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70話

     ◇


 ガナンとの手合わせも済んで、宛がわれた部屋にアーニャたちも落ち着けさせた。1人につき1人のメイドが付けられてあわあわしていたが、それは世話をされることに慣れていないからだろう。放っておいても問題はないはずだ。


 それはともかくとして、ここに至って自由に動けるいとまができた。なので今は、以前に話で聞いていた書庫へ調べものをしに向かっている。

 中央棟――つまりこの建物の二階にあるとは訊いたのだが、慣れた場所ではないので、実のところどう向かえばいいのか把握できてはいない。


 ――と、そこへメイドが通りがかった。ちょうどいいので訊ねようと声をかける。


「……おい」

「シ、シルヴェリッサ様!? はははいっ、どうかなさいましたか?」


 妙に頬を染めてそわついているが、特に気にするほどのことでもないだろう。


「……書庫に行きたい」

「はいっ、大書庫でございますね。では、ご案内いたしますっ」


 なぜだか、はりきった様子のメイド。

 そんな彼女の後ろに付いて、豪奢な絨毯の敷き詰められた廊下を歩いていく。ちなみにこの絨毯は踏み心地が良く、歩跡も残らない上等な物のようだ。


 何度か他の者たちとすれ違い(なぜか他のメイドが羨ましげな視線になり、それを受けた案内のメイドが優越そうに胸を張っていた)ながら廊下を行き、階段を下りること数回。ようやく目的の大書庫にたどり着いた。

 二階の中心あたりから奥部にかけて作られているらしく、かなりの広さだ。


 ずらりと規則的に並んだ書棚。その高さは、目測でシルヴェリッサの背の倍は優に超えている。

 さらに壁面も、胸の高さくらいまでではあるが全て書棚となっているらしい。それ以高には絵画と、定間隔で壁灯が誂えられていた。

 吹き抜けの上階も設けられているようで、そこは書読用の空間なのか長机と椅子が見える。


 そして部屋の中心には円形の開けた場所があり、そこの円カウンターでなにやら3人の女性がそれぞれ作業をしていた。


「あら、ご利用の方ですか?」

「初めて拝見するお顔ですね」

「私共は、この大書庫の管理を任されております司書です」


 改めて見ると、3名とも眼鏡がんきょうをかけている。

 服装も同じで、長袖のブラウスに暗緑くらみどり色のベストと、襟にはスカーフタイ。そして腰から裾にかけて細くなっていく形のスカートに、ベストと同じく暗緑色の手袋という格好だった。


