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51話

遅くなりましてすみません。

私事ですが、長いこと体調を崩しておりました。

だいぶ回復してきたのでボチボチ執筆もできると思います。

     ◇


 ”黄色”の殴撃が、シルヴェリッサを襲う。


「……ッ!」


 ”トロール”、グヴェルドらの追撃を警戒しつつ、左前方へ跳び躱した。

 着地とほぼ同時に”黄色”が次の殴撃を仕掛けてきたため、身をひるがえし受け流すようにして回避する。


 されど、攻撃は止まない。

 グヴェルドらは新手である”黄色”の様子を窺っているのか手を出してこないが、傷を負ったシルヴェリッサには”黄色”だけでも避けるのが精一杯だった。


 全員の狙いが、自分。

 もともと選ぶつもりはなかったとはいえ、ただでさえ希薄だった「逃げ」の可能性も”黄色”の乱入によって消えている。背を向けた瞬間に終わりだ。


 ならば戦闘を続ける他ないだろう。こんなところで、死ぬわけにはいかない。

 たとえ生存が絶望的でも、命えるその瞬間まであがき抜く。


 そんな気迫で以て、シルヴェリッサは”黄色”の攻撃を躱し続けた。


 幾十、幾百とも知れぬ殴撃をくぐり抜ける。

 腕や脚、身体中の至るところに傷を受けながら、それでも直撃だけは許さず耐え続けた。


 そうしてどれだけの時間が経った頃だろうか。


   ――キキギッィ、ゥゥゥ……ッ!!


 一瞬だけ。ほんの一瞬だけだが、”黄色”が怯んだ。

 しかし、どうにも妙である。誰に何をされたわけでもないのに、前触れもなく急に呻いて怯んだのだ。


 グヴェルドらが怪訝そうに首を傾げる。


「ふむ? 小さな羽虫にでも集られましたかね?」

「あら、おかわいそうに……」 牛魔人

「カヒヒッ、でもちょっとマヌケでかわいい」 鴉魔人

「あ、どうかんかも♪」 鮫魔人

「クスクスッ」 粘液体魔人

「そうおもうと、すこしおもしろいわ♪」 蜘蛛魔人


 ……聞くに、どうやらグヴェルドらには見えなかった・・・・・・らしい。


 今さきほど”黄色”が怯んだ瞬間、そのからだから”錆び”のような粒子が、まるで胞子のように飛び出て消滅したのだ。


   ――キキッ、ァァァアアーーッ!!


 疑問に思うシルヴェリッサだったが、思考の暇はなかった。

 さほどの間もなく復活した”黄色”の攻撃に、再び対応していく。なぜかは不明だが、先ほどまでより微かに”黄色”の動きが悪くなっており、避けやすかった。


 傷口から血を流しながらも、シルヴェリッサは絶望的な状況であがき続ける。

 やがてどれだけか時間が経つと、グヴェルドが心底おどろいたように感嘆した。


「なんとも、まあ……生きることへの凄まじい執念といいますか。素直に称賛しますよ、人間」

「「「「「…………」」」」」


 グヴェルドがささやかな拍手をすると、女たちがまたも殺気の視線をシルヴェリッサに向けてくる。


 そのときだった。


 ”黄色”の右拳を後ろへ跳んで回避したシルヴェリッサに、着地の瞬間を狙ったかのようなタイミングで大岩が飛んでくる。


 浅くない傷。完全な不意打ち。

 防御もなにもできず、直撃した。


 揺れる視界。ふわりと浮く全身。

 麻痺する思考の中、誰かの狂ったような嗤いを聴いた。


「ゲハハハハハハハハハハハハァッ! ざまあみやがれッ! ざまあみやがれエエエエッ!」


 ――だれの声だろう……


 ――聞いたことがある……


 ――思い出せない……


 薄らいでいく意識で以て、シルヴェリッサはその声の主を記憶から探そうとした。

 口振りから察するに、自分に恨みがあったのだろう。しかし、朦朧とする意識の中、それを思い出すことはできなかった。


 ……身体に力が入らない。未だはっきりとしない視界に映るのも、ただの壁だけだった。剣もどこかに消えている。


「……このグヴェルド様の舞台に、汚ねぇ雄が入るんじゃねぇええッ!!」


 そんなグヴェルドの激昂が聞こえた次の瞬間、凄まじい豪炎の音と熱を感じた。その炎の爆音ゆえか断末魔の声は聞こえなかったが、おそらく跡形もないくらいに灼き尽くされたのだろう。


