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60話

ちょうど年の変わり頃に書き終わりました。

前の更新からかなり遅くなってしまって申し訳ないです。



     ◇


 翌朝。


 いつものごとく誰よりも早く起きたシルヴェリッサは、音を立てぬようにそっと部屋を出ると、宿の庭にある井戸へと向かった。

 心地の良い朝日と、海という大自然を語るような潮風に包まれながら、井戸から汲んだ冷たい水で顔を洗う。


 部屋から持ってきておいた手拭いで顔を拭いていると、不意に少しだけ強い風が吹いてシルヴェリッサの髪を踊らせた。しばらく前から感じていたが、どうやらこの辺りは風の多い地域らしい。やはり海が近いからだろうか。


 顔の前にそよぐ髪をかきあげ、1つ思う。


(結っておいたほうがいいか)


 海に出れば、風はもっと多く強くなるだろう。

 そうなれば髪の踊りも激しくなり、特に戦闘の際は邪魔になりかねない。


 なので今日のうちに髪留めを買っておくことにした。バッサリ切ってしまうという手段もあるが、結えばそれで済むのだから態々わざわざそちらを選ぶつもりはない。

 服もラーパルジでの騒動で1着が駄目になってしまったので、ついでに新しく買っておくのもいいだろう。


 それにしても、この町の人間はどうにも朝が早いようだ。漁師と思われる男の集団が前の道を通るのを、すでにいくつか見ている。

 なぜだか1つの集団に最低でも1人ずつ女性がついていたが、理由は全く見当もつかなかった。とはいえ、さほど知る必要もなさそうだったので気にしていない。


 ちなみにではあるが、この旅での自分たちの宿代は、すべてリフィーズが払うことになっている。本人曰く「このくらいは任せて頂戴」とのことだ。





 しばらくして皆が目を覚ますと、朝食を摂って町へ出た。

 全員で出かけても仕方がないので、従魔はセルリーンにルヴェラ、ハニエスとティグアーデだけを連れている。あとはアーニャたちとカーヤたちだ。


 宿の者に訊いたところ、服屋や装飾品などの雑貨店は町の陸側にあるらしい。

 そして海上側には漁市場、屋台などが多くあるそうだ。


   「ごはん、おいしかったね」 アーニャ

   「うん、すっごく!」 イリア

   「おさかな、はじめてたべたー」 ウルナ

   「また、たべたいな……」 エナス

   「だね~」 オセリー


   「ハラいっぱいだぜ!」 カーヤ

   「おなじく!」 キユル

   「のだ!」 クアラ

   「ケニーもなのー」 ケニー

   「コニーもなのー」 コニー


 さきほどの食事にえらく満足したのか、10名が口々に感動を述べている。

 シルヴェリッサも新鮮な魚介を口にしたのは初めてのことだった。


 頭から尾、骨までまるごと食べられるという魔物、”ピピフィッシュ”の丸焼き。

 苔緑こけみどりや赤、黄色の様々な海藻と魚卵のサラダ。

 ”ロロブレッド”を雑把にちぎってひたした、貝と甲殻魔物のスープ。


 こちらの頭数がかなりのものだったので料理も相当な量が用意されていたのだが、皿が全て空になるのにそう時間もかからなかった。


 と、思い出しているうちに着いたようだ。石造りの家々の中に、髪留めなどの小物が並んだ店、いろいろな靴々を売っている店、そして服飾の店などが見えてくる。

 他の店はさておいて、まずは当初の目的である小物店の戸をくぐった。


「あ、いらっ――しゃ、い……」


 店主と思われる若い女が、シルヴェリッサを見たとたん惚けたように固まる。が、別にシルヴェリッサの知ったことではなかったため、無視して目的の髪留め類を探すことにした。


 改めて見てみると、店内は雑多なようでいて実際はまとまっているのがわかる。


 入り口から真正面、正反対の位置にはカウンター。

 壁には木板でできた簡素な商品棚が数段しつらえられており、足の腿ほどの高さの長台とあわせて商品が綺麗に陳列されている。

 長台の商品棚は壁の他にも店内に等間隔で並べられていて、狭くも広くもないちょうどいい通路をいくつも作っていた。


 そこそこ広い内装とはいえ、さすがに従魔グループまで入れるのは無理があるので、彼女たちは外で待たせている。


 ふと気づくと、アーニャたちがソワソワと棚にある商品に目を向けていた。獣人種の面々に至っては耳や尻尾が実に忙しない。

 どうやら興味があるようだ。


(……そういうもの、なのだろうな)


