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51/115

50話

途中で”神の瞳”が軽く頑張りますが、そこは流し読み程度でも大丈夫です。


     ◇


 ”トロール”。


 それが普段、どういった生態をしているのか。シルヴェリッサにはわからない。

 ただ、あの寝顔。

 先日に見たあの寝顔は、とても心地よさそうで、幸せそうだった。『生』に対する絶望など、欠片も感じられないほどに。


 だが……”これ”は違う。


「クァ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーー!!」


 狂ったように襲いかかってくる、目の前の”トロール”。なぜか以前と異なり、大丸太は持っていない。


 降り下ろされる殴撃を、横へ跳んで躱す。


     ズガアアアァァッッ!!!!


 穿たれる地面。


「クァ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!」


 ”トロール”のドス黒く染まった瞳が、シルヴェリッサを追う。

 安らぎに満ち、穏やかだった寝顔の面影など、どこにもなかった。


 異常をきたしている。疑いようもない。

 原因など考えるまでもないだろう。先ほど客席から降りてきた、妙な男だ。


 猛るような”トロール”の追撃を回避しつつ、その男を睨む。


 薄紫の肌に、露出の多いピッチリとした黒革の服。

 黒い両眼の瞳は赤く、白い頭髪は肩口まで流れている。

 シルヴェリッサと目が合うと、「ほう」と興味深げに眉を上げた。


「そんな余裕がありますか。人間にしてはと思ってはいましたが、まさかこれほどとは」

「「「「「グヴェルドさまっ」」」」」


 と、それまで男の背後に控えていた女たちが、なにやらその男――グヴェルドとやらにくっつき始めた。そして次の瞬間には、シルヴェリッサへ殺意のこもった眼光を向けてくる。

 全員が全員、容姿から見て普通の人間種ではないようだ。


 グヴェルドと呼ばれた男が、そんな彼女らを両手で以て艶っぽく抱き締める。


「フフッ、やきもちかい? 嫉妬深い娘は好みだよ」

「「「「「あぁ、グヴェルドさま……///」」」」」


 何のつもりかは不明だが、どうやら戦闘に加わる気はないようだ。少なくとも、今のところは。


 ならば、とシルヴェリッサは意識を”トロール”に戻した。

 とにかく、救える手があるなら助けたい。あの『生』に満ちた寝顔は、かつて『生』に絶望したシルヴェリッサにとって、非常に尊く感じられたのだ。

 たとえどんなに確率が低かろうが、助かる手段があるならそれに賭けたい。


 まず”トロール”に起こっている状態を調べることに思い至ると、その前にアーニャたちの無事を確認する。気絶しているロヴィスが範囲の外だったため、先の爆炎の影響はないはずだが……。


(ちょうど逃げられたようだな)


 ルヴェラが先導しているかと薄ら予想していたが、意外なことにセルリーンが至極しごく的確に誘導をしていた。配下たちに指示を出し、アーニャたち10名をしっかり囲んで守らせていたので、任せておけば問題ないだろう。


