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63話

     ◇


 ”クラーケン”との戦闘を終えたシルヴェリッサは、行きとそう変わらぬ時間を掛けグラドポートへと戻ってきた。そして未だ慌てふためいている人混みを通り抜けると、アリーエの屋敷へと歩先を向ける。


 住民らが騒然と行き交っているのは”クラーケン”が理由なのだろうが、だからといって別にこの場でこの者たちに報告するつもりはない。そんなことをするより、この町の長らしいアリーエに報告したほうが早いだろう。


 途中、宿への分かれ道があったので、ハーピーたちとはそこで一旦わかれた。

 ただセルリーンだけはどうしてもと離れたがらなかったため、そのまま連れている。最近は彼女自身、甘えるのを少し我慢している様子だったが、今回のことでたがが外れたようだ。


 とはいえ、セルリーンだけなら連れていてもそう問題はないだろう。





 しばらく歩くと、アリーエの屋敷が見えてきた。

 こちらに気づいた2人の門兵が、警戒するように槍を構えだす。どうやらシルヴェリッサにというよりは、セルリーンに対してのようだ。


 しかし更に近寄ると、シルヴェリッサの顔を見てほどなく警戒を解いた。


「リフィーズ殿下のお連れ様でしたか。ご無礼、申し訳ない」

「さあ、どうぞお通りを」


 次いで敬礼の後に門を開けて中へ促してきたので、そのまま敷地へ入り屋敷の門を潜る。

 そこからメイドの1人にアリーエの執務室へと案内された。


 どうやらリフィーズもまだいたようで、シルヴェリッサを見るなりハッと立ち上がり胸を撫で下ろす。


「ああっ、シルヴェリッサ! よかった、やっぱり”クラーケン”に挑むのは思いとどまってくれたのね!」


 そうではない、というより既に倒してきたのだが、まあいいだろう。どうせ今から報告するのだ。


「……倒した」

「「「………………」」」


 アリーエとリフィーズ、そしてリフィーズの侍女がそろって固まり、やがて言葉の意味を理解したのか驚愕の表情に変わる。


「ほ、本当なの? この短時間で?」

「……ん」


 リフィーズの言葉にうなずきを返すと、彼女は再び一瞬だけ唖然とした後、妙に納得したような様子で普段の顔に戻った。


「ふふ、そうよね。貴女がとても強いのは既にわかっていたことだし、嘘をつくような娘でもないもの」

「リ、リフィーズ様がそこまで仰るなら、こちらとしても信じる他ありませんが……しかし立場上、実際に亡骸を確認しなくては民に伝えるわけには参りません」

「ええ、わかっているわ。シルヴェリッサ、どの辺りで仕留めたのか教えてくれるかしら?」

「……ん」


 そういうことならと、ある程度の方角と目印になるような岩礁の特徴などを伝える。


「――なるほど、これだけ情報があれば十分です。そう遠いわけでもないようですし、さっそく向かわせましょう」


 と、アリーエはすぐさまメイドを呼び、諸々を伝え指示しはじめた。そして最後に、


「船員の全てに、可能な限り上級の解体ナイフを持たせなさい。必要ならこちらから費用を出すから、新しく購入してでも1人に1本そろえるのよ。それから他に出せる船と漁師も全てかき集めて協力させて」

「か、かしこまりました!」


 ともかく、あとは任せて問題ないだろう。これでウィンデラ大陸への船も、予定通り明日に発てるはずだ。


「ふう……緊張しすぎたかしら、少し疲れたわ」


 と脱力するように息を吐いたリフィーズが、一転してセルリーンに目を向け感嘆する。


「それにしてもシルヴェリッサ。そのハーピー、本当にとても綺麗な羽ね」


 だが注目された当のセルリーンは全く気にした様子もなく、ただただシルヴェリッサにくっついたままだった。


「妾の見た限りだと、素材としては最上級といってもいいと思うわ。もしよかったらまた今度、自然に抜けた羽だけでも売ってくれないかしら? 国の職人に何か作らせてみたいの」

