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47話

※ 苦手なバトルシーンを頑張ってみました。読みにくかったらすみません。



     ◇


 ゴレガンという者の試合は、見ていて心地のいいものではなかった。


 まず相手の大男の斧を力任せに大槌で砕き、拳で顔面を殴って地に叩き伏せる。そして起き上がれないように馬乗りになると、ひたすら殴打。この時点で相手は降参しようとしていたが、それを口にする暇すら与えない。職員が止めようとするも言葉だけでは止まらず、最終的に数人の男が力ずくで取り押さえて終わった。

 現在、斧の男は治療を受けて少しずつ回復しているらしい。


 その後も(少なくともシルヴェリッサにとっては)緩い試合が続き、やがて26戦すべてが終了した。


『――ではこの後の運びをお知らせいたしますので、ご清聴ください。勝ち残った26名を2組に分け、13名1組ずつの試合を行います』


 つまりは合計で2試合。ここで一気に人数を減らすということだろう。


『――その後、それぞれ最後の1名同士が決勝戦を行い、今大会は終了となります。では、ただいまより組分けをいたしますので、もうしばらくお待ちください』


 言い終わると一礼し、職員は舞台から去っていった。


 周囲が談笑を始める中、シルヴェリッサは一人考える。

 先ほど『エフォーフの森』方面から感じた”何か”。詳細は不明だが、”黄岩陸”が関連していることは間違いないだろう。


 気にはなるものの、いまは大会の最中だ。そもそもあの感覚が何であるか不明な以上、あまり無理に動きたくはない。

 なのでシルヴェリッサは改めて大会に集中することにした。





『――勝者、ロヴィス!』


 判定と同時に沸き上がる大歓声。激戦で少なからぬ傷を負っていたロヴィスだが、舞台を去る足取りはしっかりしていた。

 次の試合でシルヴェリッサが勝ち残れば、彼女と決勝を戦うことになる。


『――では続いて第2試合を行いますので、出場者の方は舞台までお越し願います!』


 指示を受け、ぞろぞろと舞台に向かう他の出場者たち。やがてシルヴェリッサも続いた。


 全員が舞台に揃い、各々が最後の準備を始める。鋼の籠手と脚甲を付け、全身をほぐす者。長棍をクルクル振り回す者。先端に青い宝石のついた長杖を手に、瞑想する者。


 そんな中、シルヴェリッサはなにもせず試合が始まるのを待っていた。すると、


「よお、姉ちゃん」


 やはりというべきだろうか、ゴレガンが声を掛けてくる。

 振り向くと、ギラギラした狂暴な眼光でもって睨んできた。


「最後のチャンスだ。今のうちに棄権しな」

「…………」


 反応してやる意味もないので無視する。

 膨れ上がるゴレガンの怒気に気づき、周囲が慄き始めた。皆どんどん後退あとずさっていく。


『――お待たせいたしました。それでは第2試合……開始!』


「ううぉおおおらあああああああああああぁぁぁぁッ!!!!」


 合図と同時にゴレガンが大槌を振り下ろしてくる。当てるつもりがないのか、と思えるほどに遅い。

 シルヴェリッサは鞘ごと剣を取り、その大槌を叩き砕いた。


 周囲は驚愕し、ゴレガンは呆然と怯む……普通はそうなるはずだったろう。いや、大槌を一撃で砕いた時点で普通ではないのだが。とにかくシルヴェリッサは、彼らがいま起きた現象を認識する前に、次の行動に移っていた。

 ゴレガンの懐に踏み込み、その鳩尾にかなり手加減した掌打を撃つ。


 結果、ゴレガンは大きく吹き飛んだ挙げ句、壁にめり込んで気絶した。



   ………………………………。



(……まだ強すぎた、か)


 もう少し威力を抑えていなければ、おそらくゴレガンは死んでいた可能性がある。別に生きていてほしいわけではないが、さりとて今シルヴェリッサが殺す必要もないのだ。


『――あ……ゴ、ゴレガン、敗退!』


 と、我に返ったかのような職員の声が響く。次いで徐々に沸く歓声の波。


   「キアアアアアァァーー! もうさいこおおおおお!!」

   「シルヴェリッサさま愛してるううう! クソブタざまぁみろッ!」

   「「「「「はぅんっ! ……――」」」」」(※集団気絶


   「「「「「やったあー!」」」」」 アーニャたち

   「「「「「いいぞー!」」」なのー」」 カーヤたち

   「「「ピュイァーーーー!!」」」

   「「「グゥアーーーーッ!!」」」

   『ギヂイイイイッ!』『『ヴヴヴヴヴヴヴヴ!!』』

   「「「ッヒヒィイイイイッーーーーン!!」」」


 知らない女たちは放っておくとして、アーニャたちや従魔たちはとても興奮しているようだ。あまり前に乗り出すと危ないが、ルヴェラが気を配ってくれているようなので今のところ大丈夫だろう。