 やがて炎が鎮まると、


「ふぅ、少し取り乱してしまいましたか。しかし……ふむ、岩で傷口が開いたのか、もう死にかけですね」


 もう怒りは落ち着いたのか、グヴェルドは先ほどまでと同じ口調に戻っていた。


「こうなっては、もはやエリゼイーシャの回復魔術でも治せないでしょう。少しもったいないですが、オモチャは別のメスを探すとしましょうかね」


 どうやら女たちも含め、シルヴェリッサへの興味を失ったようだ。皆で、この街をどのように破壊しよう、などと談笑を始めている。


   ――ギキィ、ッァァ……!!


 タイミングがいい、と言うべきなのか。”黄色”は再び例の怯み・・を見せているようだった。最初のときよりずいぶんと長い。

 だが、回復するのも時間の問題だろう。


 ”黄色”の狙いはシルヴェリッサのみ。

 そしてシルヴェリッサは今、瀕死の状態。


 一瞬、一秒が死の宣告に等しい。

 不思議と恐怖はなかった。死を直前にしているゆえなのか、心が水面のように静寂である。


 やがて”黄色”の呻きが収まった。

 間もなくして背後から近づく、死の足音。


 ――いよいよ、か……


 ついに足音が、すぐ後ろで止まる。


(……セルリーン……ルヴェラ……ハニエス……)


 アーニャ、イリア、ウルナ、エナス、オセリー。

 カーヤ、キユル、クアラ、ケニー、コニー。


 みなと過ごした日々が、泡沫のように浮かんでは消えていく。

 彼女らとの思い出は、それほど多くなかった。一年どころか、ほんの半年もない。


 だがそんな短い間でも、シルヴェリッサの生きてきた17年の地獄とは、およそ比べられるはずもないほどに満ち足りていた。

 今ここにきて、ようやく気づく。


 ――わたしは、”幸せ”だったのだな……


 そう。

 この世界に来て、皆と出逢って。

 それから過ごした時間は、自分にとって確かに”幸せ”だったのだ。


 ふ……と、視界を覆う黄色の陰り。

 どうやら終わりがきたらしい。


 ――もっと、生きたかったな……


 ゆっくりと、瞼を降ろす。

 涙が一筋、力なく零れた。




「ピュイイイイイイイィィィィーーッ!」

「グュアアアアアアァァァーーーーッ!」

『ギヂヂヂヂヂィイイイイーーーーッ!』


 閉じかけた目を開く。

 未だ身体は動かないため、確認するすべはない。


 だが、わかった。

 セルリーン。ルヴェラ。ハニエス。


 すぐ背後で、彼女らが”黄色”とぶつかる気配がした。

 そして直後に響く、肉を打つ殴撃の音と、セルリーンたちの悲鳴。


 ――やめろ……


 ――死ぬな……


 ――殺すな……


 ――やめろ……っ


 ――やめろ……!


 ――やめろ!!



