表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/115

15話

     ◇


   「ガアァァァァ!!」

   「グォォォォー!!」

   「ゴアァーーッ!!」


 何十体もの”オーガ”たちが、どこか必死さの窺える勢いで、シルヴェリッサへと群がっていく。しかしそのことごとくが一太刀にて斬り伏せられていった。

 絶え間なく押し寄せる鬼たちを相手取りながら、シルヴェリッサは思う。


(体格が似通っているな……雄、か?)


 魔物といえど生き物だ。雌雄の差はあるはず、と彼女は予想した。

 だが目の前の”オーガ”全てが雄だとして、なぜこうまで人間の領域まで集まったのか。それはわからなかった。


 シルヴェリッサは己の迅攻によって”オーガ”たちが怯んだ隙に、ちらり、と肩越しから後方を見やる。彼女のハーピーたちが屍を喰らう中、他の冒険者たちが疎らにいた。どうやらシルヴェリッサの『おこぼれ』狙いのようだ。


(卑しいな……)


 シルヴェリッサがそう思ったのは、彼らの様子が『生きるため仕方なく』でなく『楽して益を貪る』ようだったからだろう。

 ハーピーたちも鬱陶しげな表情をしているが、餌はまだまだあるので、ひとまず食事に集中しているらしかった。


   「グッ……オォオオー!!」


 戦闘中に凄まじい隙を見せているシルヴェリッサに、やがて1体の”オーガ”が堪えきれず襲いかかった。


   「「「オオォォーー!!」」」

   「「「ガアァァアア!!」」」

   「「「ゴオァアアー!!」」」


 そしてその1体を皮切りに、残る壮絶な数が怒涛の如く押し寄せる。

 シルヴェリッサは再び無双の刃と化した。


 最初の1体の殴撃を躱し、斬る。さらに八方から跳び来る全て、それらの足を地に着かせることなく円なる一閃。その死を確認することなく中空へと跳躍。そのまま前方に着地、と同時に周囲の数体に一刃を見舞う。流れるように群れの間を駆け抜け、死を刻んでいった。


 ――その様子はさながら、清廉たる踊りのような。言うなれば『刃舞じんぶ』とでも呼ぶべきものであった。

 シルヴェリッサの舞を見た冒険者たち、さらにはハーピーまでもが、その神秘的な様に時を止めている。


 銀髪を靡かせる刃の舞姫は、その後も”オーガ”たちを葬っていった。


     ◇


   『グゴォガアァァアアアアアアアアァァーーッッ!!!!』


 一体どれほど倒したか。そうシルヴェリッサが思ったとき、”それ”は現れた。


     ――血の如き深紅の体躯


     ――頭の鬣から天へと伸びる1本の凶角


     ――下顎から突き上がった2本の剛牙


     ――その瞳に宿るは強欲と闘いへの渇望


     ――彼の者の名は……



   「す、”ストラグルオーガ”だーー!!」

   「なっ、なんだと! 進化体じゃねえか!」

   「なんでこんなところにいんだよ!!」


 冒険者たちが騒ぎ出す。穏やかではない驚き様だった。

 シルヴェリッサは彼らの様子から、”ストラグルオーガ”への警戒心を強める。すると、


===  ===========================  ===


          ○ ストラグルオーガ


           Lv: 38


           HP: 302/302

           MP:  73/73


           STR: 255

           DEF: 221

           INT:  96

           RES:  79

           SPD: 177

           LUC: 131


          スキル: □格闘術Lv4 □狩猟技術Lv3


           称号: □同胞殺し


===  ===========================  ===


「…………」


 弱い。

 シルヴェリッサはどう反応すればいいのか、わからなかった。わかったにせよ、特に反応などしないが。


 ともあれ、新手なのは間違いないだろう。と、シルヴェリッサは森から出現した”ストラグルオーガ”へ向かおうとした。が、まだ目の前には”オーガ”が20ほど残っている。


(まずは掃除、か……)


 判断し、再び片手で剣を構えた。しかし、当の”オーガ”たちがわらわらと”ストラグルオーガ”の許へ逃げていく。

 戦意なき者を屠る意味はないので、シルヴェリッサはとりあえず捨て置いた。様子を見る。


 やがて逃げ帰った”オーガ”の1体を、”ストラグルオーガ”は殴り殺した。驚いた様子の”オーガ”たちを、さらに殺していく。


(臆病者には死を、か? それとも……)


