36話
◇
「うおおおおぉすげーっ!」
と、5人の幼女のうち1人が叫ぶ。フロントの時点ですでに興奮極まったらしい。
シルヴェリッサは今、先ほどギルドで会った彼女らを連れて『シャロトガ』に戻ってきていた。
じっくり話を聞きたいというのもあるが、とりあえずしばらくは面倒を見ることにしたのだ。
”ペブルラーバ”の分も含めて追加の宿賃を払い、宿泊部屋に戻る。
「「「「「あっ! おかえり――なさ、い……?」」」」」
「ピュイーっ!」
「グゥ?」
『ギヂ……?』
シルヴェリッサの帰還に気づいたアーニャたちが駆け寄ってきて、見知らぬ幼女5人と魔物6匹に首を傾げる。セルリーンだけは欠片ほども迷わず主人に抱きついてきたが。
一方で多くの魔物に注目された新顔たちは、怖じてシルヴェリッサの陰に隠れてしまった。
「な、なにみてんだこのやろ!」
「やんのかこらー!」
「た、たべないでほしいのだ」
「きっとおいしくないのー」
「おなかこわしちゃうのー」
別にそこまで狂暴な空気は発していないと思うのだが、子供の目線で見るとそうでもないのかもしれない。
ともかく話を進めたいので、シルヴェリッサは簡潔に事の顛末を説明した。
アーニャたちと、続けて新顔の5名にも名乗らせる。
「カーヤってんだ」 橙髪の虎人族
「キユル!」 群青髪の鳥人族
「クアラなのだ」 深茶髪の狸人族
「ケニーなのー。コニーのおねえちゃんなのー」 白黄髪の馬人族
「コニーなのー。ケニーのいもうとなのー」 白緑髪の馬人族
シルヴェリッサは先ほど名乗りを交わしたので、このまま本題に入る。
そういえば、自身の目的と身の上について口にしたことはなかった。アーニャたちにもいい機会かもしれない。
「……わたしは、別の世界からきた」
「「「「「――え?」」」」」
その場の全員が同じような反応であった。が、無理もないだろう。
言っていることがことなので、シルヴェリッサとてすぐに受け入れられるとは思っていない。
しかし口が達者ではないため、ただ事実だけを説明するよりなかった。
こことは違う世界で生まれ、すぐに捨てられて。
けれど懸命にもがいて救いを求めた。
やがて生に絶望し、神に呪われ不死となる。
呪いを解くため10年の時を戦い抜いて。最後の敵を倒した。
そして謎の現象によってこの世界に放られ、
その際に分かたれた六刃を探して今に至る――。
話を聞いてしばらく戸惑っていたアーニャたちだったが、
「しんじます!」
「はいっ」
「もちろん!」
「です……」
「うたがいのよち、なーし!」
どうやら信じてもらえたようだ。
そしてカーヤたちも、
「んん~ぅっ、よくわかんねっ、しんじる!」
「かんがえるのやめたね、ばかだから。ま、しんじてもいいかな」
「ウソつくひとにはみえないのだ」
「うんうん、なのー」
「しんじる、なのー」
なんとか受け入れてくれたらしい。
従魔たちの方は、やはりというべきか塵ほども疑っていないようだった。
ここでカーヤが口を挟む。
「んでよ、カネはいつもらえんの? オレもう、はらへってさ……」
「「「「うぅ……」」」」
うなだれて腹をさする彼女とキユルたち。
しかしまだ話を聞いていない。それにまだ誰にも言っていないが、もう彼女らの面倒は見ることに決めているのだ。
もちろん食事もちゃんとやるつもりである。
「……望むなら面倒を見てやる。食事もやる」
「「「「「え……、えぇっ?」」」」」
5人は突然の申し出に戸惑い、やがて言葉の意味を理解するとおそるおそる訊ねてきた。
「い、いいのか……?」
「そんなにやくにはたてないけど……」
「で、でもでも、がんばるのだっ」
「いっぱいがんばるなのー」
「だからおねがいなのー」
「「「「「おねがいしますっ」」」」」
なぜかアーニャたちまで頭を下げてきたが、元はシルヴェリッサから言い出したことだ。答えは決まっている。
「……ん。……話のあと、食事にする」
「「「「「お、おせわになります!」」」なのー」」
かくしてカーヤたちは、正式にシルヴェリッサが面倒を見ることになった。
カーヤ曰く「じゃあいらいのカネはもういいや!」だそうなので、そういうことにしておく。
ちなみにだが、彼女たちはシルヴェリッサが宿賃を払うのを見ていなかったようで、てっきり報酬をもらって終わりと思っていたらしい。
ともかくその後、”黄色い剣のサル”の話を聞いてから、食堂にて食事を済ませた。カーヤたちは豪華な料理の数々に慄いていたが、それはまた別の話である。
――カーヤたちの情報からでは、件の『黄色い剣』が砕刀・黄岩陸であると断ずることはできなかった。が、やはりそのサルは追ったほうが良いだろう。