     《――”砕刀・黄岩陸”の浄化率が50%に達しました》


     《――以下の解放条件が有効となります》

          ≫ ”砕刀・黄岩陸”に触れる



 その瞬間、シルヴェリッサは立ち上がった。


 痛む傷も、噴き出す血もどうでもいい。

 朦朧とする視界で”黄色”を捉える。


 集まる注目の中、錆びの胞子に呻く”黄色”の許へ。

 ふらつく足取り。溢れる流血。


 何もかも無視し、ただ”黄色”を――”黄岩陸”を目指す。


 そして……



     その柄を、掴んだ。



 黄色に輝く、無数の粒子がほとばしる。


     《――”砕刀・黄岩陸”の浄化が完了しました》


     《――称号:『邪怨の主』の一部が浄化され

           NAME:シルヴェリッサに回帰します》

             ≫ 回帰スキル = 『憤怒』


     《――”砕刀・黄岩陸”の回帰により

           NAME:シルヴェリッサの能力の一部が復元されます》

             ≫ 回帰スキル = 『砕刀・黄岩陸』

                       『黄印術こういんじゅつ


 やがて粒子が収まり目を開けたとき、そこに”黄色”の姿はなかった。

 代わりに、シルヴェリッサのその右手には、見紛うことなき”黄岩陸”が収まっている。


 反り飾りは砂岩の鱗。断崖から削り出したかのような、武骨ながらも神秘さを宿す刀身。

 左手に収まる鞘は、獣の爪牙が穿うがち重なったが如く荒々しい威容だった。

 刀鞘一体にして、さながら『大地』そのものの顕現である。


 他の皆、グヴェルドたちさえも、シルヴェリッサの変化に驚愕を隠せないという風に目を見開いていた。


「お前は、なんだ……? その姿・・・は一体……一体、なんなんだっ!」


 グヴェルドの言う”その姿”が何を指しているのか、シルヴェリッサにはわかっている。己が纏う『鎧』だ。


     《――神鎧カムイ:黄裂の回帰が完了しました》


 首からヘソの上辺りまでを覆う、焦げ茶色の肩出し肌衣。

 黄土の岩のような爪牙が六つ、それぞれ六方から胸を抱くようにして中心に向かっている。

 両腕の手甲は肘より少し下までを覆い、その両横の隙間からは猿のような黄色い獣毛を湛えていた。膝下を守る足袋脚甲にも同様の黄毛がある。

 裾のほとんどない焦げ茶の腰衣と、腰マントのように臀部を覆う黄猿の岩毛。

 そして頭部には岩の額当て。正銀色だった頭髪は黄銀に変化し、獣のたてがみが如く逆立っている。


 鏡などなくとも、シルヴェリッサは今の己の姿を理解できた。

 この《神鎧》というものが何かはわからない。傷が全て治っている理由も、わからない。


 だが、理解できた。

 これは、己の力であると。


「くっ、人間が! ”トロール”!」

「クア゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーーッ!」


 忌々しげに吐いたグヴェルドが、”トロール”をけしかけてくる。


   ――トン……


 と、左手の鞘のこじりで地を打つ。

 いくつもの岩柱が地面から生じ、”トロール”の動きを封じた。


 小さく呻いた”トロール”を一瞥して無傷を確認すると、刀をいったん鞘に納める。

 空いた右手をセルリーンたちに向け、唱えた。


「……《黄印:砂癒いさごい》」


 黄色の粒子光が発生し、セルリーンたちを抱くようにして優しく包み込む。

 そして次の瞬間には、彼女らの傷が完全に消え失せた。


 不思議がる彼女らに、安心させるような言葉を掛けておく。


「……すぐに終わらせる」


 だから待っていろ、とシルヴェリッサはグヴェルドへと向き直った。


 そのグヴェルドは、今の言葉に相当な怒りを覚えたらしい。ギリッ、と奥歯を噛んでいる。


「いいでしょう……全力で相手をしてやりますよ、ゴミが!」


 凄まじいまでの殺気をみなぎらせ、グヴェルドが構えた。

 シルヴェリッサも、静かな、しかし猛るような怒りで以て刀を抜く。



     《――復元された能力値の算出が完了しました》


     《――新たな能力値を通知します》



===  ===========================  ===


          NAME:シルヴェリッサ   ♀


           AGE:  17

            Lv: 125


            HP: 9720/9720

            MP: 9180/9190


            STR: 3271

            DEF: 2895

            INT: 3120

            RES: 2993

            SPD: 3843

            LUC: 2380


           スキル: □神の瞳 □神の庫

                □神の手 □獲得経験値増加

                □全状態異常完全無効 □言語修得高速化

                □剣技能Lv10(MAX)

                □刀技能Lv10(MAX)

                ■憤怒


            六刃: ■砕刀・黄岩陸 ■神鎧:黄裂こうれつ ■黄印術


            言語: □アルティア標準語 □エルフ語


            称号: △六刃使い(凍結中) ■異界の救世姫

                ■邪怨の主


===  ===========================  ===


 次の瞬間。

 シルヴェリッサは、光を超える神足で以て地を蹴った――。

※ シルヴェリッサがセルリーンたちに黄印術を使う場面にて

  術の名称を『黄印:活生』から『黄印:砂癒』に変更しました。

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