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93話

     ◇


「ごはんく~ださいッ!☆」


 かなり元気な客がきた。

 子供、だろうか。カクカクと鋭曲したおさげが特徴的な髪型と鮮緑ビビッドグリーンの髪色で、そして傍らにはもうひとり、薄桃髪で体格の大きい女性もいる。


「ゼビア、あんまり食べ過ぎないようにするのな」

「わかってるって☆ じゃないと他のひとたちの食べる分がなくなっちゃうもんねッ☆」


 体格を見る限りそのやりとりは台詞が逆ではなかろうか。いや、まあ別にどうでもよいことだが。


「あ、おね~さん、きてきて~☆」

「……ん」


 席に座ったその少女から呼ばれたので歩み寄る。

 にこにこと楽しそうな目で見上げられた。


「えっとね~、”シュトゥランとルフーレン茸の煮込み物”を10皿と~”ゼルフェバードのムネとモモ肉焼き”20皿と~、あと”野菜と茸のシチュー”15皿と~、”ファーユのパイ”と”ポポンのパイ”と”ニギフのパイ”20皿ずつッ!☆ それから果実水は20杯ッ☆ あ、マムちゃんはどうする~?☆」

「適当につまませてもらえればそれでいいのな」

「じゃあ以上で~☆」

「……ん」


     「…………」

     「…………」

     「…………」

     「…………」

     「…………」


 そこかしこで客が呆然としていた。カーヤたちも同様である。

 気持ちはわからないではないが、しかしそこまで驚くほどだろうか。いや、まあいい。


 ……それにしても。



(……やはり見張られている)



 今朝に来たときから店の周囲に無数の気配を感じていたのだが、どうも妙なのだ。

 というのも、悪意や害意が全く感じられないのである。それどころかむしろ、見守るような色だった。


「…………」


 考えてみるが、どうにもよくわからない。

 だがなんにせよ店に害を為さないようなら、無理にわかる必要もないだろう。



     ◆


 ゼビアは、今しがた店の奥のほうへ歩いていった銀髪の店員に目を向けた。


「……気づいてたね、あのおね~さん☆」

「みたい、なのな」


 自分の呟きにマムモムもやや神妙にうなずく。


 昨夜からこの店にはクーナを守らせるべく自分の配下を付けているのだが、あの銀髪の店員は間違いなくその存在に気づいていた。


「むむ~、人間にしてはやるね~♪☆」

「のな」


 珍しいが、まあ全くありえないことでもない。それに、気づいているにも関わらず捨て置いているということは、おそらく敵意や害意がないこともわかっているのだろう。

 ならば、さして問題もなかった。


     「そういえば今度、いろんな国の王様が集まって親睦会するんだって」

     「ああ、知ってる。この国も参加するんだよね」

     「うん、でもなんか代表騎士がどうとかって」

     「あー、まだ発表されてないね。なんかあったのかな」

     「まあ大丈夫じゃないの」

     「親睦会かー。ていうか暗殺者とか大丈夫なのかな……」

     「セブル・アムの警備なめんなよ」

     「なんであんたが威張る」


 と、他の客たちのそんな会話が耳に入り、マムモムと目を合わせる。


「親睦会だって☆」

「ん、聖女の情報集めによさそうなのな」

「帰ったら報告、だねッ☆」


 少し小さくやりとりをし、互いにうなずきあった。

 やはり食事はすばらしい。こんなふうに情報にも繋がるのだから。


「それたぶん関係ないのな」

「心読まれちゃった♪☆」


 てへっ、と舌を出した。




     ◇


 どうやら先ほどの大食の少女たちはクーナの知り合いだったらしい。今日もおいしかったよ、という言伝てを頼まれたので店が終わってからクーナに伝えると、出会った経緯を聞かされたのだ。


