19話
※リアル事情により更新が遅くなりました。すみませんです。
◇
森の奥部に足を踏み入れたシルヴェリッサたち。
彼女らを囲む木々や草花からは、少し前から『生命の息吹』とでも呼べるようなオーラが溢れてきていた。理屈はわからないが、それは緑色の粒子として視えるのだ。
シルヴェリッサは元いた世界の森との違いに驚嘆する。
非常に美しいのだ。
生命の赴くままに成長した様々な植物たち。
木々は青々とした枝葉を広げ、色彩豊かな花々が大地で躍る。
流るるいくつもの川は細太様々。
木漏れ日がその流面を打ち、宝石のような光を散りばめていた。
そして周囲を満たす小さな命たち。
実を食み、川で喉を潤す。そんな至極当然の姿と、彼らに恵みをもたらす草木や花々。
そんな『生』に充ち充ちた尊い様相は、シルヴェリッサの魂を強く奮わせた。
「……すぅ………………はぁぁぁぁ………………」
瞑目し、深くゆっくりと呼吸をする。
神聖かつ純然たる『生命の息吹』が、シルヴェリッサの身体を充たしていった。
「「「「「「「…………」」」」」」」
どこか神秘的なオーラを纏うシルヴェリッサに、一同が息を呑む。
もしこの場に詩人がいたならば、彼女を「女神」と謳った傑作を創っていただろう。
しかし当のシルヴェリッサはというと、己が醸し出す神秘さに全く気づいていなかった。
目を開くと、目標の魔物がいないか再び見渡す。
(……ん? 今のは……)
遠くの木々の合間に、微かに煌めく黄色い複数の粒が見えた。すぐに木の影に消えてしまったが、確かに見えたのだ。その証拠にまだ微量に粒子が残っている。
何とはなしに、はらはらと落ちゆく粒の残滓を見つめるシルヴェリッサ。
すると、
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⇒ トパーズパピヨンの宝鱗粉
[品質:8]
[劣化:0]
[魔素:5]
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”神の瞳”にそれが写し出される。
シルヴェリッサは『パピヨン』という単語に引っ掛かりを感じた。
”ジュエリーパピヨン”と”トパーズパピヨン”。
『ジュエリー』が宝石を表す言葉というのは知っている。が、シルヴェリッサはトパーズというものが何かは知らなかった。
とはいえ、ただ名前が似ているだけとは思えない。
(まだ近くにいる、か……?)
ともかく捕まえてみよう、とシルヴェリッサは地を蹴る。
突然の行動に驚く皆を置いて、粒子が消えた方へと疾駆した。
目まぐるしく変わっていく景色の中、”トパーズパピヨン”らしき姿を探す。
そして十数本目かの木を抜けたとき、
(いた)
霊木という名が相応しい、太蔓が幾重にも絡まり伸びた偉容の木。
その幹の中頃に空いた虚で、黄色い妖精が羽を休めていた。大きさは両手のひらに乗るくらいだろうか。
一言で例えるならば、それは『生きた宝石』。
黄色く透き通った4枚の翅。クリクリとした小さい眼。
硝子のような半透明にきらめく黄色の髪。毛先は少し色が濃いようだ。さらにはピコピコッ、と虫の触角のような二本の毛が飛び出ている。
そしてその身には、艶のあるリボン状の布を巻き付けていた。
(……能力値を視ておくか)
念のために、とシルヴェリッサは”神の瞳”を発動させる。
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○ トパーズパピヨン
Lv: 58
HP: 375/375
MP: 720/720
STR: 32
DEF: 27
INT: 419
RES: 407
SPD: 348
LUC: 280
スキル: □採集Lv5 □飛行Lv4
□地魔術Lv4 □魔力感度Lv4
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かなりの高Lvだが、物理能力が非常に低い。そのかわり、恐らく魔術的なものと思われる値が高かった。
