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71話

     ◇


 次に読むのは、『超魔巧まこう都市マギス・ペルタ』。

 ラーパルジにて”魔巧器”という単語を聞いたが、もしかするとそれに関連する内容が書いてあるかもしれない。……と、そんな理由で選んだ書だ。


***  ***************************  ***


      〆 ”魔巧器”とは


         〃 まずはじめに、”魔巧器”について簡単に説明しよう


           魔力を源として動く特殊な道具で

           魔巧技師と呼ばれる職人クラフターによって造られる


           基本的に値が張る物が多いが

           照明など、広く普及しているものもある


      〆 超魔巧都市マギス・ペルタ


         〃 遥か昔、『絶海の巨崖きょがい』と獄魔大陸の間にある

           大きな島に存在したとされる都市


           具体的な年代は不明だが

           おおよそ1000年以上も前に滅び去ったとされている


           古い文献によれば魔巧技術の大本拠ほんきょだったらしく

           当時はかのセブル・アムと並び

           世界の中心的な都市だったようだ


           全ての魔巧技師たちにとっての聖地でもあり

           職人としての成功を祈るために訪れる者も多い


***  ***************************  ***


 なるほど。

 ”魔巧器”はともかくとして、現在は存在しないらしい場所について調べても、そう役に立つとは思い難い。


 なので、次の書にいくことにした。


●~~~○~~~●~~~○~~~●~~~○~~~●~~~○~~~●~~~○


            『~魔物と生きた少女~』


   ――昔、昔


   幼い、幼い少女がおりました

   少女は、人間です

   けれど彼女は人間を知りません


   彼女は、孤児だったからです

   ただ……


   それでも彼女は、孤独ではありませんでした


   彼女の周りにはいつも、魔物がいたのです

   心優しい、獣の魔物が


   彼女は、自分を拾って育ててくれた獣の魔物が大好きでした

   そして、獣の魔物もまた、彼女を――


   時は過ぎ……いつしか少女は成長し、大きくなりました


   ある日、少女と獣の魔物が暮らす森へ、鳥の魔物が迷い込んできます

   その魔物は、ひどい傷を負っていました


   放ってはおけません

   少女と獣の魔物は、迷い込んできた鳥の魔物を助けました


   「たすかったよ、ありがとう」


   鳥の魔物はお礼を言います

   そして、自分もここで暮らしてもいいだろうか、と訊ねてきました

   断る理由などありません


   少女と獣の魔物は、喜んでうなずきます

   こうして、鳥の魔物が仲間に加わりました


   鳥の魔物には翼があります

   なので、高いところの木の実が簡単に採れるようになりました


   たくさんの木の実が食べられて、みんな大喜びです


   さて、次は虫の魔物が迷い込んできました

   またケガをしています


   少女と獣の魔物、鳥の魔物は、虫の魔物を助けました

   虫の魔物は、みるみる元気になります


   「わあい! ありがとう!」


   虫の魔物はお礼を言います

   そして、自分もここで暮らしてもいいかな、と訊ねてきました

   断る理由などありません


   少女と獣の魔物、鳥の魔物は、喜んでうなずきます

   こうして、虫の魔物が仲間に加わりました


   虫の魔物は、甘いミツを集めることができます

   初めて食べたミツのおいしさに、少女と獣の魔物、鳥の魔物は驚きました


   ミツを食べると、みんな笑顔になります


   さて、次は花の魔物が迷い込んできました

   またケガをしています


   少女と獣の魔物、鳥の魔物と虫の魔物は、花の魔物を助けました

   花の魔物は、みるみる回復していきます


   「やった~♪ ありがとう~♪」


   花の魔物はお礼を言います

   そして、自分もここで暮らしていいかな~、と訊ねてきました

   断る理由などありません


   少女と獣の魔物、鳥の魔物と虫の魔物は、喜んでうなずきます

   こうして、花の魔物が仲間に加わりました


