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49話

ちょっと展開が粗いかもしれませんが、もしそう感じたならすみません。


※ ロヴィスが最後に使った技の名前を変更しました。




     ◇


 開幕の直後。

 シルヴェリッサとの間に挟むように短剣を構え、まっすぐ突進してくるロヴィス。


 納刀鞘で対応しようと、シルヴェリッサも構える。そこでロヴィスの刺突が急激に加速した。


「《スウィフトバイト》!」


 戦技。

 タイミングとしては、不意を突くような好手だろう。ただしそれは、仕掛ける相手が並ならば、の話だ。


 当然ながらシルヴェリッサには通じない。

 何ら焦ることもなく、納刀鞘で受ける。すかさず反撃しようとしたが、ロヴィスが即座に後退したためとどまった。


 仕切り直すのか、とシルヴェリッサも構え直そうとしたとき、


「《ポワーズバイト》!」


 予測に反し、ロヴィスが再び突っ込んできた。先ほどと同じ構えの短剣は、剣身が淡い紫光を纏っている。

 詳細は不明だが、何にせよ当たってやる必要もないので避けた。


 しかし間髪を入れず、ロヴィスが次の攻撃を仕掛けてくる。


「《パランズバイト》、《ポワーズバイト》!」


 橙の混じった黄色の突閃。次ぐ《ポワーズバイト》を皮切りに、様々な突きや斬撃が放たれる。全てが戦技だった。

 会場がざわめく。


     「さ、最初からあんなに……飛ばし過ぎじゃない?」

     「それくらいやらないと、とても戦えるような相手じゃないわ」

     「そうよね。勝てる勝てないは別だけど」


     「シルヴェリッサさまーっ、頑張ってぇっ!」

     「あんたが応援するまでもなく全部よけてるわよ」


     「「「「「おねーちゃーん!」」」」」 アーニャたち

     「「「「「がんばれえぇー!」」」なのー」」 カーヤたち


     「あの子たち、シルヴェリッサさまの連れかしら?」

     「んー、そうっぽいねー」

     「…………こ、子供だけじゃ危ないし、ここは私が――」

     「「はーい、お座りしましょうねーーーーーー」」

     「え、あれ? ちょ、待って、なんで縛るのーーーー!?」


 そうして客席が騒いでいる間にも、シルヴェリッサは全ての攻撃を躱し、いなしていく。

 こちらが最低限の動きであるのに対し、ロヴィスは最初から全力の繰り返しだ。徐々にその息があがってくる。


 やがて彼女は攻め手を止め、距離を取ってきた。

 追い撃ちをかけてもよかったが、ロヴィスがなにやら言おうとしていたのでやめておく。


「はあっ……はあっ……、ちくしょっ……一発くらい、当たって……っ、くれよ……」

「…………」


 どう返していいのかわからなかったので、黙った。

 ロヴィスがそれに苦笑を漏らす。どうやら呼吸のほうは、いささか回復したようだ。


「ははっ……冗談だからさ、そんな真剣に、なんなよ」

「……そうか」


 戦闘中に冗談を交わした経験など、当然だがシルヴェリッサにはない。そのため、何を言われても真剣に捉えてしまうのだ。


「じゃあま、そろそろ魔力も限界だし……最後の悪あがきといこうかね」

「…………」


 ともあれ、といった具合に構え直すロヴィス。

 シルヴェリッサも無言で応じた。最初は様子見がてら防御を優先したが、今のロヴィスから察するに次が最後の切り札、もしくは奇手なのだろう。


 であるなら、例の”エルフ”のこともある。相手もその気らしいので、シルヴェリッサも次撃を最後にすべく身構えた。


「すぅ……」


 深く。


 ただ深く、ロヴィスが息を吸う。


 明らかに、空気が変わった。


 腰を落とし、左手は前に。短剣を持つ右手は、顔の横に。


 瞳はまっすぐ、シルヴェリッサを見据えている。


 そして――



「――《アサルトヴェノム》」



 瞬時に迫る、ロヴィスの剣撃。


 目にも止まらぬ――というほどではないが、先までより数段はやい。


 最初の刺突は納刀鞘で受ける。次の右撃は後ろへ飛んで避けた。が、すかさず距離を詰められ、下からの斬り上げが迫る。おもむろにそれに向かって踏み込むと、納刀鞘でその剣身を捉え砕いた。