 ”ストラグルオーガ”の後方、森の中へ目をやるシルヴェリッサ。

 先ほどまでの個体より幾分華奢きゃしゃな”オーガ”たちの姿が見える。成体らしきものから幼体まで、その全ての胸部がふくよかだ。間違いなく雌だろう。


(自分以外に雄はいらない、といったところだな)


 可能性は高い。

 だがシルヴェリッサには関係ないので、黙って見ていた。


   「オオオオオオォォッッーー!!!!」


 やがて全ての雄個体を殺し尽くした”ストラグルオーガ”。ギラギラと闘いに餓えたような瞳を、シルヴェリッサへ向ける。


     タタカエ


 そう言っているように、シルヴェリッサは感じた。故に彼女は”ストラグルオーガ”に近づいていく。その想いに応えるため、ではない。

 どちらにせよ相手は戦う気だろう。問答無用で襲い掛かってくる可能性が高い。ならば元より受けて立った方がいい。と、シルヴェリッサは判断したのだ。


 彼女の戦意を感じたか、”ストラグルオーガ”も前へ進み来る。さらには森の中から、雌の個体たちが10体ほどそれに続いた。


 そしてついに、2個の闘者が向かい合う。雌”オーガ”たちが闘場を囲うように円を作った。

 冒険者たちが息を呑む。


   「お、おい、あれって……」

   「ああ、間違いねえ……!」

   「”オーガの決闘”だ……!」


 シルヴェリッサは後に聞いたことだが、これは”オーガ”が次期王者を決める際に起こす行動だった。これまでに同種以外が対象になったことはないが、シルヴェリッサの凄まじい強さに、たった今”オーガ”たちは例外を起こしたのだ。『強さ』を何より尊ぶが故に。


 ハーピー、冒険者、オーガ。静まり返る中、闘場に立つ2者の間に、血腥ちなまぐさい風が吹き抜けた。


   「ヴオオォォォォオオッーー!!!!」


 それを合図に、シルヴェリッサへと拳を見舞う”ストラグルオーガ”。その剛腕は岩をも容易く打ち砕くであろう。


   ――が、


「…………遅い」


 シルヴェリッサに傷を付けるには、あまりに稚拙であった。一瞬で後ろを取った彼女の刃が、”ストラグルオーガ”の首に吸い込まれていく――




     ――かくして、数週間に及ぶ”オーガ”たちの動乱は


     ――その一撃によって終結した。



          《――203p 経験値を獲得しました》




     ◇


 最後、11体目の雌オーガに”刻印”を刻み、シルヴェリッサはルモネッタに”刻印液”を返す。心なしかぎこちない動きで受け取ったルモネッタ。液をポケットに仕舞い、おずおずとシルヴェリッサに両手を差し出した。


「あ、あの、握手してくださいませんか……?」

「…………」


 意味がわからず、反応しかねるシルヴェリッサ。ようやくして理由を尋ねる。


「……なぜだ」

「い、いえその、昔から”英雄”的なものに憧れがあったもので……」

「…………ん」


 ハーピーたちの件やオーガたちの件。一応ルモネッタには借りがあるので、この程度なら、とシルヴェリッサは彼女の手を握った。


(わたしが”英雄”、か……)


 柄ではないな、と思うシルヴェリッサであった。元より人間のために戦うような真似は、もうたくさんである。


 それはともかく、望みの叶ったルモネッタは喜色満面だった。


「ありがとうございます! うふふふっ」


 そのまま彼女は、握手した手に頬擦りをする。周囲では他の職員が羨ましげにそれを見つめていた。

 いつもならそこにセルリーンが加わったのかもしれない。だが彼女は今、町の外で他のハーピーたちと食事中であった。


 シルヴェリッサの従魔となったオーガたちは、傍らで非常に大人しくしている。彼女らは”オーガの決闘”にて圧倒的な勝利を収めたシルヴェリッサを、自分たちの王と見なしたのだ。ハーピーたちのように敵意なくついてきて、尚且つ離れようとしないので、シルヴェリッサは仕方なく従魔として受け入れたのである。


「……もういいか」

「あ、はい! ありがとうございました、シルヴェリッサさん!」


 ともあれここでの用は終えたので、シルヴェリッサは魔物取扱所を後にした。



     ◆


 シルヴェリッサが去った後、ご機嫌なルモネッタに他の職員が群がる。


     「間接握手よ!」

     「えっ、あの、ちょっと!?」

     「こら逃げるな!」

     「つかまえろー!」

     「「「「「おー!」」」」」

     「い、いきゃああああー!」


 その日、魔物取扱所では一種の騒乱が起きたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