「う、うりゃあああーーッ!」


 なにやら兎の獣人が、ご丁寧に掛け声をつけて斬りかかってきた。しかし例の如く遅かったので、こちらから向かっていく。そのまま相手の剣の柄を右手で押さえ、左手の納刀鞘をその首にあてがった。


「ま、参り、ました……」


 そう漏らし、へたりこむ兎人の娘。また歓声が上がる。


『――リセヴィー、敗退!』


 残り10人。

 次は……とシルヴェリッサが狙いを定めようとしたとき、その全員がおもむろに彼女を取り囲んできた。どうやら一番の脅威とみて、言葉交わさぬまま自然と共闘する形になったらしい。

 会場がより一層の盛り上がりを見せた。


「たあぁーーッ!」

「てええーーい!」

「おらああああ!」


 やがて包囲から3名が襲いかかってくる。右前方と正面、そして後方だ。

 後方は1名なので一旦いったん無視し、他の2名のうち右のほうへ駆ける。前方に構えられた長槍は相手側の右脇に潜り込むことで無力化し、そのまま逆手に持ちかえた納刀鞘を、後ろ手に回すようにして彼女の首に突きつけた。


『――レ、レレア、敗退!』


 この時点でレレアともう1人の間にいるので、続いてそちらへ跳ぶ。周囲の動きも窺いつつ、途中で納刀鞘を右手に持ちかえた。


 ここでようやっと他の者たちも動いてくる。杖を持った数名がそれを両手で構え、なにやら目を閉じて瞑想のようなものを始めた。それぞれの身体を赤、青、緑色の燐光が包む。


(……魔術、か)


 以前にも何度か見たので、自ずと予測できた。どれだけの威力かは不明だが、3名分だけならそこまで気にせずとも大丈夫だろう。見たところ実際の発動にも、いささかの時間が掛かりそうだ。


「っ! ええぇぇーーっい!」


 自分が狙われていることに気づいた無手の娘が、迫るシルヴェリッサに拳打を仕掛けてくる。シルヴェリッサがそれを難なく躱すと、娘はすかさず連撃を加えてきた。拳打、拳打、蹴撃、拳打、蹴撃。

 2度目の蹴りで娘が脚を振り上げた瞬間、シルヴェリッサはもう一方の足を払い彼女を組み伏せ、その首に納刀鞘を突きつけた。


『――ムーカ、敗退!』


「《ファイアボール》ッ!」


 声と同時、前方から飛んでくる火球。横へ躱そうとしたが、


「《ウォーターレーザー》!」


 真右から水の流線が迫ってきたので、火球の上へ跳び両方を躱す。咄嗟の動きで跳躍時の体勢が乱れたため、中空で身を翻しバランスを立て直した。そして無事に着地。


「まだだ! 《ウィンドネイル》ッ!」


 左上方から襲いくる風の爪。これは単純に移動することで避けた。そのまま今しがた火球を放ってきた者に接近し、首に納刀鞘を突きつける。


『――フォイゼル、敗退!』


 そして次の標的。風の魔術を使っていた者が近くにいたので、今と同様にして敗退させた。


『――ジェイン、敗退!』


 これで残り6名。

 左からきた剣撃を躱し、その刀身に上から納刀鞘を叩きつけて手からこぼさせる。


「ま、参ったです……!」


『――リーヤ、敗退!』


 ここでようやく、最初の3名のうち無視していた1名が追いついてきた。彼女が特別に遅いわけではないのだが、如何せん相手がシルヴェリッサであるため仕方がない。


「たああああァーーッ!」


 上段から振り下ろされる斧。シルヴェリッサはそれを納刀鞘で受け止め、刹那だけ迷ったあと左の掌打を相手の腹に――、


「わわわーーっ、降参降参降参!」


 撃つ前に相手が降参したのでやめた。もちろんゴレガンのときよりさらに加減するつもりだったが、撃たなくて済んだならそれに越したことはないだろう。


『――メゥカ、敗退!』


 ともあれ次だ。

 と、あっという間に数が減って焦ったのか、残った4名のうち3名がいっぺんにかかってきた。水の魔術を使っていた者も、いつの間にやら瞑想に入っている。


 このまま3名を相手取ってもいいが、ひとまず孤立している者を先に下すことにした。距離があったので全力で駆けて瞬時に肉薄し、組み伏せる。


「こ、降参です~!」


『――ウィアローネ、敗退!』


 再び全力で距離を詰め、短剣を持った相手の首に納刀鞘を突きつける。


『――デイル、敗退!』


「やああああッ!」


 気合いとともに横から薙がれた長棍をしゃがんで躱し、足払い。そして転んだところへ、すかさず納刀鞘を突きつけた。


『――サウィッテ、敗退!』


「う、うおりゃああああッ!」


 最後の1名である獅子人娘が、半ば自棄ぎみに大剣を振り下ろしてきた。それを横へ躱しつつ身を翻し、その回転を利用して大剣の腹に掌打を撃って弾き飛ばす。そしてとどめに、その首に納刀鞘を宛がった。



   満ちる沈黙。



 やがて――


『――し、勝者、シルヴェリッサ!』


 割れんばかりの大歓声が響き渡った――。

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