「ッ! まだ、だあァッ!」


 だがロヴィスは諦めなかった。

 半ば無理やりに身を捻って回転し、その勢いのまま石突いしづきでの打撃を狙ってくる。


 シルヴェリッサはそれを納刀鞘で受け止めると、ロヴィスのわき腹へ目掛け、極めて威力を抑えた掌打を放った。


「ぐッぅ……!」


 それを受けたロヴィスは短く息を漏らし、地面を転がっていく。ゴレガンのときよりも、かなり控えめだ。手加減としては、これくらいがちょうどいい具合だろう。


「は、はは……ちく、しょぅ……せめて、一発……くらわせ、たかっ、た……なぁ……」


 悔しげにそう零すものの、ロヴィスはなにやら出し切ったような満足顔を浮かべ、そのまま気を失った。


 そして、場を満たす静寂。


(……悪あがき、か)


 おそらくそれは、《アサルトヴェノム》という戦技のことを言っていたのだろう。その戦技を見た会場の慄きから、それなりに高度な技であると推察できた。

 たしかにそこそこの威力は感じたが、それでもシルヴェリッサに向けるには不足が過ぎる。


 最後の石突もいわゆる悪あがきだったのだろうが、やはりそれも問題はなかった。


 気を失う直前、ロヴィスがなにを思ったのか。それはわからない。


『――――……今大会の、優勝者は――』


 しかし、何はともあれ……、



     『――――シルヴェリッサさんに、決定いたしました!!』



 1つ、片付いた。


 シルヴェリッサが息を吐いた、その瞬間――




          ――彼女の視界が、爆炎に染まった。




     ◆


「――《フレアバースト》」


 グヴェルドが呟く。

 ただそれだけで、舞台に爆炎が生じた。


 会場中が恐怖と混乱に支配され、阿鼻叫喚の様相となる。

 しかしそれはグヴェルドの知ったことではない。まあ、そんな人間共を見て、可愛い取り巻きかのじょたちが楽しんでくれるのは嬉しいが。


「さて、加減はしましたが……」


 爆炎に包まれた人間の雌――シルヴェリッサとやらの状態を確認すべく、舞台へ降りて目を向ける。取り巻きの娘たちへのプレゼントに、という約束なのだ。直撃にはしていないので杞憂だとは思うが、もし死んでいた場合は他のプレゼントを探す必要があった。


 とそこへ、娘たちも追従して降りてくる。


「そろそろ、元の姿に戻りましょうか」


 そう言ったグヴェルドに続き、娘たちもみな人化を解いた。さらに人間共から悲鳴が上がる。


     「ばっ、化け物だー!」

     「た、助けて、助けてー!」

     「みんな逃げろおっ!」


 という具合に、さらなる混沌が生じ始めた中、


「おや、よかった。どうやら死んではいな――おっと」


 爆炎の名残から出てきたシルヴェリッサに安堵するが、直後に彼女から攻撃を受けたため躱した。続けて追撃がくるかと身構えるも、


「……目的はなんだ」


 予想に反し、そんな質問を投げてくる。どうにも彼女からは、焦りやら恐れなどが感じられない。それに直撃ではなかったとはいえ、爆炎をくらったというのにほとんど無傷である。

 少しばかり面白くないな、と思いつつも答えてやった。


「とある国の王に、ちょっとした訊ね事がありましてね。それからこの娘たちに、お前をプレゼントしようかと」

「……?」

「ああ、別に意味はわからなくていいですよ。……さて、それで今日は、オモチャを持ってきたんですよ」

「……オモチャ?」


 再び首を傾げるシルヴェリッサを無視し、グヴェルドは右の手のひらを地面に向け、すっと横に振った。すると、


 地面の一部がヒビ割れ、そこから一体の”トロール”が姿を現す。

 狂暴にドス黒く染まった瞳に、禍々しく飛び出た身体中の棘。

 そして何より特徴的なのは、全身に纏う災禍の気配オーラ


「…………!」


 そんな”トロール”を見て、目を見開くシルヴェリッサ。恐怖からか、絶望からか。

 まあどちらにせよ、彼女の運命は変わらない。


 この”トロール”は、グヴェルドが無理やり魔力を注ぎ込んで強化した上、魅了で心を支配しているのだ。それによって恐怖心も消しているため、痛みなどで怯むこともない。

 つまり、シルヴェリッサは一方的に蹂躙されるだけなのだ。もちろん殺さない程度には気をつけるが、逆らう意思が失くなるくらいには壊すつもりである。


 これから始まる素敵な劇を感じてか、取り巻きの娘たちが興奮しだした。彼女らの笑顔にグヴェルドも気分が高揚し、嬉しくなる。


「――”壊せ”」

「クァ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーーーーッ!!」


 グヴェルドの命令に、狂獣トロールが咆哮した――。

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