 案内のメイドが、その司書たちに軽く会釈をする。


「こちらは、リフィーズ様が例の代表騎士としてお選びになった、Aランク冒険者のシルヴェリッサ様です」


 彼女は司書3名にそれだけ説明すると、次いでシルヴェリッサに向き直り、


「で、では、シルヴェリッサ様。私はこれで失礼いたしますっ///」

「……ん」


 一礼して去っていった。

 先ほどより強く頬を染めていたが、まあどうでもいいことだろう。


 とりあえず、読むものを見繕うべく書棚の間を歩いていく。途中途中で木梯きばしごを使い上段の書も取りながら、ひとまず5冊だけ選定した。


 『世界の植物素材』

 『魔術学 ~入門編~』

 『アルティアに於ける不可思議な体験談 ~うつつか、あるいはうつろか~』

 『超魔巧まこう都市マギス・ペルタ』

 『~魔物と生きた少女~』


 別段べつだん時間に追われているわけでもないので、順にじっくりと読んでみることにする。

 まずは、『世界の植物素材』からだ。


 サブライムホースたちの進化に必要な『マナリーフ』。

 もしこれが予想した通り植物の類であるなら、この書に載っているかもしれない。


 目的の項目を探し、次、次、とページをめくっていく。――――あった。


***  ***************************  ***


      〆 マナリーフ


         素材ランク4


         〃 並の植物とは異なり、水や陽光ではなく魔力によって育つ

           成種して最初に浴びた魔力の属性に応じて色が変わり

           以降はその属性の魔力でしか育たなくなる


           純粋な自然魔力を好み

           魔力濃度の薄い場所では絶対に育たない


           超常的な魔力の量と制御技術を持つ者ならば

           あるいはその限りではないのかもしれないが

           大自然に比肩するほどの力を常に浴びせ続けるなど

           そんなものは空論、夢想である


           各大陸に自生しているものを採取する他ない


***  ***************************  ***


 やはり植物であったようだ。

 入手は簡単ではなさそうだが、それに関しては仕方がない。


 まあ、別に自分の手で直に採取しなければならないわけでもないだろう。商人から購入して入手、などでも問題はないはずだ。


 次、『魔術学 ~入門編~』。

 入門編と銘打たれているからには、魔術の習得法くらいは記されているだろう。


 そう予想した通り、初期頃のページに目的の記述を見つけた。


***  ***************************  ***


      〆 魔術の習得法


         〃 まず、それぞれの魔術属性に応じた魔力に触れ

           身体がそれに馴染まなければならない


           この最低条件を越えて

           自らの意思でその魔力を生成できるようになれば

           応じて魔術も身につく


           ただし才覚によっては魔力に触れた瞬間に習得できたり

           逆に最後の段階までいっても習得に到らない場合もある


***  ***************************  ***


 なるほど、方法はわかりやすい。

 風と火、水の魔力なら、従魔たちがそれぞれ有しているはずだ。残りの地――いや、これはもしかすると”黄岩陸”や『黄印術』の力で対応できるかもしれない。

 となると、あとは光と闇だが、これに関しても魔術師ギルドに赴くなどすれば解決しうるだろう。


 次、『アルティアに於ける不可思議な体験談 ~其は現か、あるいは幻か~』。

 妙な書題だったので手に取ったのだが、どういった内容なのだろうか。


***  ***************************  ***


      〆 『荒海にうごめく大蛇』


         〃 あれは、アクエウル大陸に向かう航中のことだった

           普段は穏やかなはずの海域が、突然その顔色を変えたのだ


           大した風でもないのに波は荒れ

           周囲の魔物は何かに怯えたように逃げ惑い

           もちろんのこと、船も大きく煽られ続けた


           そして……私は見たのだ


           ――荒れ狂う波間に蠢く、大蛇のような巨影を


      〆 『死海の墓標に潜みし何か』


         〃 《死海の墓標》と呼ばれる場所をご存知だろうか

           実際に目で見た者など他にいないとは思うが

           しかしその存在は口語りによって広く知られている

           特に漁師など、海を知る者ならば必ず解しているはずだ


           まさに死の海と呼称するに相応しい、荒嵐こうらんの海域

           運悪く、自分は難破してしまった末

           その絶望的な場所に漂流してしまったのである


           並の嵐などかわいいと感じるほどの、凄まじい大嵐

           船が沈まぬよう奮闘しながらも、心中では死を覚悟した


           そんな中、妙な岩礁群を発見して、悟る


           なるほど、墓標だ……と


           針のごとく尖ったそれらが並んだ様相は禍々しく

           そう納得してしまった


           しかし

           自分が最も恐怖したのは、その次だ


           その墓標群の上空

           暗雲の中に見た――恐ろしい双つの凶眼


           何かいる

           そう悟った瞬間、自分は気を失った


           結果的にいうと自分は助かったのだが

           あの双つの凶眼はなんだったのだろうか……


           いや、そもそもの話

           本当に自分は『死海の墓標』などに漂流したのだろうか?


           その答えを知っているとすれば、神か

           あるいはあの凶眼の主だけだろう――


***  ***************************  ***


 どうやらこの書に記されているのは、基本的に真偽が曖昧なものばかりのようだ。ならば、特に優先して読む必要もないだろう。


 そう判断し、シルヴェリッサは次の書を手に取った。

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