以心伝心の段
ハンバーガーショップ、メクデアノズの向かい席でオレンジジュースをすする委員長に、俺は疑問点をぶつけた。
「一つ聞くけど、野明さん初めてじゃないね?」
委員長は少し焦ったような表情と上ずった声で、
「か、貫通非処女」
と頷く。
「密室オナニー親バレ?」
「なんで分かったかって?
そりゃ、そもそも最初の倒れた演技からおかしかったでしょ。
いくら野明さんの頭の回転が速いからって、急にそんな言葉しか喋れなくなったらはじめはパニックになる筈だ。
あられもない言葉を乱発して教室は阿鼻叫喚の地獄絵図になっていたとしてもおかしくはない」
「乱交パーティ」
「そう。少なくともこんな症状になる事を知っていた。幸いそれは一人の時で、すぐに収まったんじゃないかな」
「連続2時間生ハメ中出し」
「そうか、2時間か。でも今日はもう過ぎてるよね。今回は長いのかな?
まあ話を続けるよ。
つまり大勢の前でそうなった時の対処法を、あらかじめ考えていたんじゃない?
ただ演技はもうちょっと練習した方が良かったかな」
「露出プレイ」
「褒めてないって!」
分かっていると思うが、俺は彼女の経験を聞いたのではない。回答がどんぴしゃだったせいで誤解しそうにもなるがそんな奔放ならこんな症状にはならない。高潔で無垢でなければならない己に抑圧されているから思わぬ所に歪みが生じる、というのが通常パターンだ。もちろん一般論としてであり、彼女のプライベートや心に侵入するつもりはさらさらない。
「この前が2時間で、もう4時過ぎだから今回は5時間以上か。
指数関数的に持続時間が増えていってるということかな」
「アクメ」
「気持ち分かるよ」
「リョナ」
「嘘じゃないよ。俺があんなあだ名で呼ばれるのは確かに自業自得なところが大きいんだけどさ。でも不本意な思いだっていっぱいしたし、仮に委員長がそんな目に合ったりしたら、それは俺にも耐えがたい事だよ」
「オメコ濡れ濡れ」
「茶化すなって」
別に解決策なんていらない。脳の構造の差とかで、女性の相談というのは主に自分に気を使ってもらいたいだけで、アドバイスが欲しいなんてこれっぽっちも思っていない場合がほとんどなのだとか。
どんな大変な問題が未解決で残ろうとも、話を聞いてもらい満足すれば気が済む。
そのかわり、彼女らの『どうしようもない現実に耐える能力』だけは男の比ではない。
そんな事を考えながら相槌を打っていたら怒られた。
「金髪ロリ巨乳!」
「えっ? バカにしないでって? 私は違う?」
どうして読まれたのか不思議で仕方ない。
「触手輪姦だいしゅきホールド」
「だ、だよね。それなら俺なんかじゃなくて他の人に相談してるよね。俺の性的な知識の量のみを頼りに相談してくれたのに、ごめんね」
「双頭ディルドー」
「ごめんそれはやめて!」
彼女もちょっと言うようになったではないか。でも悪いが俺にそんな趣味はない。
「ふつうに、俺に出来るアドバイスなら今後は出し惜しみしないから!」
「ソフトSM」
そのくらいで手を打ってくれるそうだ。
メクデアノズのアイスクリームをおごりで追加、注文した番号札だけ持って帰ってきてテーブルに立てる。
その後の話し合いで、とりあえず今日のところはマスクを買って、あとは喉が痛くて喋れないって嘘を貫く方針に決めた。