PMC
PMC(Private militaly company)
民間軍事会社のことである。
このPMCの社員で指揮下にある者は、軍人・民間人・傭兵のどれにも当てはまらない曖昧な存在とされ、いわゆる「使い捨ての駒」として戦争中の国から重宝されてきた。
東京某所の広大な敷地の中にPMCの本社ビルが立っている。
最近建造されたばかりの本社ビルには惜しみなく資金が投入されており、デザイン・機能・サイズ共に存在感を放っていた。
敷地入口のメインゲートには大きな看板が掲げられ、そこには社名が堂々と記されていた。
<イージス>
最近立ち上げられた、日本唯一の民間軍事会社である。
この会社が立ち上げられる際、当時の自衛隊の総人数の2%がイージスに移った。
また有澤財閥の基幹企業として認定され、防衛省との密な協定もあり、生まれながらにしてとんでもない規模を誇る異色の企業である。
彼が今座っているのはイージス本社の小さなオフィスの椅子。
時計の針は4時を示しており、窓の外には夕焼けが広がっている。
彼の名は伊藤六25歳、つい最近立ち上げられたPMCの社員である。
もう一人窓際で煙草を吸っているのは、同じくPMC社員の須賀武人26歳。
二人はチームの隊長が戻ってくるのを待っていた。
「隊長戻ってくんの遅せーな」
ロクは足を組み換え、椅子の背もたれに深く寄りかかったままスガに話しかけた。
「うーん、」
スガは上の空な表情で窓の外をじっと眺めている。
控えめなボリュームで流れる民放ラジオからは、懐かしの名曲と題し少し古くも聞きなれた曲が流れている。
照明のスイッチがOFFになっており、外の世界と同じ歩幅で明るさが薄れていく。
じわじわと闇が深くなっていく中、オフィスにアラームが鳴った。
ピーー、ピーー、ピーー
「ちっ」
ロクはめんどくさそうに、デバイスのスイッチを押しアラームを停止した。
「薬の時間だ」
ポケットの中の小さなケースから、青い錠剤を手に取った。
この錠剤は見た目の通り通称アオと呼ばれ、日本人のウェイダネットダイバーはこの錠剤を飲むことが義務化されている。
これは特殊な精神安定剤だ。
右手で錠剤を口に入れ水で流し込む。
「げぇっふ」
ロクの下品なゲップにスガは笑いながら振り向いた。
「ほんとライオンの鳴き声みたいだよな」
「がおー」
ロクは獲物に襲い掛かるライオンの真似をして見せる。
・・・ガチャリ
不意にオフィスの扉が開いた。
二人は慌てて立ち上がり姿勢を正す。
「お疲れ様です隊長!」
扉を開いたのは二人から隊長と呼ばれる男。
見た目がかなり若いこの男、実年齢も23歳と二人よりも若い。
この男の名前は高屋敷未来。
親しい人間からはミラと呼ばれる。
身長180以上で鍛えられた肉体の二人とは対照的に、隊長と呼ばれるこの男は身長170程で軍人にしては細身色白である。
目つきは鋭いが目にはひどいクマがある。
「明かりもつけずに何やってんだ」
ミラの吐き捨てるような言葉に、ロクは慌てて明かりのスイッチを押した。
部屋の輪郭が光によってはっきりしていく。
白い壁に光が反射している。
三人が所属する部隊[A-11部隊]のオフィスである。
[A-11部隊]のAはasultの頭文字で偵察や護衛、必要であれば戦闘も行う。
最前線で危険に対処する、いわゆる戦闘部隊である。