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56話

少々ですが、サービスシーンがあります。


人によっては過激すぎるかもしれませんので、ご注意くださいませ。

     ◇


「……解呪を試す」


 モニカとスェルカの話が一段落したところで、シルヴェリッサは徐にそう言った。

 が、皆は何のことなのかわからなかったらしい。どうやら言葉が足りなかったようだ。


 手短に説明しておく。

 自分が『忘却の呪い』の解呪法を知っていること。

 成功するかは断言しかねるが、試せるだけの能力があること。


 スェルカは己が『忘却の呪い』にかかっていること自体を知らなかったらしい。しかし思い当たる点はあったようで、改めて解呪を頼んできた。


[あたし、自分がなんなのか知りたい。……だから、おねがい]


 それに次いで、モニカが頭を下げてくる。隣のロヴィスは、もうショックから回復したようだ。


[ワタシからもお願いしますっ!]

「なあモニカ。なに言ってるかわかんねぇけど、それエルフ語だよな。クセになってんぞ」

[あっ、ごごごめんなさい!]

「いや、だからエルフ語……」


 この2人は放っておいて、ひとまずスェルカをベッドの上に座らせた。立っていてもできるとは思うが、もしかすると途中で倒れる可能性もあるやもしれない。

 なので念のためだ。


 次いで自分もベッドに上がり、身体を強張らせているスェルカによつん這いで寄っていく。途中、キユルと目が合った。どうやら彼女らも解呪が気になるらしい。


 ともかく始めよう。と、シルヴェリッサはスェルカと向かい合う体勢になり、彼女の腹部の裾をめくって、そのヘソの辺りに右の手のひらをそっと添えた。

 きめ細かいスベスベとした肌から、ほんのりと体温が伝わってくる。彼女が生きている証だ。


[んっ……]


 と、スェルカが小さく息をこぼす。腕も微かに動いたが、すぐに元の位置に戻していた。

 少々くすぐったかったらしい。


 一拍の後、そのままゆっくりと、少しずつ体内から魔力を練り上げる。次いで右手に意識を向け、そこに魔力を集めた。

 それをスェルカの腹部から流し込むようにして、緩やかに彼女の身体うちへと伝わらせていく。


[ぁ……っん]


 こそばゆいのか、再度スェルカが反応した。

 が、それだけである。今のところ特に問題はない。


 作業を続ける。

 折を見て送り出す魔力量を増やしていったところ、しばらくしてスェルカの様子に異変が起きた。


[んんっぅ、ふ……あぁっん///]


 急激に呼吸を乱したかと思えば、甲高かんだかい声で喘ぎ出したのだ。なにやら頬も上気しているらしく薄らあかい。


「お、おいっ、なんか様子が変だぞっ」

「だだだだだ大丈夫なんですか!?」


 ロヴィスとモニカが何事かと寄ってきたが、スェルカのこの反応は書にあった通りだ。慌てる必要はない。


 書によれば、『他者の魔力が体内に入ると、身体を内側から嘗めあげられるような感覚に襲われる』とのことである。もっとも、多少の量なら問題はないらしいのだが……ともかく、解呪は順調だ。


 もしこれを行うのが常人であったならば、一気にここまで手順を進めることはできないらしい。

 しかし、シルヴェリッサの場合はその限りではないのだ。自分で認めるのも妙ではあるが、とても常人などとは言えないような存在なのだから。


 ……いや、そんなことは、今はどうでもいいだろう。

 できるから、やるのだ。


[ひぁっ、んぅ! な、なんか……なんか、きそぉっ~!]

「ふええええええええええええ!?」

「う、あぁ……///」


 突然「なにかが来そう」と喘いだスェルカに対しモニカが赤面し、エルフ語がわからないはずのロヴィスもなにやら真っ赤にした顔を両手で覆っている。


 シルヴェリッサも一旦いったん魔力を抑え、


[や、ダメ、やめ、ないでえっ……もう、すぐ……もうすぐ、だか、らぁっ///]

「ふええええええええええええええええええええええええ!!??」

「~~~~~~~~~~~~~~っ///!!??」


 ようとしたところで、スェルカが「止めるな」と言ってきた。

 さらに、どうしたことだろう。彼女の腹部に押し添えている右手が、奇妙な塊らしき『何か』を感じ取った。


(これは……魔力、か?)


 だとすれば、もしやこれが『忘却の呪い』の元凶なのではなかろうか。

 まだいまいち断言はしかねるが、おそらく可能性は高いように思われる。


 と、そんな間にも、件の魔力塊がどんどん小さくなってきた。どうやらシルヴェリッサの魔力が、浄化もしくは削滅させているらしい。


 つまり、順調ということだ。

 スェルカが「止めるな」と言ったのは、解呪の成功を間近に感じ取ったからだろう。


[あ、んぅぅ! あ、あっ、もう……もう、くるぅううっ///]


 やがて彼女がそんな宣言をすると、次の瞬間には魔力塊の気配が完全に消え失せ、


[んぅ、ひぁあああああああああああああ~~っ///]


