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65話

                ~ ■ ~


 ――――ねむい。

 ゆうべねむれなかったせいかとも思ったが、どうもおかしな感じだった。


 今日のペアである男に助けを求めようと、ふわふわした意識でゆらりと目を向ける。が、


(あれ……?)


 どうしたことだろう。

 なぜかその男もふらふらと揺らめいている。まるで自分と同じように。


 なんで……? とふしぎに思った瞬間、


 意識がとぎれた――。






「――きて……! 起きて、ドゥムカちゃん!」

「んぅ、ん……? なん、だニ……?」


 自分の名前をよぶともだちの声がきこえ、徐々に意識が引きもどされる。

 めざめると、なぜか見知らぬ洞窟の中に横たわっていた。……いったいこれはどういうことだろう。


「気がついたんだね、ドゥムカちゃん! どこか痛いところない?」

「えっと……だいじょうぶだニ」


 とりあえず上体をおこして、周囲を見渡してみる。

 友達の三人と、他にも数人の女ドワーフがいた。それとそこらの地面には、いくつかの縄がちらばっている。


 この状況、どうみてもただごとではなかった。急激に心をみたしていく恐怖に、全身が冷えていく。


「な、なにがおきてるニ?」

「わかんない……気がついたらここにいて、手がしばられてたの」

「縄はすぐほどけたけど、出口っぽい穴がふさがってて……」

「しっ、だれかきたみたい……!」


 その言葉に、自分たち以外にも緊張がはしる。

 やがてズズズズ、と出口らしき穴のむこうをふさいでいた岩がどかされ、そこから数人の男が入ってきた。人族ヒューマンが多いが、獣人もいくらか混じっている。邪悪そうな笑みに格好からして、どうやら盗賊のようだ。


「で、どいつだ?」


 その中でも最も危険そうな大男が、おもむろに口をひらく。


 全身にはしる威圧的な傷痕に、凶悪な存在感。

 目があっただけで殺されるのではないか、とおびえてしまうくらいに恐ろしかった。


「へ、へい、それがですね、今から調べるところ――ぐぎァッ!?」


 ひかえていた盗賊の1人が、言葉の途中で大男に殴りとばされた。

 ドワーフのだれかが「ヒッ……!」ともらしたが、無理もない。自分もあまりの恐怖でふるえてしまっていた。


 静まりかえった洞窟内に、再び大男の声がひびきわたる。


「だったらノロノロしてねぇで、とっとと調べやがれェッ!!」

「は、はびっ、ずみばぜんっ!」


 殴られた男はよろよろと立ち上がるも、すぐに気絶してしまった。

 残った盗賊たちが大男ににらまれ、あわてて口々にこちらへと声を上げる。


「お、おいドワーフ共! よく聞け!」

「お前らの中に貴重な鉱石をじゃんじゃん掘るって奴がいるだろ!」

「調べはついてんだ! さっさと出てきやがれ!」


 背筋がこおった。

 彼らが言っているのはおそらく、いや、確実に自分のことだろう。


 自分が、目的。

 そう理解したとたん、さらなる恐怖がおしよせてきた。

 手がふるえる。足がふるえる。止まらなかった。


「あぁ?」


 大男がピクリと眉を動かす。視線の先は、


 自分だった。


「テメェか」


 絶望。

 呼吸がみだれ、首をしめられたかのような苦しさがおそいくる。


 気がつくと、目の前にかがみこんだ大男の凶貌かおがあった。


「ひ……、ぁ…………ぅ…………っ!」

「そんなビビらねぇでも、鉱石さえ掘りゃあ殺しゃしねぇよ。まあ、他は邪魔だから殺すがな」

「「「……っ!!」」」


 大男のその言葉に、ドワーフみんなの顔が恐怖にそまる。


「とりあえず、まずはテメェが本物か確かめねぇとな。おら、来いッ!」

「ひッ……!」


 大男は乱暴にこちらの髪をつかむと、身体ごとそのまま出口のほうへ引きずりだした。

 恐ろしさにおびえながら必死に抵抗したが、大男のレベルが高いのか効果がない。他のドワーフたちも恐怖に支配されていて、身動き一つとれずにいるようだった。


(い、いや、だニ……! このままじゃみんな、みんな死んじゃうニ……!)


 小さいころから仲の良かった友人が、同じ町のみんなが、殺されてしまう。

 なんのためらいもなく「殺す」などと本気で口にするやからだ。いま生かされたとしても、今後いつ自分も殺されるかわからない。


 しかし自分には……それに抗うすべが、なかった。





     ――――ズガガァァァァァァァァアアッーーーンッ!!





