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94話

うつ耐性のないかたはご注意ください。そこまで言うほどでもないかもしれませんが、一応です。

     ◇


 『戦闘指南書 ~基礎編~』。


 セルリーンの武器を作り終えて食事など諸々も済ませた夜頃やごろ、城の大書庫にてその書を開く。会心について調べるためだ。入門編などもあったのだが、そちらのほうには載っていなかった。


 ちなみにあの後から、セルリーンはハーネスに慣れようと飛行したり翼を薙ぐように振るったりと、とにかく嬉しそうに身体を動かしている。もちろん刃は納めておくよう言ってあるので、特に問題はないだろう。


 と、目的の項目を見つけた。ゆっくりと読んでいき内容を咀嚼しながらまとめていく。


 ……。要するに、会心とは簡潔にいうと『とても調子良く決まった鋭い攻撃』ということらしい。素人に毛が生えた程度の実力では狙って繰り出すのは難しいようだ。

 ただ、その威力は通常よりもかなり大きくなる、と書いてあった。


 なるほど。


 ひとまず知れることは知れたので書を閉じる。

 しかし、とはいえあのハーネスがどれだけ実戦で役に立つかは不明だ。こればかりは結局のところ、実際に目にしなくては何ともいえないだろう。


(……武器、か)


 思い浮かべるのは、ルヴェラやハニエス、それにティグアーデとネレイア。さすがに従魔すべてというわけにはいかないが、彼女らだけでもセルリーンと同じく武装させておいてもいいかもしれない。


 となると……ルヴェラには格闘術のスキルがあったので籠手や脚甲のたぐい。ハニエスは毒撃のスキルを持っていたので、それを活かせるような物を。ティグアーデは大棍術ということでもちろん大型の棍と、それからネレイアも鞭術なので鞭を……といったところか。


 だが、大まかに決まったものの今日はもう夜だ。明日いっぺんに作るほかないだろう。

 もう少し早くに思い立っていればこれらの素材もついでに見繕えたのだが、今さら仕方あるまい。


「シルヴェリッサ様、少々よろしいでしょうか」


 と、そこへ自分付きのメイドがおずおずとやってきた。それに「……ん」とうなずきを返すと、メイドは続きを口にする。


「今朝方より兵士たちが住民へ避難の勧告を始めたのはお聞き及びのことと存じ上げますが、先ほど『エッテアック』のほうにも赴いて伝えたそうです。その際、シルヴェリッサ様や皆様にも勧告は済ませたと伝えた、との報告が参りました」

「……わかった」


 つまり、明日は朝から自由に動ける、ということか。

 ならばちょうどいい。今のうちに、ルヴェラたちの武装に使用する素材をどのようなものにするか、ある程度かためておくことにした。





     ◆


(避難、かぁ……そんなこと急に言われても、店を置いていくなんて……)


 二階の自室。卓に頬杖をつきながら、はぁとため息を漏らす。


 兵士たちが言うには、少し前に竜の姿が確認され、この国がその進行ルートに入るおそれが出たためとのことだった。


 理由としては十分に十分、それは自分もわかる。

 だが……だがやはり、店を置いて逃げる気にはどうしてもなれなかった。


 自分とて竜は恐い。それは当然だ。

 けれどもこの店は、自分にとって宝であり、夢であり、そして全てなのである。


 とはいえ、恐怖も浅くない。

 きゅっと目を閉じ、深呼吸をする。ふたつ、みっつと続けると、いくぶん落ち着いた。


(大丈夫……大丈夫……よし)


 竜の目的が『移動』であるなら、この国への被害の有無や大小などはまだわからない。急に方向を変える可能性だってあるのだ。それにここには地下室もあるので、いざ危なくなればそこへ逃げ込むことだってできる。


 だから、きっと大丈夫。

 そう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替えた。


(さて、と。そろそろ寝ないと――)




     ――――ガタッガラララガシャアァァーーッ……!




「ひっ!?」


 思わず悲鳴がこぼれる。

 何かが勢いよく崩れたような……いや、もっと物々しい感じのする音だった。


(み、見にいったほうが、いいよね……)


 早鐘を打つ心臓の鼓動を耳に聞きながら、一階へ降りていく。


 静かだ。しかしその静寂が却って不安感を煽り、階段の軋む音などにも少しだけ怖じてしまう。


(そ、そうだ、武器! 武器とかあったほうがいいよね!?)


 万が一を思い至り、厨房で調理刀を――



   「ごめんく~ださいッ!☆」



「ひあああああああああああぁぁぁぁぁーーッ!?!?」


 絶叫。

 咄嗟に鍋を手に取り頭に被る。その際にいくつかの器具や他の鍋などが崩れてガシャシャアァンと大きな音を立てたが、それどころではない。


「ちょっとちょっと~、クーちゃんてば大丈夫~?☆」

「ふぇ……? あっ」

「ごめんね~、おどろかせちゃったかな~☆」

「ゼ、ゼビア、ちゃん……?」


 やってきたのが彼女だとわかると、すうっと心が鎮まった。

 表の出入口はもう鍵を閉めてあったので、裏口から入ってきたのだろう。しかし、見たところ一人で来たようだが何の用なのだろうか? もう子供が出歩くには関心できない時間だが……そう、そうだった。