見たところ、捕まえる分には問題なさそうである。
判断したシルヴェリッサは、さっそく木の虚に向けて跳んだ。
「!!」
気づいた”トパーズパピヨン”が慌てて飛び立ち、何やらオーラを纏って土塊を繰り出した。
(魔術、か……だが)
シルヴェリッサは危なげなく空中で身を翻し、躱す。そのまま幹に垂直で足をつけ、勢いを殺さず膝を曲げ、二段目の跳躍。
「!! ~~っ!」
土塊を簡単に躱されるとは思わなかったのか、逃げかけていた”トパーズパピヨン”が焦ってバランスを崩す。結果、落下しようとしたところをシルヴェリッサが抱き止めて着地した。
◇
”トパーズパピヨン”。
それは”ジュエリーパピヨン”の中でも黄色の者の正称であったらしい。そもそも”ジュエリーパピヨン”という名は、全ての色種を併せた総称だそうだ。
という話をルモネッタから聞いたシルヴェリッサ。しかし彼女が喜ぶより先に周囲が大騒ぎとなった。
「う、うそっ! 本物!?」
「は、はははじめて見たっ」
「きれい……」
「うおーっ、すげええええ!」
「おいみんな、目に焼き付けとけよ!」
「わ、わわわかってるわ」
「もう二度とみられないかもしれないのよね」
一様にシルヴェリッサの胸に抱かれた”トパーズパピヨン”に刮目している。
当の”トパーズパピヨン”はというと、落下から助けてもらったことで『敵ではない』と認識したようで、怯えることもなく大人しくしていた。
目的の魔物だと判明したので、シルヴェリッサがシェーランド家へ歩を向けたとき、
「まものさんですわぁ~~っ!!」
「お、お嬢様っ! はあ、はあっ、は、はしたのうございます!」
扉をぶち壊さんばかりの勢いで取扱所に駆け入るシェニアと、はあはあ息を切らせながら彼女を宥めようとするリタ。
驚きつつもシェニアを微笑ましげに見つめる周囲に、リタが「お、お騒がせいたしました」と頭を下げた。
シェニアがシルヴェリッサたちを見つけ、駆け寄ってくる。もちろんリタも続いた。
そして2人は同時に”トパーズパピヨン”に気づき、驚嘆する。
「パ、パピヨンさんですわ~! キラキラですわ~!」
「さすがでございますね、シルヴェリッサ様」
「……戻ったと知っていたのか」
至極当然な問を口にするシルヴェリッサに、リタが答える。
「はい。今この町では、シルヴェリッサ様は非常にお目立ちになります。ちょうど出先がこちらの周辺でしたので、お戻りになったと聞いたお嬢様が我慢できずに。といった次第です」
「……そうか」
ともあれ呼びにいく手間は省けた。
シルヴェリッサは捕獲した魔物たちを渡し、”刻印”を見届ける。
問題なく終わり、リタが報酬の話を切り出した。
「ではシルヴェリッサ様。報酬は邸宅の方で支払わせていただきますので、恐れ入りますがご足労願えますか?」
「……ん」
頷いたシルヴェリッサはその後に邸宅へ赴き、無事に報酬の520000メニスを受け取った。
これで現在の所持金は、合計1082980メニスである。
◇
依頼の契約期間は明日までであったが、”トパーズパピヨン”も併せてもう十分だ。ということらしいので、今回の依頼はここで終了となった。
その際に町を出る話になり、涙を流しあいながら別れを済ませたアーニャたちとシェニア。友のいないシルヴェリッサには彼女らの気持ちはわからない。が、気の済むまで泣かせてやろう、と見守っていた。
シェーランド邸を離れる間際に、リタから指摘されたことが一つある。
ずばり、『服装』のことだ。今まではシルヴェリッサ自身も含め、全員がボロ布の服という格好であった。が、さすがにこの先もそのままではダメでしょう、と言われたのである。
シルヴェリッサとしては現状のままでもさして問題はないが、アーニャたちにも付き合わせるものではない。なので折角であるし、自身の物も含めて新調することにした。
目指すはリタに紹介された、シェーランド家御用達の服飾店である。