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97話

     ◇


 ティグアーデの装備として考えているのは、武器に大棍たいこん、防具に鎧だ。


 まず大棍を作るべく、ひときわ大きい素材袋から飛び出している太い石棒を取り出す。これは単なる石ではなく、[ガログ]という岩の木から切り削ったものらしい。葉は茂らせないが、文字通り全体が岩石でできている植物だそうだ。ちなみにグラドゥニア大陸の固有種とのことである。


 次いで少し大きめの金槌と石削用ののみを用意し、石棒へ宛がった。

 下端は棍尻を作るために残すとして、そこより上の中央までの部分をくびれるような形に砕き削り、整えていく。


 続いて[ゴゴロバルの岩殻]をいくつか取り出し、大小さまざまな鉄杭と金槌を使って穴を開けていった。そして石棒の上下にも同じようにして一つずつ穴を通すと、ワイヤーで岩殻を繋ぎ付けていき、棍頭こんがしらと尻の部分を作る。

 ちなみにこのワイヤーは普通のそれとは違い、簡単にいえば蛇腹のような伸縮性を持つ特殊な作りの物だ。後々の工程に備え、あらかじめ魔巧も仕込んでおいている。


 それから先ほど削って括れさせた部分に[ゴゴロバルの内皮]を巻いて握りを作り、さらにそこより上の部分には[ゴゴロバルの岩尾殻]で拵えた石環を、石材用の強力な接着剤で接着した。そして念のため数秒おいてから、石環に黄色の宝石を嵌め込む。


 上下の岩殻の内側と、いまの宝石に魔巧を仕込み、動作確認のために魔力を流した。


「「「「「「「「「「お~」」」」」」」」なのー」」


 コゴッ、と石同士が鳴り合う音とともに、棍頭と尻それぞれの岩殻が自ら隙間を埋めるようにして身を縮めた。ワイヤーもきちんと動いているようだ。


(……よし)


 戦わないときはこうしておけば、少しだけでも邪魔にならずに済むだろう。

 ともあれ魔巧の動作に問題はなかったので、仕上げの工程に移る。呪刻だ。


     〈重撃 極大〉

     〈HP吸収 極大〉

     〈MP吸収 極大〉

     〈地属性物理攻撃威力+極大〉

     〈地属性魔術攻撃威力+極大〉

     〈防御性能+極大〉


 かなり強い威力を込めなければならないが、攻撃の重みを増加させる〈重撃〉はティグアーデに合うと思えたので付けた。〈地属性魔術攻撃威力+〉に関しては、少し前――ジュエリーパピヨンたちに魔術を覚えさせた際に、どうやら彼女も『地魔術』を修得したようなので選んだ次第である。”黄岩陸”のものとはいえ残滓だけで修得したあたり、どうももともと適性があったようだ。


 ただティグアーデの能力を考えると、圧倒的に物理攻撃のほうが効果が高いのは明らかである。しかし牽制なり何なりでも、やはり戦闘に於いて選択肢が多いに越したことはないのだ。

 それに彼女自身『地魔術』を見せにきたときは嬉しそうだったので、なおのことこの呪紋で問題はないだろう。


 と、これで大棍は完成だ。

 武器名は……『崩穿剛磊ほうせんごうらい』としておく。


          《――『崩穿剛磊』が完成しました》


          《――完成品のステータスを通知します》


===  ===========================  ===


          ⇒ 崩穿剛磊   武器【☆10(MAX)】

                属性:『地』


                物理攻撃力:337

                魔術攻撃力: 86


===  ===========================  ===


 次は防具、鎧だ。


 まず基盤となる鎖帷子、トロール用の物があったので購入したそれを作業台に広げる。それから[ロックライノの岩石殻]を大量に取り出して穴を開けていき、先ほど使ったワイヤーと同様の物で鎖帷子に繋ぎ付けていった。

 そうして胸当て、肩当て、背面と腰回りに鎧甲を拵えると、次いで鎖製の籠手と脚甲を二つずつ取り出す。


 また同じようにワイヤーで岩石殻を繋ぎ付けていき、腕と脚の鎧を仕上げた。続いて胸当てに窪みを彫り、そこに黄色の宝石を嵌め込む。その宝石と、ここまでの工程で形ができあがったそれぞれの鎧甲の裏に、魔巧を仕込んでいった。


 これの動作確認は実際に装備してからでないとあまり意味がないので、ひとまず置いて呪刻に移る。刻んだ効果は、


     〈HP回復速度+極大〉

     〈MP回復速度+極大〉

     〈地属性耐性+極大〉

     〈HP吸収耐性+極大〉

     〈頑強 極大〉

     〈魔導障壁 極大〉


 の六つだ。

 〈頑強〉はただ単に相手の攻撃などで体勢を崩しにくくなる効果で、〈魔導障壁〉は魔力を対価にする必要はあるが受ける魔術効果を減退させるというものである。魔術的な能力値、つまりはその防御力も低いティグアーデには有用だろう。


