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53話

 たまに回収していないフラグがないか不安になることがあります……。

 もしそういったものを見つけましたら、教えていただけると幸いです。



     ◇


 戦いを終えたシルヴェリッサは、闘技場を後にした。”トロール”も背後から、おずおずとついてくる。もう完全に落ち着いたようだ。


 ともあれ、と周囲を見渡す。

 誰の姿も見えない。すでに一人残らず避難したのだろう。


 何本かの串焼きが器材にかけられたままの屋台や、酒樽などが無残に転がった出店。食べかけの残飯や飲み物が散らかった道々。


 そんな酷く荒れて閑散とした様子を一瞥すると、シルヴェリッサは『PT』の気配に意識を向けた。しばし瞑目して開くと、そちらに向かい、歩き出す――。




 ――やがてギルドがほど近いというところで、薄ら人溜まりが見えてきた。大勢が武器を持って走ってきている。

 内の数名がシルヴェリッサに気づき、そのまま目前にやってきて止まった。


「お、おいアンタ! 中央闘技場の方から来たみたいだが、大丈夫だったか?」

「大変! 傷だらけ……じゃ、ないわね。えっと、服だけボロボロ?」

「と、とにかく逃げてきたのよね? 化け物は私たちに任せて!」


 なにやら口々に言ってくる。どうやらまだ騒動が収まったことを知らないらしい。

 とはいえ、誰も先ほどの決着を見たわけではないのだから、無理もないだろう。


「……終わった」


 そう一言、結果だけを伝えると、シルヴェリッサは再びアーニャたちを探して歩き出した。その際、今の言葉に戸惑った者たちが呼び止めてきたが、もうこちらが伝えることは伝えたので放っておく。そもそも事細かに報告する義務もないのだ。


 ふと、アーニャたちの姿を見つけた。人混みに紛れているものの、やはり目立つために見つけやすい。

 シルヴェリッサの足並みが、どんどん、どんどんと早まっていく。自分で気づくも止められず、ついには駆け出していた。


「「「「「「「「「「あっ!」」」」」」」」」」

「「「ピュイ、ピュイ~♪」」」

「「「グユゥウウ!」」」

『ギヂッ、ギヂヂヂィ!』『『ヴヴヴヴヴヴヴヴッ!』』


 向こうもシルヴェリッサに気づき、次々と駆け寄ってくる。距離が埋まるのに、そう時間はかからなかった。まもなく、再開の時が訪れる。そして、その瞬間……、




 シルヴェリッサは両手をいっぱいにして、アーニャたちを抱きしめていた――。





     ◇


 翌朝、『シャロトガ』の宿泊部屋にて。


「……《黄刃抜刀こうじんばっとう》」


 皆への報告として”黄岩陸”を見せるため、シルヴェリッサは念を込めて呟いた。

 するとその呼びかけに呼応し、彼女の胸から眩い黄色が溢れでてほとばしる。


 それらの光が瞬く間に主の身を包み、やがてまもなく『地』が顕現した。


 ”神鎧:黄裂”と、黄銀に変わった猛髪と瞳。

 そしてなにより、左手に出現した鞘入りの砕刀を見て、皆の表情がきらめく。どうやら昨日の再開での興奮は収まったようだ。が、シルヴェリッサと目が合うと恥ずかしそうに薄ら顔を伏せ、ほんのりと頬を染めていた。

 昨夜の寝る寸前まで「ぁぅぁぅ……///」「ふぇぇ……///」などと呻いていたことから考えて、もう十分に落ち着いたと見て問題ないだろう。


 しばらく”黄岩陸”を見せた後、”終刃”してゆっくりと休息を摂ることにした。あれほどの激闘の上、さらには死にかけたのだから、今日は無理をしないほうがいいと判断したのである。