 ちなみにあの大食の少女は、注文した品々を綺麗に平らげて帰っていった。


 まあとにかく今日も仕事は終わり、現在はセルリーンの武器をなんとかすべく様々な武器屋を見て回っている。……が、どうにも芳しくない。


 そもそも魔物用の装備自体が稀なのだ。

 ”オーガ”や”ゴブリン”などの人型であれば人間用の物で事足りるだろうが、”ハーピー”であるセルリーンはそうもいかず、どうしたものかと思案する。


「お客さん、何か探してんのかい?」


 と、店主と思われる男が寄ってきた。

 このまま悩んでいてもと考え、答えることにする。


「……ハーピーの翼につける武器」

「ふむ、珍しいこと考えるんだな。しかし……むう、どうしたもんか。”ハーピー”だと鞘も使えんだろうし自分で着脱もできんだろうから、抜き身で危ないうえに不便だぞ」


 たしかにそれは考えていた。だが自分も改善案が見つけられずにいる。

 店の男はさらに唸って考え込むと、やがて徐に口を開いた。


「俺は専門外だから断言できんが……魔巧技術を使えば何とかなるかもな」

「…………」


 なるほど、一度その方向で考えてみてもいいかもしれない。

 あと気揉みなのは威力なのだが……。


「しかし”ハーピー”か……それなら正攻法より、ちょいと工夫を凝らした性能のほうがいいと思うぞ。もともと肉弾戦向きの種族じゃねぇしな」

「……工夫、とは?」

「例えばだが、いやその前にひとつ訊いておこう。お客さん、装備には特殊な能力がついた物もあるって知ってるか?」


 首を横に振る。聞いたこともなかった。


「そうか。じゃあ簡単に説明すると、同じ鉄の剣が二つあったとする。一方は何の変哲もない剣で、もう片方には〈攻撃値+10〉っつう効果がついてるとしよう。すると前者よりも後者の剣のほうが威力が高まるんだ」


 それはかなり有用だ。しかしその特殊効果とやらはどうすればつくのだろうか。


呪刻じゅこくって技術でな、それ専門の職人が素材を使って呪紋じゅもんを刻むことで効果が付与されるんだよ。そこそこ珍しいスキルでな、どの効果も割高だが需要は高いぞ」


 自分の疑問を先回りしたように男が答える。なるほど、と情報を整理していると男は続けて口を開いた。


「一つの装備につけられる呪紋は呪刻のスキルレベルに依るんだが、俺が知る限りの最大数は三つだな。……おっとそうそう、”ハーピー”だな”ハーピー”。あくまで俺のおすすめだが、〈会心威力+〉とか会心系の効果の武器が合うと思うぞ。隙をついて一撃でも決めれば、相手にかなりの痛手を負わせられる」

「……わかった」

「おう。まあ何にせよこの店じゃ扱ってないんだが……そうだ、知り合いに職人がいるなら頼んで作ってもらうって手もあるぞ」

「…………」


 そうだ、なにも購入して手に入れなければいけない理由もない。

 作ればいいのだ、自分の”この手”で。


 その”呪刻”とやらも、”神の手”の効果によって『できる』と自分でわかった。となると問題なのは必要となる素材だが、これについては”神の庫”に大量にあるのでそれを活用できないか考えようと思う。


 そうと決まれば、帰って子細を詰めようと判断し、店を後にした。


「何かあったらまた寄ってくんな、べっぴんさん」


 男の朗らかな声を背に、表で待っていたカーヤたちを連れ帰路についた。






 さて。

 と自室のソファに腰を下ろす。


「…………」


 目の前の卓には”神の庫”から取り出した素材がいくつか転がっている。それらを順番に手に取って具合を確認していき、セルリーンの武器を作るのによさそうな物を探した。


 しかし、どれもあまり想定しているハーピー用の武器には合わないことがわかる。

 どういった素材が良いのか、ともう少し深く思案してみると、ややあって答えが浮かんだ。


 軽量でなおかつ硬く丈夫な骨。

 ハーピーという種族にとって、翼が最重要な部位であるのはいうまでもない。よってそこに装着する装備もとても重要になってくる。

 要するに、飛行の邪魔にならない物でなくてはいけないのだ。重いなど論外である。


 とはいえ牙や爪の素材ではいささか小さいし、金属系ではまず間違いなく重い。ということで、骨がふさわしいとの結論なのだ。


(あとは……革か)


 当然だが、骨で刃を作ったとしても身体にそのままつけるなどできない。それで革を使ったベルトのような物に刃をつけ、身体に装着させる形にするのだ。

 そしてもちろんこの革も、軽量かつ丈夫でなくてはならない。


 それから呪刻についても必要な物がある。まず呪紋を刻むための小さな棒と、特殊効果となる呪紋自体を作る素材だ。


 例の緑竜ディーガナルダがくるまでに間に合わせようと考えると、今から必要な物をそろえに出かけたほうがいいだろう。そう思い、素材ギルドとラナンド商会に行くべく城を後にした。




 それからしばらくで無事に諸々をそろえ終わり、城へと戻る。厩舎のすぐ傍に”黄岩陸”の力で土の台を作り、布袋から器材や素材を取り出し広げていった。”神の庫”に入れて持ち帰ってもよかったが、すぐに使うものであることと野外で作業をするつもりであったので、そのまま手に持つことを選んだのである。


 自分の帰りを待っていたアーニャたちやメイドたちなどはなにが始まるのか気になるようで、少し離れたところからじっと見つめていた。


 まず最初に行うのは骨を鋭く削って刃にする作業。骨削こっさく用のナイフで[ゼルフェバードの髄骨]の形を少しずつ整えていき、鋭利に仕上げていく。


     「なんて良い手際……」


 だれかがそうこぼしたが、気にせず次の工程へ。

 仕上がった一対の骨の刃を脇に置き、革の帯を手に取る。そして、


「……セルリーン」

「ピュイーっ!」


 彼女を呼ぶと、元気よく応えて横にきた。その頭を軽くなでてから翼の付け根に革帯を巻いて長さを計り、ちょうどいいところに印をつける。続いて反対の翼でも同様に。

 それから付け根の上側同士と下側同士の横幅も計り、翼の上辺部分の長さも計った。


 その結果を基に革帯を調整しつつ、革製の接ぎ具をや紐を使って帯と帯とをハーネス状に繋いでいく。最終的な仕上がりとしては、正方形とその上の辺が左右に伸びたような形状だ。


