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79話

     ◇


「「「いらっしゃいませー」」」

「「なのー♪」」


 翌日。

 二つ返事でさっそく働くことになったカーヤたちが、もう何度目か元気に客を迎える。ちなみに彼女らとアーニャたちとは1日交代ということになり、今日ここにいない残り5名は城だ。


 それから服装だが、さすがに子ども用とそのうえ獣人用も兼ねたものはないらしく、自前のものに腰エプロンをつけた格好で働いている。

 カチューシャについては、少し大きいながらも合う物があった。


果実酒フェール2つおねがい~」

「へーい」 カーヤ

「”シュトゥランとルフーレンだけの煮込み物”ちょうだいー」

「りょーかーい」 キユル

「このお皿さげてくれるー?」

「わかったのだー」 クアラ

「4人なんだけど、席に案内してくれるかな」

「はいなのー♪」 ケニー

「ね、ねぇ、あの銀髪の人と知り合いなの? し、紹介してほしいなー、なんて」

「だめなのー♪」 コニー


 といった具合で、今日も勢いよく食材が減っていった。朝方クーナに連れられて市場で買い込み、昨日より大量に仕入れていたのだが、それももう尽きかけているらしい。


「お姉さん、ちょっとでいいからさー、おっぱいさわらせてー♪」

「…………」

「あはは、昨日と同じじゃないの! バカじゃん、あんた!」

「そっかそっか、また昨日みたいにその胸、もみしだかれたいんだね」

「あ、や、ちがうの、いやほんとに、まっ、まま待っておねがひやゎああぁっ///」


「「「「「……///」」」」」 カーヤたち


 それにしても、やはり子どもゆえかカーヤたちは慣れるのが早い。さすがにてきぱき、とはとてもいかず拙さも多少あるが、もう自分たちだけでも基本的なことは対処できるぐらいにはなっていた。

 会計は算術が必要なのでできないが、それでも十分といえるだろう。


 それにその算術も、今回の話を聞いていた世話役のメイドたちが教えると名乗り出てきたのだ。城に残ったアーニャたちは、今頃これを習っているはずである。

 数日もすれば、会計もできるようになるだろう。


「シルヴェリッサ、看板さげてきて!」

「……ん」


 と、どうやら予想通り食材が切れたようだ。厨房から飛んできたクーナに返じ、昨日と同じように表の看板を下げにいく。


「え、あれ、もしかしてもう店じまい?」

「……ん」

「うあーマジかー」

「むう、しょうがない」

「また明日こようよ」

「そうね」


 残念そうに去っていく客らを横目にしつつ、中に戻る。

 それからしばしで店内の客もすべて引き、片付けの時間となった。


 今日は昨日と違い、カーヤたちもいる。正確には今日以降もだが、まあとにかく卓などのほうは彼女らに任せ、シルヴェリッサは厨房のクーナを手伝うことになった。


「いやー、おかげで今日も盛況だったよ、ありがとう。あのちびっこたちも、よくやってくれてたみたいだね、ふふ。ある程度かたづいたら、ちょっと遅いけど昼食がわりの料理だすからさ、あの子たちと食べなね」

「……ん」


 クーナの雑談を耳に流しつつ食器などを洗っていると、なにやら台の隅にある小さな木箱が目についた。中には細長い菱形の葉が、八分目ほどに詰まっている。

 いったい何のためだろうか。疑問に思っていると、クーナが「あっ」と小さく声を上げた。


「そういや、けっこうたまっちゃってたんだった。棄てるの忘れてたよ、それ」

「……なぜ棄てる?」


 毒かなにかがあるのだろうか。


「”ニギフ”っていう果実の葉っぱなんだけどね、とんっっっでもなく苦いんだ。煮ても焼いても、何をしてもね」

「…………」

「実のほうは普通に甘いんだけど、この葉っぱを落とすとすごい勢いで甘味が抜けてっちゃうから、使う直前に処理しないといけないんだ。で、その箱の中身ってわけ」


 なるほど。

 理解はしたが……どうにも納得はできない。


 苦いとはいえ、食べられるものを棄てるのは気が否むのだ。

 どうにかできないだろうか。と思案に入ったとき、頭に解決法、というよりも”ニギフの葉”の調理法が浮かんできた。


(……”神の手”か)