「くむぅ……zzZ」


 寝息のほうに目を向けた。”トロール”が壁際の床に寝ている。

 案の定というべきなのか、彼女にはなつかれてしまった。

 アーニャたちと合流した、あの後。宿に戻る前に街の外へ連れ出し、住処すみかに帰るよう言ったのだが、頑なに首を横に振ってきたのだ。

 しまいには涙目になって見つめてきたので、望み通り従魔にしてやった、という顛末である。ちなみに刻印の箇所は首と胸の間あたりだ。


「ねがお、かわいい~」 アーニャ

「うん、しあわせそう」 イリア

「こっちまでねむたくなっちゃうねー」 ウルナ

「でも、おふとん……」 エナス

「からだがおっきいからしょうがないよ~」 オセリー

「まんぞくしてるみたいだし、いいんじゃね?」 カーヤ


「おねーちゃん、なでなでして~♪」 キユル

「んにょあっ、ズルいのだー!」 クアラ

「ケニーもなでてなのー♪」 ケニー

「コニーもなでてなのー♪」 コニー


「「「「「「ああああーーっ!」」」」」」 アーニャたち&カーヤ


 そうしていささか騒がしいながらも、甘えてくる皆の相手をしていた時だった。


 そろそろ進化した従魔たちの様子を確認しようか、と思い至った頃、部屋の扉がノックされる。続けて女の声が呼びかけてきた。


『失礼致します。シルヴェリッサ様、数名のお客さまがお目見えですが、いかがなさいますか?』

「……通していい」

『畏まりました。ご用命の皆様は、お互いにご同席でもかまわないと仰っておりましたが、いかがいたしましょう?』

「……そうする」

『承りました。では、しばらくお待ちくださいませ』




 来客についてをアーニャたちに知らせて待っていると、やがて件の者たちがやってきた。中には知った顔もいる。

 まず一人目と二人目。モニカとロヴィスだった。


「お、お邪魔します、です」

「ほら、いいかげん胸張れって」

「で、でででもこんな豪華な宿屋さん、入ったこともなくて……」

「だからってそこまで緊張しなくていいだろうに……あ、入っていいか?」


 ロヴィスが訊ねてきたので、シルヴェリッサは「……ん」とうなずきソファを指した。それに従って二名が席につく。

 次に、三人目と四人目が入ってきた。薄金髪の女性と、彼女に付き従っているらしい犬人種の娘だ。金髪のほうは見覚えがある。


「ちっ」


 なぜかは不明だが、ロヴィスがその金髪の女を見て舌打ちをした。知り合いなのだろうか。

 そして舌打ちをされた当人は少し困ったような顔で肩をすくめ、やがてシルヴェリッサに微笑むと「失礼するわね♪」と言って席に座す。犬人種の娘はその後ろに立ち、控えた。


「失礼いたしますわ」


 そして最後に、腰まで伸びた赤茶髪を靡かせたローブ姿の女性が、そっと一礼して入室してくる。先ほどの薄金髪に軽く手を振られ頬を染めていたが、まもなくして着席した。


 シルヴェリッサも空いた席につくと、ややあってロヴィスが口を開く。


「えーっと、自分じゃ覚えてねぇんだけど……昨日は世話かけちまったみたいで、すまねぇな。それと、助けてくれてありがとよ」

「……ん」

「そんでさ、礼をしたいんだけど、なんかあるか?」

「……別にいらない」

「んなわけにいかねぇよ。……まあ、押しつけるつもりもねぇし、もし思いついたら言ってくれ」


 そこで一度区切くぎると、ロヴィスは隣に座るモニカの肩を叩いた。


「で、さっそくモニカを連れてきたんだが……やっぱ”エルフ”はいないのか?」


 訊ねられ、気づく。そういえば、そうだ。

 しかし、昨日は優勝した瞬間にグヴェルドらが襲ってきたので、仕方ないと言える。賞品とされていた”エルフ”がどうなっているのか、シルヴェリッサにもわからなかった。


「あの、そのことなのですが」


 と、赤茶の髪の女性がおずおずと話に加わってくる。シルヴェリッサが目を向けると、彼女は穏やかに一礼し名乗った。


「申し遅れました。わたくし、当街のギルドで長を務めさせていただいております、フェローナと申しますわ」

「妾も名乗っておくわね。ソウェニア王国が主、リフィーズ・ファル・ソウェニアよ」


 続けて薄金髪の女性が名乗る。犬人種の娘は黙ったままだった。この場で名乗る必要はない、ということだろうか。


「……それで?」


 改めてシルヴェリッサがフェローナに向き直ると、彼女は1つうなずいて再び口を開いた。


「例の”エルフ”についてですが。彼女は現在、わたくしどものギルドで預かっていますので、お越しいただければすぐにお渡しできます。ただ……」

「何か問題でもあるのかしら?」


 言い淀んだフェローナに、リフィーズが首を傾げる。

 他の皆も気になったのか、耳を傾けていた。


「はい、その……少し調べてみたところ、彼女には『忘却』の呪いがかけられていることが判明しました」

「え、そっ、そんなっ、どうして!?」


 と、そこまでおとなしかったモニカが驚愕し立ち上がる。

 あれほど”エルフ”に対する思いが強い彼女のことだ。無理からぬことだろう。


「落ちつけって。まずは続きを聞こうぜ、な?」

「は、はい……ごめんなさい」


 ロヴィスがそっと気遣うようにモニカを座らせると、フェローナが話を再開した。


「現在、呪術の治療に明るい者がギルドにはいません。そのため、わたくしどもではどうすることもできず……申し訳なく思います」

「……いい」


 謝罪に頭を下げたフェローナに、シルヴェリッサはそう一言だけ返した。そもそも、その『忘却』の呪い自体はギルドの責任ではないのだから、彼女に謝罪される謂れはないのである。

