26話
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シルヴェリッサらは数日に及ぶ旅道の末、とある小さな炭鉱町へと辿り着いた。目的としては食糧の補給である。
連れている大量の魔物に驚かれはしたものの、暴れる様子がないからか、すぐに警戒を解かれた。豪胆な者が多いのだろうか。
食糧であるが、プリックヴェスパたちは果実系を主食とするらしい。けれど生憎、買い込んだ物資には無かった。
旅の途中は自然の餌場で軽く食べさせていたが、今後のことも考えるととても足りない。
炭鉱町で果実が売っているかは微妙だが、どうせ通り道なので寄って損はないだろう。
山肌の一部を平たく削り、小屋を建てたという単純な造りの町のようだ。名前は『カユラ』というらしい。
ともあれ商店を探さなければ、とシルヴェリッサは通行人に場所を聞いた。
「……商店はどこにある」
「ああ、それならあそこに見える、看板付きの小屋がそうだよ。何か入り用かい?」
「……果実類を大量に」
シルヴェリッサが言うと、その男はちらり、と彼女の後方に目をやる。
「なるほど、”プリックヴェスパ”の餌か。しかしこの町の商店では扱っていないよ」
「……そうか」
であれば長居する必要もないので、シルヴェリッサは踵を返そうとした。
「おっと、待ちなよ。俺が売ろうじゃないか」
「……行商か」
「ご名答。ちなみに、ラナンド商会の者だよ。この指輪が証拠さ」
男はそう言って、右手の親指につけた指輪を示す。簡素な二重リングの表面に、小さく『ラナンド』と彫られていた。
別にそんな証拠などどうでもいいので、シルヴェリッサは男を促す。
「……商品は」
「町の入り口に馬車を停めてある。こっちだ」
「……ん」
「――ニベザの実、ウユの実、ポポンの実。他にもいろいろあるぜ」
言いながら馬車から木箱を卸していく男。
それらの箱の中には、それぞれ様々な色形の果実が詰まっていた。
丸くて赤い実。楕円形でこげ茶色の実。皮表面が白い毛で覆われた実。
どれがどんな味なのかは知らないが、シルヴェリッサはあるだけ買うことにした。
「……果実類は全部買う」
「ぜ、全部!?」
あまりの衝撃発言に男が驚愕する。
シルヴェリッサとしても、自分がそれほどの発言をした自覚はあるので黙った。
「そ、それだと10万メニスはするが……払えるのか?」
「……ん」
「ほ、本当か! きちんと計算するから、ちょっと待っててくれ!」
妙に喜んだ様子で、男が総額の計算に入った。
きゅるるるぅ~……
と、そこまで大人しく控えていたアーニャたちの腹が鳴る。そういえばそろそろ小腹が空く頃合いだった。
さらには美味しそうな果実を前にしたので、腹の虫が堪えきれなかったのだろう。
「「「「「……///」」」」」
恥ずかしそうに頬を染めるアーニャたち。
別に生きている限りおかしいことではないのだが、本人らが気にするなら仕方がない。と、シルヴェリッサは触れずにおいた。
「ははは、どうせもう買ってもらえるんだ。そこの果実、好きなの食っていいぜ」
「……ん」
男の言葉に頷いたシルヴェリッサは、『ニベザの実』という丸く赤い実を軽く一抱えし、アーニャたちに差し出した。
「……食え」
「「「「「い、いただきます……///」」」」」
まだ頬を染めつつ、アーニャたちが赤い実を食んだ。と、みるみるその顔を綻ばせていく。
どうやら口に合ったようだ。
空腹になっていたらしいプリックヴェスパらにも実をやり、やがて『ニベザ』の箱が一つ空になったところで、ちょうど男の計算も終わったようだった。
会計を済ませ、男から商品を受け取る。
「いやぁ、助かったよ。このままじゃ無駄足になるところだった」
「……どういう意味だ」
その言に引っ掛かりを感じたシルヴェリッサは、男へ問うた。
