83話
注※ 主人公不在の巻
新キャラかなり出てきますが無理に覚えなくても大丈夫ですので
そして日をまたいでしまいましたがメリークリスマス!
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清らかな朝の日差しが、窓に掛けられたカーテンのわずかな隙間を見つけ、太陽の訪れを優しく囁きにやってくる。
誰に、と問われればそれは、この部屋の主である少女にだ。
天蓋つきの豪奢な寝台に眠るその彼女は、ソウェニア王国において三柱と評される三つの大貴族の、うち一つの家の娘である。
名をエルツィアといい、多くの貴族女子の例に漏れず非常に麗しい見目をしていた。
すべらかな肌。潤やかな碧い瞳。瑞々しい薄桃の唇。
その他も母や姉に似て美しく揃っており、エルツィア自身も自らの容姿を好く思っている。
――――たった一点を除いて。
「…………はぁ」
暖かな日差しに目を覚ましたエルツィアはゆっくりと上身を起こし、次いで己の髪に手をやると、深い嘆息を落とした。
そう、髪である。
これこそがエルツィアにとって唯一、自分の身体で不満に思う部分なのだ。
もうみなまで触らずともボサボサ暴れているのがわかり、嫌になる。
もともとこのファースアル家は代々こういった髪質が産まれやすい家系なのだが、しかしそれで納得および我慢がいくかと問われれば答えは断じて否だ。
どれだけ時間をかけて梳かしても。ありとあらゆる整髪品を試してみても。
それらの努力すべてを嘲笑うかのように、期待はことごとく撃ち落とされ、わずかにも報われることはなかった。
婦女子として、髪にこのような問題があるのは由々しきことである。特に年頃といっていい年齢のエルツィアにとっては、それはもうとんでもなく大きい悩みの種なのだ。
たとえば、同年代の周囲が恋に色めきだす中、自分もそういったことに興味がいくのは自然だろう。が、この艶も色気もない髪でどうして尻込まずにいられようか。
(……ダメね。朝からこんなに沈んでいては、お父様やお母様たちにご心配をおかけしてしまうわ)
陰鬱な気持ちに呑まれぬよう一つ頭を振ると、寝台の脇にある小卓に置かれたベルをチリンと鳴らす。
するとややもあらずコンコンコンとノック音がし、次いで『失礼いたします』という声とともにメイドが部屋に入ってきた。
「おはようございます、お嬢様」
「ええ、おはよう」
恭しく礼をするメイドに、微笑を返す。
そして寝台から出ると衣装棚のほうへ向かい、その前で軽く両手を広げた。すると追従してきていたメイドが、エルツィアの服を流れるような手つきで次々と脱がしていく。
「今日はお友達が遊びにくるの」
「はい、窺っております。そのままお出かけになられますか?」
「そうね……しばらくは私のお部屋でお茶をして、それから少しお散歩にしようかしら」
「畏まりました、旦那様にお伝えしておきます」
「いえいいわ、このあとすぐに朝食でしょう? お父様には自分で伝えるわ」
「畏まりました」
話しながら、メイドの手によって来客用の少し華美なドレスに着替えを済ませた。衣装棚の傍にある姿見で具合を確認する。
「うん、いいわね」
「良くお似合いでございます」
「ありがとう」
白いレース調の中衣に、フリルのついた深緑の上衣。
上衣は胸の部分とスカートの前面が空いた物なので、そこから中衣の白が顔を見せている。腰には、おとなしめのフリルと前面に飾り結びのリボンが添えられたコルセットが、可憐さを彩っていた。
袖は中衣のほうが長く肘まであり、上衣のほうはそれより少し短い。中衣の袖先は小さく広がったフリル状で、上衣の袖はそれに従する形だ。ちなみに上衣にはカフス代わりの結び紐と、その上部に装飾の一つである楕円状の空きが作られている。もちろんそこからは中衣の白が覗いていた。
スカートの裾は足首まで。足履きはなく、低めのヒールの靴を直に履いている。
「でも……少し派手すぎたかしら?」
「あら、そんなことないわ、素敵よエルツィア」
「お、お姉様っ、いつの間にいらしたの?」
「ふふ、今よ」
口元に手を当て上品に笑う姉。おおかた自分の反応が予想の通りで可笑しかったのだろう。その同性でも溜め息が漏れそうなほど可憐な笑顔にこちらも怒るに怒れず、結局は苦笑で返した。
「もうお姉様ったら、ノックくらいしてくださいませね?」
「ふふ、ごめんなさい。今日はお友達がくるのよね?」
「ええ、そうです。サーヅリス家のソリステラ嬢よ」
「あなたたち本当に仲がいいわね。この間はあなたがあちらのお家へ遊びにいっていたし、学院でもいつも一緒なのでしょう?」
「ソリスとは幼なじみですから。それにその……学院では他にお友達と呼べるような方がいらっしゃらなくて」
エルツィアもソリステラも、言うまでもなくこの国で最も有力な貴族の家柄だ。なので機あらば擦り寄ってくるような者たちには事欠かないが、しかしそういった関係を友とは呼べないだろう。
