表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/115

18話

     ◇


 ”スモールロップ”を2匹、”プチウィーズル”を1匹捕まえて暫く。

 2つめのゴブリンの群れを殲滅した直後、”ミークホース”たちに異変が起きた。


「ヒヒーンッ!」

「ブルルルルッ!」


 落ち着きなくいなないて、忙しなく足踏みを始めたのだ。アーニャたちもその様子に驚いている。

 ハーピーやオーガたちは警戒を見せないので、シルヴェリッサは『害なし』と判断した。するとそこで、


          《――”ミークホース”のLvが上限に達しました》


          《――”ミークホース”から

                 ”ディグニティホース”に進化します》


 と通知された。どうやらLvが最大値まで上がると進化をするようだ。そういえば、とシルヴェリッサは思い出す。

 ”ストラグルオーガ”が出現したとき、周りの冒険者が『進化体』と言っていた。魔物は皆、種族差はあれ進化するものなのかもしれない。


 そんなうちに、ついに”ミークホース”6頭が進化の光を纏い始める。

 そのシルエットがゆっくりと形を変えていき、やがて光が収まると、


「「「「「「ヒヒィィイイーーッン!!」」」」」」


 一回り大きくなった体躯に、毛量の増えた四肢の逆毛を湛えた6頭が、その姿を現した。体色も少し濃くなっている。

 能力値を視てみると、


===  ===========================  ===


          ○ ディグニティホース


            Lv: 20/45


            HP: 210/210

            MP:  59/59


            STR: 118

            DEF:  97

            INT:  85

            RES:  69

            SPD: 226

            LUC:  92


           スキル: □採集Lv2


===  ===========================  ===


 全ての数値が軒並み上がっていた。

 さらにLvの最大値も増えている。もし『進化』が何度も起こり得るものなら、いずれ戦力としても期待できそうであった。


 アーニャたちが”ディグニティホース”をキラキラした目で見つめている。ハーピーやオーガたちは、心なしか羨ましそうにしていた。魔物にとって『進化』とは、非常に大きな憧憬であるのかもしれない。


 セルリーンもあと1戦もすれば進化に達しそうだ。


(”オーク”の数体なら単独で倒せるようになりそうだな)


 密かに期待するシルヴェリッサであった。

 しかし、今は魔物の捕獲が優先である。希少らしい”ジュエリーパピヨン”も狙いたいので、シルヴェリッサはこれから森へ赴くことにした。オーガたちが出てきた森だ。


 まだハーピーたちの捜索網も手付かずの場所なので、赴く価値は十分にあるだろう。



     ◇


 セルエナの東に位置するその森では、生態系が変わろうとしていた。

 オーガが1体残らずいなくなったからである。つまりオーガの補食対象であった”ゴブリン”や”オーク”は、その脅威から解放されたのだ。自然、その数は爆発的に増える。

 だが”ゴブリン”や”オーク”であれば、並みの冒険者たちで十分に対処できるので、問題はなかった。


 要するにシルヴェリッサには塵ほどの影響もない、ということである。


「ギギァアッ!」

「ギッギィ!」

「ギシシッ!」


 さっそく”ゴブリン”と遭遇。シルヴェリッサからは木々に隠れて見えないが、恐らく30体近くの群れであろう。シルヴェリッサたちの頭数24を見ても好戦的であることから、それがわかる。”ゴブリン”とは、数でしか戦力差を測れない生物なのだ。