 憂いも消えたところで、行動を起こす。距離を取る隙を得るため、”トロール”の肩に跳躍し蹴りを入れた。


「クァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ッ!?」


 思惑通り”トロール”は吹き飛ばされ、壁を崩しながらめり込んだ。隙と見たシルヴェリッサは、瞬時に”神の瞳”を発動させる。グヴェルドと女たちも対象だ。


===  ===========================  ===


          ○ ∵トロール

             変異種ヴァリアント


            Lv: 21


            HP: ∵524/577

            MP: ∵165/165


            STR: ∵503

            DEF: ∵119

            INT: ∵ 38

            RES: ∵ 27

            SPD: ∵308

            LUC: ∵252


           スキル: □∵格闘Lv5 □∵大棍術Lv5

                □∵狩猟技術Lv3

                □∵魔力感度Lv4



          NAME:グヴェルド

               ◆魔人◆

               ○ インキュバスロード


            Lv: 164


            HP: 2580/2580

            MP: 3100/3135


            STR: 1171

            DEF: 1059

            INT: 1910

            RES: 1783

            SPD: 1092

            LUC:  951


           スキル: □格闘Lv5 □無魔術Lv5

                □闇魔術Lv8 □火魔術Lv7

                □地魔術Lv6 □風魔術Lv6

                □水魔術Lv6 □魔力感度Lv9


            称号: □淫魔の王 □魔獄七将



          NAME: ※無し

               ◆魔人◆

               ○ タウロスミーティア

                  『地』


            Lv: 106


            HP: 1895/1895

            MP:  787/787


            STR: 1544

            DEF: 1207

            INT:  418

            RES:  331

            SPD:  859

            LUC:  720


           スキル: □大斧術Lv8 □格闘Lv8

                □魔力感度Lv2 □地魔術Lv1

                □採集Lv6



          NAME: ※無し

               ◆魔人◆

               ○ レイヴンルーナ

                  『闇』


            Lv: 103


            HP: 967/967

            MP: 932/932


            STR:  824

            DEF:  799

            INT: 1032

            RES:  985

            SPD: 1303

            LUC:  919


           スキル: □飛行Lv7 □空中戦闘Lv5

                □狩猟技術Lv3 □魔力感度Lv4

                □闇魔術Lv4 □呪術Lv3

                □隠密Lv3



          NAME: ※無し

               ◆魔人◆

               ○ リバイアシャーク

                  『水』


            Lv: 103


            HP: 1658/1658

            MP: 1227/1227


            STR: 1134

            DEF:  941

            INT:  979

            RES:  887

            SPD: 1041

            LUC:  930


           スキル: □水棲Lv7 □水中戦闘Lv6

                □格闘Lv4 □水魔術Lv5

                □魔力感度Lv4 □狩猟技術Lv3



          NAME: ※無し

               ◆魔人◆

               ○ インペリアルスライム


            Lv: 105


            HP: 1301/1301

            MP: 1277/1277


            STR:  616

            DEF: 1493

            INT:  892

            RES: 1278

            SPD:  509

            LUC:  991


           スキル: □吸生Lv7 □吸魔Lv7

                □魔力感度Lv5 □無魔術Lv3

                □火魔術Lv4 □水魔術Lv3

                □地魔術Lv2 □風魔術Lv2



          NAME: ※無し

               ◆魔人◆

               ○ カオシックスパイダー


            Lv: 107


            HP: 1176/1176

            MP: 1009/1009


            STR: 1091

            DEF: 1127

            INT:  881

            RES:  823

            SPD: 1252

            LUC:  748


           スキル: □操糸Lv8 □毒撃Lv7

                □混撃Lv5 □痺撃Lv5

                □眠撃Lv3 □隠密Lv5

                □巣作りLv7


===  ===========================  ===


 瞬時に警戒心を最大にする。

 ”トロール”はともかく……いや、そちらもかなり気になるが、ひとまずはグヴェルドたちだ。


 全員の能力値がシルヴェリッサを上回っている。『魔人』という表示の詳細は不明だが、字面を見る限り”魔物”と”人”の間、ということだろうか。

 スキルのLvも軒並み高く、厄介そうなものも複数ある。


 そして、”トロール”だ。

 種族名や数値、スキルの前に奇妙な記号らしきものがついていた。『変異種ヴァリアント』というのも、よくわからない。しかし、以前に視た彼女の能力値とは、確実に違っている。


「まさか”トロール”の巨体を蹴り飛ばすとは……どうやら思っていたよりも、さらにやるようですね」


 と、グヴェルドが驚きを口にした。次いで女たちの殺意が再び覗く。


「クァ゛、ア゛ア゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーーーーッ!!」


 そこで壁から抜け出たらしい”トロール”が再び咆哮し、そのまま猛然と突進してきた。


「……くっ!」


 助ける方法を探る暇もない。そもそも、”トロール”がこうなった要因すら不明なのだ。とはいえ何にせよ、今は様子見を主体で戦い続ける他ないだろう。


 今回ばかりは、負けるかもしれない。


 死ぬかもしれない。……だが、


 ”トロール”を、諦めたくはなかった。

 殺意に満ちた、息つく間もない攻撃を繰り返す彼女。しかし、シルヴェリッサは知っている。『生』への幸福に満ちた、彼女の安らかな寝顔を。


(……『死』を望んだことなど、一度もないのだろうな)