 それに、できるか否かはともかく、シルヴェリッサにはその呪いの治療法について心当たりがあった。けれどもこれは知識だけのものであるし、態々わざわざ言う必要性も感じなかったため黙っておく。


「そう言っていただけると、こちらとしても幸いです。……加えて、もう1つだけよろしいでしょうか?」

「……ん」

「では、遅くなってしまいましたが、まずはお礼を……この度は、かつてない危機からラーパルジをお守りくださり、まことにありがとうございます」


 立ち上がり、深々と頭を下げるフェローナ。

 かつてない危機、とはまた大袈裟だと思わなくもなかったが、


「伝承Lvの火魔術を使ったのよね? たしか、《フレアバースト》といったかしら」


 というリフィーズの言葉に、なんとなくだが納得する。

 シルヴェリッサですら(途中までだが)苦戦したグヴェルドの能力は、並の人間たちにとってはまさに天災ともいうべきものだったのだろう。


「《フレアバースト》って……マジで伝説に出てくるような魔術じゃねぇか。お前――シルヴェリッサだっけ? そんな化け物バケモンによく勝てたな」

「す、すごい……!」


 と、ロヴィスとモニカ。

 こほん。フェローナが咳払いし、皆の意識を集める。話を続けたいらしい。


「結果的に申しますと、そのような危険度の高い魔物を倒してくださったシルヴェリッサ様には、相応の報酬を支払うということになりました。これはラーパルジ全体の総意と取っていただいて問題ありません」

「……わかった」

「では、こちらが報酬の500万メニスになります」


   「「「「「「「「「「「ごっ、ごひゃっ!?」」」」」」」」」」」


 部屋の端でおとなしくしていたアーニャたちとカーヤたち、さらにはモニカまでもが驚愕に妙な声を出す。一方で、シルヴェリッサは特に何ら思わず報酬の入った袋を受け取り、卓の端に置いた。後で”神の庫”に仕舞うことにする。


「確かにお渡しいたしました。では、わたくしの用件は以上ですので、これで失礼いたしますわ」

「……あとで”エルフ”を迎えにいく」

「はい、お待ちしてますね」


 フェローナは微笑んでそう言い立ち上がると、最後にもう一度だけ一礼して去っていった。その際リフィーズにウインクされて赤面していたが、それはシルヴェリッサの気にすることではないだろう。


「あー、それじゃあ、あたしらも帰るわ。”エルフ”の件は、また明日くるってことでいいか?」

「……ん」

「だってよ、モニカ。明日は1人でくるんだぞ」

「え、えええええっ!? そんなぁっ! お願いしますついてきてくださいいいい~!」

「うぉわっ、泣くなよ! わかったわかった、ついてってやるって!」


 と、ちょっとした騒ぎがありながらも、2人は一緒に帰っていった。なぜかリフィーズがニヤニヤしながら見送っていたが、その理由はわかる必要もなさそうだったので考えないでおく。


 そうして、リフィーズとその侍女らしき者だけが残った。

 シルヴェリッサが黙して用件を待っていると、徐にリフィーズが口を開く。


「ソウェニア王国の騎士にならないかしら?」

「……ならない」


 前にも同じようなことがあったな、と思い出しつつ即答する。

 しかしリフィーズは、さして怯むことなくこう呟いた。


「――緑の剣」


 その瞬間、シルヴェリッサの脳裏に――嵐剣らんけん・ストームグリーンが浮かんだ。


「貴女の探し物ね?」

「…………」


 黙ってうなずく。

 なぜリフィーズがシルヴェリッサの目的を知っているのかは不明だが、それはどうでもよかった。


「その緑の剣の情報を教える代わりに、妾のお願いを聞いてほしいの。といっても、安心して頂戴。別に『永遠に騎士として仕えろ』なんて言わないわ」

「……条件は?」


 永遠ではないということは、期間的にという意味だろう。

 であれば、ひとまず聞く価値はある。


 そう判断して問うたシルヴェリッサに、リフィーズは答えた。その話を纏めると、つまりは『二月ふたつきほど後に開催される親睦会に、代表騎士として出てほしい』ということらしい。

 思ったよりも短期間な上に、あまり危険もなさそうだ。


「もしうなずいてもらえるなら、他にも貴女の望みはできる限り叶えるつもりよ」

「…………」


 思案する。

 とはいえ、シルヴェリッサの答えはもう決まっていた。


 あとは……、とアーニャたちへと目を向ける。こくりとうなずいてくれた。

 シルヴェリッサはリフィーズに向き直り、


「……受ける」


 そう、返事をした。

 現在のシルヴェリッサの所持金 → 6249870メニス

                  ※ 間違ってたらすみません

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