   花の魔物には、植物を元気にする力があります

   おかげで、木の実も甘いミツも、たくさん採れるようになりました


   みんな一緒に大喜びです


   さて、少女は一つ不思議に思いました

   そして鳥の魔物と虫の魔物、花の魔物に訊ねます


   「どうしてみんな、ケガをしていたの?」


   鳥の魔物と虫の魔物、花の魔物は答えます

   トゲの谷を通ってきたから、と


   鳥の魔物は言います

   トゲの谷は風が強くて、空も危ないんだ、と


   それを聞いて、少女は言いました


   「じゃあ、トゲをなくそう!」


   獣の魔物も言いました


   「力しごとなら、オレの出番だね!」


   少女と魔物たちは、一緒にトゲの谷のトゲをなくしていきます

   時間はかかりましたが、一本、また一本と


   そうして……やがてトゲの谷には、森への道ができました


   それからというもの、たくさんの魔物がやってくるようになります

   1匹、また1匹と、仲間が増えていきました


   少女は孤児です

   けれども、少女は愛を知っています


   魔物を愛し、愛されて……

   少女は末永く、幸せに暮らしたのでした――


○~~~●~~~○~~~●~~~○~~~●~~~○~~~●~~~○~~~●


「……………………」


 なんだろうか。

 心が、温かくなる。


 この書は、おそらく伽噺とぎばなしの類だ。つまりは、作り物。

 それはわかっている。けれども――心が、温かい。


 ともあれ……ゆっくりと、書を閉じた。

 役に立つようなことは書いていなかったにも関わらず、こうして最後まで読んでしまったが、これくらいは構うまい。


 ――さて、とりあえず選んだ5冊は読んだ。

 他の城内施設に赴くか、それともまた別の書を見繕うか……。


 悩んでいると、なにやら下階に人がやってきた。

 クリーム色の髪に、兎の耳。――エナスだ。隣には、彼女と同じ兎人種のメイドもいる。


 ふと、以前シルヴェリッサが書を読んでいたとき、エナスが読字に興味を示してきたことを思い出した。もしかすると、メイドに書の読み聞かせでも頼んだのかもしれない。


 ともあれ、ついでなので書を戻しに下階に下りた。そこでエナスもシルヴェリッサに気づく。


「あ、おねえちゃん……」


 と、小さく笑んだ彼女。

 その隣のメイドも、黙したまま小さく一礼してきた。どうやら早くも1冊は見繕ったらしく、手には書を持っている。


「メ、メイドさんに、おねがい、しました……」

「……そうか」


 やはり、読み聞かせを頼んだらしい。

 と、エナスがシルヴェリッサの手元に視線を移す。

 どうやら、どんな書なのかが気になるようだ。ぴくぴく、ぴくぴく、と内向き外向きに動く兎耳がわかりやすい。


「……『世界の植物素材』、『魔術学 ~入門編~』、『アルティアに於ける不可思議な体験談』」

「!」

「……『超魔巧都市マギス・ペルタ』、『~魔物と生きた少女~』」

「!!」


 ぴくぴくんっ、とエナスの兎耳が反応する。どうも彼女は、書というものに対して興味が強いらしい。


 それはそうと、隣のメイドがエナスを見てぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴく、と兎耳を暴れさせているのだが……まあ考えてみれば、それで特に問題があるわけでもない。

 頬にもなにやら朱が差しているが、放っておこう。


 そういえばこれからどうしようか悩んでいたが、いま調べたことの中にすぐさま行動に移せるものがあった。ただ、それには街へ出なければならない。

 なので、


「……読みたければ、読むといい」


 と、ひとまず手にある5冊を差し出す。

 メイドはそれに一つ礼をし、丁寧に受け取った。


「では、承ります」

「あ、ありがとう、ございます……」

「……ん」


 メイドに続き、ぺこりと頭を下げたエナス。

 そんな彼女の頭を、小さく返じつつ、そっと優しく撫でる。


「え、えへへ……///」


 そうしてはにかむエナスに見送られ、シルヴェリッサは街へ向かうべく書庫を後にした。


 ……エナスのはにかみを見ていたメイドが、なぜか呼吸を乱してその兎耳を大暴れさせていたが、先ほどの通りそれでどうというわけでもない。


 捨て置いた。

なにげに『~魔物と生きた少女~』の内容に予想よりも悩みました。

最終的に、おとぎ話は難しい話より簡単なほうがいいかな、と自分なりに判断した結果です。

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