17話
◇
最初に馬車を買い、次に食糧。簡単な調理器具や旅用品を揃え、シルヴェリッサは馬車以外を”神の庫”に仕舞った。
最後は馬車を引く馬である。聞いたところによるとそれに向いた魔物がいるらしいので、魔物取扱所へ。
そこでも再びシルヴェリッサは歓声を受けるが、気にせずカウンターに向かう。と、
「!! わ、わたしのカウンターに……!?」
「な、ち、ちょっと場所変わりなさいっ」
「ズルいですセンパイ! ワタシが変わります!」
「いえ私が!」「わたしよ!」「ワタシが!」
「「「「「むむむむむ~……!!」」」」」
職員たちが一触即発となった。さらになぜか、遠目でそれを歯痒そうに見ているルモネッタ。シルヴェリッサ本人は預かり知らぬことだが、ルモネッタは彼女に一番接しているとして、他職員から牽制されているのだ。
しかしシルヴェリッサはそんな事情など知らないので、向かうカウンターをルモネッタの場所に変えた。何やら騒いでいる連中よりも、大人しくしている知った顔の方がいい。と思ったからである。
「「「「「なっ!?」」」」」
騒いでいた職員たちがショックで固まる。対してルモネッタは、驚きつつも笑顔でシルヴェリッサを迎えた。
「こ、こんにちは、シルヴェリッサさん。今日はどういったご用向きでしょうか?」
「……馬車用の馬」
「かしこまりましたっ。馬車のおおよそのサイズはわかりますか?」
「……6人乗り、3台分」
「では1台につき2頭で、計6頭がオススメですね」
「……それでいい」
「ありがとうございます。では”ミークホース”6頭で、6万メニスになります。それからこちら、”刻印液”の瓶とナイフです」
「……ん」
代金を払い、シルヴェリッサは受け取った瓶に血を垂らした。すぐに”刻印液”が完成する。
それを確認したルモネッタが続けた。
「では、”ミークホース”を連れて――」
「きましたよっ、シルヴェリッサさま!」
「せ、センパイ!? それは私の役目ですよ!? ていうか早いですね!」
「アンタだけにいい思いはさせないわよ、ルモネッタ!」
センパイと呼ばれた女が即座に6頭の”ミークホース”を連れてきて、シルヴェリッサに明け渡す。直後にルモネッタと言い合いになっていたが、シルヴェリッサは気にせず”刻印”をしようとした。が、どこに塗ればいいのか聞いていなかったので、取り込み中の2人とは別の職員に尋ねる。
「……どこに塗る」
「ふえっ!? あ、ははははいっ、額かその周辺ですっ」
「……ん」
「「なっ!」」
ショックを受けたルモネッタとセンパイを尻目に、シルヴェリッサは”ミークホース”の額に”刻印”を刻んでいく。かなり大人しい魔物らしく、それほど悶着もなく終わった。
《――ミークホース(※個体名なし)が従属しました》
《――以降、PTに加える・外すことができます》
(PT……ハーピーとオーガのときにも表示されたが、どういう意味だ? 近いうちに試してみる、か)
改めて全容を見てみるシルヴェリッサ。
鬣は立派で、首から左右に垂れている。どの個体も3セット6房ずつ。
四肢の付け根と蹄の付け根には、白みの強いクリーム色の逆毛束。上に向いたそれらが、全体的なフォルムにしなやかなイメージを与えている。
尾は大きくて毛量も多く、全身のシルエットに対してバランスがよかった。
そこでふと、シルヴェリッサは能力値も見ておこうと思い立ち、”神の瞳”を発動させる。
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○ ミークホース
Lv: 7/20
HP: 68/68
MP: 11/11
STR: 31
DEF: 29
INT: 23
RES: 18
SPD: 75
LUC: 23
スキル: □採集Lv2
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Lvの表示に見慣れないものが追加されている。恐らく現在値が左で最大値が右なのだろう、と予想するシルヴェリッサ。
個体差はあれ、どの”ミークホース”もこんな具合であった。しかし四足歩行であるのに”採集”とはどういうことか。疑問に思ったシルヴェリッサだったが、すぐにその答えに思い至る。
(草を食すことでも、”採集”とみなされるのかもな)
ともかくここでの用は済んだ。
あとこの町でやらねばならないのは、シェーランド家から受けた依頼である。今日と明日で契約期間は切れるので、シルヴェリッサはそれまで魔物を捕獲することに決めた。
「……あの、シルヴェリッサさん」
と、ルモネッタが少し沈んだ様子でシルヴェリッサに声を掛ける。
シルヴェリッサが目を向けると、ルモネッタは落ち込んだような表情で続けた。
「この町から、出ていかれるのですか?」
「……そうだが」
「「「「っ!! ……」」」」
