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39話

     ◇


「…………」


 六刃の一つを発見できたのはいいが、思わぬ障害にぶつかってしまった。

 こうして先ほどから黙って考えているのだが、どうすればいいのか全くわからない。


 そもそも黄岩陸きのいわくがが、あのサルと一体化していること自体が謎だ。


「……な、なあ」


 と、カーヤが思いきったように声をかけてくる。

 振り返ると、彼女も含めて皆が心配そうに上目で見ていた。どうやら無言を続け過ぎたらしい。


「げんき、だしてください」 アーニャ

「きっとだいじょ――」 カーヤ

「なんとかなるよ!」 キユル

「そ、そうです!」 イリア

「ですですっ」 ウルナ

「のだのだっ」 クアラ

「(こく、こく)」 エナス

「「にこってするといいなのー」」 ケニー、コニー

「ほらほら、にこぉ~!」 オセリー


 口端を指で吊り上げる後半3名。他7名も、懸命に励まそうとがんばっている。

 そのおかげか、少々ながら気が紛れた。気遣いが効いたという意も込め、礼というわけではないが代表して一番近いカーヤの頭を撫でてやる。


「なっ!? や、やめろよぉ///」

「「「「「「「「「……(じぃー)」」」」」」」」」

「ピュー……」

「……」

『……』


 集まる他の皆の視線、何より本人が「やめろ」と言うのですぐ手を離す。しかしカーヤはなぜか名残惜しそうにシルヴェリッサの手を見つめていた。


(……わからないことをいつまでも考えたところで、なにもならないな)


 最終的にそう結論づけ、頭を切り替える。

 そういえば、昨日さくじつと今回の依頼をしていてわかったことがあった。


 たとえPTに加えていても、シルヴェリッサと離れすぎると経験値が入らない。これは昨日で判明したこと。

 次に今回――というより少し前から感じていたことだが、どうやらサブライムホースたちのLvだけ上がりにくくなっているようだった。

 仮説だが、進化を重ねるにつれLvアップの間隔が大きくなるのだろう。それに加えて、今のところ狩る魔物が全て彼女らの格下なので、得られる経験値も少なくなる。――といったところか。


 ルヴェラもLv50を越えてからというもの、目に見えてLvが上がりづらくなった(現在Lv53)。

 以上のこともあり、途中でハニエスの育成を思い立ったときに彼女と交代させたのだ。


 ちなみに今後の移動速度向上も考え、サブライムホースたちは変わらずPTに残している。

 とはいえまだLv55なので、それはしばらく先になりそうだった。


(そういえば、ルヴェラは進化に分岐があったな)


 とすると、他の魔物にも同じような例があるかもしれない。

 もしまた従魔たちに分岐が発生したときは、できるだけ慎重に考えてやろう。


 などと考えていると、やがてラーパルジが見えてきた――。




     ◆


 ラーパルジ近辺・ラーズの森。夜。


 先日に魔王ナーラメイアと対峙した場所で、グヴェルドは魔流石まりゅうせきに座していた。まるでナーラメイアがしていたように。

 しかし彼女とは違い、グヴェルドは魔流石に気を遣うことはない。そもそもすでに異常をきたしているのだ。まあ正常だったとしても、彼にとっては同じことだが。


「……さて、そろそろ様子見も飽きましたね」


 ここしばらく人間に化けて情報を集めていたグヴェルドだったが、もう行動に移ってもいい頃だろう。女神教信者の国王のことも十分に知れた。たしかハーフェニア響国の姫王・ポルナージュといったか。

