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76話

拙作にはもったいないくらいの素晴らしいレビューをいただきました!

そして総合評価も1000ptを越えました。あわせて深く御礼申し上げます。

やはり見える形で結果が出ると元気もいただけて、やる気も湧きますね。


改めまして、今後ともよろしくお願いいたします。

     ◇


「――で、さっそく今日から働いてもらいたいんだけど、問題ない?」

「……ん」

「ありがとう! じゃ、とりあえずその前に店の状況を説明しとくよ。あ、名前もお互いまだ言ってなかったね。私はクーナ」

「……シルヴェリッサ」

「よろしくね、シルヴェリッサ。さ、説明するから、そこ座ってね」


 笑みながら促すクーナ。

 示された通り、彼女の向かいに座った。ほどよく尻が沈み、それなりに座り心地が良い。


「えっと、まず私は、ついこないだまでファイレウス大陸の師匠の下で修行してたの。で、実力が認められて一人前になったから、故郷のウィンデラで開業することにしたわけ。お金も修行時代にけっこうためてたからね」

「…………」

「そこまではよかったんだけど……さっきも言った通りミスっちゃってさ。具体的には、従業員の募集と店の宣伝だね。料理は師匠に修行うけたから自信あるけど、私それ以外のことは詳しくなくて……とにかく募集と宣伝も、気づいたときにはもう遅すぎたんだ」

「…………」

「開業すること自体は最低限ほどに告知してたから延期するわけにもいかないし、予定通り店は開いたの。まあそこから今の状況へはすぐだったよ。まず従業員がいないからちゃんとした水準の店に見えない、それでお客さんが来ないからここで働きたがる人も現れない……とまあ、そんな感じでこうなったってわけ」


 なるほど、顛末はわかった。

 何にせよ自分がやることは変わらないが。


「って、さっきから無言だけど、ちゃんと聞いてた?」

「……ん」

「そう? ならいいけど。……じゃあ話も終わったし、着替えてもらおうかな。さ、ついてきて!」





 クーナに店の奥へ案内され、休憩および更衣用らしいその部屋で給仕服に着替えた。サイズは特に問題ない。クーナも着けていたアーチ状の髪留めだが、これは『カチューシャ』というそうだ。

 ちなみに髪は例によって結い紐を2本つかい、首の後ろで束ねるという形である。


「に、似合いすぎ、かわいすぎ……これはもう大人気まちがいなしだわ勝ったッ!」


 何に勝ったのだろう。戦っているようには見えなかったが……いや、別に知ったところで興味もないことだ。


「……何をする?」

「っとと、そうだった。えっとね、まずは人通りの多いところでお客さんの呼び込みをしてほしいの。大声だすの嫌だったら看板かかげるだけでもいいから。で、それなりにお客さんがこっちに流れたら、戻ってさばくの手伝って」

「……わかった」


 うなずき、予備らしい立て看板を片手に持ってから店を出た。後ろからの「よし! 希望が見えてきた!」という声を背にしつつ、近場の大通りのほうへ歩を向ける。

 途中でいくらか左手の看板に奇異の視線を受けたが、気に留めず歩き続けた。


 やがて路地を抜け、目的の大通りに出る。斜めからくる陽光が明るい。

 人波は大きく、右に左にと多くの人間が流れていた。


 とりあえず出てきた路地の入り口から2歩3歩ほど脇にずれ、目線を遮らない程度の高さで看板を掲げる。結果としてあまり高いとは言えない位置になったが、そこそこ視線は集まっているようなのでひとまず様子を見ることにした。