 ――その、瞬間までは。


「なっ、なんか降ってきたぞッ!」

「て、天井が崩れてる……?」

「嘘だろ!? この辺の岩盤がどんだけ硬いと――」


 全身にひびきわたるような轟音とともにあらわれた、まばゆい黄色にかがやく『何か』。


 なぜだろうか。妙に心がやすらぐ。

 いまさっきまでの恐怖がうそのようだ。


 大男もおどろいたのか自分の髪から手を放し、その『何か』に対し警戒のかまえをとっていた。

 静寂にそまる場に、パラ、パラ、と礫片が崩れる音がひびく。


 だれもが今しがたの現象をつかみきれずにいる中、黄色の『何か』が徐々にかがやきを収め、その姿をあらわにした。


(……かなづち?)


 美しくしなやかな、まるで芸術品のような全容。

 全体に神秘的な土色の紋様が走り、大小の鎚頭の付け根にあたる柄の部分には、黄色の宝玉がきらめいている。

 不思議なことに柄は普通より短く――なんというか、まるで体躯の小さな者・・・・・・・があつかうことを前提としているかのように思えた。


「ほお、よくわからんが、こりゃなかなかの上物だな。ちょいと小せえが、気に入ったぜ」


 と、大男がずんずんと鎚に近よって、それを手に取った。――いや、取ろうとした。

 その瞬間、鎚が黄色にまたたき、大男がふきとばされる。


「「「「「か、頭ぁッ!?」」」」」


 盗賊やドワーフたちがおどろいているが、そっちのことはもう、自分の意識には入らなかった。


 まるで自分を求めるかのように、ゆらり、ゆらりとただよってくる鎚。

 自分もまた、なにか運命のようなものにいざなわれているような気がして、ゆっくりと近づきながら手をのばす。


 そして、それを手にした瞬間――



 ――理解した。



 この世界がおちいっている窮状の正体。そして、己の役割を。

 ワグームに帰ったら、すぐに旅の支度をしなければ。


(おかね、ためといてよかったニ)


 と、


「っざけんじゃねぇぞ!! このなまくらがああぁッ!!」


 復活したらしい大男が、やつあたり気味に殴りかかってきた。しかし、こんな賊などはもう塵ほども恐くない。


「ちょっとねてろニッ!」

「グブォッ!?」


 軽くふり返りざまに殴り飛ばし、だまらせた。

 するとその場の全員が口をぽかんとひらき、やがてとまどいがみちる。


「なんっ、え……?」

「か、頭?」

「は? は?」


「ドゥ、ドゥムカ、ちゃん?」

「あ、すぐかたづけるニ」

「え? う、うん」


 こういう場合を、いわゆる『朝飯前』というのだろうか。

 まあなんにせよ、とにかくほかの盗賊も一人のこらず気絶させて、自分たちがされたように岩で閉じこめてから脱出した。

 町に帰ったら市長か、もし来ていたら騎士団にでもこの場所を伝えれば、後始末をしてくれるだろう。






 ワグーム・北の門。


「テメーら、放しやがれ!」

「お、落ち着いてください! 1人で助けにいくなんて危険すぎます!」

「そうですよ! 騎士団がもうすぐ来てくれますから!」

「んなもん待ってられっか! こうしてる間にもドゥムカは、ドゥムカは……! うおおおおお、ドゥムカーーーーッ!」


「なんだニ?」


 ………………。


 時が止まった。かと思えば次の瞬間、父と母がとんでくる。


「ドゥムカーーーーッ! 無事だったかああああああ!」

「よかった、本当に……よかった……!」

父ちゃんててー母ちゃんかかーも、ちょっとくるしいニ……でも、ありがとうだニ」


 まわりでも、一緒につかまっていたドワーフたちがそれぞれの家族に抱きしめられていた。本当に、無事でよかったと心から思う。

 もう少しおそければ、だれかが殺されていたかもしれない。


(さてと、ニ)