 次にまた骨の素材を手に取る。”ルーゲファール”という大型の鳥魔物の座骨で、これを加工し革紐と併せて革のハーネスにきつく固定した。翼の上辺に当たる部分の左右で、計2箇所だ。

 ここに、最初に作った骨の刃を取り付ける。


 これで完成、ではない。

 ハーネスの中央、正方形の中の部分に、胸の上半分を覆う形になるよう革の生地を縫い付けた。


 と、そこでひとつ思いつき、いったんセルリーンに向き戻る。


「……羽根を少し使いたい」

「ピュ。ピュイッイ」


 セルリーンはすぐにうなずくと、両翼を上下にぶん、ぶんと二回振って羽根を落とした。

 4枚おちたそれらを拾い、念のため買っておいたとある液体で濡らす。この液体は羽根などの損耗しやすい素材を保護し、加工に使いやすくするためのものだ。


 それから空気に晒して乾かした羽根を、革の下地に緑色の小さな宝石をつけた物に取り付けブローチを作る。そのブローチを、ハーネスに拵えた革の生地にしっかりと縫い付けた。


 ここから仕上げの段階に移る。


 準備としてさまざまな魔物の血液や骨粉、植物の種や葉などを混ぜ、いくつかの呪紋触媒を用意した。


          《――呪紋〈会心率+5%〉が完成しました》


          《――完成品のステータスを通知します》


===  ===========================  ===


          ⇒ 会心率+5%   呪紋【☆10(MAX)】


                [効果:EX]

                  ★ +5% → +50%


===  ===========================  ===


 こういった具合の通知が続き、すべて問題ないことを確認した。


 次に、ハーネスに縫い付けたブローチの宝石に指を当て、魔力を込めながら文様を紡ぐ。


     「た、たった一人で魔巧まで……すごい」


 まただれかの呟きが聞こえたが、気にせず続ける。

 ブローチに続いて、骨刃とハーネスを繋ぐ[ルーゲファールの座骨]の留め具にも同じように文様を紡いだ。もちろん左右の二つ両方に。

 うまくいったか確認するため宝石に手をかざして魔力を込めると、紡がれた文様が淡く光り、二拍ほどして骨刃がシュイッと半回転し刃のない反対側が表に出た。これでいい。


 おお~、という皆の声を傍に最後の工程へ移る。呪刻だ。


 筆のように持った棒の先端に呪紋触媒を取り、また魔力を込めながら骨刃に紋を描く。それを左右の刃に3回ずつ、計6回つづけた。


 付与した効果は、


   〈会心率+50%〉

   〈会心率+50%〉

   〈会心威力+極大〉

   〈MP吸収 極大〉

   〈風属性物理攻撃威力+極大〉

   〈風属性魔術攻撃威力+極大〉


 以上である。

 二つの刃は、というよりハーネスもすべて含め一つの装備だ。なのでどちらの刃で攻撃しても、6つ全ての効果が適用される。


 つまり確実に会心が狙えるわけだが、そもそも会心とはどういうものなのだろうか。詳しいことはどうにもわからないので、このあと城の大書庫で調べようと思う。


 しかし、ともあれ完成だ。名前は……『ボーンエッジハーネス』といったところか。


          《――『ボーンエッジハーネス』が完成しました》


          《――完成品のステータスを通知します》


===  ===========================  ===


          ⇒ ボーンエッジハーネス   武器【☆10(MAX)】

                属性:『風』


                物理攻撃力:167

                魔術攻撃力:101

                物理防御力: 32

                魔術防御力: 13


===  ===========================  ===


 ……偶然、だろうか。

 いや、もしかすると自分に限らず製作者の名付けが正式となるのかもしれない。


 ともかく、傍らでとてつもなく嬉しそうにしているセルリーンに装着させてやる。

 彼女は自らに着けられた『ボーンエッジハーネス』を確認すると、跳び回って喜んだ。ちなみに刃は納まっている状態なので危なくはない。


「ピュイイイイイイッ、ピュイッピュイイイイイイイイイーーッ!」


 尋常ではない喜びようのセルリーンを、他の従魔たちは心底うらやましそうに、アーニャたちなどは笑顔で拍手しながら見つめている。


 それからやがて自分の胸に飛び込んできたセルリーン。

 どうやらこれで、ひとまず悩みは失せたようだ。

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