 そうしてしばらく立っていると、


「お、料理屋の看板っぽいよ」

「いいな、ちょっと覗いてみっか」

「めしー!」

「先に宿さがしたかったけど、まあお腹も空いてるしね」

「うんうん! お金はまだ余裕あるし」


 何名かの冒険者風の女たちが寄ってきて、看板を覗き込んできた。宿をさがしたいと言っていたので、おそらく街に着いたばかりなのだろう。


「ねえね、お姉さん。お店ってどこにあるの?」

「……この路地の奥」

「え、えー、と……案内してくれる?」

「……ん」


 看板をその場に立て、冒険者風の女たちを連れ路地へと入る。

 と、徐に1人が横にやってきた。妙にニヤニヤしているが、いったい何なのだろうか。


「お姉さん、可愛いね。ね、よかったらあとで遊ばない?」

「ちょ、コイツまたっ……!」

「ほんっと節操なし」


 とりあえず無視した。遊びなどまともにしたこともないし、そもそもこの女とする理由も皆無である。


「やーい、無視されてーら♪」

「これに懲りればいいと思いまーす」

「てめえら揉むぞッ! 尻とか胸とか!」

「あ、涙目だ」


 という具合に騒々しかったが、ややあって店に着いた。扉を開けると、さっそくクーナが満面の笑みで寄ってくる。


「いらっしゃいっ! ささっ、どうぞどうぞ」

「はーい」


 クーナに促され、客の女たちが席に着いていった。


 案内は終えたので呼び込みに戻ろうと踵を返したが、


「シルヴェリッサ、よくやってくれたね! ほんっっっとに希望が見えてきたよ! せっかく戻ってきたんだし、注文取りも試しに一回やってみようか」

「……ん」


 別に否む理由もないのでうなずいた。

 注文を訊いて厨房のクーナに伝えるだけなら、特に難しいことでもない。


「もしオススメを訊かれたら、”シュトゥランとルフーレンだけの煮込み物”って答えてね。”シュトゥラン”ていうのは、ウィンデラに棲息する中型の鳥魔物だよ」

「……わかった」


   「すいませーん、注文ー!」


 代表してか、客の1人が手を挙げてきた。呼んでいるようなので、そちらに寄る。


「えっと、”ゼルフェバードのムネとモモ肉焼き”を5人分と」

「”ロロブレッド”は3人分」

「あと”野菜と茸のシチュー”を4つね」

「それと果実水を5人分。以上で」

「……ん」


 首肯で応じてから踵を返し、なにやらうずうずと瞳を輝かせているクーナに今の注文を伝えた。


「よっし! うけたまわったっ!」


 そうしてクーナは一気に表情を真剣なものへと変え、覇気のようなものを纏った様子で厨房に入っていった。





 ――しばらくして。

 陽が夕色をわずかに孕みはじめた頃、シルヴェリッサはクーナに休憩室へ呼び出された。


「いやー、ほんと助かったよ! お客さんは多くはなかったけど、それでも今までと比べると十分よろこべる! それに、ふふふ。美味しいって言ってもらえたしっ」


 心の底から嬉しそうだ。照れたように頬を染めてはにかみ、笑んでいる。

 そしてクーナはその手に持ったトレイを卓に置いた。トレイには料理の皿と、果実水が載っている。


「お腹すいたでしょ? これ、”野菜と茸のシチュー”。よかったら食べて」

「……仕事は?」

「急に入ってもらったし、お客さんもたぶんもう来なそうだから、今日はもう閉めるよ。そうそう、これ給金の600メニスね。あ、あと帰るときは裏口からお願い」

「……ん」


 シルヴェリッサが渡された給金を受け取ると、クーナは「明日からもよろしくね!」と残して去っていった。


(……食べるか)


 食べ物を無駄にするわけにはいかない。

 それにクーナに言われた通り、お腹は空いているのだ。


 卓に着き、料理の皿と果実水の木器を自分に寄せる。

 そして木匙きさじで”野菜と茸のシチュー”をすくい、口に含んだ。



 ――美味しい。



 ”神の手”が絡んだあの”イグ・ミ・バーギ”を除けば、今まで食べた物の中で最も美味だった。どうやらクーナの腕は、熟達と言っても過言ではないもののようだ。


 白いシチューに溶け込んだ、様々な野菜と茸の旨味。

 それが口の中いっぱいに広がり、喉を通るとさらに身体中に染み渡る。

 そして具材にはシチューの風味が絡まっていて、またほどよい柔らかさにまで煮込まれているようだった。


 一口、また一口と、やがて皿が空になる。

 果実水もゆっくり飲み干すと、その食器類を持って厨房へ向かった。


 卓を片付けていたのかクーナはいなかったが、重ねられた洗い物のそばに空の食器類を置いていく。

 それから休憩室で元の服に着替え、裏口から店を出て帰路に就いた――。

シルヴェリッサのウェイトレス話。

次話以降、濃くしていくべきか、それとも少しあっさり気味に片付けていくべきか……迷ってます。


ちなみにクーナさんは別に天才とかじゃなく、ただ努力した熟練者です。

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