シルヴェリッサが肯定すると、周囲の職員が残念げな表情になってしまった。別にそれほど親しくもないのになぜだろう、と思ったシルヴェリッサだったが、態々(わざわざ)言うことでもないので黙る。
「やっぱり、そうでしたか……。馬車を買ったと聞いて『もしや』と思いましたが、当たってしまったようですね」
「「「「シルヴェリッサさまぁぁ……」」」」
外野の職員たちが揃って涙を流す。なぜそこまで別れを惜しまれるのか、シルヴェリッサにはわからなかった。それに彼女には、この町への思い入れはほぼ無い。
多少冷淡ではあるが、憂いは全く感じていないのだ。
「……依頼の残りで、また来る」
「あ、シェーランド家のご依頼ですよね。ドタバタで失念していました」
いけないいけない、とルモネッタ。
「じ、じゃあまたシルヴェリッサさんとお話できますね///」
「…………」
なぜか頬を染めるルモネッタにどう返していいかわからず、シルヴェリッサは黙る。
「「「「むむむむむ~……!」」」」
傍の職員たちが、それを虎視眈々としたオーラを纏い見つめていた。
◇
”ミークホース”を伴って魔物取扱所を出たシルヴェリッサ。
先ほどすでに魔物の捜索をさせていたセルリーンと、町の入り口で待機させていたアーニャたちと合流する。これから件の魔物捕獲に向かうのだ。馬車は宿に預けてある。
かなりの大所帯だが、シルヴェリッサにとっては依頼に何の支障もない。
PTという謎の単語の意味を調べるため、『PTに加える・外す』を試してみるシルヴェリッサ。
セルリーンを『PTに加える』と念じると、
《――セルリーンがPTに加入しました》
《――シルヴェリッサのスペシャルスキル効果》
《――『獲得経験値増加』が適用されます》
(……セルリーンとの繋がりを感じる……?)
「ピュイ~ン♪」
ほんのりと、しかし確実な何かがシルヴェリッサとセルリーンを繋いでいる。
セルリーンもそれを感じているらしく、嬉しそうに鳴いた。詳細は不明だが、どうやらこれが『PTに加わる』ということらしい。
6頭の”ミークホース”にも試す。問題なく繋がった。
シルヴェリッサは続けてオーガたちも加えようとしたが、
《――PTメンバー数が上限に達しています》
7名までしか繋がれないらしい。
これ以上なにも試せそうにないので、シルヴェリッサは皆を連れて魔物捕獲に向かった。
始めてすぐ、”ゴブリン”の群れに遭遇する。向こうもかなりの数がおり、即座にシルヴェリッサたちへ襲いかかってきた。
しかしシルヴェリッサは、ハーピーたちの餌として瞬時に全滅させる。と、
《――Lv差が開きすぎているため
経験値を獲得できませんでした》
《――セルリーンのLvが21~25に上がりました》
《――”ミークホース”のLvが7~16に上がりました》
《――”ミークホース”のLvが6~16に上がりました》
《――”ミークホース”のLvが6~16に上がりました》
《――”ミークホース”のLvが8~17に上がりました》
《――”ミークホース”のLvが7~16に上がりました》
《――”ミークホース”のLvが5~15に上がりました》
Lvの上がり方の基準がシルヴェリッサにはわからないが、結構な急上昇であると予想できた。恐らくこれが『獲得経験値増加』というスキルの効果なのだろう。
(Lvが強さに関係するなら、これは戦力として使えるな……いや、そういえば、Lvには最大値があるのだったか?)
思い至ったシルヴェリッサは、再び”従魔”たちの能力値を確認する。
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NAME:セルリーン
○ ハーピー
Lv: 25/30
HP: 232/232
MP: 101/101
STR: 131
DEF: 112
INT: 76
RES: 71
SPD: 199
LUC: 103
スキル: □飛行Lv5 □空中戦闘Lv4
□風魔術Lv3 □隠密Lv2
□狩猟技術Lv4
○ ミークホース
Lv: 16/20
HP: 107/107
MP: 28/28
STR: 65
DEF: 49
INT: 41
RES: 37
SPD: 148
LUC: 50
スキル: □採集Lv2
◎
◎
◎
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そして気づくシルヴェリッサ。”刻印”をする前に見たときには、Lvの最大値表示などなかったような、と。
(”従魔”以外には表示されないのかもしれないな)
恐らくそういうことだろう、と予想する。
(さて……)
確認することは確認できたので、シルヴェリッサは魔物の捜索を再開した。
セルリーンも”ミークホース”たちもLvの限界が近かったが、上げておいて損はないだろう。などと考えながら。