5話「怪物」
「オマエカ…、レイノブキヲ…モッテイルヤツハ…」
喋り方がぎこちない。超巨体という体から察するに、肉体改造でも受けてパワー倍増のぶん知能低下みたいな感じだ。
狂気や殺意が入り混じった虚ろな目も、それを物語っているかのようだ。
「ああそうだ…!!俺がお前らの望む武器を持ってる…!!だがその前に、その子に何をした…!!」
ニタァと笑い、男は、いや、この怪物は顔を歪ませる。
「コイツガワルインダ…!…チョコマカト、…ニゲルカラ…!ダカライッパツ…ナグッタダケダ!…ナァニ…シンジャイネエヨ…!」
「…っ!!リミット!!リトルバレット!!」
怒りのままに、俺はその場で瞬時に刀を水平に持ち、空間を素早く突いた。突いた点を中心としてできた小さな斬撃の輪が、矢の如く怪物の胸へと届く。
「…ッ!……オイオイ……イテエジャネエカ……」
なっ…!?効いてない…!?
胸からは血が流れている。確かに当たったはずだ。
「……カクゴハ……デキテルナ……?」
その瞬間、怪物はその巨体からは考えられない程の超スピードで俺の腹を強烈に殴り、俺は路地の向かいのT字路の壁に激突した。
「……ガッ……!……ハッ……!!……ゲホッ……ッ!!……くそっ……!!」
身体のありとあらゆる骨が折れたのがわかる。身体の色々なところから、血が大量に出ているのも分かる。
この一撃の重さに、あのスピード。分が悪すぎる。もう一撃食らったら、間違いなく死ぬ。ここでギリギリでも立てるほどの体力があったことが奇跡だ。
遠のく意識をなんとか保って、立ち上がる。
……。
もう、ここまで来たなら。
ここまで来たなら、死ぬ直前まで行ってやる。
そうやって少しずつ無茶しながら、ここまで生きてきたんだ。
道を挟んで向こうに立つ、満足げに背を向ける怪物に向かって、ゆっくりと刀を振る。
「……リミットデプス……!」
俺が立ち上がった事に気付き、怪物はゆらりとこちらを向く。
「アン…?マダイキテタカ……ナラコンドコソ……」
俺の声に呼応して光る刀を素早く大きく振って円を描き、かすれ声で叫ぶ。
「ブロークン、ムーン!!」
その中心を、一気に突いた。
大きな円形の斬撃は、いや、少しだけ円が欠けた斬撃は、怪物のスピードよりも早く、怪物の元へと届き、怪物の胸元を、大きく、とても大きく抉った。
「ガッ…!?…アアッ…!?ア、アアアアアアアアアアアア!!オ、オレノ……!!オレノカラダガァァァァァァァァ!!!!」
怪物は大いに叫び、そして力尽き、倒れた。
だが怪物が倒れるより早く、俺はふらりとその場に倒れ、そのまま意識を失った。