 父と母に、話さねばならないことがある。


 とはいえ昨日まで――いや、ついさっきまでの自分とはちがう。まよいであったり、ましてや不安なんかは微塵もなかった。


父ちゃんててー母ちゃんかかー

「おう、なんでいっ?」

「なあに?」


 だから自分は口にする。

 自分にあたえられた運命へのほこりと、そして決意を胸に、堂々と。


「ムーは――旅にでるニ」







 ――それから日をまたいで、翌日の明朝。


 まだ陽ものぼっていないので夜といえるかもしれないが、とにかく自分はいま、町を出て南にある道・・・・・をすすんでいた。


 背中にあるのは、きのう自分たちをたすけてくれた鎚――地鎚じついグラッガレンデ。

 女神アルトさまがつくった六神器のひとつで、地の神子にしかあつかえない神聖なものだ。


 そう、自分はその、女神アルトさまにつかえる六人の神子のひとり、地の神子なのである。……まあそれのくわしい話はのちのちだ。


 さて、ワグームのだれもがしっているとおり、このさきは大昔におこったといわれている崖崩れで道がふさがってしまっている。


 自分がいまむかおうとしている目的自体にはそれほど関係はないが……しかしこの話には一つまちがいがあった。

 道がふさがっているのはあっているが、その原因は自然におこったものではなくて、じつは意図的におこされたものなのだ。


 ならいったいだれの、どんな意図なのか。

 自分はしっている。いや、わかったというのがただしいだろうか。


 とにかくスキルの《空駆》をつかって崩落した岩々をこえ、しばらくするとこの道ゆいいつの分かれ道にたどりつく。

 砂石にうもれてたおれていた鉄看板をひろいあげ、字がかすんでいないか読んでみた。


 ↑ 神獣様 参道

 → ガガレ岩野 南域


(ん、ちゃんと読めるニ)


 もう千年以上も前の物だが、やっぱり当時のLv水準は今とはくらべものにならないほど高かったらしい。職人にかぎらず、戦闘系もふくめたあらゆるスキルのLvも、そして人や魔物自体のLvも。

 鎚にふれたことでそのあたりの知識もはいってきてはいたが、じっさい見てみるとやっぱり少しおどろいた。


(神獣さま、いまいきますニ)


 ともあれ鉄看板を元あるべき位置にさしなおし、分かれ道のほうではなくそのままの道をまっすぐかけていく。


 神獣。

 それは自分たち神子と同じく、女神アルトさまに仕える存在。各六大陸にそれぞれいて、それぞれの大陸が不安定にならないよう調律をし、見守っている守護者だ。


 そしてこの巨大崖は、特にその影響を強く受ける場所なのである。

 つまり、ここ一月ひとつきの地揺れという異変は、神獣さまに相応のなにかがあったということ。そしておそらくだが、神獣さまはそれを予期していたのだろう。


 だからこそ、ここに続く道をふさいだのだと思う。自分たちにまで危険がおよばないように。

 それがわかったから、自分はむかうのだ。


(……それにしても、やっぱりちょっとさびれてるニ)


 参道だけあって左右の崖やら地面にはいろいろな装飾が見えるのだが、けれどそのさびれ具合がこの世界の危機を物語っているようで、自分の中で使命に対する決意が高まっていった。


 ……さて、いよいよだ。


 たどりついたのは、ぽっかりと円形にひらけた巨大な広場。

 そして、そこにいるのは――




 ずんぐりとした巨大な岩甲冑のような”ゴーレム”と……その”ゴーレム”が魔力結界でとじこめている、見るもおぞましい異形のバケモノだった。




「!? しっ、神獣さまッ!」


 思わずその”ゴーレム”にむかってさけぶ。


[ゴゴゴ……、地ノ神子……ヨクキタ]


 ”ゴーレム”――神獣ゴライアーグさまが、結界に両手をかざしたまま顔をズズ……とこちらにむけた。あまり抑揚のない女声だが、少し安心したかのような声音に感じる。


 しかし、なんなのだあの異形のバケモノは。

 見たところおおきさは二階建ての家屋くらいで、全身は錆色さびいろ一色。胴体はいびつにでこぼこしていて、まるで”ゴブリン”かなにかのなりそこないのようだ。

 腕や足らしきものもあるが、その形もついている数や場所も、てんでむちゃくちゃである。よく見ると太い触手のような頭部もとび出ていて、まるで子どもがふざけてつくった粘土細工のようだった。


 あんなもの、この世界には存在しない。

 あれは確実に、いまアルティアをおびやかしている存在がおくりこんだものだろう。


『ゲギオ#ロヅ!メベ?ルレグ※オオオオオオオッーーーー!!!!』


 生物とすら思えない雑音のようなさけび声も、その見た目どおりおぞましい。

 結界の中であばれているが、見るかぎり破られる心配はなさそうな様子だ。ただゴライアーグさまのほうも結界を維持するのにいっぱいのようで、たたかおうとはしていない。……いや、なるほど。


 たたかうとまずいのだ。

 あのバケモノ、神獣さまほどではないにしろかなり強いだろう。そんなやつと神獣さまがたたかえば、このあたりはもちろん、下手をするとワグームまでもがめちゃくちゃになる。

 だからゴライアーグさまは、あのバケモノをとじこめ続けているのだ。


[ゴゴゴ……、地ノ神子、戦エルカ?]