「……セルリーン?」

「ピュ? ピュイ~♪」


 当の彼女に訊いてみたが、特に嫌がる反応もせず、ただひたすら頬擦りをしてくるだけだった。別にかまわないということだろう。

 傍らで「なっ、なんて羨ま――こほん」などとやっていたリフィーズに、先ほどの交渉への答えとしてうなずきを返す。


「……ん」

「そ、そう。でもきちんとした取引は国に到着してからじゃないとできないから、それまでは待っていて頂戴ね」

「……わかった」


 ともあれ、この屋敷での用はもう済んでいる。他に自分への用もないようなので、早々に踵を返し立ち去った。


 途中で適当な店を見つけて剣を買うつもりだったのだが、どうやらどこも”クラーケン”の騒ぎに染まっており営業どころではないらしい。

 仕方がないので剣については明日に回すことにし、そのまま宿へと戻るシルヴェリッサであった。





「「「「「おかえりなさい!」」」」」

「「「「「おかえりい!」」」なのー」」


 皆はこの騒動でも全く不安は感じていなかったらしく、いつものように明るく出迎えてくる。先にハーピーたちが帰ってきた時点で、”クラーケン”の件は終わったとおおよそわかっていたのだろう。

 であれば報告する必要もなさそうだったので黙っておいた。


 もうそろそろ日も完全に沈みかけている。夕食も近そうだ。

 宿にも騒動の波はきているようだったが、営業にはそこまで影響している様子はなかった。夕食の準備なども問題はないだろう。



 と予想した通り、食事は特に悶着もなく終わった。

 今は再び部屋に戻り、とある作業に移っている。食事中にふと思い至った、”神の庫”の整理だ。


 だが整理といっても、単に中身の確認をするだけである。そもそも”神の庫”は物体として存在する並の倉庫とは違うのだから、整頓など必要ないだろう。


 調理器具や旅用品、食糧などは除き、確認すべきは魔物の骨などの素材類だ。必要に駆られてそろえたものではないので、あまり把握できていないのである。

 ともあれ”神の瞳”を使いつつ確認していった結果、


===  ===========================  ===


          [オークの骨]      ×46

          [ゴブリンの骨]     ×207

          [オーガの骨]      ×25

          [ビッグベアの骨]    ×40

          [ビッグベアの爪]    ×72

          [レッサースネークの牙] ×18

          [リザードマンの鱗]   ×10

          [ウォーアントの顎]   ×58

          [グレーウルフの骨]   ×17

          [グレーウルフの牙]   ×68

          [サベージボアの骨]   ×31

          [サベージボアの牙顎]  ×31

          [ホーンライノの骨]   ×24

          [ホーンライノの角]   ×24


===  ===========================  ===


 ざっとこんな具合だった。

 どれも何らかの素材に使えるとのことなので持っているが、今のところ特に使い時は見つけられずにいる。


 ただ、言うまでもないが保管にはまったく困っていない。

 なのでとりあえずは今まで通り、このまま持っておくことにした。










                ~ ~ ~


『――…………? ふむ、随分と無沙汰じゃな、女神殿』


『――ええ、ようやくこうして思念を飛ばせるゆとりができました。そちらは?』


『――うむ、女神殿がうまくやったおかげで、一つ報告できることが起きた』


『――! では、まさか……!』


『――地の【神器じんき】が目覚め、どこぞへ飛んでいきおったわ』


『――よかった……本当に……!』


『――安心するのは良いが、油断はならんぞ? 余もいつまで保つかわからん』


『――ええ、わかっています。引き続き警戒しつつ、光の神子を導きましょう』


『――言うまでもなかろうが、今は闇の神子と接触させるのは避けておけ』


『――把握しています。闇の神子を取り戻すのは、しばらく後にすべきでしょう』


『――わかっているのならば良い。地の神子については、どうする?』


『――じきに【神器】が見つけてくれるでしょう。後は神子が自ら判断するはず』


『――然りじゃな。それから封印についてじゃが、今のところ問題は見えん』


『――そう、ですか。……少し不気味ですね』


『――じゃが、かといって現状では警戒する以外、できることはないじゃろう』


『――……ええ。それにしても2千年もの間、よく単独で封印を保てましたね』


『――ふん、覇吼竜はこうりゅうゼレティノールとは余のことよ。この程度、造作もないわ』


『――ええ、そうでしたね。……どうやら、そろそろ思念も限界のようです』


『――そうか。ならば今回はここまでじゃな』


『――お互い、できることを尽くしましょう。では、またいずれ――』



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