 最後に一層強く甲高い声を上げると、スェルカの身体からだらりと力が抜けた。


 シルヴェリッサは即座に反応し、その上体をそっと支える。

 どうやら気絶してしまったようだ。ただ頬は相変わらず上気しており、呼吸も「はぁっ……はぁっ……!」と荒い。


 成功、だとは思うが、確認は後にしたほうが良いだろう。

 今はひとまず休ませておくほうがいい。と判断して、そのままベッドにゆっくりと横たえた。



                ~ ◆ ~


 獄魔大陸。


 年間を通して陽が昇らず、常に夜陰の月が天す地。

 かの有名な『絶海の巨崖』を挟んで、アルティラルト聖教国のあるシャイネリス大陸とは正反対に位置する大陸だ。

 別名ダルキェスト大陸とも呼ばれている。


 棲息する魔物の強さや数の多さから、寄りつく人間は全くと言っていいほどいない。

 稀に自惚れた冒険者などが来るときもあるが、まあ結果はあえて明言するまでもないだろう。


 そんな獄魔大陸で唯一の国家・アルティレイフ魔業まごう国こそ、ナーラメイアが魔王を務める国だ。

 今朝(この地で陽は昇らないが)に己が居城へ帰還した彼女は、現在自室じしつにて休息を摂っている。


 具体的には、つい先日に拾った・・・土産を可愛がっていた・・・・・・・


「お手」

「「「「「…………………………はい」」」」」


 ”タウロスミーティア”。

 ”レイヴンルーナ”。

 ”リバイアシャーク”。

 ”インペリアルスライム”。

 ”カオシックスパイダー”。


 グヴェルドの気配が死んだのを察知した少し後。

 ひとまず船に戻ろうと歩いていた海辺で、泣きべそをかいていた彼女らを見つけたのだ。獄魔大陸すみかへ帰りたいが海を渡れないと言うので連れてきた、という顛末である。


 そもそもラーパルジへ赴く際に彼女らも同じ船に乗っていたのだが、グヴェルドの魅了から開放されたことでその記憶は消えたようだ。


 まあ、済んだことはもういいだろう。

 今はそんなことよりも、上手に『お手』をできたことを褒めてやらねば。


「いいこ。いいこ」

「「「「「うぅ……///」」」」」


 この5名。

 見ていると、凄まじいくらいに庇護欲をくすぐられるのだ。このまま気がすむまで撫でくり回したい。


   ――コンッ、コンッ


 が、生憎と今はその時間がないようだ。

 ノック音の響いたドアから、女の声が聴こえてくる。


『魔王様、円卓の間の準備が整いました。魔獄七将の皆様も、既にご着席なさっております』

「わかった。さがれ」

『はい』


 予想通り、メイドの魔族による報告であった。


 ”タウロスミーティア”の頭を撫でる手を止め、ベッド脇の衣装がけスタンドに掛けられた黒マントを羽織る。

 まだまだ可愛がってやりたくて名残惜しいが、仕方ない。


「いいこ。待ってる」

「「「「「はい……」」」」」


 最後に「いいこで待ってるように」と言いつけて部屋を後にした。






 ナーラメイアが円卓の間に入ると、すでに席についていた6名が同時に立ち上がりこうべを垂れてくる。それぞれの背後に控えている直属の将6名も、さらに深々と続いた。


おもて。あげろ。会議。始める」

「「「「「「ははッ」」」」」」


 即座に返ってきた礼を余所にナーラメイアが席につくと、次いで七将が再び各々の席に座す。


 最初に口を開くのは、やはりナーラメイアだった。


「グヴェルド。死んだ」


 まずはその件である。

 とはいえ、別にアレの死を悼もうというわけではない。そもそも、


「ふむ、やはりそうかい。気配が消えたからもしや、とは思っていたけれど」

「はんッ、ざまあねぇぜッ! 前々からあのヤローは気にくわなかったんだッ!」

「ふひひ……ナーラメイアさまを嫌うような奴、死んで当然……」

「えぇっとぉ~……どぉでもいぃや~」

「アイツ、オイラのコレクション、馬鹿にしたのな。だからキライなのな」

「あたしチャンのオヤツを勝手に食べたんだから、とーぜんの報いだよんッ☆」


 このザマだ。

 悼めというほうが無理であろう。


 そんなことよりも今は、アレの次の七将を決めねばならない。


「グヴェルドが死んだということは、今の七将は女性だけになってしまったね」


 壱の席に座す将が、そのようなことを口にした。

 確かに、とナーラメイアも気づく。現在の七将はというと――、


   壱の将。”ヒュブリスグリフォ”のルシーナス。

       クリーム色の、左右に翼を広げたような形で結い上げた髪。

       猛禽を彷彿とさせる瞳に反し、理知的で穏やかな将だ。

   弐の将。”タイラントラースドラゴン”のサディーラ。

       怒りを宿したかの如く逆立った髪は、赤みの混じった橙色。

       ギラギラとした夕陽色の瞳に裏切らず、非常に好戦的な将だ。

   参の将。”エンヴィーウロボロス”のレヴィッタ。

       暗い深海色をしたかなりの長髪で、前髪も鼻まで伸びている。

       隙間から覗く同色の瞳から察せられる通り、相当に執念深い。

   肆の将。”スロウスクラックベア”のベルーチェ。

       焦げ茶色のボサボサとした髪と、締まりのない眠たげな瞳。

       極めてものぐさだが、やるべきことはやるので問題はない。

   伍の将。”モナークグリードオーク”のマムモム。

       薄桃色の、くるっと内に巻かれた短髪。

       およそ尋常ではないほどの収集癖を持っている将だ。

   陸の将。”グラトニーゼブブ”のゼビア。

       カクカクと規則的に鋭曲したおさげ二房が特徴的な、鮮緑色ビビッドグリーン髪。

       専用の食糧館を作るほどの食いしん坊だが、超が付く小柄だ。


 以上、6名。全員が女の魔人である。

 だからどう、ということでもないのだが。


 とにかく今は、新しい漆の将をどうするかだ。


「漆の将。候補。意見。求む」


 改めてナーラメイアは、皆の意見を募るべく今会議の主題を述べた。

一気にキャラクターが増えましたので、時間があればまた登場人物の紹介を挟もうかと思います。

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