 防具もひとまずは完成として、最後に名前だ。

 『堅岩武甲けんがんぶこう』とでもしておく。


          《――『堅岩武甲』が完成しました》


          《――完成品のステータスを通知します》


===  ===========================  ===


          ⇒ 堅岩武甲   防具【☆10(MAX)】

                属性:『地』


                物理防御力:403

                魔術防御力:121


                基礎能力:地属性耐性<Lv5>


===  ===========================  ===


 あとは実際に装備させてみて、仕込んだ魔巧が正常に動作するかの確認だ。


「……ティグアーデ」

「くむぅ~っ」


 彼女を呼び、鎧の各部位を順に渡して装着させた。

 そして、


「……胸の宝石に魔力を込めろ」

「くむぅ。――くむむぅっ!?」


 ティグアーデがうなずいて指示通りにすると、鎧の腕や脚、肩当ての尖って突出した部位が身を畳むようにして納まり、彼女がそれに驚いて声を上げる。

 正常に動作しているようだ。この状態であればどこかにぶつけたりするような心配はなくなるだろう。


「……武器も連動するようにしておいた」

「くむむぅ!」


 続いて渡すと、ティグアーデは嬉しそうに受け取ってそれを抱き締めた。


「……背中に柄を当ててみろ」

「くむぅ?」


 ティグアーデが首をかしげながら右手の『崩穿剛磊』を背中に回す。すると岩殻の隙間からワイヤーがするりと滑り出で、それの柄を受け止めるように巻きつき固定した。


 これで本当に仕上がりだ。

 〈魔導障壁〉などについては、後に教えることにする。


 さて。

 最後はネレイアの装備だ。


 まず武器である鞭を作るべく素材を取り出していく。

 軸となる、微透明な水色の木でできた手筒。[ザパルゥ]という種類の木で、アクエウル大陸でのみ見られる植物らしい。


 その手筒の上端下端を削り彫り、装飾を拵える。上端には刀剣で言うところのつばとして、波を象った冠のような形状のものをあしらった。そこに青い宝石を嵌め込み、いったん脇に置く。


 そしてネレイア用に考えておいた呪紋を調製し、筒の裏に呪刻を施していった。


     〈HP吸収 極大〉

     〈MP吸収 極大〉

     〈水属性物理攻撃威力+極大〉

     〈水属性魔術攻撃威力+極大〉

     〈水属性魔術詠唱速度+極大〉

     〈歌術かじゅつ強化 極大〉


 続いていくつかの[クラーケンの触手皮]を手に取り、縒り合わせるようにして編んでいく。さらにその上からまた同じように縒り編んでいき、鞭身を作っていった。素材の皮が大きく分厚いので、二度目これで十分だろう。

 この時点で下のほうに魔巧も仕込んでおく。


 最後に先ほどの手筒を、いま仕込んだ魔巧のもんに被せる形で下から差し、鞭身が抜けないように柄尻のほうに結び玉を作った。玉といっても球形ではなく下から見れば花弁のように見えるのだが、まあそれはいい。とにかくこれで鞭身が抜けることはないはずだ。


 仕上げに鐔の青宝石にも魔巧を施し、魔力を流す。


「「「「「「「「「「おおーっ」」」」」」」」なのー」」


 すると鞭身がくるりと管を巻き、いわば待機状態ともいうべき形に納まった。完成である。


 考えた名前は『アリキュラル』。アルティア標準語で『水の輪』という意味だ。


          《――『アリキュラル』が完成しました》


          《――完成品のステータスを通知します》


===  ===========================  ===


          ⇒ アリキュラル   武器【☆10(MAX)】

                属性:『水』


                物理攻撃力:708

                魔術攻撃力:881


                基礎能力:環境適性<水中>


===  ===========================  ===


 基礎性能が高いのは”クラーケン”、つまり高ランクの素材を使用しているからだ。それから環境適性<水中>というのは、水中での運用も問題ないということである。ちなみに装備自体に適用される能力なので、装備者のほうには効果はない。


 次に防具だが、これも水中のことを考えて詰めた。もうまとまっているので作業に移る。


 まず始めに、泳着(水着)用の加工がされた[シーサーペントの皮]の生地を裁断縫製してチューブトップを作り、その胸元部分に二枚貝の方殻と水色の珊瑚をふたつ、装飾としてあしらった。


 それから淡く青みがかった銀製の首輪――前面に青い宝石が嵌め込まれている物を取り出す。これにはもともとちょっとした魔巧が施されているのだが、動作させるのはまだ後だ。

 続いて[ドレシーフィッシュのヴェールフィン]を二本とって、首輪を頂に『八』の字の形になるよう取り付ける。そしてそれら左右の端をそのままチューブトップの脇腹部分に縫い付けた。