 なにやら闘技大会なるものが催されるらしく、その観覧に来ているようだ。


「闘技大会……人間ごときが競い合ったところで、所詮は脆弱同士のじゃれあいでしょうに」

「ほんとう、そのとおりですわ」 牛魔人

「カヒヒッ、どうかん!」 鴉魔人

「あら、でもかわいらしいとおもわない?」 さめ魔人

「クスクス、そうですね」 粘液体スライム魔人

「いじめたくなっちゃう、か・も……♪」 蜘蛛魔人


 周りに侍る娘たちがそれぞれ艶っぽく口にする。

 グヴェルドは全員に微笑みかけると、立ち上がって森の奥へ。


 もちろん娘たちは我先にとついてくる。


「あぁんグヴェルドさま、おいていかないでくださいまし……」 牛魔人

「おや、すまない。でもゆっくり歩いているだろう?」

「ちょっとでも、はなれたくない!」 鴉魔人

「あはは、ありがとう。じゃあ、抱きしめてあげようね」

「やぁん、ずるいです~♪」 鮫魔人

「キミにはまた今度してあげるよ」

「それでグヴェルドさま、どこにいくのでしょう?」 粘液体魔人

「ああ、ちょっと玩具を探しに、ね」

「おもちゃ? どうして?」 蜘蛛魔人

「フフッ、闘技大会とやらで遊ばせようと思ってね」


 人間ごときに自身が直々じきじきに相手をしてやるなど、面倒かつ不快きわまりない。

 ゆえにその辺りの適当な魔物を魔力で強化し、『魅了』のスキルで支配して代わりに暴れさせるのだ。


 その意図が伝わったのか、娘たちも各々グヴェルドに賛成してくる。


「とてもいいかんがえですわね!」 牛魔人

「たのしそう!」 鴉魔人

「ほんと、おもしろそうねっ」 鮫魔人

「クスッ、わくわくします」 粘液体魔人

「からだがゾクゾクしてきちゃう♪」 蜘蛛魔人


 まるで他人事のように・・・・・・・笑む娘たち。


 自分たちが『魅了』にかかっている可能性など、塵ほども疑っていなかった……。



     ◆


 リフィーズ・ファル・ソウェニアの宿泊する『シャロイゼ』は、超一級の宿だ。その名の意味は「麗しき識女しきじょ」。ちなみに、『シャロトガ』という姉妹宿が街の反対側にある。どちらの宿も女性専用だ。


 とにかく彼女はそこの最上階、スイートフロアを侍女と2人で貸し切っていた。本来は最低でも8名以上でなければ借りることはできないのだが、その問題は通常の10倍の金額である70000メニスで解決している。だが一国の主たるリフィーズにとって、そのような出費は些事であった。

 実は大会の主催から宿泊場所は用意されていたのだが、この宿には一度泊まってみたかったのでそちらは断ったのである。


 それはそれとして、そろそろ朝食ができる時間だ。軽く髪を整え、召し物を替えねば。

 と、リフィーズはさっそく侍女に申し付ける。


「支度をお願い」

「かしこまりました。お御髪みぐし、失礼いたします」


 恭しく一礼した侍女――黄土髪でたれ耳の犬人種――が、ソファに座したリフィーズの髪を慣れた手つきで丁寧に整えていく。

 てきぱきとした彼女の仕事により、着替えも含めて5分も待たず終了した。


「ありがとう。それじゃあ妾は、食事の知らせが来るまで少し時間を潰しているわね」

「承知いたしました。ではお側に控えておりますので、他にご用命があれば何なりと」

「ええ」


 微笑みうなずくと、リフィーズは城から持参した書を開いて読み始めた。『絶海の巨崖きょがい』というものについて記された物である。


 大海原の真ん中、まるで何かを囲うようにそびえるその崖は、この世界に於ける大きな謎の一つだ。

 上に登るほどに荒れていく暴風の影響により、未だかつてその内部を見た者はない。が、ゆえにこそ様々な予想や妄想が世に広まっている。

 そしてこの書は、そういった虚想のいくつかを紹介した物なのだ。


   ~見たこともない魔物や種族がいる~

   ~実は地中深くまで続く大穴で、落ちたら戻ってこられない~

   ~ただ海が続いているだけで、実は何もない~


 ――など色々と書いてあり、読んでいて飽きがこなかった。


     コンコンッ、


 そこに響くノック音。応対しにいく侍女。

 しかし、リフィーズは横目にもせず書を読み続ける。たとえ借りた部屋だろうと、ここは彼女の自室だ。

 要するに、王が自室にいるときは、まず従者に取り次ぐのが礼儀ということである。


「――リフィーズさま。冒険者ギルドより使いの方がいらっしゃっているそうです」

「あら、朝食の知らせじゃなかったの?」

「そちらのほうは、先ほど準備が整ったようです。使いの方の伝言ですが、『こちらは朝食の後でかまいませんので、どうかごゆっくりお召し上がりください』とのことでした」

「そう、わかったわ。じゃあ、さっそく食堂へ行きましょう」


 言って栞を挟み、書を閉じる。

 恭しく追従してくる侍女を伴い、廊下へと出ていった。


 ギルドの使い――ということは”例の件”についてだろう。

 進展の知らせかはまだ不明だが、少しばかり期待に胸膨らませるリフィーズであった。

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