序破急の結
あらすじのフラグもおおかた回収できたので話は急転直下にクライマックスへと向かう。
届いたdsmは結局違った。
手の打ちようもない。
俺と委員長は、馴れ合った。
「おまんこ」
「はいはい」
と俺がガムを差し出す様子とか、それを見たサツキをして
「あんたら気持ち悪い」
と言わしめるほどに。
と言っても喧嘩をしなかったわけではない。
「イカ臭いインポテンツのチンカス包茎野郎!」
本気でキレる委員長に一切オブラートに包まれてないエグくて直接的なマジで傷つく悪口を食らったり、かと思えば
「膣内に挿れて」
「えっ? なんて?」
何度でも聞きたい日本語を耳にすると、わからないフリをしてもう一度言わせるテクを駆使する難聴系主人公を装うやり方を身につけたり。
たまに悪い事も考えた。
これを録音しながら無理矢理したとして、誰も合意じゃなかったなんて思わないだろう。
そんな日は壮絶な自分との戦いに明け暮れた。
それでもレベルアップなんてしなかった。
俺たちはいつも、同じ場所をグルグル回っているつもりなのだ。いつも、いつまでも。
問題の中心は避けたまま。
紐は巻きつくたびに短くなっていく、それには気付かないふりをして。
何が言いたいかって? 俺は、自分の楽しみのために人を縛り付けている罪悪感に苛まれだした。
野明は彼女でもないただの幼馴染なのだ。
ある日俺は毅然と委員長に向き合った。
「カウンセリングを希望しないって野明さんが言った時点でちょっとは想像がついてたんだ」
「未成年者略取」
「そう。ごめんね、今日はマジな話」
「3連乳首ピアス」
相変わらず茶化そうとする委員長を今度ばかりは相手にしないで、
「俺は、分かっててこの状況に甘んじてた。2人で過ごす時間が楽しすぎて、野明さんが何も文句を言わないのをいいことに」
反応を待つ。しばらくののちに、ぽつりと
「不純異性交友」
「いけないのって、そりゃね」
「エロ坂」
「いいや、聞けない」
「エロ坂!」
「……ごめんね。じゃあ最後の会議を始めようか」
2度も、彼女は俺の名前を口にした。まああだ名だが。俺のあだ名エロ坂、しかしそれ自体にエロい意味などはないはずなのだ。こうなって最初の日に螢子が俺を呼びに来た時から発音できる事は分かっていた。
直接呼ばれるのは、初めてだ。
「野明さん」
「後背位」
目に微かな涙を浮かべている。
「怖い?
そうだね、不安だよね。でも怖がったままだったら真実は永遠に手に入らない。目をそむけちゃダメだ。
絶対に大丈夫だから、勇気を出して聞いてほしい。
じゃあ言うよ? いい?
あのね、どんな言葉だってエロいんだぜ?」
びくんとする委員長。
あの頃、野明さんは堅物という噂で友達が一人もいなかった。
「例えばスワヒリ語でクマモトっていう言葉があるんだけど、どう言う意味か知ってる?」
委員長は静かに頷くとそっと口に出す。
「バジャイナ、ホット」
「流石だね。じゃあボボ・ブラジルって言う名前のレスラーは? お茶子さんって職業は? ほとほと自分が嫌になったって言い回しを聞いたことは? それだけじゃない、何だってそうなんだ。
口に出して耳に入る、全ての言葉が。
わかるよね。つまりさ、みんなおまんこなんだよ」
詩人の谷川俊太郎は脇の下を通り抜ける風を感じてこれは性交だって言ってのけた。
それも彼女から借りた詩集に入ってたんだっけ。
目を見開く委員長。
サツキ(side)
理科室準備室でこのワタシを仲間外れにして、エロ坂と委員長が喋っているのを見つけた。
レッツ突入!
えっ、まって!
なんか深刻な話してる。
これは気まずいナリ、隠れて盗聴するナリよ!
うへへへよわみゲットだ興味津々、内緒にしといてやるわ、ちょっとジュース買ってこいって言おう。
「みんなおまんこなんだよ」
ブフォッ!
鼻汁噴いた。何言ってんだあいつ。委員長に慣れたと思ったら不意打ちは酷いぞ。
ん?
バレてない?
バレてなーい!
そうだ、最近エロ坂あんまりエロい事言わなくなったくね。口を開けばセクハラだった癖にあいつ子供だから訴えられないと思って。
昔ツンツンしててちょっと敬遠されてた野明ちゃん、そんなあの子にあえてエロ小説を聞いたりして絡んでって、おタカい、ん? おカタい? んな雰囲気を崩したりしてたくせに。あの関係ちょっと羨ましかったわ。
「お前この本、全然エロいところないじゃねーか」
「そう、つまらなかった?」
「いや、そりゃ面白かったけどさ。でも今度こそ本当にエロい奴教えてくれよな」
なんてみんなの前で堂々と。
今でこそ委員長なんてしてるけど野明ちゃんがクラスに馴染めたのは主にエロ坂のせいなんだぜ以上、説明回終わり。ワタシの出番はもうない。
人体模型の隣に座っている俺。委員長は骨格標本の前だ。あとこっそり入ってきたサツキが開腹ヒキガエルのホルマリン浸け裏に隠れている。
息が詰まったように、唇をうごめかしてあえぐ委員長。でもそれも長くは続かない。
すぐに、堰を切ったかのように、ことばが口からこぼれだした。
「知ってる。私、知ってた筈なのに」
「ね。なんだって喋れる」
すでにエロワードの時のような以心伝心はなくなっている。
言語を正確に発することで、慮るという曖昧なものはそこに介在できなくなる。
しかしそれこそが個と個の存在をまたぐ本当の意味での意見の主張、意思の疎通なのだ。
相手の知識や想像力に期待するだけでは、『相手が知らない事や、思ってもいない事』を伝える事は決して出来ない。
そこから先へ進めないのだ。
そんなのはつまらない。
絶対に無理だ。
「そうだったんだ」
「野明さんは、きっと勘違いをしていたんだよ」
「うん。君が全然あの時みたいにエッチな言葉を喋らなくなっちゃって。それなのにみんなからはずっとエロ坂くんって言われ続けてる。
それを見てたらなんかつい」
そう、俺は当時の反省から、いつしかエロい言葉を発しなくなった。
「でもね、直接的な言葉を使わなくなっただけで、今も何も変わってないよ」
「ようやく分かったよ。あれだけエッチな言葉を言ってた私より、普通の事しか喋っていない君の方がずっといやらしい事を話してるって」
委員長がエロい言葉しか喋れなくなったのはその反動だった。ならそれはどうしてか。そんなのただの友達じゃない。
「君のその言葉の全部が、どんな思いに裏打ちされていて、何を目指してたのか。優しくて紳士的な物言いも、なにもかもが」
「そこからは、俺の口から言わせてくれないかな。これでも男だからさ」
野明の言葉を遮って、
「つまり俺は、野明さんの事がずっと、ずっと好きなんだ」
「えっ!? えっ!?」
ホルマリン浸けのカエルから聞こえるサツキの疑問の声。それを尻目に、嬉しそうに微笑む委員長に近づいて優しくキスをした。
終わり
あと、余談だけど
もしこの先、評価だとかポイントやコメントとかレビューがたくさん集まって気分が乗ったったったら理科室準備室でサツキの目の前で行われる行為の続きのことを、ノクターンとかいうところに移動して話してもいいかなってちょっと思ってる。