 いったん置いて、次にまた先ほどの[シーサーペントの皮]の生地を切って縫製し、ベルトの形状になるよう輪を作る。それに[ドレシーフィッシュのフリルフィン]を付けてミニスカートの形を作り、次いで大きめの[潮騒しおさいとばり]を、腰マントの要領で背部に飾り拵えた。

 そしてまた[ドレシーフィッシュのヴェールフィン]を用意し、その両端に二枚貝の片方ずつと水色珊瑚で装飾を施す。それを前から見るとアーチ状になるよう、ベルトの両側面を起点に取り付けた。


 仕上げにチューブトップとベルトの裏地、それから首輪の宝石に魔巧を施し、呪刻をして完成である。


     〈HP回復速度+極大〉

     〈MP回復速度+極大〉

     〈水属性耐性+極大〉

     〈HP吸収耐性+極大〉

     〈MP吸収耐性+極大〉

     〈防護障壁 極大〉


 こんな具合だろう。

 ちなみに〈防護障壁〉は〈魔導障壁〉の物理版であり、魔力を消費するのは変わらないが物理的なものしか防げない。ただネレイアは魔術的な能力が高いのでそちら方面は無理に補助せずともよいだろう。


 最後に、名前だ。

 アルティア標準語で『海の姫』という意味を持つ言葉、『マリシェンル』とする。


          《――『マリシェンル』が完成しました》


          《――完成品のステータスを通知します》


===  ===========================  ===


          ⇒ マリシェンル   防具【☆10(MAX)】

                属性:『水』


                物理防御力:184

                魔術防御力:327


                基礎能力:水属性耐性<Lv7>

                     環境適性<水中>


===  ===========================  ===


 これをネレイアが自身で装着するのはいささか無理があるので、手を貸してやらねばならない。『アリキュラル』と『マリシェンル』を持って厩舎の傍にある水場に向かう。


「……ネレイア」

「~~♪」


 呼び掛けに応え、ネレイアが水からざばりと上がってきた。ぽたぽたと滴る水が地面を濡らすが、


「……腕を上げろ」

「~~♪」


 気にせず指示を出し、従った彼女にチューブトップを被せて着せる。次いで垂れ下がっている首輪の裏面に魔力を流した。すると首輪の背面側が左右にそれぞれ二段開きに割れるので、それを彼女の首に宛がい再び魔力を流す。これでまた首輪の形状が戻り、つまりは首に装着された状態になった。もともと施されていたちょっとした魔巧とはこういうことである。


「……地面に手をつけ」

「~~♪」


 言う通りにしてよつん這い――足はないがとにかくそんな格好になったネレイアの尾鰭おひれから、ベルトを通していく。ゴムのように伸縮性のある素材なので、さほどの苦もない。途中、地についている部分は手で軽く抱え上げつつ、そうして腰までやってきた。


「……もういいぞ」

「~~♪」


 ここでやっと自分の施した魔巧の動作確認である。首輪の宝石に手をやり、魔力を込めた。ややあって皮の伸縮する音がかすかに聞こえ、チューブトップとベルトがネレイアの身体のサイズや線に合わさる。


「「「「「「「「「「……。んん?」」」」」」」」なのー」」


 アーニャたちやメイドたちは少し離れていたのでわからなかったようだが、間違いなく成功である。ネレイア自身も何が起こったか理解しているようだ。


「……武器はここに」

「~~~~♪♪」


 言いながらベルトの側面に拵えておいた同素材の留め具に『アリキュラル』を納める。反対側にも同じものがあるので好きな側を使えばいい。


「~~♪ ~~♪ ~~~~♪♪」


 嬉しさと喜びを込めるように楽しげに歌いだしたネレイア。つられてアーニャたちもそれぞれ歌ったり、獣耳と尻尾を揺らしたりと愉快げになる。


 そんな様子に温かいものを感じながら、作業台と素材や器具を片付けに戻った。と、メイドの一人、自分を担当している者もついてくる。


「お片付けでしょうか。では差し支えなければお手伝い致します」

「……素材の系統ごとにまとめる」

「畏まりました」


 やはりメイドといったところか、手際が良い。甲殻、皮、植物といった具合にそれぞれ袋にまとめられていく。

 そうして片付けを続けていると、メイドが徐に口を開いた。


「いよいよ明日、でございますね……」


 緑竜ディーガナルダ。間違いなくそれのことだろう。

 自分にとっては大した、というよりほとんど脅威ですらないが、リフィーズをはじめ彼女ら人にとっては違うのだ。神妙な様子なのも無理はない。


「いざというときは城の地下道より皆様をお逃がしするよう、仰せつかっております。……どうかそのときは無茶なお気を抱かれませんよう、まことに恐縮でございますがお従いいただきたく」

「…………」


 返事はしない。

 それに対しどう思ったのかは知らないが、メイドはそれから片付けが終わるまでの間、再び口を開くことはなかった。


武具の性能とかは少しフワフワしているので、もしかしたら今後変更したり調整する場合があるかもしれません。


次はいよいよ中二病……ディーガナルダ襲来の予定です。

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