すると男は少々言いにくそうに視線を下にする。
「そうか、あんたらはさっきこの町に着いたんだよな。……実はな、この先のジャハール王国なんだが――」
一呼吸。
「――竜の襲来で壊滅したらしい」
数秒で言葉の意味を理解したアーニャたちが驚愕していたが、シルヴェリッサの方は「……目的地をどうするか」程度の感覚であった。
なので男に、他の大きい町の情報を聞く。もちろん六刃についても。
シルヴェリッサのジャハールに対する無感慨に驚きつつも、男がその質問に答えた。
「あ、ああ。そうだなぁ、ここからだと……北西にある、ラーパルジ大闘技都市がいいんじゃないか。察するにあんた、かなり腕が立ちそうだし、あそこに行っても大して問題ないだろう」
「……大闘技都市、とはどういう街だ」
「その名の通り、闘い――要するに『強さが総て』の街だよ。毎日、何かしらの闘技大会が行われてる。もちろん賞品付きでな」
「……剣については」
「んー、悪いが聞かないな。ま、ラーパルジならそんな都市柄だし、そっちでも聞いてみな」
「……わかった」
荒々しい性質の街らしいが、当てとしては充分だろう。
これで行き先は決定した。
しばらく野宿が続いていたので、今日はここで一泊し、出発は明日にしよう。
そう決めたシルヴェリッサは、皆にその旨を伝えた。が、
「ちょっと待ってくれ。大量に買ってくれた礼にもう一つ、情報のサービスだ」
「…………」
呼び止められたので、無言で向き返り続きを待つ。
聞く意思ありと察したか、男が次言を口にした。
「噂なんだが、近々ラーパルジで行われる大会で、かなり上等の奴隷が賞品に挙げられるらしいぜ」
「「「「「ど、どれい……」」」」」
シルヴェリッサは『奴隷』と聞いてもピンとこなかったが、アーニャたちは違ったらしい。一様に哀しげで複雑そうな表情をしている。
「そんじゃ、俺はこれで。買ってくれてありがとう。竜はもう通り過ぎたらしいが、一応気をつけてな」
男の情報とやらはこれで終わりのようだ。彼は馬車を残して、再び町中へ戻っていった。
部外者の目が消えたところで、シルヴェリッサは買った果実を”神の庫”に仕舞っていく。
騒ぎになっても面倒なので、これからは他者の前での使用を控えることにしたのだ。
さほど時間も要せず終えて、一行は身体を休めるために宿へと向かった。
町に入ったときからちらほら見えていたのだが、ここにはとある特殊な人種が多かった。
”ドワーフ”というらしいその人種は、町人口のおよそ8割ほどを占めているらしい。
アーニャたちよりも少し小柄な体躯であるが、歴とした成人だそうだ。
肌は少々浅黒く、髪の量が多い。毛質もボサボサとしている。
男は髭が豊富でゴツゴツした顔立ち。
女は華奢な体躯で幼い顔立ち。
どちらにも共通するのは、見た目に年齢が表れないことと、肉体力に優れている点だそうだ。
「じゃア、8人分で3200メニスだゾ」
「……ん」
そんなドワーフの女に宿代を払い、シルヴェリッサは改めて宿の内装を見る。
汚くはないが、豪華でもない。小綺麗ではあるし大きさもほどほどなので、泊まる分には問題はないだろう。
しかしさすがに魔物も含めて全員は無理があるので、シルヴェリッサとアーニャたち、セルリーンとルヴェラの計8名で泊まることにした。
他の者たちは町の広場で寝るように言い付けている。許可は町の代表に取ったので、特に問題はないはずだ。
「お金、確かニ受け取ったゾ。部屋の鍵、これナ」
身長差があるため、腕をいっぱいに伸ばして鍵を掲げるドワーフ。
シルヴェリッサはそれを受け取り、他7名を連れて宿室へ。
後から桶に入った水と手拭いをもらったので、風呂代わりに身体を拭いて就寝した。
食事は付かないらしいが、規模的に考えると仕方がないだろう。
所持金854030メニス → 746270メニス