 以前に料理をしたときも、同じようなことがあった。

 何であれ、この葉が活用できるならば、なおさら棄てるのはあり得ない。


「……”デト草”はあるか?」

「え? いや、そんな薬の材料なんて置いてない、けど……?」


 ならば仕方がないので、”神の庫”から一掴み分を取り出した。もちろんクーナからは見えないように。

 そして調理用の小さな丸い鉄型に”ニギフの葉”を半分ほど移し、”デト草”も入れて一緒に揉み合わせていく。


「えっと、それ”デト草”だよね。……なにしてるの?」

「……揉み合わせている」

「うん、それは見たらわかるけど……ていうか”デト草”、どっから出したの?」

「……スカートの中、足のポーチ」

「そ、そっか」


 なぜだろう、クーナが少し恥ずかしそうに目を逸らした。


 ……と、そろそろいい具合だ。

 混ざわった”ニギフの葉”と”デト草”に水を加えるため、部屋の中央あたりに置かれた保水樽へ鉄型を持っていく。

 胸ほどの高さのこの大樽は、詳しい造りは知らないが”魔巧器”らしい。その側面上部についた上向きの蛇口を下向きに捻って水を出し、”ニギフの葉”と”デト草”の全体が浸るくらいまで入れた。


 これで作業は終わりである。あとはこのまま置いておけばいい。

 残りの”ニギフの葉”も同じようにして、鉄型をもう1つ仕込んでおいた。


「……ここに置いておく」

「え? あ、うん、それは別にいいけど……いつまで?」

「……明日」

「ん、わかった」


 時間は3刻ほどでいいのだが、”デト草”には保存作用があるので、仮に7日ほどは置いておいても問題はない。


「よっし。じゃ、正直それについては気になるけど、明日のお楽しみってことで。残り片付けちゃおっか」

「……ん」







 片付けを終え、ソウェニア城の内門で各々の担当メイドらに迎えられつつ、自室へと戻ってきた。正確には自分のものではなく宛がわれた部屋だが、どちらにせよ自室と言って支障ないだろう。

 まあ、それは別段どうでもいい。


「シルヴェリッサ様、少々お話がございまして。よろしいでしょうか」


 とにかく部屋に戻ると、追従していた自分の担当メイドがおずおずと話を寄越してきたのだ。

 特に否む理由はないので、うなずいた。


「……ん」

「ありがとうございます。皆様、特に獣人族の方々にマッサージをさせていただきたく思うのですが、いかがでございましょうか?」


 マッサージ、はわかるが、なぜ獣人族を特するのだろうか。

 疑問に思ったのを察したのか、メイドがその理由を続けた。


「獣人族の方々のお耳や毛の深い部分、尻尾などですね。そちらには汚れが溜まりやすく、そのまま放っておくと臭いがついてしまうのです」

「「「「「「「「っ!」」」」」」」」


 それを聞いた獣人種8名がビクッ、と尻尾を抑え、耳をペタリと畳んだ。知っていたのか、それとも薄々気づいていたのだろうか。

 別に今まで一度も臭ったと感じたことなどなかったのだが、当人たちとしてはどうも気にせずにいられないようだ。


「幼いうちはそう気に揉む必要もないほどではありますが、汚れは取って悪いことはございませんし、それに気持ちがおよろしいと思いますよ。いかがでしょう?」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


 獣人種8名がなにか思わしげにこちらの顔をちらりちらり見つめてくる。どうやら受けたいらしい。


「……わかった」


 メイドへ肯定を返すと、その8名は傍で嬉しそうに笑んだ。


「はい、畏まりました。では本日の湯浴みの際に、させていただきます」


 そう深々と礼をしたメイドに続き、残り10名のメイドも頭を垂れる。

 ……数名(前に見たエナスの世話役もいた)がなにかを堪えるようにぷるぷると震えていたが、何なのだろうか。






 ――メイドが湯浴みの諸々を準備しに出ていったあと、”神の庫”からある物を取り出した。書かれているのは『緑の巨鳥』、つまり”嵐剣・ストームグリーン”と思われる存在の情報である。


 より多くの情報を集めるためにと、リフィーズが昨日まで纏めさせていたらしい。それが今朝方、渡されたのだ。

 遅くなったことを詫びられたが、そういうことならば別に責めるつもりはなかった。


 まあとにかく、じっくり読んでみる。


 ……。

 …………。

 ………………。


 内容の薄いもの濃いものはあったが、とりあえずわかったのは、まず目撃地がバラバラなことだ。見た者自体は少ないらしいものの、それでも広範囲に及んでいるのは明らかにわかるくらいである。

 次に、頭部の冠羽に混じった緑の剣の形状だが、照らし合わせてみるとどうも”嵐剣・ストームグリーン”に間違いなさそうだった。


 すぐにでも探しにいきたいところではあるが、しかし相手は空を飛ぶ。さらに出現場所が絞れないとくれば、闇雲に歩いても発見できない可能性が高い。

 それに……”黄岩陸”のときにそれが襲ってきたことを考えると、今回、いや、今後も警戒せねばならないだろう。


(……『空駆そらがけ』、か)


 文字通りであるなら、空を駆けるということだろうか。

 とすると、いざというときのために試してみてもいいかもしれない。それでもし順調に空をゆくことが可能なようなら、空いた時間に”ストームグリーン”を探すことも考えられるだろう。


 そうとなればさっそくであるので、カーヤたちを一息つかせたあと、一緒に行きたいと言う彼女らを連れて厩舎へ向かった。

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