「はいッ!」


 ゴライアーグさまの問いに、背中のグラッガレンデを手にかまえて強くうなずく。


[任セタゾ……、ォォォォオオオオオオオオオオオーーッ!!]


 自分の返事にゴライアーグさまは重々しくうなずきを返し、ゴバッと両腕をひろげて結界の範囲をおおきくした。そうして一気にひろがっていくまま結界が自分をとりこむと、息つく間もなくバケモノがおぞましいさけび声をあげ、のたうつような動きでおそいかかってくる。


「動きまできもちわるい、ニッ!」

『ゲバ!ルブオ#エアッ!』


 せまる腕や足などをひょいひょいとかわしながら、軽くグラッガレンデでなぎとばす。しかしなみの相手ならこれでおわりなのだが、やっぱりそうかんたんにはいかず、ちいさくふきとばしただけだった。


 特にひるんだ様子もなく、また手足をのたうたせてつっこんでくる。どうも考えて動いているわけではないようだ。きっと本能的にまわりの存在をおそうようにできているのだろう。


「てゃぁッ!」


 かけ声をあげ、グラッガレンデをくるくると頭上でふりまわす。そうして生成した地の魔力のかたまりをいくつもバケモノへととばすが、さすがに攻撃をよけないほど知能は低くないのかぜんぶはあたらなかった。


『ブボ※ヂ#ヴオグ*アーーッ!!』


 スピードをおとすこともなくつっこんでくるバケモノ。

 そのおおきい体を《空駆》で上にかわし、てっぺんに重いふりおろしをみまう。《重打じゅうだ》という《鎚術ついじゅつ》スキルの初歩技だ。

 それをうけて体勢を崩したバケモノが、のたうちながらころがっていく。


(よし)


 すかさず《空駆》を維持したまま魔力を練り、すぐに地の魔術を発動させた。


 《アースバレット》。

 巨大な岩石のかたまりが発生し、バケモノの背中におそいかかる。だがバケモノはそれをうけながらという不安定としか思えない体勢のまま、頭と思われる触手をこちらにむけて強力なエネルギーをはきだしてきた。


「ぐッ!?」


 あまりに予想外な動きに反応がおくれ、腰にかすってしまった。いたみがはしる。……だが、ダメージは覚悟していたよりないようだ。


 すぐにもちなおし、一瞬で全身に魔力をめぐらせてかまえる。


 《覇陣構はじんのかまえ》。

 《戦気せんき》というスキルのLvが10になると習得する、一時的にほぼすべての能力を上げる技だ。効果時間がかなりみじかいうえに消費魔力もハンパではないが、あまりながびかせるつもりもないのでかまわない。


『グギヨ#ロ※ブロ*オアーーッ!』


 と、バケモノが《アースバレット》の岩石からぬけだし、全身のいたるところから触手をはやしてこちらにのばしてきた。


 それらをグラッガレンデでいなしながら、バケモノにむかって空をかける。そのいきおいのまま身体をななめ向きに回転させ、そのままグラッガレンデをバケモノの巨体にたたきこんだ。


 《転豪落てんごうおとし》、《鎚術》Lv5の技である。


 手ごたえはじゅうぶん。衝撃でバケモノが地にふせったので、追撃に今度は数瞬つかって大量の魔力を練りあげた。全身に力をいれてグラッガレンデをおおきくふりかぶり、めちゃくちゃに乱れ打つ。


 《剛乱烈打ごうらんれつだ》。《鎚術》Lv9の技だ。


 メギッ! ボゴッ! メゴォッ!