 かつて幾度となく『死』を望んだシルヴェリッサ。

 しかしゆえにこそ、『生』の希望ある者を放ってはおけなかった。


「クァ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーー!!」

「……ッ」


「クァ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ッ!!」

「……っく!」


 何度も何度も。


 幾度も、幾度も。


 シルヴェリッサは攻撃を躱し、受け止め、いなし続けた。

 やがて業を煮やしたか、グヴェルドが焦れたように口を開く。


「ずいぶん粘りますが、いささか退屈が過ぎますね。碌に反撃もしないとは……もしや”トロール”を助けようとしているのですか? だとすれば、残念ですがそれは不可能ですよ」

「…………」


 無視する。

 敵の言葉だ。信憑性はない。シルヴェリッサの意志は揺るがなかった。


 だが、グヴェルドにはそれが気に食わなかったらしい。


「チッ、生意気な……ここは一つ、躾をしましょうか。――《クロスファントム》」


 呟かれると同時。黒い2つの闇が生じて線となり、シルヴェリッサを狙って交差した。そのあまりの速度と、”トロール”に集中していたこともあり直撃してしまう。


「……ぐぅッ!?」


 空中で当たったために踏ん張ることもできず、あえなく吹き飛ばされた。そのまま壁に衝突し、落ちる。


 痛い。

 こんなに痛みを感じたのは、いつ以来だろう。


 そんなどうでもいいことを考え浮かべていると、視界に影が差した。見やる。


 ”トロール”だった。拳を振りかぶっている。


「クァ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーーーーッ!!」


 直撃だった。

 シルヴェリッサが吐血する。


「……か、はァッ!」


 その上から被さる、岩片。岩片。岩片。


 視界が震える中、気を失いそうになるのを必死に堪え、瓦礫の闇から這い出でる。

 ご丁寧なことに、”トロール”もグヴェルドらもそれをじっと待っていた。


 ここでシルヴェリッサは、乱戦を決める。手を出してこないならと先まで”トロール”に集中していたが、こうして攻撃を加えてきた以上、そうもいかなくなった。

 しかしどのみち、あのまま”トロール”と睨み合っていても、解決法などわからなかっただろう。……であれば、


「普通の人間なら死んでいるはずですが、やはり予想通り耐えましたか。フフッ、この娘たちのオモチャにはちょうどいい丈夫さですね」


 狙うべきはグヴェルドだ。おそらく元凶だろうあの男と戦えば、もしかすると何かが判明するかもしれない。

 しかしグヴェルドを狙えば、間違いなく女たちも戦闘に加わってくるだろう。そうなれば、総勢7名をシルヴェリッサだけで相手取らねばならない。


 心配した従魔たちが、自分を助けに駆けつけてくる可能性はある。


(そのときは、『命令』してでも追い返す……!)


 彼女らをみすみす死なせるなど、絶対にできない。


 右手にある己の剣に視線を落とす。先の攻撃を受けて損傷しているが、使えないほどではない。

 シルヴェリッサは、孤闘の覚悟を以てその剣を構えた。面白そうにこちらを観察するグヴェルドらを見据え、いざ仕掛けようと深く呼吸する。



          ――そのときだった。



(ッ! この感覚はっ、……まさか!?)



     ――キキキァァアアアアアアアアアアアアーーーーァァッ!!



「っ!? 何事です!」

「「「「「グ、グヴェルドさまっ!」」」」」



     ――……ゥゥウウ、ズウンッッ!!



 ”黄色・・”が、降り立った。


 逆立つ黄毛。黄の瞳。

 濃黄色の手甲。胴甲。脚甲。

 そして……エリマキの先端には――”黄色い刀”。


 ……かつて、



     キキッァアアアアアアアアアアアァァァァッーーーー!!!!



 シルヴェリッサが渇望して止まなかった『死』が、



「……ッ、この……タイミッ、ング……で……ッ!」



 今さらになって、彼女の前に現れたのだった――。

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