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山の中の縹時雨  作者: takonano
第二章 この身が振るうは一対の。
11/38

彼方編 新月の滝にて

彼方編とは、過去編のことをいいます。


これは失われた、少年の記憶。

「向こう側の世界」での、時雨が10歳だった頃の話。





***





少年は家族とキャンプに訪れていた。

住んでいた場所からはだいぶ遠かったが、病弱な妹が小康状態であるうちに思い出を残してやろうと、家族4人で美しいと有名な森林にきていた。


だが、道に迷った挙句ついたのは日暮れ。

さらには車がエンストを起こして森の中で立ち往生してしまったのだ。

加えて妹が発作を起こして両親はそちらに掛かり切り。

秋の末の宵の寒さに耐えかねた少年は森に焚火を取りに入ってしまった。


そうしてすぐに少年は後悔することとなった。

冬の気まぐれの雨――――――――――――――時雨が降りかかて来たのだ。

森の中一人きり、いくら昼間は美しいといえど夜の森とは昔から恐ろしい魔物に見えて仕方がないというもの。

例外なく少年は恐怖に身を震わせ蹲った(うずくまった)

齢8の少年には堪える状況でしかなかった。


だが、さすがはか弱い妹をもつお兄ちゃんというべきか、

少年は瞳に強い意志を宿して前を向いた。


しっかりと地を踏みしめ、森の中を突き進んでいった。





***





つと、雨の向こうから風を切る何かの音が聞こえてきた。

体の震えを隠しながら、不思議とその音の方へ引き寄せられていった。


真っ黒な木々の向こうに夜露をまとった光が見える。

少し怖いが、そこは好奇心旺盛な盛りの少年。


その光の下にたどり着くのは時間の問題だった。





そこにあったのは月影に照らされた白亜の断崖―――――――――――――いや、枯れた滝というべきか。

滝つぼにわずかに水が溜まっているのみ、こrふぇはさっきの時雨のせいだろう。

だがここには先程の雨が嘘のように夜空が瞬いている。


刹那、シュンっと空を切る、澄んだ鈴の音があたりに響いた。

続いて重ねるようにしゅん、しゅんっと音が重なっていく。

まるでリサイタルのようだった。


慌てて周囲を見渡せば滝つぼのそばで一人の少女が一振りの長剣を一心に素振りをしていた。


腰まである豊かな髪を、それこそ長剣のように一房にまとめていた。



ふと、その少女と目が合った。

この夜の帳を縫い留めたような星空のような美しい瞳。


一瞬にしてしょうじょにめを奪われた。

今の今まで寒さに打ち震えていた体は、一気に恋の炎で燃え上がってしまった。


「あ!あのぉ!」


思わず素っ頓狂な声が出たのは致し方あるまいよ。


少女はその紅掛空の色―――――――――――――紅が買った明けの空色―――――――――――――の長剣を鞘に納め、悲しいかな冷たい視線で少年を見つめた。


「こんな夜に、どうして子供がこの森の奥にいるんです。」


その人声を聴くと、甘やかな露をこの身に浴びたように少年は全身が痺れた。


「あの、それは君だって!女の子一人じゃ危ないよ!」

「私はいいんです。だって―――――――――――――私には時雨の剣があるんです。」

「その、剣のこと?」

「はい。私とこの時雨の剣は一心同体。この剣がある限り、私は強く生きていけるのです。」


うっそりとほほ笑むその顔が、少女というにはあまりにもアンニュイすぎて色っぽくて、少年には多少なりとも刺激が強すぎた。


少女は残念ながらすぐにその笑顔を隠してしまい、つららのような鋭い視線で枯れた滝を見つめた。


「それより、あなたはここを離れないと。新月の滝には月の姫が宿ると聞きます。見初められないうちに早くここを離れないと。」

「月の姫?」


新月の滝というのはこの枯れた滝を言うのだとしても、姫が宿るとはどういうことなのだろう。


「近くに祠があるのですが、とりあえず早く滝から離れないと。祠に参拝しないとすでに見初められていないとも限りませんし。」


考えこむようにぶつぶつという少女だったが、少年にとっては少女とともにいる時間が延長されるなら何でもよかった。


「祠にいこう!」

「ん、そうですね。行きましょう。」


少女の手をさり気に握ると、少年は少女尾は対比的に満面の笑みをうかべたのであった。














もう一話続います。


またのご来店お待ちしております。

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