アルティール学院それ自体は生徒同士の身分差による差別や迫害を否定しているが、その理念を正しく理解している生徒は非常に少ない。ゆえに自分たちのように、身分の同じ生徒としか友達になれない者も多いのだ。
実は何人かこちらから友達になろうと声をかけたり、食事に誘ってみたりと試してみたのだが、いつも決まって「お、畏れ多いです!」と断られてしまい感触は芳しくない。
「そうねぇ……わたくしの在学中も同じだったわ」
「お姉様も?」
「ええ。セカンデリグ家のヒランジア、知っているでしょう? あの子といつも一緒だったわ」
「ヒランジア様、ですか……気高いお方ですから、私たちとは違ってお友達がいなくてもお気になさらなそうですね」
「ふふ、そうね」
姉はまた上品に口元に手を当て、やわらかに笑う。同時に流れるなめらかなベージュ髪が、とても綺麗だった。
自分と違い、母から美しい御髪を受け継いだ姉のことが、エルツィアはとても羨ましいと思っている。今より少し幼かった頃には羨望からの妬みもあり、嫌ってしまっていた時期もあったほどだ。
しかし、そんな恥ずべき時期も昔のこと。この優しく素晴らしい姉を、今は妹として心から慕っていた。
「あら、そろそろ朝食の時間だわ。エルツィア、一緒にいきましょう」
「はい、お姉様」
「――では、いただくとしよう」
父が言って一口食べると、他の皆も次いで手をつけ始めた。食事の席ではまず、一番上の立場の者が最初に手をつけるまで待つのが礼儀なのである。
食事が始まって少しすると、父が話口を開いた。最近はいささか悩みの色が多いように思ったが、今日は珍しくやけに喜色を帯びているようだ。
「実はな、リフィーズ陛下から例の件でついに良い返事を頂けたのだ」
「まあ、おめでとうあなた」
母が上品に喜び、淑と微笑んで賛辞を贈る。
しかし、例の件とはどれのことだろう。父は仕事柄さまざまなことに手をつけているため、ピンとこない。
「やりましたね父上。それで、他の貴族はどうなったのでしょう?」
「セカンデリグ家も同様の返事を頂いたらしい。まあ概ね妥当な選別といったところだな」
どうやら兄は何のことか理解しているようだ。さすがこの家の嫡子といったところか。
ちなみに兄の髪もまたエルツィアのものと同じような質で、毛が生えていた頃の父の髪型とそっくりである。
要するにつまるところ、父は現在髪無しだ。たしかそうなったのは自分が7つくらいのときで、過労が原因らしい。
「なるほど、やはりセカンデリグ家もですか。……ではサーヅリス家は?」
「間違いなく外されただろうな。今のところ我がファースアル家とセカンデリグ家だけだ」
「それは……やはり元老院長サイモンが原因でしょうか」
「十中八九そうだろう。サーヅリス家の現当主が病に倒れ、前当主たる彼の老人が家を取り仕切るようになってからというもの、少しばかりキナ臭くなってきているからな」
それはエルツィアも知っている。サーヅリス家の長女たるソリステラも、あれから時折元気がないときがあるのだ。
友として支えてあげなければなるまい。
「ああ、そうだ。サーヅリス家といえばエルツィア、今日はソリステラ嬢が見えるのだったな?」
「ええ、お父様」
話が自分にきたので、にこりとうなずく。
「ならば帰り際にでも構わない、ご当主の容態について訊いておいてくれるか? 大したことにはならないとは聞いているが、やはり友としては心配でな……」
「はい、わかりました」
「うむ、頼んだぞ」
そうして一旦の区切りがついたのを見計らい、気になっていたことを訊ねることにした。
「それでお父様、リフィーズ陛下から良い返事を頂けた『例の件』とは、いったい何なのですか?」
「ん? ああ、あれか。お前も陛下がお連れになった銀髪の客人は知っているだろう? その客人への目掛かりだよ」
「まあ! 本当ですの、お父様!」
と、姉が興奮した様子で加わってきた。これほど声を高ぶらせるとは珍しい。
しかし、それも無理もないことかと思う。
「お父様、お願いします! わたくし6色の”ジュエリーパピヨン”が見てみたいのです!」
「あら、わたくしも見てみたいわ。ねえあなた?」
そう、姉と母は多くの婦女子の例に漏れず”ジュエリーパピヨン”に憧れがあるのだ。
「あの、私もです、お父様」
そして自分も同じく。
兄がそんな母娘3人を見て口角を上げ、父が「しょうがないな」というふうに苦笑した。
「なるべく、善処しよう」
その言葉を聞いて、母娘3人そろって期待に胸ふくらみ上機嫌になるのだった。
シルヴェリッサ「……メリークリスマス」
リゼフィリア「メリークリスマスです」
ナーラメイア「メリー。クリスマス」
ドゥムカ「メリクリだニ!」
なんか急にごめんなさい
やりたくなったんです