 にぶく重い音が何度も何度もひびき、そのたびにバケモノのみじかい悲鳴かなにかがもれる。当然ながらバケモノもやられっぱなしではなく触手の攻撃がとんでくるが、最低限のものだけかわしたりたたきおとしたりして、いくつか身体にかすらせながらも攻撃をつづけた。


 ……少し妙に思う。

 たしかに神子である自分とまともにたたかえている以上、強いことはまちがいない。けれど、なんというのだろう……神獣さまをつぶしにきているにしては、どうしても力がたりていないようにしか思えないのだ。


(いや、いまはこいつをたおすことに集中するニ……)


 と、意識をもどしてグラッガレンデをいっそうおおきくふりかぶったときだった。



 ――なんのまえぶれもなく、バケモノが一瞬でちぢむようにして消えてしまった。



「なッ!? ――っとと!」


 バランスを崩しかけたところでなんとかふみとどまり、まゆをひそめながらまわりを見まわす。しかし結局なにもおこる様子はなく、しかたがないのでやがてゆっくりと地面におりた。


[ゴゴゴ……、? ムゥ……]


 ゴライアーグさまも納得がいかないようにうなりながら、しぶしぶといった具合に結界をとく。それから少し考えるような間をおいて、また[ゴゴゴ……、]と声が発された。


[結局コノ千年、モテアソバレテイタダケ、トイウコトカ……]

「? ゴライアーグさま、それはどういうことですニ?」


 その言葉に首をかしげ、問いをかける。するとゴライアーグさまはズズズとうなずき、答えてくれた。


[ゴゴゴ……、アレヲ送ッタ奴ハ、ゴレを倒スコトヲ目的トシテイタノデハナク、タダ遊ンデイタダケダッタトイウコトダ……]

「なっ、なんてふざけたヤツだニッ! あそびでこんなことをするなんてッ!」


 あまりの怒りに強くこぶしをにぎる。もしかして女神アルトさまをおそったのも、いまこの世界をおびやかしているのも、同じように遊びだとでもいうのだろうか。


 だとすれば、これほど憎々しいことはない。


[ゴゴゴ……、ナンニセヨ助カッタゾ、神子ヨ]


 と、ゴライアーグさまがどこかやわらかく感じる様子で言ったので、自分も怒りをおさえてあらたまる。


「いえ、ゴライアーグさまのほうこそ、ながい間みんなのためにたえてくれてありがとうございますニ。とにかくご無事でなによりですニ」

[ウム。……ソレデ神子ヨ、行クノカ?]

「はい。あとなん日か準備をしたら、町を出ますニ」

[ソウカ。デハ、アルトサマヲ、ソシテコノ世界アルティアヲ頼ンダゾ。ゴレハ少シ、休ムトシヨウ……]


 そう言って静かにすわりこんだゴライアーグさまに「はいッ!」と返事をして、それから感謝とねぎらいをこめた一礼も残してからその場をあとにした。


 最後、広場を出る前にもう一度ふり返る。そしてまた、今度はふかく礼をし、あらためて町への道をもどっていった――。






 ――数日後。

 町の北門で、自分は知人たちと別れをかわしていた。


「元気でね、ドゥムカちゃん!」

「からだに気をつけてね!」

「ぜったいにまた帰ってきてよ!」

「だいじょうぶだニ。いつになるかわかんないけど、必ずかえってくるニ!」


 最後に父と母、2人と別れの言葉をかわす。


「……結局、旅に出るってこと以外、最後まで話しやがらなかったな」

「ごめんだニ。でも、しんじてほしいニ! いまは話せないけど、ぜんぶおわったらぜったいに話すニ!」

「いいのよ、ドゥムカ。ずっと待ってるから。ね、あなた?」

「ふん……ワグームの名、汚すんじゃねえぞ」

「うん、わかってるニ。……じゃあ、そろそろいくニ」


 いよいよ門を出て……いまここに長い旅路を、歩み出した。


 ――数歩すすんだところでふと立ちどまり、せいいっぱいの笑顔でふりむく。


父ちゃんててー母ちゃんかかー――ムーをうんでくれて、ありがとうだニっ」

「「!!」」


 てれくさいのですぐに前にむきなおり、早足で歩みを再開する。少し顔が赤くなっていくのを感じた。


   「ちっ、いっちょ前なツラしやがって、バカ娘が……っ!」

   「あなた……っ」


 と、両親の涙声がきこえてきて、自分も少し胸があつくなる。

 みんなの声を背中に感じながら、目じりにうかんできたちいさな涙を、そっとぬぐった――。






     彼女の背にありみちをともにするは

     女神アルトが創りし六神器が一つにして

     名を【地鎚じついグラッガレンデ】


     そして、れに選ばれしは――




     ――地の神子 ドゥムカ・ワグーム。

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