とはいえなにやら森の中に消えたというし、今日は明後日の闘技大会に参加する方法を聞きに行かねばならない。
それに、あまり焦ると思わぬ危険があろう。どうせ自分以外は六刃には触れられないのだから、大会が済むまでは”エルフ”に集中することにした。
◆
中央闘技場・受付
モニカは2日後の闘技大会に参加するため、その申し込みを今しがた済ませた。
やはり王族が招待されるほどの規模ということで、出場者の数もかなり多いらしい。
急にモニカの中で不安が募ってくる。
(ワ、ワタシ、弱いのに……ど、どうしよう)
”エルフ”に会える! という可能性に夢中になり、その条件の過酷さが見えていなかった。
武器である短剣こそ上等品だが、これは自分の力で手にした物ではない。母からもらった祖母の形見なのだ。
その祖母も、昔ラーパルジにいた時”エルフ”にもらった、とモニカが幼い頃に語っていた。
そう、”エルフ”である。
幼少時に祖母の話を聞いてからずっと、会いたくて会いたくて旅をしてきた。遠い故郷の大陸からおよそ5年、数えきれない苦労の末、やっとここまでこれたのだ。
(まあ、完全に壁にぶつかっちゃったけど……)
沈みかけたところで「いやいや!」とかぶりを振る。
まだまだ諦めるわけにはいかないのだ。そもそも好機がこれきり、というわけでもないだろう。
ともかく大会には精一杯の力で挑もう。と、1人決意するモニカであった。
◇
夕刻。
シルヴェリッサはカーヤたちの衣服を購入した後、中央闘技場へ向かっていた。
すぐ後ろを歩くアーニャたち、カーヤたちはなにやら談笑を交わしている。
「ねえねえ、そのおサルさんはどこでみたの?」 アーニャ
「えっとな、まちからすぐのとこだ」 カーヤ
「やくそうとってたら、びゅーんってとおりすぎたの」 キユル
「どうしてやくそう?」 イリア
「ギルドでうれるのだ」 クアラ
「なるほどー」 ウルナ
「で、でもこどもだけじゃ、あぶないよ……?」 エナス
「しかたないのー」 ケニー
「いきるためなのー」 コニー
「うむうむ、けどもうやらなくていいんだね」 オセリー
シルヴェリッサとしてもオセリーの言った通り、面倒を見ると決めたからには彼女らに危険なことをさせるつもりはなかった。とはいえ実際にそれを伝えてはいないが。
その後もアーニャたちの会話を背に歩き、シルヴェリッサは中央闘技場に到着する。
予想はしていたが、その大きさはかなりのものであった。
まず外壁の高さは、サナルの森で見た巨樹と同等ほど。
俯瞰で見て円形の建築らしい。
さらに建物を囲うような位置取りで、周囲には飾り柱が建っていた。
今のところ窺えるのはそれくらいだが、しかし闘技場の外観など今はどうでもいい。
重要なのは明後日の大会への出場だ。その件を訊ねるため、シルヴェリッサは闘技場の中へ入っていく。
外壁の等間隔ごとにあった中型門をくぐると、街中と同じような石畳の敷かれたフロア。どうやら左右にどれだけ行っても隔たりはなく、俯瞰で丸型を描くように繋がっているようだ。
入り口から奥の壁沿いにはまた等間隔ごとにカウンターがあり、それぞれ職員が2名ずついた。
そしてカウンター同士の合間には二又の上り階段と、さらにその間に扉が窺える。
推測であるが、おそらく階段は観覧席に通じており、扉は出場者が戦いの舞台に出るためのものだろう。それ以外の可能性は、シルヴェリッサには思いつかなかった。
「ようこそいらっしゃいました。明後日の闘技大会への参加申し込みでしょうか?」
ともかくとカウンターに寄ったところ、職員にそう聞かれたので黙ってうなずくシルヴェリッサ。
すると職員は1枚の皮紙を取り出した。
「ではこちらにお名前と性別、年齢などの要項をご記入願います」
「……ん」
つつがなく記入を終え、続けて大会の規定や禁止行為などの説明を受ける。
とりあえず簡単にまとめると、
1.武器の使用は自由。ただし持ち込んだ物に限る。
2.戦技、魔術の使用も不問。
3.故意による殺害は禁止。
『戦技』という言葉についてアーニャたちに聞いたところ、どうやら以前プリックヴェスパの件で戦った賊のリーダーが使っていたような技などを、総じてそう呼ぶらしい。
シルヴェリッサも六刃があればそういった技は使えるが、しかし人間相手に使用すれば確実に殺してしまうだろう。どのみち今は使えないが、手加減だけはしておいたほうがいいかもしれない。
ともあれ外での用事は片付いたので、シルヴェリッサは従魔たちの待つ『シャロトガ』に戻ることにした。
(あとはペブルラーバと、あの明滅する岩との関連性を調べるだけだな)
まあ、それも宿の書棚ですぐに済むだろう。
と考えながら、シルヴェリッサはその場を後にした。




