プロローグ
世界観設定はもう二話くらい先です。
「なあ時雨。」
「や、やめてください!先輩!しゃべらないでください」
時雨と呼ばれた少女は、苦しそうに声を荒げた。
雨に濡れた二人は、月のない、星々の支配する夜空のもとに深い森林の中で対峙していた。
時雨のその雪のように白い細腕には、半色に輝く短剣と瓶覗の短剣が握られている。
夜の枝葉に雨のしずくが煌めいて、二人の表情を幻想的に映し出している。
晴れた雨上がりの森に、星月夜の帳がおろされる。
先輩と呼ばれる少年は矛先を向けられているにも関わらずすべてを受け入れるように両腕を広げている。
ひどいことに、走所は涙を浮かべ、少年には柔らかい笑顔が浮かべられている。
「どうして、先輩は笑えるんです……私に剣を向けられても、怯える必要すらないっていうんですかっ!?」
「違うぞ、時雨。」
その声は穏やかだ。
涙に濡れる時雨をたしなめるように、先輩はゆっくりとその距離を詰めていく。
「お前がいつも言ってることに、ずっと反論したかったんだ。」
「来ないでください!しゃべらないで!」
「時雨の言う通りだって感じる時もあった。けど、俺はそうじゃないって信じてる。」
「お願いです!これ以上聞きたくないんです……!」
これ以上聞くと、余計につらくなるから。
少女はがくりと膝を折り、その手からは一対の剣がするりと離れる。
「そんなこと、ないじゃないですか……!だって、今まさにそうじゃないですか!」
頬を伝う涙を、先輩はいつくしむようにそっと拭った。
「そんなことない。時雨も知ってるはずだろ?」
「う、ぅぅぅ……!」
「いいから、時雨の剣をとれ。」
「いや、です。」
「時雨。」
「いやです!絶対嫌です!」
蹲る時雨の両頬を、先輩はぎゅむ、と両掌で挟んで自分の方に向ける。
「時雨、お前にしかできない。これは時雨の宿命なんだ。」
「いや、いやです!絶対いやです!」
「時雨!!」
先輩の怒号が、森に響き渡る。
眠りについていた鳥たちが、羽音を耳障りに重ねながら飛び去って行く。
先輩は、時雨をまっすぐに見つめる。
「先輩が、教えてくれたんじゃないですか……!こんな、私にも、先輩が一緒にいてくれるって……!だから、だから……だからできないんです!」
時雨の涙がとどまることはない。
滝のように流れるそれを、先輩も顔をくしゃりと歪めて見つめる。
「先輩が、最後に教えてくれたんです……!」
時雨は、頬に添えられた先輩の手をぎゅ、と握る。
「世界は、絶望に満ちてるって……!」
この物語は、このプロローグに至るまでのお話です。
そして、このプロローグの未来を描く物語です。
これからのご愛顧、よろしくお願いいたします。
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