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40話



     ◇


 無事にラーパルジへと戻り、ギルドへの道を歩くシルヴェリッサ。

 そんな彼女の姿を見た周囲が、少しばかりざわめき立つ。


   「ね、ねえあれ、あの銀髪のひと!」

   「もしかしてウワサの!?」

   「え、マジで!? うわ本物だ!」

   「1人でものすごい数の依頼こなしたってひとよね!」

   「し か も っ! かなりの短時間でね」


   「ちょっとそれホントなの? くわしく教えてよ」

   「あ、私も聞きたいかも!」

   「おなじく!」「なになに? なんの話?」「おもしろそうね」


 ……というような会話が聴こえてきたが、当のシルヴェリッサにとっては至極どうでもいい内容であった。

 むしろ彼女よりアーニャ、カーヤ、従魔たちのほうが誇らしげだ。全員ではないが、にまにまと口元がゆるんでいる。


 それにしても、心なしか街の賑やかさが増していた。予想だが、やはり明日の闘技大会の影響だろう。

 別にだからといって出場への緊張はないが、あまり人混みを好まないシルヴェリッサには少し気分が悪かった。が、とはいっても特にどうしようもないことである。


 そんなことがありながらも、一行は大した悶着もなくギルドに到着した。

 今回も従魔はリーダー格の他は残し、アーニャたちカーヤたちも連れて中へと入る。


 またしても集まる周囲の視線。なぜかは不明だが、ほとんどが黄色い雰囲気を纏っていた。

 例のごとく無視し、そのままカウンターへ。今日はあの気だるげな職員がいたので、迷わずそちらにする。


「……依頼の報告」

「では委託証をー……」

「……ん」

「換算するのでお待ちくださいー……」


 やはり彼女だと、他の職員に比べて悶着が無かった。

 依頼の数が数なので時間はかかるだろうが、それは想定内である。


 とにかく、ただただ黙して待つシルヴェリッサ。……であったが、


「よお、姉ちゃん。ずいぶん調子こいてるみてぇじゃねぇか」


 などとガラの悪そうな野太い大声と口調で、後ろからそんな言葉をかけられた。

 アーニャたち10名が、怯えたようにシルヴェリッサにひっついてくる。


「…………」


 黙って後ろを振り返るシルヴェリッサ。

 声の通り、とでも言えるような大柄の男が、狂暴そうな目で睨んでいた。左瞼に大きな刃傷があるが、失明はしていないらしい。

 左肩にはいかめしく尖った肩当て、背には大きな金槌が窺えた。


 その男の眼光が一層に鋭くなると、アーニャたちがさらに震え上がってしまう。

 ひきかえ、セルリーンはじめ従魔たちはじっとおとなしい。男に対しても、別段なにも思っていないようだ。


「テメェ……俺が誰だか知らねぇのか」

「……どこかで会ったか?」

「あぁ? 違ぇよ!」

「…………」


 意味がわからなかった。

 しかし全く関係のないはずの周囲はざわめきだす。


   「”剛槌ごうついのゴレガン”!?」

   「ゴ、ゴレガン、って……まさかAランクの!?」

   「えっ? じゃあ、あの女ヤバいんじゃねえの?」

   「で、でもでも、あの人もすごいんだから!」

   「そーよそーよ!」

   「アンタたちなんか、すぐにボッコボコなんだからねっ!」

   「「「な、なんで俺たち……?」」」


 どうやら目の前の男は、ゴレガンというらしい。

 声をかけられた理由はわからないままだが、なんの用なのだろうか。


「昨日、偶然聞いたんだけどよ。テメェ、1人で大量の依頼を片付けやがったらしいな?」

「……やったが」

「あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ。痛い目を見たくなけりゃあな」

「…………」


 黙って次を待つシルヴェリッサ。

 だがゴレガンとやらは他に用件を口にするでもなく、


「わかりゃいいんだよ」


 とだけ言い残して、去ってしまった。

 別にわかってなどいないが、シルヴェリッサの無言をそのように捉えたようだ。


 ともあれ今の男が自分を疎ましく思っているらしいのはわかったが、しかし言う通りにしてやる意味も理由もない。と、早々にこの件の思考をてるシルヴェリッサであった。




     ◆