 普通の娘なら、こういったいわゆる『カワイイ小物』などに惹かれるものなのだろう。シルヴェリッサにはよくわからないが、前の世界にいたときからなんとなく曖昧には理解していた。


「……どれか1つ」

「「「「「え?」」」」」 アーニャたち

「「「「「ん?」」」」」 カーヤたち


 1つずつ選べ、ということを言いたいのだが言葉が足りなかったらしい。

 なので改めて言おうとしたところ、どうやら10名は自ずとシルヴェリッサが言ったことの意味を理解したようだ。各々そろって嬉しそうに礼を言い、それぞれ商品棚へ散らばっていく。


 少しばかり掛かりそうなので、シルヴェリッサも時間潰しとして商品を見てみることにした。目的の髪留めなどは別になんでもいいため、最初に目についたものを買うつもりだ。


 ということで、何とはなしに壁の棚を順々に覗いていく。

 あまりきらびやかなこしらえの物はなく、魔物の羽や角などを加工した簡素なものが多かった。しかし造りはどれもそこそこ丁寧らしい。


 そんな具合でしばらく見ていると、


(これは……虫の翅か?)


 透明な翅が二枚、少しズレた同じ向きで重なった、手のひら程度の大きさの飾りを見つけた。耐久性としてどうなのだろうと思ったが、虫翅の小物は他にもそれなりにあることから考えて、おそらく何らかの処置などを施しているのだろう。


 次の棚に目を移すと、本来の目的である髪留めの類が多く並んでいた。

 さっそく適当に見繕おうとしたとき、ふとその棚の上壁に2本の『結い紐りぼん』が飾られているのを見つける。


 艶めくような白、黒の紐だった。どうやら同じ装飾の色違いらしい。

 紐と同色の、小指のツメ程度に微小な宝石のような飾りが、両端それぞれに3つずつ。

 本体の布地には、非常に細やかで丁寧な草花の刺繍ししゅう。これもそれぞれ紐と同色なのだが、布地と比べて艶を抑えた糸を使うことで、よく観えるように工夫されているようだ。


 改めて他のものを探すのも面倒なので、この2つを買うことにする。

 少し高い場所にあったが、おそらく上の商品を取るためと思われる梯子はしごが所々の棚の間に設けられていたので、それを使った。


 その後まもなくアーニャたちが選んだ物もあわせ、カウンターへ。どうやら皆で揃いの首環チョーカーにしたようだ。

 ともあれ、買う物すべてを台に置く。


「い、いらっしゃいませ! 商品を確認しますのでお待ちくださいっ」

「……ん」

「え、と。チョーカーが1、2、……10個ですね。あとは――え? あ、あのぅ……これ、1つで6万メニスなんですが、その……大丈夫でしょうか?」


 なぜか店主は結い紐を見て驚いたあと、どこか申し訳なさそうな具合でおそるおそる訊ねてきた。その理由は不明だったが、とりあえず問いにはうなずいておく。


「……ん」

「え……ほ、ほほほ本当ですか!? っはぁ~、調子に乗って行商から仕入れたときはどうしようかと思ったけど、よかったぁあ~……!」


 なるほど、たしかに考えてみると一般的には手のでにくい、というより無理がある値段だろう。まあ今さら変えるのも面倒であるし、金銭的にもそう問題はない。

 よってそのまま購入した。


「あ、チョーカーのほうはサービスにしておきます。いえ、ぜひさせてください!」

「……ん」


 ということになったので、12万メニスを払い店を出る。

 続けて服屋でも適当にブラウスとスカートを買い、とりあえずは用事を済ませたのだった。


 特にこれからすることもないので、情報を集めがてら町を歩くのもいいかもしれない。という結論に至り、ひとまず昼食時までそうすることにした。

最後になりましたが、明けましておめでとうございます!

2017年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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