表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼と私の想いちがい   作者: キャプ戸 理間
その一 悪魔達の絶望
3/14

絶望とその中身

  『あなたの労働環境を飛躍的に向上させます』

  今しがた助手に言われた。なんかこう、どうにも受け入れ難いものがあるフレーズである。胡散臭いというのか、もうかえって香ばしいというか。

  そもそも飛躍的って言うけれどそれは、当たり前だがいままでよりもさらにキビキビと働けるようになるよということではないか。従来以上にキビキビ働けば、仕事は従来よりもさっさと片付く。 そうなると余分な時間ができる。で、その時間を使ってまた働く。

  なんという事だろう、結果的に仕事の密度が圧縮されただけで、より多く働くハメになっているではないか。間違いなく今までよりもキツくなっている。良くなるのは俺ではなく、あくまで労働環境だけ。そう、俺という犠牲が支払われる事により、労働環境だけが一層イキイキしだすという事に他ならない。


  要は、上役がニコニコしながらこのセリフを吐くのは、なんにも喜ばしいことではなく、俺にとってはむしろマズい事だということ。や、べつに助手は上司とは違うんだけど。メッチャにやけてるよこの娘。見たことないくらいにいい顔なんだけど。俺のクールプリティな助手を返しておくれ。


  まあ、とは言っても俺ってばちょっとワーカホリックなとこあるし、仕事を楽しくこなせるんならそれはそれで別に良いんだけど。


「これで仕事て言うけど、ホントに仕事になんのかよい?」


  助手の手によって我が家にもたらされた期待の新星。その名も『Blood』。


  名前からしても何に使うのかさっぱりわからない。少なくとも言葉通りの血液には見えない。助手が揚々と開いて見せた箱の中には、いや、ちょっとうまく説明できないかもしれないけども、端的には、そう、この、なんていうか、筒状のパーツが引っ付いた、つまりなんだかよく分からないものがはいっている。これもう全然説明になってないけど俺の語彙は大丈夫なのか。


「それじゃあ改めて当ててもらおう、これは一体なんでしょう?」


  助手はまだテンション高いままだ。どうやら随分スゴいものらしい。

  この謎アイテムの本質を早急に見極めねばなるまい。相棒ことボロ銃の命運は助手の口ぶりから言って、この「Blood」の正体に委ねられているくさい。


  なんかどっかで見たような。この形は。

「えーと、あれだよ知ってるぞ、浣腸器だ。これ」

「君ホント最低の男だよな」

「違うのか」

  もう浣腸器にしか見えなくなった。

「つっこまないぞ」

「浣腸だけに」

「おい」

「違うなら何だっていうんだよ一体。失礼しちゃうぜ、もう」

「なんでちょっと不満げなんだ君は。あと失礼は私の台詞だ」


  間違えたって仕方ない。見た目だけなら結構似ているのだ。尻に射し込むには若干ゴツくて、上級者向けって感じではあるが、それなりの大きさの筒状の物なので雰囲気は近い。

  ていうか結構デカイな。製作者の肛門付近へのストレスを感じてならない。一体どれだけの浣腸液を尻に注ぎ込むつもりなのだろう。便秘ってレベルじゃないぞ。いや、名前も『Blood』だし、もっと痔とかそういうものに対する治療の用途があるとか。



  そこで俺の頭に電撃走る。そうだ、間違いない、コレは助手の作品だ。絶対そうだ。助手はこういう自作のガジェットを時々、得意げに俺に披露してくる。それならさっきの楽しげな様子にも合点が行く。出されたものが意味不明過ぎて、すぐには気づけなかった。

  見せに来るだけでもちょっぴり鬱陶しいが、さらに助手は意外にもガキなところがあるので、何がしか褒めてやらないといつもブーたれてしまう。なるほどこいつはちょっとしたピンチだ。俺ってば人の作った浣腸器を評価したことなんてない。


  つまりはだ、助手はさっきから、俺に対して自作の特大浣腸器の感想を必死にせがんでいたのだ。朝飯の直後に。仕事に出るのを妨害までして。

  こいつ朝からどんな精神状態してんだ。おそらく精神状態だけでなく腸内環境もやばい。思ったよりも問題は深刻なのだろうか。なんか興奮してきた。助手のお尻周りのストレス、これはちょっとゆっくり話聞いてやった方が良いのかもしれない。女の子にお尻の話とかデリカシーに欠けるだろうか。


「俺、痔とか経験無いけど口内炎ならしょっちゅうなるし。…あの、良かったらその、相談乗るぞ?」

「何言ってんだ君は」

「あっ生理」

「あのなぁ…」

  あっそうか、生理酷くても浣腸関係ないか。


  こうして俺は助手の機嫌を無事損ねた。


「これはな、結構掘り出しものなんだからな。入手にはかなり骨を折るんだからな。貴重品なんだぞ。そんで掘り出しただけじゃ使えないんだからな。私の技術の粋を集めた我が家の希望になりうる存在なんだぞ、分かってんのか」

「初耳だよ。分かってねえよ」

  大体の成り行きは分かった。要はもらいもんか何かだ。助手の作ではないらしい。これはひとまず安心していいだろう。助手のケツは無事、そう解釈していいはずだ。

そうだそうだ、よく考えたらこの前見たこいつのお尻はツルツルのすべすべだったじゃないか。便所でウンウン言ってるのも聞いたことないし、どうやら心配は杞憂に終わりそうである。



「ったく、この超技術の結晶を、よりによって浣腸器呼ばわりって、何事なんだよ一体」

  しかしまあこれは随分怒らせてしまったなあ。見たままを言っただけだのに、相当気に入らなかったようだ。いやこれ割りとマジでご機嫌ななめじゃないこれ。斜めどころか直下降だ。ちょっとくどかったかも知れんけど。お茶目なギャグだよ、大目に見ろよ。ノリだってノリノリ。内輪ノリのノリスケちゃんだっつーのに。

  その顔色はほっぺぷっくー、みたいな生易しい感じでは最早無い。ビンビンの青筋が怒りの大きさを伝えてくる。久しぶりに見る表情をしている。いつかぶりにガチだな。前に怒らせた時も随分ひどい目にあったが、多分今度もまたエライ目にあってしまう。やばい。


  ちなみに、助手の作った浣腸器なら俺は喜んで使う。絶対使う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