「あ、危ないよゼビアちゃん! さっき裏口のほうから大きい音が!」

「ああうん、そのことできたんだよ☆」

「え?」


 どういう、ことだろうか。わからない。

 首を傾げていると、ゼビアはにこにこと続けた。


「えっとね~、あたしチャンの配……部下の子がね~、裏口のところでへんなひとつかまえたみたいなの~☆」

「裏口……へんな、ひと? ――あっ!」


 部下、という言葉など気になる点はあるが、それよりも今の二つでハッとなった。もしや……以前の残飯あさり、だろうか。


「およ、もしかして知り合いかな~?☆」

「えっ、と……知り合いというか、まあ、うん……」


 どう答えたものかと歯切れ悪くしていると、ゼビアは「ん~?☆」と子供っぽく首を傾げた。


「とりあえず敵とかじゃない感じかな~?☆」

「あ、うん。それはたぶん」

「そっかそっか☆ じゃあ、ちょっとつれてくるね~☆」

「え、あの」


 止める間もなくゼビアは裏口のほうへいってしまった。つれてこられても困るのだが……。


「おまたせ~☆」

「あ、あのねゼビアちゃん、別につれ、て……え――?」


 彼女の後ろから姿を見せた人物に、思考が止まる。カタタン、と踵のほうで鍋の鳴る音がした。無意識に足を引いていたらしい。

 相手のほうはあらかじめ自分のことに気づいていたのか、姿を見せる前からうつむいて身体を縮めていた。……まるで自分に見られるのが辛いかのように。


「ロペリ、姉、さん……?」

「ッ……!」


 自分が呆然とつぶやくと、その女性――ロペリはビクッと身体をこわばらせる。そして、


「み、みな……い、で……ッ!」


 かすれるような声でくずおれ、さらにその身体を縮めた。

 その――痛々しく焼け爛れた身体を。


「なんで、そんな……」


 頬や口、鼻や首まわりにまでも爛れは広がっていて、かろうじて目のほうは無事だがその瞳には深い絶望や悲壮の色が見える。ボロボロに煤けた布切れをまとい、もともとの色が火傷に塗り潰された腕はだらりとしていて、足も……。


 あまりの状態に、言葉を失う。


 しばらく沈黙が続き、ゼビアが「む~☆」と唸った。


「えっと~、とりあえず知り合いだったってことかな~?☆」

「ぅ……う、ん」


 なんとかうなずきを返す。


「そっか☆ じゃああたしチャンはもう帰るね☆ おやすみばいばい~♪☆」

「え……あ、ちょ」


 もういってしまった。

 この状況でまったく心を乱すこともなく……本当にあの娘は何者なのだろう。


 いや、いまはそんなことより。


「ロペリ姉さん……」

「…………」


 反応はなかった。くずおれた状態のまま、ずっとうなだれている。


 その様子に少し喉が詰まりかけたが、なんとかもういちど口を開いた。


「その……とりあえず、向こうの部屋で座って話そうか」

「…………」


 無言。だが了承はしてくれたのか、よろよろと立ち上がろうとする。その動きを見て、再び愕然とした。


 腕はだらりとしたまま肩から壁によたれ、身体を押し上げるようにしながら足をよろりと立たせようとしている。が、


「ッ、ぅ……!」

「! ロペリ姉さん!」


 ガクリと体勢を崩し、倒れかけた。

 それを咄嗟に受け止め、枯れた肌の感触に酷い悲壮を感じながらも、手をかして立たせる。


「あ、の……」

「……ご、めん、なさ、い……」

「い、いや……」


 また、沈黙。

 ……もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。自分がいまどんな顔をしているのかもわからない。


 ロペリは伏し目に涙を浮かべながらうつむいている。見るに耐えなかった。


 それからどれだけの静寂が続いただろう。

 わずかばかり正気を取り戻し、なんとか口を開く。


「あの、その腕、は?」

「ッ……!」


 するとロペリはいっそう辛そうに身体を縮めた。……やはり、そういうことらしい。


(なんで、こんな……)


 以前シルヴェリッサに話した通り、ロペリはどこぞの屋敷で奉公に出ていたはずだ。それがいったい……いや、とにかく。


「こっちで、話そう。ついてきて」

「…………」


 かすかにうなずいて、休憩室についてきてくれた。

 向かい合って座る。


 そして。

 いざ話そうとすると、とたんに口が重くなったのを感じた。

 しかし、意を決して問いかける。


「それで……なにが、あったの?」

「…………」

「やっぱり、話すの、辛いよね……でも、話してほしいの。お願い」

「クー、ナ、ちゃん……」


 じっと、ロペリの目を見つめる。

 聞いても嫌な気分になるのは絶対だろう。それに聞いたところで、自分に何ができるというのか……きっと何もできはしない。だが、それでも……それでも、知りたかった。


「………………4年、前、に」


 ほんのわずかでも力になれるかもしれないなら。そんな自分の思いが通じたのだろうか。

 ゆっくり、まだ躊躇いがちながらも、そうしてロペリは言葉を紡ぎ始めた。

クーナ = 食う

ロペリ = ペロリ(たいらげる的な) ※大食いキャラではありません


食事店の店主で料理人なのに『食うな』とはこれいかに。


クーナ「いやそういう名前じゃないから!」




ちなみにクーナの師匠の名前も決まってますが、それは機会があればということで。


クーナ「実はものすごく有名ですごいひとなんだよっ」



忘れてるかたも多いと思いますが、ロペリは昔クーナが村に住んでいた子供の頃、近所に住んでいた優しくて美人なお姉さんです。


クーナ「ロペリ姉さん……いったいなにがあったの……?」

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