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山の中の縹時雨  作者: takonano
第二章 この身が振るうは一対の。
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海松の部屋にて

ながぁいながぁい説明会。

五時間耐久レースコース並。


「で、何がわかんないの?」


時雨は顎に手を当ててぐ、と押し黙った。


「……。まずミアというもの。月夜の輪廻、そして皆さんの、その、特殊能力的なもの……?」

「いいわ、教えてあげる。」


モモは時雨を見下ろしながらゆるりと足を組んだ。

この見た目にして31歳、この上から目線の少女に教えを乞うのはあまり精神が発達していない時雨にとっては少し苦痛を伴うものであった。


「まずはミアのことね。これは簡単なこと、ミッションペアのことよ。」

「単なる略語ですか。」

「時雨ちゃん、でもミアは里では重要なことなんだよ?」


安土はわりこむようにモモの肩に顎を乗せる。

時雨は心得ているように顔を縦に振る。


「里の掟なんですよね?」


あづもまた首肯する。


「ミアは戦いの伴侶、それに暁の鐘での宣誓を終えたミアには罪の共有を行うことができるんだ。」


ミアと結婚は似通った扱いを受けることがある、四六時中一緒にいるのだから現代人のそれとはかなり形態は違うが。

だがその二つには決定的な違いがある。

結婚は財産の共有まで、でもミアは罪を共有することができる。


その説明に時雨はぎょ、っと目をかっぴらいた。


「なんですその物騒な連座は!」


今度は説明しようとモモが口を開きかけたのにかぶせるように、来来がす、と口を挟んだ。


「連座ってのとはちょいと違うよ後輩君。月夜姫サマは俺らの罪を数値化して見てやがるんだ。んー、月夜の輪廻の話と被るんだがな?」

「もう!私が教えてあげたいのに邪魔しないでよ!」

「続けてください。」

「もう!しぐたんのいけず!」


完全にモモはスルーの方針である。

拗ねて口を尖らせるモモをぽんぽん、と撫でるあづが咳ばらいを一つする。


「あー、んん。月夜の輪廻ってのは普通の輪廻転生とは外れてるんだ。あの暁の鐘を鳴らすと月夜の輪廻に入る。そうすると自分の罪と償いの度合いが月夜姫様のもとにデータで送信されるんだ。」

「無駄にハイテクノロジーなところがむかつきますね。」

「多分里の言い回しが現代化されてるんだと思うよ?なんだかんだ言って皆新しい物好きだからね。」

「で、だ。その罪と償いの数値が等価となった時、俺たちは月夜の輪廻を一蹴したとみなされてもう一回暁の鐘を鳴らすことを許されるんだ。」

「鳴らすと、どうなるんです。」

「向こうの世界で、目が覚める……と言われてる。」


確証が持てていないのは、誰もその後を知らないからだろう。


「でも多分同じ世界じゃない。月夜姫様の目的は月にかかる雲を払うため……つまり罪人の罪をなくしてただの人に戻すこと。だから、俺とモモはここにいた記憶も、自分たちがどうして罪を犯したかも、その罪さえもない世界に行き着くんじゃないだろうかと考えている。」


パラレルワールドの考え方だろうか、と時雨は首を捻る。


「で、罪の共有というのは?」

「ミアっていうのは命と魂の共有者なの、夫婦みたいなものよ。ご飯も睡眠も一緒に取るし、ミッションでは命を預けあって生き残っていく。そしてここに来た肝心要の罪っていうのは自分の信念と魂にふかぁくかかわってるわけ。」


罪に対して信念というのも変な話だけど、とモモはおどけた様に笑う。


「罪の共有っていうのは即ち自己申告。ただ、業が深い人を任務で処すほど相手の償い度は高くなるの。早く向こうに帰りたい人はピンポイントで業の深い人を狙っていく。だから罪について告げるのは自分がこの人!って思った人じゃないとダメ。だからミア同士でも相手の罪を知らない人は多いんだけどね。」

