14話
◇
魔物取扱所の方も、かなり慌ただしかった。新たに魔物を買って”刻印”をする者が何人も窺える。
見たことのない魔物も多い。ふと”神の瞳”の存在を思い出し、使ってみた。
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○ リザードマン
Lv: 16
HP: 137/137
MP: 34/34
STR: 86
DEF: 90
INT: 33
RES: 31
SPD: 58
LUC: 72
スキル: □水棲Lv3 □剣術Lv2
□水魔術Lv1 □漁技術Lv2
□武器作成Lv1
○ ウォーアント
Lv: 11
HP: 75/75
MP: 12/12
STR: 57
DEF: 41
INT: 10
RES: 8
SPD: 35
LUC: 31
スキル: □剣術Lv1 □狩猟技術Lv1
□運搬Lv2 □巣作りLv1
○ リトルピクシー
Lv: 12
HP: 64/64
MP: 113/113
STR: 21
DEF: 19
INT: 98
RES: 95
SPD: 87
LUC: 76
スキル: □無魔術Lv2 □風魔術Lv2
□水魔術Lv2 □光魔術Lv1
□回復魔術Lv1 □魔力感度Lv2
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蜥蜴かワニのような姿の二足歩行魔物。幼女たち程の大きさの、これまた二足歩行のアリ魔物。そして最後のものは、そのまま小妖精型の魔物だった。
その”リトルピクシー”を見た幼女6人が目をキラキラさせる。
「「「「「「か、かわいぃ~」」」」」ですわぁ~///」
走り寄らんばかりの勢いであった。が、シルヴェリッサは今見た複数の能力値を思い返し、考え込む。前に確認した自分の能力値と、今までの者たちのそれとは差がありすぎる気がしたのだ。
だが考えてみると、自分は元々この世界の者ではない。多少のイレギュラーも不思議ではない、か。シルヴェリッサはそう結論付けて、この件についての思考を止めた。
「では、”刻印”に参りましょうか」
「……ん」
リタと共に、幼女6人を連れてカウンターへ。魔物取扱所の内部は、隣のギルドとほぼ同じ造りのようだ。地下があるのも同じらしいが、そちらの方はわからない。
シルヴェリッサたちに気づいた職員――ハーピーの”刻印”のときの、ルモネッタという者だった――が、特にシェニアとリタに丁寧なお辞儀をした。
「これはシェニアさま、ご機嫌うるわしゅうございます。本日はどのようなご用件でございますか?」
「ごきげんよう。おいそがしいときに、もうしわけございませんわ」
「いえ、とんでもございません。お父上であるご領主さまには、日頃よりギルドへ多大な支援をいただいておりますので」
シェーランド家とは、この町の領主だったらしい。それなりに良政家なようだが、シルヴェリッサには関係のないことだった。
「それできょうは、こちらのまものさんたちに”こくいん”をおねがいしにまいりましたの」
「かしこまりました。……やはりすごいですね、シルヴェリッサさん」
誰が捕獲したか察したルモネッタが、率直な感心を述べた。
その後、ルモネッタに渡された刻印液を用い、手馴れた様子で”刻印”を済ませていくシェニア。それほど時間も掛からず終了した。そしてやっとシルヴェリッサに報酬が渡される。
「魔物5匹、合計で32000メニスです。ご確認ください」
「…………ん、問題ない」
シルヴェリッサが受け取った袋の中には、銀貨3枚と小銀貨が2枚。確かに32000メニスであった。これでそれなりの剣が買えるだろう。
しかし武器屋に行く前に、幼女5人に言っておかねばならないことがある。
「……名を聞いていなかった」
「え? あ……」
「そういえば……」
彼女らも気づかなかったらしく、改まって並び順番に名乗った。
「アーニャ、です」 紫髪の人間種
「イリアです」 あさぎ髪の猫人種
「ウルナといいます」 赤茶髪の犬人種
「エナス……です」 クリーム髪の兎人種
「オセリーだよ、あ、です」 濃桃髪の人間種
「……シルヴェリッサだ」
自分でも名乗った後、今度はハーピーに向き直るシルヴェリッサ。「ピュイ?」と首を傾げるハーピー。
「……お前に名をやる」
「ピュイ!? ピュピュイ~!」
通じたのか、ハーピーが非常に喜んで跳ねた。そんな彼女に、シルヴェリッサは直感で名を与える。
「……セルリーン」
「ピュイピュピュイ~!!」
当人は気に入ったようで、シルヴェリッサの周りをぴょんぴょん踊り跳ねていた。
《――従魔:ハーピーの個体名がセルリーンとなりました》
名付けも済んだところで、シルヴェリッサは幼女5人に本題を伝える。
「……お前たちは町で待機」
「う、はい……」
「しかたないですよね……」
「うん、”オーガ”だもん……」
「が、がんばって、ください……」
「おるすばんしてる……」
さすがにシルヴェリッサも、非戦力5人を守りながら大群と戦うのは経験がない。なので置いていく。
彼女らも予想はしていたようで、大人しく頷いていた。
シルヴェリッサは5人に宿賃を渡し、残った22000メニスを持って武器屋へと向かおうとする。
そこでシルヴェリッサの役目を察したらしいリタが、声を掛けてきた。
「ご武運を」
「…………」
返事もやらぬまま、シルヴェリッサはその場を後にした。
◇
4000メニスで購入したごく普通の剣を腰に差し、シルヴェリッサは町の門を目指し歩く。ちなみに今まで使っていたボロ剣は、武器屋で処分した。ボロすぎて売却はできなかったのだ。
途中でシルヴェリッサは、防衛戦の作戦開始時刻などを聞いていない、と思い至った。が、
(町付近の”オーガ”をすべて倒せば問題ないだろう)
と判断し、自分のタイミングで行くことにしたのだ。言わずもがな、そのタイミングとは『今』である。
どんどん険しくなっていく周囲の様子を余所に、シルヴェリッサは門前に到着した。そのまま何の気負いもなく外へ……出ようとしたところで守衛に止められる。
「お、おいあんた! 今、外は危険なんだぞ! ”オーガ”がウジャウジャいやがるんだ!」
「……知っている」
「は? だ、だったら早く町に……」
「…………」
説明するのも面倒だったシルヴェリッサは、守衛や周囲の野次馬を無視して門を出ていった。
「おっ、おい! おいって! もうどうなっても知らねえからなーっ!」
まだ何か言っていたが、シルヴェリッサは気にせず進んでいく。
セルエナ周辺の”オーガ”約200体が掃滅される、およそ30分前のことであった。