 ちなみにハーピーたちは、森の外で引き続き捜索をしている。セルリーンだけは、シルヴェリッサがその”進化”を確認するために連れていた。


「……セルリーン」

「ピュ」

「……木の上は任せる」

「ピュイ!」


 元気よくピョン、と跳ねるセルリーン。

 いずれ戦力とするなら今のうちに戦闘も経験させよう、とシルヴェリッサは考えたのだ。


「ギギィアッ!」


 1体の”ゴブリン”が動き出し、戦闘が開始される。

 シルヴェリッサはその飛び出してきた1体を蹴り飛ばし、後方の2体に直撃させた。計3体が一気に事切れる。


 セルリーンがシルヴェリッサの援護をすべく行動を開始した。その鉤爪で、周囲の枝上の弓持ちゴブリンを排除していく。

 その援護を受けシルヴェリッサは遠距離への憂いを消し、流れるように地上の”ゴブリン”を斬っていった。


 やがて地上と枝上の”ゴブリン”が掃討され、3分と待たずに戦闘が終わった。

 そして、


          《――Lv差が開きすぎているため

                 経験値を獲得できませんでした》


          《――セルリーンのLvが29~30に上がりました》


          《――”ディグニティホース”のLvが

                     20~24に上がりました》


          《――”ディグニティホース”のLvが

                     20~24に上がりました》


                    ◎

                    ◎

                    ◎


          《――セルリーンのLvが上限に達しました》


          《――”ハーピー”から

                  ”エリアルハーピー”に進化します》


 セルリーンにも『進化』の時がきたようだ。

 彼女は甲高く優美な鳴き声を上げ、『進化』の光に包まれた。そのシルエットが緩やかに形を変えていく。


「ピュイイイイィィイイーーッ!!」


 ほどなくしてそれが収まると、淡い薄緑のオーラを纏い、セルリーンがその新たな姿を見せた。


 クリーム色の翼や羽毛は、その先端部が薄緑に変色。

 両鎖骨部分から生えた計2本の長羽根。それぞれ左右に首横を通り、後ろに向けて緩やかな弧を描いている。

 体格も少しだけ大きくなっていた。


 さらには能力値であるが、


===  ===========================  ===


          NAME:セルリーン

               ○ エリアルハーピー


            Lv: 30/55


            HP: 320/320

            MP: 171/171


            STR: 202

            DEF: 186

            INT: 113

            RES: 107

            SPD: 295

            LUC: 150


           スキル: □飛行Lv5 □空中戦闘Lv4

                □風魔術Lv3 □隠密Lv2

                □狩猟技術Lv4


===  ===========================  ===


 シルヴェリッサが視たところ、将来的に期待が持てそうであった。


「「「「「わあぁ……」」」」」


 ”ディグニティホース”のときに続き、アーニャたちが目をキラめかせる。そしてオーガたちも、先ほどと同じく羨ましそうにしていた。


「ピュイッ」


 それらの視線を受け、セルリーンがふふん、と胸を張る。

 ふと、シルヴェリッサは思いついた。オーガにもリーダーがいれば纏めるのも楽かもしれない、と。


 そして赤桃髪のオーガが目についた。彼女と行水をした個体である。


(こいつにする、か)


 本当に単なる気紛れで、シルヴェリッサは彼女をリーダーに決めた。こいつも育てなくては、と一旦の切りがついたセルリーンをPTから外す。


          《――セルリーンがPTから外れました》


「ピュイッ!? ピュゥ……」


 ずずぅ~ん、と沈むセルリーン。

 そんな彼女を、アーニャたちが慰める。


「よしよし」

「いいこいいこ」

「おちこまないでー」

「げんき、だして……」

「げんきげんきー」


 微笑ましいやり取りに心を暖かくしながら、シルヴェリッサは赤桃髪のオーガに寄った。自分たちのボスの突然の行動に、オーガたちが少しおののきつつも道を開ける。

 シルヴェリッサの目的が自分だと気づいた赤桃髪が、戸惑いと怯えを見せた。


「ク、クュゥ……」


 そんな彼女に、シルヴェリッサはまたも直感で名付ける。リーダーとする以上、名無しというわけにもいかないのだ。


「……ルヴェラ」

「クュ……?」


          《――従魔:オーガの個体名がルヴェラとなりました》


「!! グュウッ!」


 名付けられたことを理解したルヴェラが嬉しそうに鳴いた。

 続けてシルヴェリッサは彼女をPTに加え、その能力値を確認する。


          《――ルヴェラがPTに加入しました》


          《――シルヴェリッサのスペシャルスキル効果》


          《――『獲得経験値増加』が適用されます》


===  ===========================  ===


          NAME:ルヴェラ

                ○ オーガ


            Lv: 11/35


            HP: 129/129

            MP:  14/14


            STR: 103

            DEF:  87

            INT:  28

            RES:  20

            SPD:  66

            LUC:  41


           スキル: □格闘術Lv2 □狩猟技術Lv2

                □採集Lv1 □火魔術Lv1


===  ===========================  ===


 物理的な能力がかなり高い。が、それ以外は軒並み低かった。

 しかし潜在的な能力はなかなかである。


 そこでふと、シルヴェリッサはスキル欄にある『魔術』という表記に疑問を抱いた。

 これまではそれほど気にならなかったが、どういった意味の言葉なのかわからない。なのでアーニャたちに尋ねる。


「……魔術とはなんだ」

「え? えぇっと……」

「ん、ん~?」

「ど、どういったらいいのかな?」

「む、むずかしい、です……」

「うーん……」


 どうやら口で説明するのは難しいようだ。後にシルヴェリッサにもわかることだが、この反応をするのも無理はない。

 例えるなら、「空気とはなんだ?」と聞かれたようなものなのである。在って当然の物であり、普通はそれに対して疑問など抱かないのだ。


 ならば、とシルヴェリッサはルヴェラに頼む。


「……ルヴェラ、『火魔術』が見たい」

「ク、クュ」


 畏敬からか、緊張した様子でルヴェラが頷く。そして彼女は水を掬うような形で、両手を胸の前辺りに持ってきた。やがて手のひらの中にうっすらと赤いオーラが生じ、それが小さな火に変わる。そのままゆらゆらと揺らめいていた。


 どうやら『魔術』とは、何も無い状態から『現象』を引き起こす能力らしい。シルヴェリッサの”六刃”にも同じような力があるので、あまり驚かなかった。


(……本来の目的に戻るか)


 ひとまず疑問は解消されたので、魔物の捜索に戻る。

 一行はさらに森の奥へと進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