「では私と先輩が罪を共有することはできないでしょうね。」

「あら来来?早速フラれちゃったわねぇ。」


によによと愉快に笑うモモを、来来は憎々しげに睨む。

思い出したようにあづは口を挟む。


「ちなみにだけど。暁の鐘を鳴らしていいのはミア結成とミア解散の二回のみ。運悪くミアの片方が亡くなったときは鳴らさずともミアは解消されるんだけど。」

「私はあづを離すつもりはないわ。」

「俺もだよ、海松。」

「ん、大好きゴウ。」


おのろけすっとこどっこい劇場開演である。

急にいちゃつくなよTPO考えろ!と時雨は顔にその文字をはりつけたような表情でげんなりと肩を落とした。


「あ、もう一つ質問があったわね。私たちの特殊能力?だったかしら。」

「特殊能力と言ってしまうと一気に中二病っぽくなるなぁ。」

「似たようなものよね。里では宵闇の加護って呼ばれてるわ。」


確かに罪人というのはひとえに日陰と闇に紛れるイメージはついている。

ただ宵闇という響きも、時雨にとっては中二病というワードが付きまとって恥ずかしさが拭えなかった。


「宵闇の加護は各々の特性に沿って付与されるわ。来来は足の負担を減らせる……だったかしら?」

「そうだな。」

「お散歩し放題よねぇ。」

「年齢詐称のくせに犬扱いしおって!」

「年長者を敬いなさいってのよ!いつまでたってもアホの子なんだから!」

「ダーレーが!」

「駄犬、静まりなさい。」

「ひぃぃ!?」


来来の隣に座る時雨が、暁の鐘でみた”目だけで人を殺せる時雨ちゃん”になっていたのだ。

これは来来も口を噤むより他ない。


その様子を見てモモは不気味なほどにんまりと口角をあげた。


「ちゃんと躾けてね!しぐたん!」

「あ、はい。」

「で、私の加護は気配を完全に消せること。」

「……手品のミスディレクションですか?」

「手品じゃすまないのがこの世界よ。見てなさいな。」


と、その刹那にモモの姿を認識できなくなった。


「……え?」

「私が声をかけない限りは”桃山海松”という概念が外部からの情報として受け取れなくなるのよ。」

「ほぇ……。」


そういうと瞬く間にモモの姿が現れた。

時雨はここが規格外の里なのだと再認識した。

あっけにとられてまともな応答はできなかったが。


「で、でも、加護は特性にそうんですよね?姿を消す必要なんて……。」

「あるのよ、私はこれが半身だからね?」


そういってどこからともなくモモが取り出したのは超大型狙撃銃だった。


「その名も世の運命(ヴェルトシックザール)。作り手の祖父がルールの出身だったらしいわ。破壊の限りを尽くす暗殺とてろのためのような凶悪な子よ。」


真っ黒で、それでいて艶やか。

だがとても使い手を選びそうなほど複雑で繊細なフォルムをしている、詳しくない時雨にはちんぷんかんぷんだった。

モモはその身の丈よりも幾分か大きい銃器を平気な顔をして持っている。

それが時雨にとって不思議でならなかった。


「あづの加護は(てのひら)の鋼鉄……だったかしら?」

「ああそうだ、えらいなモモ。」

「うぅー、なでるのはいいけどもうちょっと髪をいたわってってばぁ。」


この唐突ないちゃつきを何も映していない目で時雨は見つめていた。

あづのは使い道がよくわからなかったが、少なくともモモや来来のは狙撃や打ちこみにむきそうな加護であった。


では自分は?

時雨の剣をよりうまく使う加護とは何だろう。


考えるうちに無言になった時雨の肩に、なだめるように来来が手をおいた。


「あの茶番コンビとは長い付き合いになる。耐えるんだ。」


的外れなことを言い出した来来にぽかんとした表情を見せたが、時雨はクスリと笑った。


「ええ、そうですね。」


その珍しく満面の笑みを浮かべた時雨に、来来の心臓がギュッとつかまれたように収縮した。

まるで、息の根を止めるような笑みだった。

苦しくなって来来はむせた、その音で茶番コンビの視界にちゃんと時雨と来来が映った。


「ああ、そうだわ。最後に組長が言い忘れたことを教えといたげる。」

「なんです?」

「この世界の時空は歪んでるのよ。」

「……はぁ。」

「前は戦後間もない人ばっかりだったわ。私やあづみたいに2000年代を生きた人たちはむしろ少数派だったの。」

「戦後間もない……?でもそれじゃあ文明レベルの差が開くのでは?」

「それはだいぶ言い過ぎね。まあでもここにパソコンや携帯電話の文明の利器がないのは事実だけども。」


時雨は初めてモモにあった時、「ふーん、実際の換算でも一番若いって訳ね。」と言われたのを思い出した。


実施の換算が入るということは、向こうの世界ではもっと年上だとでもいうのだろうか。

では隣にいる来来は?

今は一つ上だというけれど、本当のところはもっと上の年齢だったりするのだろうか。


そこまで考えようとして時雨はやめた。


ひとまず聞いた情報が多すぎるので、今日は早めに寝ようと思った。

思い返せばまだ、この世界にきて一日だというのに。


そこに気が付くと、頭がキャパシティーオーバーを起こすと同時に、体の方もオーバーヒートしたのであった。


「え、時雨?!おいしっかりしろ!」


遠のく意識の片隅で、来来の声だけが、洞窟にこだまするさざ波のように、繰り返し繰り返し、響いていたのであった。






またのご来店お待ちしております。

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