにプレゼント用意してみたら?」


「うん!……え?してみたら?手伝ってくれないの?」


「アル。なんでもエリーゼお姉さんに頼ってはダメよ?自分で考えて自分で悩まないと意味ないんだから!」


「うう……頑張る……」


「嫌いなものとかは教えてあげるからさ、がんばれ!」


 次の日の朝フレッドは帰ってきてシャワーを浴びてすぐに寝た。


 アルはフレッドが寝ている間にプレゼントを買いに行くことにした。


 善は急げ。


 誕生日は来週だがいつあの話になるかはわからないから準備だけはしておくことにしたのだ。



 いつもの小さいバッグを肩にかける。


 少しベルトがくたびれてきていて、バッグの口もすぐに開くようになってしまっていた。



 そろそろ換え時かもしれない。



 そんなことを思いながら寝ているフレッドを起こさないように家をでる。



 一人での買い出しはあるが個人的な買い物は久しぶりだった。



 アルは足取り軽く商店街へ向かった。


読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!

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