 しばらく前。

 ゆっくり朝食を済ませたリフィーズは、使いの者に案内されてギルドへとやってきた。もちろん護衛の男2名もついてきているが、それは別に態々わざわざ触れるまでもない。

 ちなみに侍女は留守番である。


 さて、ギルド長の部屋に着いた。今回も当然1人で入る。

 待っていたのは麗しのギルド長フェローナ――と、


「ちっ……」


 かなり不機嫌そうな娘だった。しかし見目はフェローナに劣らぬほど麗しい。

 乱雑に肩口まで伸びた濃橙の髪。淑やかさとは程遠い、高露出の軽装。胸当てはしているが、なかなか大きい谷間が丸見えである。


「ほぉん……」


 リフィーズの心がたかぶり踊った。

 す……っと目を細め、フェローナとその娘の姿を堪能する。


「あ、ぅ……///」


 と、頬を染めてうつむくフェローナ。リフィーズが先日の別れ際にした、あの口づけを気にしているようだ。なんとも可愛らしいことである。


 ひきかえ、


「あぁ? なに見てんだ!」


 知らぬ娘のほうは、こんな調子だった。だが、


(これはこれで、なんだかそそるわね……ふふ♪ 案外、少し可愛がるだけで甘えん坊になりそう♪)


 リフィーズは楽しげに微笑をこぼす。

 すると娘が「うっ」と怯んだ。


「な、なんで怒鳴られてうれしそうなんだよ!」

「さあ? どうしてかしら、ね……♪」

「ひぃっ……!」


 にこり、とリフィーズが微笑むと、娘は悲鳴を漏らしてフェローナの後ろに隠れてしまった。その様子にリフィーズの女欲がさらに刺激される。

 だが今はそんな場合ではないので、ぐっと抑え込んだ。


「ところでフェローナ。さっそくだけど、本題を聞かせてもらえるかしら?」

「……ハッ!? は、はい。先日に承りましたご依頼の件ですが、ご紹介できる方が一名、見つかりました」


 言って横に退き、後ろの娘を見せるフェローナ。


「Aランク冒険者のロヴィスさんです」

「ふんっ! 別に覚えなくていいからな!」

「ロ、ロヴィスさんっ、いくらなんでも無礼が過ぎますよ!」


 もしリフィーズの立場をわかっての態度なら、たしかに彼女は無礼極まりない。が、


「構わないわ。ロヴィス、といったわね。何か理由があるのでしょう?」

「……あたしはな、王族やら貴族やらが大っ嫌いなんだよ! いつもいつもあたしたち民から金を搾り取るくせに、いざ危機が迫ると考えるのは自分たちの安全ばかり!」


 なるほど、以前にそういった経験があったため、上流階級の者を嫌っている、と。

 気持ちはわからなくもないが、そのような下衆げすと同一に見られるのは少し悲しかった。だがリフィーズがなにを言ったところで、ロヴィスには通じないだろう。


「ちっ、文句でも言ってやろうと思って顔を出したが、余計にイラつきそうだ! もともと騎士なんぞになるつもりもねぇし、あたしはもう帰るぞ!」

「ま、待ってくださいロヴィスさん!」


 フェローナが制止するも、ロヴィスは止まることなく窓から飛び降り去ってしまった。相当に身軽らしい。

 どうやら代表騎士にしたいという旨は既に聞いていたようだが、説得する暇もなく断られた。


「まあ、仕方ないわね。残念だけど、あのは諦めるわ」

「申し訳ございません……説得の余地はあると思ったのですが、想像していたよりあの方の怒りは深いようです」

「貴女の――ううん、誰のせいでもないわ。だから気にしないで、ね?」


 そうリフィーズが微笑むと、フェローナは「はい」とうなずいた。

 とそこへ、コンコンッと扉をノックする音が響く。すぐ後に聞こえてきた声の様子から、そこそこ慌てているらしいのがわかった。


『ギルド長っ! 例の方が依頼から戻ってきました!』

「すぐに事情をお話しして、可能であればお連れしてください」

『了解しました!』


 さすがはギルドを束ねる長である。指示に無駄がなかった。

 関心しつつも、リフィーズは抱いた疑問を訊ねる。


「例の方、というのは誰かしら?」

「――強くて美しい女性、です」


 そのフェローナの返答を聞き、リフィーズは再び胸を踊らせるのだった。

※ すでに似た名前のキャラがいたので、リフィーズ編で登場した女冒険者の名前をラナリット → ロヴィスに変更しました。

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